人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ナイチンゲール「生命維持!!!」


カリヤ「がふぁあっ!!!」

「患者は私にお任せを。身体機能を維持し、必ず生かしてみせます。必ず。例え殺してでも」

「治療宝具はくれてやる。少なくとも失われた寿命は取り戻してやるがよい。全く・・・自らを虫に食わせるなどと陰気な術があったものよな」

──ナイチンゲールさん、どうかよろしくお願いいたします。後は・・・サークルの設置、でしょうか?

《うむ、忠義の下でサーヴァント風情と侮っていた腹心の例に相応しくうっかり代々の霊脈を入念にズッタズタにしてやったが些末な事だろうよ。これで奴等もスムーズにサポートが出来ようと言うものだ》

──今のカルデアにおいてわざわざサークルを設置する必要はなく、多分な愉悦の感覚を感じますが・・・まぁ、王を自害させるつもりの魔術的観念のしっぺ返しと納得していただくことにしましょう。家督を継ぐ娘さんに罪は無いので、こっそり寸断された霊脈の補習に必要な財は隠しつつ補填を行いました。きっと未来では役立てて貰える筈です

《アフターケアも万全であるのがゴージャス流の嫌がらせよ。霊脈の寸断に気付いた貴様の顔が見れぬのが残念だぞ、優雅よ。リンめには気の毒な事をしたが笑顔で頑張るがよい。ごめんなさいね》

(!?)


ACT―5『自分自身との邂逅は別にロマンじゃない』

「さてと、これでジャンヌグッズの回収は全部って事になるのかな?」

 

下水道にて、キャスターの悲惨な現場・・・ではなく。カルデア所属のジル・ド・レェのジャンヌ・ダルク布教会場と化した魔術工房の後始末に奔走するリッカらカルデア組一行。常軌を逸した異常者と言う触れ込みで出された討伐指令であるものを、あからさまに別のベクトルでおかしいこんな現場にて勘違いと誤解を招くわけにはいかない。入念に対処と事後処理をこなし、完璧に介入の跡を抹消し齟齬を無くしておかなくては禍根と未来の歪曲の原因となる。それを踏まえた上で、時間を取って処理を行っているのだ。ポスターを外しグッズを回収し。それはさながら祭りの後片付けを行っているかのような寂寥ともの寂しさをリッカ達の心へと去来させていく

 

「英雄王は既に手を打っていたか。こちらの手法と計画を壊さぬ程度の最善の布石を残すとは心憎い。これは心強い助勢と言っていい。そうそう失敗と醜態を曝すわけにはいかなくなってしまったな」

 

エルメロイの言葉の威勢には感嘆と、驚愕が多分に含まれる。片や会話の余地なしと断じた真っ先に討伐すべき不倶戴天の標的。片や自らを助力し痛快に振る舞う御機嫌にして磐石な王。よもやここまで違いが出ようとは、と衝撃を示さずにはいられなかった。サーヴァントとは状況と環境によりいくらでも敵味方が変わるものと理解しているからこそ、この運命の悪戯にして加勢が何より心強いのである。在りし日に語った暴君、今共に戦う御機嫌なる王。征服王とはまた違う意味で愉快で痛快な振る舞いを行う英雄王に、エルメロイの表情に知らず笑みがこぼれている

 

「ギルだもん、何をしても不思議じゃないよね!でも変な感じだよねー。こっちを助けてくれるのもギルで、真っ先に倒さなくてはならないのもギルだなんて。ギル吉やキャスギルぐらいしか別側面は見たことないけどそんなに酷いの?アーチャーのギルって」

 

酷薄無情にして慢心に満ち溢れし無慈悲な暴君。彼の王を知る者は口を揃えてそう評価する。リッカやマシュ、オルガマリーが見てきた王とはあまりに違うその差異に、半信半疑げにリッカが首を捻る

 

「酷いとも。豪華絢爛な癖にみみっちく、赦し無く視線を送ると殺される癖に顔を知らないなら死ねと理不尽に宣い、デタラメな強さと理屈を押し付け好き放題に振る舞う。私が征服王の家臣と誓っていなければ何をしようとも問答無用に殺されていた程だ。君達の知る御機嫌王とは似ても似つかない暴君だよ。どちらが正しく、どちらがイレギュラーなのかは分からないのだがね」

 

視界に入れば殺す、赦しなく見れば殺す。語ることも請うことも、見ることも赦さぬ。総てを雑種と見下し己のみを絶対とする傲岸不遜なりし暴君。それが、彼の王を表す印象に他ならないのだ

 

「御機嫌王はすれ違うと顔色と体調を気遣い飴と挨拶を下さるというのにですか!?なんと・・・」

 

挨拶は勿論、財たる者達の勤労と施しは当たり前。率先して労働にて奮闘しあらゆる財を大盤振る舞いにて自らが主役として何よりも輝く。御機嫌王に馴染み深いマシュはそんな風評に驚愕を示す

 

『割と気分が総てな王様だからねー。気分で人は殺さないけど殺すことに躊躇いなんかない無情さは随一だ。初めて召喚された時は頭を喜びと一緒に抱えたさ。こんな自我まみれのサーヴァントなんて無理じゃないかってね!少なくとも──僕たちの事は『財』じゃなくて『雑種』と呼ぶだろうね!』

 

『・・・ウルトラウルクレアと言うのは決して間違いではないのね。彼がゴージャスにクラスチェンジしてくださって本当に助かったわ・・・』

 

クラスの側面により持ち込む姿や力は異なる。ゴージャスたる英雄王は、英雄姫を擁し痛快無比な御機嫌王というエクストラクラスに変化したのだ。あくまで自称であると思っていたが、その事実を何より得難いものと痛感するオルガマリー。御機嫌王にでなくば、人理修復を半年で完遂されるという驚天動地の結論・・・そして、自らのような存在を気前よく助けてくれるなどといった結末たる事象は有り得なかっただろう。人類の幸運に、深く深く感謝を表す

 

「ありがとう、お姫さま」

 

リッカは静かに、ゴージャスたる英雄王の要因にして核である英雄姫に感謝を告げる。王様をずっと傍で支えてくれる魂。自分を『素敵な女の子』と呼んでくれた人。姫様が寄り添う王という奇跡を、何より、叙事詩にすらないギルガメシアという存在が、ギルを変えてくれた事に改めて、感謝を表す。──内緒の事だが、あのときに貰った一言で、彼女は一生分の栄誉と名誉を受け取ったと信じている。だからこそ・・・後払いという形で、素敵な女の子を目指しているのだ。その姫の言葉が、的外れや虚威ではないという証明の為にも

 

「ともかく、御機嫌王は金輪際二度の召喚は無いと確定していい霊基だ。万が一にも消失、退去などという結末にならないように細心の注意を払いたまえ。サーヴァントシステムは、二度同一人物を呼ぶことはけしてない。御機嫌王と喚ばれる英雄王は、二度と現れはしないだろうからな」

 

サーヴァントは英霊の座の本体の一面を複写したもの。極めて高精度な『もしこの時代にこの英雄がいたら』というシミュレーションの実現と言える。一度消えた、消え去った霊基を召喚するのは不可能なのだ。振る舞いは同じでも、それは同一人物に極めて近い別人。ゴージャスが消えた後にカルデアに招けるのは──アーチャーである可能性がほぼ確実である

 

『ガンガン前線に出ることが危ないんだけど、聴かないよねぇギルはさ。気を付けて──ッ!?』

 

その会話を中断する魔力の疾走が突進する気配をロマンが掴む。猛進を現す怒濤の行進、耳をつんざく雷鳴。──新たに姿を見せる者たち。サーヴァントとマスターの乱入者を察知したのだ

 

『新たなサーヴァントの反応!速い──これはライダークラス!神威の車輪・・・イスカンダル王よ!』

 

「こんなタイミングでか・・・!征服王、盤面を覆し計算を覆すのは生来の得意分野ではあろうが・・・!」

 

エルメロイが展開していた陣を蹄と雷鳴が叩き壊し、神牛二頭が率いる巨大な戦車を唸らせ英雄王と格を同じくするもう一人の王

 

「おおぅ、遅きに参じたか!愉快愉快、番狂わせは望むところよ。坊主、磐石な運びとはいかんものよな!」

 

騎士王、英雄王に連なるこの聖杯戦争第三の王にして、彼等の振る舞いを紐解けばこの戦争の主役であろうと疑わぬであろう陣営の片割れ──カルデアにて満面の笑みでシミュレーションルームやレクリエーションルームに入り浸りし征服王イスカンダルが覇気と笑顔を下水道に振り撒く。そしてその傍らにいる──

 

「あれぇ?おかしいな。てっきり僕らが一番だと思ってたのに」

 

その顔立ちはまだ幼く、体つきは華奢で儚い、女性とワンチャン見れなくもない面持ちの少年。凄く、凄く見覚えのある理知的にて未熟さが見てとれるその存在はまさしく・・・

 

(誰だあのヒロイン指数が高すぎる美少年は・・・!頭でなく心で理解できる!あの子は間違いなくヒロイン力が凄い少年ボーイであることを!あのきゅっとイスカンダルのマントを握りながらおずおずと顔をあげる動作の可愛さ、あざとさ!──完敗っ・・・パーフェクトにヒロインとして負けている!!男子なのに勝てる気がしない!!)

 

(先輩落ち着いてください!逆に考えましょう、女子でないことが先輩に与えられた救いであると!)

 

『あの見た目は・・・エルメロイさんにそっくりな──』

 

オルガマリーがしげしげと面相を目の当たりに観察を始めし瞬間、その時だった

 

「シャラップ!!何が一番乗りだこのたわけ!!」

 

エルメロイ二世、激昂する。普段の冷静ぶりはダストボックスへシュート。エキサイティンしながら猛る感情を少年へ──許せぬ自らの未熟さへ憤懣をマシンガンの如く叩き込む

 

「下水道から垂れ流された廃棄物から元を辿る!この場所を突き止めたのがいかに稚拙な方法だったか貴様自身がよく理解していたはずだろう!よりにもよって征服王に溝さらいなどさせおって──フ○ック!!それくらい一から十まで自分でこなせトンチンカン!あんなんで他の一流のマスターを出し抜けるなど本気で思っていたのかラッキービーバー!!」

 

「な、な、なんなんだよ、お前!いきなりなんの話を・・・」

 

少年は気づけない。その怒りを叩きつける存在の正体を、怒りの意味を。堰を切ったようにエルメロイ二世は怒り狂い、理不尽な罵倒をかましてかましてかましまくる

 

「今回に限らず後にも先にも貴様はことごとく幸運に恵まれ状況を切り抜けたにすぎん!なのにたまたま結果が伴ったというだけで自らの実力を過信するその甘さ!そんなザマだから貴様には進歩がないのだ!自覚がないわけでも無かろう!あぁん!?」

 

「ちょ、待てよ!なんで出会い頭にボクが説教されなきゃならないんだよ!誰だお前!子供を攫ったキャスターとそのマスターってお前らじゃないのかよ!?そこのなんか、がっしりした女がマスターなんだろ!」

 

「がっしりした女!?」

 

(先輩を見抜くなんて・・・!見た目は完全に分からないような特訓を受けている先輩の筋肉を・・・!)

 

「大馬鹿者!まともな状況観察もできんのか!それでまぁのほほんと聖杯戦争に──!あぁもう馬鹿!馬鹿!マジ大馬鹿!!鰻玉丼食べ過ぎて死ね!!それと貴様にリッカ君を罵倒する資格などない、彼女の人生か研鑽の万分の一でも重ねてから出直してこい!貴様にリッカはやらん!!」

 

『なんの話をしているのかしら・・・』

 

『あーほら、誰しも自分の過去は、ね?』

 

「こ、このっ!何様のつもりだお前!ボクがそんな女の子のマスターに負けるわけないだろ!大体お前のステータス、キャスターじゃないか!監督役が言ってたんだからな!悪事を認めろ観念しろ!」

 

「ブルシット!ステータスの透過が出来てるのなら私が疑似サーヴァントだということぐらい気付けこのトンチキ!あぁ、あぁ情けない!お前なんぞの手に刻まれた令呪が勿体無くて泣けてくる!」

 

そんな言い争いを繰り返しに繰り返したあげく、収拾がつかなくなる前に助け船が出される。征服王イスカンダルの優れた観察眼が、この犯人を見抜いたのだ

 

「まぁ待て坊主。此処の連中は犯人や持ち主じゃあないだろうさ。争いの後が皆無と言っていい。小綺麗にすぎる。こりゃあ攻めた守ったの戦闘すら起きておらん。恐らく凱旋の帰路だろうさ」

 

「うむ、流石は征服王の戦略眼だ。一を見て十を読み取るとは」

 

イスカンダルは軍略と戦略にて名を馳せし王。武勇もさながら俯瞰と献策など当然にこなす。感銘を示すエルメロイに──

 

「それはそうと其処の顰めっ面よ」

 

「!な、何・・・かな?」

 

「さっきからやけにうちの坊主に因縁をつけたがってる様子だが・・・それはつまりこの征服王と一戦交えようって覚悟な訳か?」

 

突如として向けられた開戦の合図。そんな意志は見当たらぬハチャメチャな解釈。エルメロイは驚愕と困惑のままに言い返す

 

「な、何でそうなる!?貴方だってどちらの言い分が間違っているかの判断はついているだろうに!」

 

「それはそれとしてこの坊主は余のマスターなのでな。──喧嘩を売られたとあればサーヴァントとして、黙って見過ごすわけにいくまいて」

 

どちらも言い分は正しい。主を貶され黙っておらぬ者はいないだろう。言葉に詰まるエルメロイ、同時に──方針から、戦いを選ぶのは下策と理解し、怒りを飲み込む

 

「・・・リッカ、撤退しよう。本当なら君とアレのスペックの違いを見せつけて鼻っ柱をバッキバキに折ってやりたいが、事は荒立てたくない」

 

「オッケー。ライダーは保護、だもんね」

 

「なんだつまらん。サーヴァントはともかく、其処のマスラオは歯応えのあるヤツかと思ったのだかな」

 

「ッ・・・!」

 

「フン!どうせマスターもサーヴァントと同じで見かけ倒しなんだろ~。やーい腰抜け、雰囲気アマゾネスー」

 

「はい?」

 

(マシュ、先生ダブルステイ!・・・ケイローン先生の隠蔽特訓の成果を見抜くとか、観察眼凄いなぁあの子。やっぱりエルメロイリリィだけの事はあるなぁ)

 

「こら、調子に乗るな」

 

「ギャワッ!!」

 

デコピン一撃で弾き飛ばされる儚い生き物。ウェイバーは沈黙し一同は撤退を行う。最悪のファーストコンタクトは、波乱の内に幕を閉じた──

 

 

 




牛丼屋

イスカンダル『わははははははは!!綿密な打ち合わせをよりにもよって余が砕くとはな!上手くいかんな軍師!いや、坊主と呼んだ方がよいかな?』

「呼ばんでいい呼ばんで!あぁあ腹立たしい!マスターのいさかいにサーヴァントが口を出すなど!モンペか!モンペなのか!」

マシュ「先輩を二度もディスるとはいい度胸です。マシュンバッシュ・オーバーロードにて激痛の後に骨格矯正を行いましょう」

リッカ「彼等は間違ったことを言ってないからね二人とも!落ち着こう落ち着こう、ステイステイ」

オルガマリー『リッカが自制役なんて相当ね。保護対象と決裂してしまいましたがよろしいのかしら?エルメロイ二世』

「構うものか!どうせ真面目に戦うつもりなどない連中だ!放っておけば隠れ家で煎餅かじってビデオ見て遊んでるだけだからな!」

『トマホークや戦闘機なぁ、欲しかったなぁ。大戦略もなぁ!おぉ、また一からやり直すとするか!』

リッカ「人には誰しも地雷案件がある。エルメロイ二世はアレだね、過去の自分なんだね」

オルガマリー『・・・気持ちは解るわ。ヒステリー起こしてる自分を見つけたらまずはひっぱたく自信があるもの』

シバにゃん『マスター、不思議なことに冷静なのは貴女だけ!うまーく舵を取ってくださいね~?ファイトです~♪』

リッカ「オッケー!私も髪を伸ばせばヒロインワンチャン?でも動くからなぁ・・・似合うかなぁ・・・」

イスカンダル『おぉマスター!有りのままで良いのだ!なんなら余がプロデュースしてやってもよいぞ?任せておけ、マケドニアPとして完璧にこなしてみせよう!』

「まさかの切り口!?でもあなたお母さんが天敵じゃなかった?」

『あー、うん。悪辣で強かな女性はなー、ちょいとなー』


~牛丼屋、別席

ギルガメッシュ「まこと騒がしい輩よな。だが咎めはすまい。ゴージャス陣営とはウロブチックワールドにおいても笑顔でなくてはな」

──はい、フォウ。あーん

(あーん!ぼふぁひあわふぇだぁ・・・)

「ふはは、布石を打った後の牛丼も中々乙ではないか。なぁ、アルトリアよ」

アルトリア「ガツガツガツガツガツガツガツガツ・・・おかわりをお願いいたします!」

ギルガメッシュ「・・・それにしてもよく食らうものだ。断食でマスターを殺す意地汚さと執着ぶりは伊達ではないな」


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