人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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コトミネ「アーチャーが無様に逝きました。霊脈はズッタズタで修復の目処は立っておりません。此方の手駒はアサシンのみです。我が師よ」


トキオミ「・・・・・・・・・」

コトミネ「正直、さっさとリタイアして後進のリンに色々勉学や教導に励んだ方がよいコノザマっぷりですが如何なさいましょう、我が師よ」

「・・・・・・・・・」

「悩んでいても状況は進展はしません。此処は優雅に、逆転の一手を麻婆食べつつ、藁に菅って思案するしか無いかと」

「・・・・・・キレイ」

「はい」

「アサシンを譲ってくれはしないだろうか」

「正直無駄な足掻きを免れませんでしょうが喜んで。遠坂家の最後の力、火事場的優雅の成就を心より応援いたします。あぁ、この辛味──堪らん」


~ヴィマーナ

ギルガメッシュ「・・・・・・・・・・・・」

──くぅ・・・

騎士王「・・・二人とも。ありがとうございます。結果的に・・・この場の私は、煩悶に囚われる事は無くなったのだから」

フォウ(・・・)

「?フォウ、何か?」

(・・・聖剣はやっぱりダメだな)


ACT─10『優雅の最後っ屁』

「おのれ・・・!我等が破片を砕いた程度で良い気になるな!今度こそ貴様らに、引導を渡してくれる!」

 

辺りに続々と集結、始動していく影の者達。無駄なく鍛え抜かれた肉体に白き仮面にて夜と闇に紛れる最高の暗殺者──山の翁、ハサン・サッバーハ。その時代最高の実力を持ちし者が賜る名を掲げるものたちが、その全てを懸けてアインツベルンへと集結を果たす。欠片だけではない、総力にて集いし至高の諜報部隊。それらはアインツベルンと・・・謎の勢力たるカルデアを危険視し、令呪にて集結した者だった。瞬く間に辺りを囲まれ、地の理と優位性を確保する暗殺者達。本来なら絶対絶命の状況であるのだが──

 

「わざわざ姿を晒して集まってくれるとはありがたい。・・・脱落するのがわかりきった連中だ。別に始末しても構わないだろう、藤丸リッカ」

 

それは致命的に運用を間違えた執り行いである。機を逸し、場を選べなかったと言ってもいいのかもしれない。確かに彼等は自分の人格を分割し、分別し、クラススキルとして獲得した気配遮断を最大限活用可能である恐るべき諜報集団だ。だが・・・それらを態々敵に晒し、あまつさえ全てを投入するなどは余りにも迂闊かつ、このサーヴァントの利点の全てを投げ捨てているに等しい。全てではなく半数、あるいは一人でも残しておき最後までマスターの寝首を掻く事に一縷の望みをかけていれば、あるいは大番狂わせが起こり得たかもしれないのだ。分割、隠蔽が叶う手札を、全て開帳する迂闊さと致命的な失策。──このサーヴァントを振るうマスターは、アサシンの運用法を致命的に弁えていない。戦力の自爆や浪費を鑑みたエルメロイが、その状況を見抜く

 

「ははあ。マスターの代替があったなこれは。遠坂がアサシンを貰い受け、逆転と再起に走ったというわけだ」

 

それならば、この迂闊さにも辻褄が合う。アサシンを誇示する愚かしさは、優雅たれと提唱する遠坂の理念に悪い意味で合致する。匹夫の野党に正々堂々を担当させる。・・・その結果は、分かりきったものだろう。アサシン、エミヤの言葉に頷くリッカ。──カルデアに在りし百貌のハサンに申し訳なく思いながら、この場にて下すべき指示を口にし、此処で障害を排除せんと高らかに声を上げる

 

「──戦闘開始!皆、真っ正面からくるアサシンに負けちゃ駄目だよ!殴った方が強いアサシンもいるけれどそれはそれで!」

 

どのみち討伐と打倒が決まりきっていた相手なのだ。あちらが最後まで戦いを選ぶと言うのなら、それを汲み取り戦いに応じる。せめて、尋常な勝負にて。その指示を受けたサーヴァント・・・マシュ、ランサー、キャスター、アサシン。そしてエルメロイ、バーサーカー。アイリスフィールとセイバーといった大半の陣営を有するカルデアのマスター、リッカが号令を下す。その声に応じ──

 

「了解した。暗殺者よ、誉れの槍の錆となれ!」

 

ディルムッドがいの一番に躍り出、鍛え抜かれた肉体の疾走からの、騎士団随一とまで謳われた誉れ高き紅薔薇と黄薔薇たる双槍を存分に振るい上げ縦横無尽に振り回す。魔力と魔術を断ち切る紅色の長槍、癒えぬ傷跡を穿つ黄色の短槍。その鮮やかな美貌が輝き、闇の住人を薙ぎ払っていく

 

「顔が光っ──」

 

「ぐあぁあぁ!!」

 

「これがイケメンなラン──ぐほぉあぁっ!」

 

加速度的にイケメンなる槍に蹴散らされていくアサシン達。苦し紛れのダークや短刀も、拙い抵抗にしかなり得ない。誉れある戦いにて、ランサーが敗北を喫す道理は微塵も有り得ぬがゆえに

 

「行きましょう!ラ──・・・バーサーカーさん!セイバーさん!二人のお力、御借りします!」

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛ーーッ!!!!」

 

「えぇ、共に勝利を!未来の騎士よ!」

 

セイバー、バーサーカー、マシュもまた真っ直ぐにアサシン達を蹴散らしていく。セイバー、アルトリアは清廉さに満ち、破壊力と突進力に溢れし力強い剣戟を。バーサーカー、ランスロットはひたすらに荒れ狂い、スキルにて万全の武勇を振るいながらハサン達を薙ぎ倒していく

 

『今のバーサーカーの魔力消費はカルデアが肩代わりしていて、僕が認識阻害の魔術で皆アルトリアに見えるようにしているよ!安心して一緒に戦ってくれ!』

 

「ドクター、そうまでしなければいけないのは分かりますが流石にセイバーさんが可哀想かと!」

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛──ッッッ!!!」

 

(この動き、私は彼を知っている・・・?いや、有り得ない。私の信じる騎士達に、このように狂乱し道を見失う者などいる筈がない)

 

「⬛⬛⬛⬛──⬛⬛⬛ッッッ!!!!」

 

セイバー、アルトリアの意志を知ってか知らずか、猛り狂い続けるバーサーカー。・・・別世界の彼曰く『ヘボ過ぎて論外』とまで銘打たれた魔力供給から解き放たれた彼は、其処らに落ちていたスコップやジョウロ、花壇手入れ用のハサミを振るい抜きアサシン達を駆逐していく。バーサーカー故の隙の多さを、マシュがフォローしていくフォーメーションを、彼等は自然にとっている

 

「物凄く叫んでいますが大丈夫なのでしょうかドクター!」

 

『大丈夫さ!張り切ってるんだよ多分!』

 

「スコップやジョウロにこんな可能性が・・・!ぐぎゃあっ!」

 

「バーサーカーのハサミとはこれほどまでに・・・!ぐぼぁっ!!」

 

 

「──負けていられません。騎士の王として、私も奮闘しなくては!」

 

セイバーも唸りを上げ魔力を振るう。ミサイルやロケットのごとき魔力放出の膨大さにて、凄烈なる武勇を振るうバーサーカーに並び立つ

 

「守護は任せます、キリエライト。我等の背中、護ってみせなさい」

 

「勿論です!見ていてください先輩!マシュはやりますよ!」

 

円卓の騎士達は堂々と、華やかに荒々しく清廉に、片端からハサンらを殲滅していく。・・・振るわれる絢爛の武勇の裏、コインの裏のごとく。淡々とした作業とも呼べるほどの駆除作業が振るわれている事実も観測される

 

「『時のある間に薔薇を摘め(クロノス・ローズ)』」

 

自らの体内を固有結界とし、肉体の制御時間を加速増減させしアサシンの秘技。その対人戦にて圧倒的アドバンテージを有する魔術にて振るわれる、神秘を轢断するナイフが、最小限に効率よくハサンを消滅させていく

 

悲鳴はない、感慨はない、断末魔はない、嘆きはない。どこまでも厳粛に、静粛に、無味乾燥な屍が量産されていく撃退数。暗殺者としての優位性を捨て去った連中に、負ける所作は微塵も無い。これ程の味方がいる状況であるのならば尚更・・・簡単にして単純な仕事だった

 

「・・・」

 

浮かべる感慨は特に無い。フードの下にある空洞がごとき瞳は、単純に生命の数、天秤を冷静に見つめている。次に自分が救うべき生命を勘定に入れ、淡々と成すべきことをなしている。──残り数は少ない。まもなく仕事は終わるだろう。そんな空虚な有り様を・・・複雑げに見つめる者が存在する事を、アサシンは気付いていない

 

「・・・なんとかなりそうね、リッカちゃん」

 

マスターとして立つのは二人。アイリスフィール、そしてリッカ。戦いを行うサーヴァントを見守り、進展と決着を見届ける役割を全うしている二人は、静かに視線を戦場に送っているのだ。アイリスフィールの言葉に、静かに頷くリッカ。敗北の目はない。ほぼ、蹂躙と圧倒という言葉が相応しい戦況だからだ

 

「うん。・・・気になる?あのアサシンの事」

 

その態度の変化、その微妙な違和感をリッカは見逃さなかった。緊張を解さんとする歓談を振ってみる最悪のマスター。その洞察力に図星を指され、困ったような笑顔を浮かべるアイリスフィール。なんとなく感じたのだ。彼女には、隠し事が出来ないのではないかと

 

「ふふっ、そう。良く見てるのね。・・・気になるの。あのアサシンの事。惹き付けられるような・・・その理由は、全然心当たりが無いって言うのに」

 

「それってもしかして・・・」

 

「?」

 

リッカが我が意を、天啓を得たりとばかりににっこりと笑い、ポンと手を叩く。そのシチュエーションを知っていると笑顔を見せ、ピシリとしてきする

 

「前世で戦い、認めあった仲だとか!血に刻まれた宿命とかそんな感じだよ!」

 

「しゅ、宿命・・・!?そ、そうなのかしら?」

 

「絶対そうだよ!二人は何処かの世界で認めあった共に認め合うアレとかソレとか、そんな感じなんだよ。それがテレパシーやシンパシーとしてデジャヴってるんだと思うな!」

 

そうなのかしら・・・?いえ、きっとそうなのだわとアイリスフィールは頷く。こんなにも力強く断言するならば、きっとその通りなのだろうといった感覚がある。無性にそんな気がしてきた。きっと合っている筈だと確信と納得を示す

 

「そうだったのね!この胸のざわざわは・・・宿命・・・!アインツベルンの縁をまたいだ決闘的なアレなのね!」

 

「私の勘はバッチリ当たるよ!アイリさん、これは終わったら決闘を挑むしかないかも!」

 

「そうかしら・・・!分かったわ!それが私とあの人を繋ぐものならば!やるしかないわ、アインツベルンは最強なのよ!」

 

ぐっ、とリッカミームに汚染されてしまったアイリスフィールが頷くなか、勝敗は完全に決した。多方面のアサシンはほぼ完全に駆逐され、反応が極めて微弱になっている。放っておいても消滅は免れないだろう。運命は此処に定まった。しかし──

 

「──死ねぇえぇぇっ!!」

 

全くの伏兵、意識の外からのマスター襲撃。無駄の無き疾走を行いながら、鋭利なる凶刃を向けしハサンが、アイリスフィールとリッカに迫り来ていたのだ

 

「何ッ!?──そうか、令呪の未来跳躍!数瞬の未来へ欠片を跳ばしたか!」

 

その判断にエルメロイが至るのと、ハサンが剣をアイリスフィールに突き立てんとするのは同時である。誰もが距離があり、刹那に対応するには時間が足りぬ。アサシンもまた、令呪の奇跡に判断が数瞬遅れ、追撃を赦してしまった

 

「──!」

 

アイリスフィールもまた、動けない。瞳に写る世界が遅い。瞬間の一瞬が無限に等しく感じられる。数瞬後の命運が手に取るように解る。戦争の最中の油断、それを突かれ自分は此処で──

 

「・・・え?」

 

──それは、アサシン・・・ハサンが漏らした言葉であり、末期の困惑であった。鮮血が飛ぶ、腕がひしゃげへし折れる。──自らの絶命を知覚する。稲妻のような悪寒を感じた後には──全てが終わっていた

 

【大将を狙わんとする小賢しさはまさに夜党、誉めて差し上げましょう。ですが──羽虫風情が我が愛娘を欺こうなど、身の程知らずにも程がありましょう】

 

誰もが知覚せずとも、彼女の中に眠る母は微塵も油断などは示していなかった。ただ──人形の返り血で娘を汚したくなかった。それだけの理由で、ついでに対処したに過ぎない

 

丑御前──強制的にリッカの身体を使役し、無造作に伸ばした右手は、ハサンの右腕を握力にて粉砕していた。・・・そして、それを遥かに上回る悪寒と畏怖が、末期の全てを塗りつぶした

 

【──一の個を喰らい合う欲望に堕落したか、百貌の。怠惰、堕落、劣化。・・・信仰無き者に生きる世界無し】

 

少女の目が、蒼く輝いている。声音が、有り得ぬほどに底冷えする威厳に満ちている。震え上がるような、死の気配を醸し出している

 

──鐘の音が、聴こえる

 

【──では、死ね】

 

左手の、軽い手刀。少女である筈の存在が振るったのは、ただそれだけ。それだけである所作にて

 

【無益。余りにも無益】

 

──遠坂の悲願と令呪を懐いたハサンは、あっさりと絶命し、生命を解いたのである。──死したことにも、思い至ることが出来ずに

 

それは、少女の肉体を借りた、幽谷よりの免責の処断。原初にして最後の、楽園に潜む翁の一撃・・・




エルメロイ「・・・些かトラブルはあったが概ね予定通りだ。後は唯一人だけだが・・・」

リッカ【──】

「・・・リッカ?」

ちびハサン「・・・」

・・・小さきハサンが、見上げている。自らの生命を、ただ委ねている

リッカ「・・・──戦闘可能なハサンは皆倒したよ、先生。──ハサン、保護してもいいんじゃないかな?」

エルメロイ「──願ってもいない吉報だな。聖杯への生け贄は少ない方がいい。聖杯の解体が、また一つ近付いた、か」

ロマン『再契約を防ぐ術式は済ませてある。戦利品なら、きっとギルは赦してくれるさ』

ちびハサン「・・・いいの?」

リッカ「勿論!さ、一緒にいこう!(くびをだせ)


ちびハサン「──きゅう」

リッカ「あっ!?」

マシュ「・・・アサシン、保護を確認致しました。先輩、大丈夫ですか?先輩?」

リッカ「じぃじ・・・いつもありがとうだけど副音声は・・・あ、あれ?終った?」

オルガマリー『・・・そうね、何事もなく終ったわ。後は・・・』

アイリスフィール「聖杯、ね。マスターとして、アインツベルンの陣営として、最後まで見届けないと」

エルメロイ「・・・敢えて無礼を承知で聞きましょう、アイリスフィール。事此処に至り、魔術師殺しとの二面作戦は不要でしょう。真なるマスターとの共闘を提案するが」

「え?真なるマスター?何の事かしら?」

セイバー「アイリスフィールは、正式な私のマスターですが・・・」

エルメロイ「何・・・!?」

ロマン『あー、うん。ミス・アイリスフィール。令呪を見せてあげてください』

「ほら、本当でしょう?まるで偽物みたいだなんて失礼しちゃう。リッカちゃんと同じ、正真正銘のマスターよ?私は」

「・・・──そうか、そう言うことか・・・この特異点を、特異点たらしめているものは・・・アインツベルンの王手だったのか・・・!」

リッカ「?」


~ヴィマーナ

ギルガメッシュ「ふははははははは!!真相にたどり着いたか!どれ、仮眠も済んだ、種明かしと行こうではないか!」

──ん、ぅ・・・はっ!?王、アーチャーはどうなりました!?


(お疲れさま、エア!大丈夫、キミもコイツも無事だよ!)

──フォウ!あぁ、良かった!また逢えた・・・!

《あれだけ布石を打ちながら還れぬ覚悟をしていたとは入念なものよ。決戦は間も無くだ。さぁ行くぞ。この催しの結末はすぐ其処だ!特等席にて垣間見るぞ、エア!フォウ!》

──は、はい!フォウ、てしっをお願い!てしって!

(うぇいくあっぷ!)

──はうっ!・・・ありがとう!シャッキリしました!さぁ参りましょう、二人とも!

《ふはは、目覚めに肉球とは何処までも贅沢な輩よな──!》

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