人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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そろそろ特異点攻略を挟み、またリクエストを聞いていきたいと思っております!ゆるく、お楽しみください!

前々から問われていた、ロストベルトはどうするのかな?といった質問の返答話・・・みたいな感じです。こんなスタンスです!こんなスタンスになります!

鬱や悲劇を蹴散らすための布石・・・お楽しみいただけたら幸いです!


剪定の未来、総てを背負いし王

「──さて。遊び呆け対策を怠り敗北を確約されていた、では話にならん。我等が戦うべき事象、向かうべき問題の所在も明白にしておかなくてはな」

 

先の嵐が如き召喚は終結を迎え、そして楽園の振り替え休日へと突入せし日頃。時刻は午前二時半、丑三つ時。その楽園の一角にて、御機嫌王たるギルガメッシュは言葉を紡ぐ。遥か未来、その行く末を見据える紅い瞳を輝かせ、玉座に腰を下ろしたままにその口火を切り、その議題を提言する

 

──すぅ・・・すぅ・・・

 

傍らに在りし獣、そして姫は深い眠りについている。未来に待つもの・・・そしていずれ向き合うべきものの正体と全容を、未だ知る必要は無いと判断した王により、深い安眠と休息を与えられている為だ。その安らかにして穏やかな在り方、表情に目を細め静かに頬を撫でながら、王は泰然と威風と威光を示しているのだ

 

「そうだね。せめてボクたちくらいは対策を考えておくのもいいかもしれない。あくまで『視た』というだけのことで、まだ起きるかどうかは分からないけれど、ね」

 

その向かいに座るは、楽園のドクターにして魔術の王。未来と過去を見通すソロモンの力を取り戻せし、ロマニ・アーキマンである。同じ視点を持ち、そして共に未来を視るという観点で・・・彼と王は同格と認めあっているのだ

 

『うぇーい、フランシスコー。よろしくー』

 

「はい。私達には未だ見えぬ事態ではありますが・・・為すべき事は、為さねばならないでしょう」

 

「正直眠いんだよねぇ。転た寝したらごめんよ?」

 

楽園のNo.2たる騎士王、そして同盟者たる月の新王、更にグランドキャスターの資格を持つマーリンを滞在させ、極秘の会合が幕を開ける。そう──始まりし2017年、来る2018年に、磐石の手を打たなくてはならない事象を、一同は共に議題、困難を打破するものとしての集会、会議、会談を執り行っているのだ。それはこれより先、立ち向かうべき命題にして議題である

 

「『異聞帯』、そして『人理再編』。・・・この言葉と単語、事象の説明は不要であろう。結末が確定し、発展も可能性も潰えた枝葉の歴史──そう、編纂事象から逸脱し、そして見捨てられた敗北の歴史。最早進歩を望めぬ行き止まりの歴史を指す事象。我等が生きる歴史よりかけ離れた様相を呈する現象よな」

 

この宇宙に、総ての平行世界を観測できる質量は存在しない。それら全てを内包すれば、即座に太陽系は破綻する。なればこそ、成功と失敗、破綻と栄光のバランスが取れた世界を残し、そうではない世界・・・最早一縷の発展も望めぬ世界、或いは発展をし過ぎ、停滞へと陥った世界を、枝葉として切り落とす事象を『剪定』と呼び、それを為し遂げる現象を『剪定事象』と呼ぶ。正解を選び続けた世界、致命的な失敗を犯した世界を、剪定された世界と呼称するのである

 

「そして、『異聞帯』・・・特異点を過ぎ去り、そして紡がれた間違った歴史。間違ったままに紡がれた、紡がれてしまった歴史と言っても良いだろう。人類史として認められなかった歴史として定義すべきかな?」

 

何らかの理由で、間違った歴史がそのままに進歩と積算を遂げ、もはや一つの歴史と為したもの。それでありながら、正しき人類史に仇なす歴史へと成り果てたモノ。それを『異聞帯』と呼び、それら独自の世界のテクスチャを構成したものをこう呼称する。それらは、致命的な間違いを間違いのままに発展した、何れ破綻が確約されし世界にて可能性。本来なら陽の目を視ることなく消え去る事象であるのだが・・・二人の王は視たのだ。この異聞帯を侵略兵器とし、人類史を漂白し、真っ白な風景と化し、抵抗が何の意味をももたらさぬままに敗北を受け入れた汎人類史の姿を。戦いを選べぬままに、完全無欠の結末を破却されたその結末を

 

『ムーンセルを検索したら出てきた。濾過異聞史現象って言うんだね。何らかの理由で歴史がなくなったら、それを埋め合わせる為に、有力なロストベルトを作り上げて代替にする。ヴェルバーで痛い目を見たムーンセルが覚えたのかな?』

 

そう、ロストベルトは星の侵略兵器として転用されるのだ。正しき人類史を破棄するために、新しい人類史を再編するために。今ある歴史を、抹消するものとして──執り行われるのは、覇を掴むロストベルトの選抜にして競争。この星を手にし繁栄を決定する為の戦争を、正しき人類史の敗北を前提に開始されるのだ。王達が勝ち取った未来を抹殺する事を念頭に入れた故の生存競争をである

 

「何故、何者が、なんの目的でかはどうでもよい。我等が直面すべきは、我等が行う戦いの種類に他ならん。その意味は理解していよう?──抵抗戦、世界の行く末の裁定。些か毛色が変わる戦いを『このままならば』強いられる事になろうな」

 

王は告げる。その戦いは敗北を確約されているが故に、このままでは他者の世界を滅ぼす為の戦いに身を投じ、その場に生きる者達の全てを抹殺し、未来を取り戻さなくてはならなくなるのだ

 

それは完全無欠の結末、王が挑む戦い・・・王道には程遠い抵抗戦、既に敗北した者の拙い足掻きに他ならない。そして、その戦いに挑むカルデアの者達は重荷を背負うこととなる。『生きるために、他人の世界を滅ぼす』という業をだ。それは全てを背負いし王以外には、あまりにも重い荷物であり・・・想像を絶する程の辛き旅路へとなることは明白である

 

「・・・うん。辛い戦いになるよね。正義や大儀処か、ボクたちが侵略者で破壊者なんだから」

 

悪である事が避けられぬ戦い。生存の為の可能性の略奪。有り得た歴史の可能性を摘む戦い。其処に生きる全てを奪い去る戦いの壮絶さに、一同はその重みを受け止める

 

こちらが人類史を滅ぼす悪であり、世界を抹殺する使者となる。終焉を迎えた歴史の再興を叩き潰し、未来を取り戻すための抹殺を強制される旅路。それこそが、ロストベルトを巡る戦いに他ならないのだ。有り得た歴史に、これまでの歴史を覆されることを否とするならば・・・逃げ場など何処にもない『剪定』を行わなくてはならないのである。未然に防ごうにも、何が切っ掛けかは掴めない。神の御業に相応しいその所業に、一同は沈痛な表情を浮かべる。──ただ一人を除いて、だが

 

「なんだ貴様ら。うつむき口を固く結びおって。会合と会談を開いておきながら何だが、我は最早この事象への対策を閃いているのだぞ?」

 

王は微塵も揺らがず、そして威風堂々と告げる。我等の道筋に、微塵も揺らぎと澱みは有り得ぬと。我等が挑む戦いは、常に愉悦と輝きに満ちているものだと

 

「神の仕業であろうが無かろうが『可能』であるならばそれを再現が叶いし手段を持つのが人間よ。我等の戦いが復讐やレジスタンス紛いの局地戦に収まる筈が無かろうよ」

 

そう、王は告げるのだ。その対策、ロストベルトの対応とはけして超常的にて理解が叶わぬとするものではない。そう、一度垣間見た可能性を吟味し裁定する事において・・・英雄王の右に出るものは存在し得ないのだから

 

「発想を転換せよ。敗北を前提とした戦い、抹殺を前提とした動機ゆえに貴様らは迷うのだ。『剪定』ではなく、有り得た歴史、異なる歴史を作品、見本品として『獲得』あるいは異聞帯の王より『簒奪』する戦いであるならば。無用な荷物は肩には乗るまいよ」

 

その荒唐無稽な物言い、しかして揺るぎない真理と信ずる言葉に、岸波は面白げに笑みを浮かべる。かつての相棒たるサーヴァントの目論見を、即座に看破したが故に

 

『──ひょっとして、それもしかして・・・ロストベルトをまるごと『いただいちゃう』ってこと、だよね』

 

「察しが良いな?まさにその通りよ。異聞帯の王、そしてクリプターと呼ばれるマスター共。並びに『異聞帯の基板』となる物質を纏めて蹴散らし、星に貼られし世界を剥がし取り、同時に手中に納める。界聖杯と理屈は同じよな。手にしたロストベルトは・・・そうさな。何時の日か星の海に向かいし時分、元凶の星や手頃な惑星に叩き返してやれば良かろうよ」

 

そう、破壊でも抹消でもなく、獲得し人類の可能性として保存し、何時の日か移住可能な惑星に捨て置き放逐するが為の獲得を行うと王は告げる。世界を潰えさせるのではなく、神やクリプターが管理するのではなく、王が手中に納め裁定する。行き止まりに陥った歪な世界を、英雄王一人が背負い行く末を見定める。そうする事により、王を初めとした楽園の戦いに希望と大義をもたらすのだ。『英雄王の欲する、数多の世界の獲得』といった、いつもと変わらぬ王道の戦いにへと

 

「・・・貴方らしい裁定とは思いますが、手段が余りにも不明瞭です。それに、ロストベルトが現れた時点でこの星は・・・」

 

「何を言うか。人の世を繋ぎ止める槍の担い手とは思えぬ気弱な発言よ。槍が執り行えるのだ、鎖や錨ならばさらに磐石であろうが」

 

鎖、錨・・・それらを所持している、規格外の存在に一同は思い当たる。世界を七つ内包した、規格外の英雄神。並ぶものなき、森羅万象にて無敵と最強を誇る、異星の神の目論見を打ち砕く原初の神──マルドゥークの装備には、それらを可能とする希望の兵装が搭載されているのだ

 

「空想を繋ぎ止める軛、それを仮に空想の根と呼ぼう。それらがロストベルトを成り立たせているならば、まずは其を伐採する。然らば次に至るは核を失い剥がれ行く憐れな世界のみだ。──此の消え行く世界を、マルドゥークの鎖と錨にて繋ぎ止め、受容機たる界聖杯にて獲得する。まぁ可能性が無き世界を汲み取った聖杯だ、粗悪品にて破棄は免れぬが・・・楽園の者共の大義名分には代えられぬ。秘宝など気前よくくれてやる」

 

既に活路は見えている。同時に選択を迫られしはロストベルトの王である。『このまま英雄王に滅ぼされるか』『未来の発展と可能性を信じ、王に世界を譲り渡すか』と言った決断を強いられる事となる。無論、どちらに転ぼうと破綻している世界を、王は獲得する事に変わりはないのだが

 

「そもそもの話だ。カルデアにレイシフトという手段がある以上・・・遡ってのロストベルトの抹消なども容易かろう。帯の起点たる点を抹消し要因を排除すれば、有り得た歴史は塵と化す。まぁ、世界を変質させる要因を排除する以上、いささか困難な任務にはなるであろうがな」

 

或いは、氷河期の到来の隕石の破砕。或いは、炎の巨人の討伐。並大抵ではなきその苦難や試練ではあるが・・・完全無欠の結末を追い求めるには越えなくてはならぬ壁であるのだ。むしろ、分かりやすい原因ならば蹂躙は容易いと王は告げる

 

「それは素晴らしいけれど、ロストベルトが発足した時点で地球は漂白されてしまうんじゃないかな?其処はどうするんだい?」

 

「今ある世界の上に、薄い世界のテクスチャ・・・シートでよいか。緩衝材となる世界を挟む。楽園たるカルデア、月のムーンセル。そして・・・最果ての槍を活用すれば不可能ではあるまいよ」

 

「最果ての槍を、ですか・・・?」

 

ロンゴミニアドの小器たる槍を、楽園にて増幅させ、そして世界を覆う薄皮がごとき世界を一時的にテクスチャとして貼り付ける。正しき歴史を、人類史を保護するシートのようなものだ。空想の根が星に張られぬよう、防護を行うのである

 

「人類は余さず眠りに着くことになろうがな。だが、半年も眠り呆けたのだ。今さら三ヶ月ばかりの睡眠は苦になるまい」

 

「む、無茶じゃないかな!?そもそもどうやって全人類を眠らせたり出来るのか想像も・・・」

 

ロマンの動揺に、無言で手を上げる岸波。手は、こちらで打つといった顔である

 

『世界のテクスチャをレガリアで一時的に形成してムーンセルで拡大して被せる。願望器としてのムーンセルなら多分行けるよ。それで、人類達にはBBにネットを通じて睡眠してもらおう。戦いが終わるまでの間ね。三ヶ月くらいが目安かなぁ』

 

「貴様もロマンと協力せよ、マーリン。認識の幻術改編など手の者であろうが」

 

そう、月の新王が地球にムーンセルにて干渉し、一時的に世界のテクスチャを構築し、最果ての槍にて上書きする。同時にBBが世界を覆うネットワークを掌握し、世界の総てを楽園の指揮下に置く。そしてマーリン、ロマンの魔術と幻術にて対抗の手段を持たぬ人間達を昏睡させ、同時に保護を行い、その隙に総ての問題を王が片付けるといった筋書きなのだ。未だ実現には時間がかかる計画ではあるが・・・万事休す、策を持たず蹂躙される未来とは比べ物にならぬ対応策を提示された一同の表情に、希望が宿る

 

「そも我は剪定事象に興味などない。如何なる理由と理屈があれ、それらは総て裁定の下った歴史だ。今更我が目にかける理由も旨味も有りはなかろうさ。だが──これらが我等の道筋を、我等の戦いを、勝ち取った結末を破却するというのなら話は別だ」

 

王の、そして姫の見据える人類の果て、裁定を下し、星より旅立つその日まで。人類に仇なし害する者への処断は、王の義務に他ならない

 

「新たなる歴史、異聞帯の発足など我が赦さぬ。そして、つまらぬ葛藤と困惑にて楽園の輝きが曇ることも我は認めぬ。貴様らの大儀と戦いの意味と価値を保証するのも我の勤めだ。故に──」

 

王は告げる。後の一年後に起こる戦いは、我等の未来を仇なす者との正面対決であると言うことを。異聞帯などの食い合いなどではない。総てのロストベルト、可能性に立ちはだかるは・・・英雄王ギルガメッシュと、その財達であるのだと

 

「奮起せよ、者共!この一年、提示した計画を何れ程形に出来るかが分かれ目だ。磐石と万全、完全無欠の結末を手にするために──その全てを我等の道筋に費やすがよい!」

 

深く、強く頷く一同。現実には番狂わせが起こるやも知れず、思い通りには運ばぬかもしれずとも──挑み、戦い、勝ち取ることにこそ意味がある

 

「世界そのものを戦利品とする戦いか・・・ふは、良い!人類を代表する戦いなのだ、それくらいの旨味は無くてはな!やはり実力が伯仲した勝負にこそ、凱歌と勝鬨を上げる価値があるというものよ!」

 

それぞれの可能性と対策を練り始める一同。向き合い、直面する極秘の問題に、彼等は希望を懐き取り組んでいる

 

その姿を肴とし、やがて何れ庭を飛び出す前の雑事として・・・王は未来を勝ち取る戦いに想いを馳せるのであった──

 

 

 




ギルガメッシュ《しかし、我も趣味嗜好が変化したものよ。世界を滅ぼす痛みと嘆き、苦難と葛藤・・・この我には、微塵も食指を働かせぬ味となったわ。それよりも──》

──くぅ、すぅ・・・

《お前の様々な世界を目の当たりにした反応と愉悦をこそ醍醐味とする我の愉快さはどうだ。全く、清廉かつ爽快な愉悦を是としたモノよな、エア》

──ん、ぅ・・・

「──フッ。我が財の輝きの曇りを取るも我の勤めとしておくとしよう。──そして読めぬは、クリプターめの存在だが・・・オルガマリーめに偵察を命じるとするか」

(さて、如何なる戦いとなるか見物よな。異星の神とやら、我等の予想を精々上回ってみせろよ?我等の打倒を無くして、この星の敷居は跨げぬと知るがいい)

「ふふ、ふはははは、はーっははははははっ(マナーモード高笑い)」

──むにゃ・・・おいでよ、フォウのさと・・・

「・・・背筋が凍るファームよな、エアよ。間違ってもそのような剪定事象は御免被るぞ」

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