人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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次なる舞台は、眠らぬ街。輝ける街、不夜城──その光輝く偉容に飛び込む我等が王は、何を垣間見るのでしょう

目映い光は、闇をも浮き彫りにするもの。光が強くなればなるほどに、闇は深く濃くなるもの

光にて闇を消し去る事を信じた女帝の治世。果たしてそれは、彼女らにどう映るのでしょうか・・・


コロンブス「じゃあ僕は、外で待機してるね」

リッカ「あれ?いかないの?」

「万が一のために、水路とかでの脱出を検討しておかなくちゃね。タクシーみたいなものだよ。レジスタンスの皆も指示しなきゃだしね!危険な役割でごめんね?」

シャルル「いいってことよ、任せとけ!」

シェヘラザード「お気をつけて、コロンブス。どうか武運を」

「そっちも、死なないように頑張ってね!」

ダ・ヴィンチ『さてさて、それでは潜入開始かな?そんな時のために作ってきた礼装を君達に託そうじゃないか!』

マシュ「・・・な」

デオン「なんだこれはっ!?」


異なる装い、伏した変装。一行は、輝ける都市へ──




眠らない街『不夜城』

「うわぁ・・・!明るいです!キラキラしています!星空が落ちてきたみたいです!」

 

不夜城──中国にて語られている伝説と伝承の街。コンラが言うように、まるで夜空の星の輝きを直接形にしたような明るく、目映いばかりの街並みがリッカ達を出迎える。無際限に、無制限に。何処までもの発展と成長を目指し積み上げられていった輝きの都市。裏路地や地下に至るまでその全てを照らし上げるかのような光輝の都市が皆を圧倒する。あらゆる隠し事、あらゆる悪事をたちどころに暴くような。あらゆる後ろめたさを照らすような気概と意味を感じさせるがごとき喧騒と輝きを示しており、リッカ達を圧倒し、歓迎し、監視しているようにも見える程である

 

『不夜城。聞いたことはあるかな?これもイースと同じく、中国で語られている伝説上の都市だ。中国では『城』という言葉は街の外壁を示すものでね。だから不夜城は城ではなく、都市を意味する。『漢書』に記述はあるんだけど、詳しくは書かれていないね。ただ、夜にも明るい都市があった、とだけ。しかしその言葉のイメージから、新宿や中国の上海のような『眠らない街』を言い表す表現になった、とされているね』

 

「眠らない街ねぇ。寝不足や徹夜は肌荒れの元になるんじゃねぇか?寝れるときには寝ておきたいよなぁ」

 

シャルルの呑気な感想と共に、数多の看板や食事処、煌めく店や本場の中華街の在り方に興味を惹かれる一行。見れば市民の皆は服装や人種がバラバラに異なっており、リッカ一行の服装の変化にもまるで意識が向けられていないようだ。ダ・ヴィンチちゃん手製の特注衣装にて、一同は変装を果たしている

 

「とりあえず皆、自由行動で情報収集から行こうか!旅の醍醐味、新しい都市の食べ歩きは止められないよね!」

 

リッカは某格闘ゲームの中華ヒロインがごときチャイナ服に身を包み、マシュは清楚なセーラー服へ、コンラはミニスカートに体にぴったりな青き長袖、うっかりが伝染しそうな出で立ち。デオンはメイド服、アストルフォはセーラー服。シャルルマーニュは黒いタンクトップに青ジーパン、ネックレスやバングルなどのアクセサリを大量に装備した若いヴィジュアル系バンドボーカルといった洋装をそれぞれ着用している。ダ・ヴィンチセレクションといったそれは、全く統一感のない旅の一行を鮮烈に浮き出している

 

「それな!よぉしバッチリ情報収集してやるぜ!行くぜアストルフォ、まずは食い倒れの旅でグルメ店制覇からだな!」

 

「シャルル、それ大阪!中国じゃないからね多分!まぁいいや、じゃあ、このポンコツはボクが面倒を見ておくよ!ほら行こう、デオン!」

 

「・・・わ、私はまぁ、シャルルと共にいれば専属か何かと認識されるだろう。解った。それで行こう・・・」

 

あからさまに趣味の入った手製の衣装に複雑なデオンであったが、それはそれとして覚悟を決め散策を決意した様子である。アストルフォに手を引かれ、煩雑と喧騒の都市に駆け出していく三人。コンラに声をかけなかったのは、マシュに気を遣っての事である

 

「では・・・コンラちゃん、私達も歩いてみましょうか。情報収集なら、数は多い方がいいと思いますからね」

 

「はい!マシュさん!コンラ、こういった旅は大好物です!見識を広げに参りましょー!」

 

各自、自由行動にて歩き出す。情報収集とは言うものの、それは半分建前のようなもの。新しい都市、新天地にたどり着いた時の慣例行事・・・そぞろ歩きにて楽しむ事を命じたリッカは満足げに手を振り、シェヘラザードに共に路地裏にて待機を

告げる

 

「私達は皆が戻ってくるまで身を潜めていよっか。冷静に、死ににくいような路地裏でさ」

 

「・・・宜しいのですか?我が王。それではあなたの身動きが・・・」

 

「いいのいいの。通り魔や工事中、マンホールに隕石に地割れ。街の中には危険がいっぱい。シェヘラザードは街を歩くより一ヶ所にいた方が安心するでしょ?しない?」

 

リッカなりの気遣いに、シェヘラザードは深々と頭を下げる。レイラインにて会話し、何かあれば令呪を切り呼び戻す。その為に、息を潜めた安全な路地裏にて待機を選んだ彼女の采配に、感謝と敬愛を懐く語り手のキャスター

 

「御心遣い、痛み入ります・・・それでは、退屈をまぎらわすお話を10程用意いたしますので、実りある待機と致しましょう・・・」

 

褐色のキャスターと、鍛え抜かれた中華の少女。二人が揃って路地裏に移動する。光輝く都市の輝きが薄い、僅かに存在する静寂の最中に身をやつす。未知数にて輝くこの街を見上げ、僅かに警戒を行いながら。節操なく輝く最中に紛れる、血腥さを感じながら──

 

ねむらない びようにわるい けものかな

 

・・・──こちらシャルルマーニュ。街の人間に変わった様子は見られねぇな。誰も彼もがイチャイチャしてて胸焼けがしそうだぜ。あと回鍋肉と青椒肉絲が絶品だ!どうぞ!おいアストルフォ!俺の肉を取るんじゃねぇ!

 

・・・──こちらデオン。男性連れの女性、或いはカップルの割合が多い気がする。大抵、男性が女性の世話を焼いている。女性優位なのだろうか。報告しておくよ

 

・・・──先輩、あなたのマシュです。お土産と今日の宿は如何なさいましょうか?よいホテルを見つけたので是非!

 

・・・──コンラです!たのしーです!どーぞ!

 

 

頭に届くサーヴァント達の会話を聞き、情報を収集する。皆、それぞれの楽しみ方と情報を提示しリッカに伝えてきてくれている。輝かしき都市には、娯楽も溢れているようだ。退屈させない都市、というものを目指しているのだろうか?味気ない路地裏を、シェヘラザードの物語と共に脳内にて喧騒が響き彩る

 

『あいよー。皆、気を抜かないように。なにかあったら教えてねー』

 

そう告げ、シェヘラザードの語りに集中する。彼女の語りは臨場感に溢れ、没入感に満ち、目を閉じれば景色や風景が見えるようなリアルさを感じさせるほどだ。無節操にて無秩序な輝きにも劣らない、凄まじい手練手管を実感させる語り口にリッカは称賛を告げる

 

「街歩いてるより独占してお話聞いていた方が楽しいかも・・・凄いねシェヘラザード!」

 

「恐縮です、我が王。それだけが取り柄の女なので・・・実際に私も、こうしていた方が落ち着きます」

 

シェヘラザードは物語を武器に王に立ち向かい、その正気を取り戻した。五感を、心をある意味では掌握する手段に彼女は長けている。そんな彼女は、何よりも安全を、そして安寧と安信を望んでいるという

 

「私はやはり、サーヴァントとしては力不足な女。王と旅路を往くのならば、誇れるものはこれしか・・・すみません、散策を潰してしまい」

 

「いいのいいの。私がやりたいことだから!・・・それにしても、シェヘラザードは死にたくないんだよね?」

 

リッカは思う。サーヴァントとしてのシェヘラザードは死にたくないことを願い、そして生き延びるために生きていると。それはなんとなく矛盾しているような気がするのだ。サーヴァントとは召喚に合意の下、成立するもの。死にたくないのならば、召喚を拒否し応じないことは叶わないのだろうかと思い、訪ねたのだ

 

「ごもっともな反応です。私は、召喚されるという事が本来好ましくありません。喚ばれれば死んでしまう。消滅、退去・・・映し身にすぎないとしても。感じた想いは記録として座に返る。きっと本体たる私は・・・その度に溜め息をついているのかもしれませんね」

 

「そこまで死にたくないなら、どうして召喚されちゃうんだろね?不思議じゃない?」

 

「・・・考えられる線では、千夜一夜物語の人物の召喚、縁の召喚、偶然成立した召喚がありますが・・・どれも私を狙い召喚した例は少ないのでは無いのでしょうか・・・それに、何故私が応えてしまうのかも不思議ですが・・・」

 

そう、召喚を完全に拒否する例は無くはない。かのファラオ・オジマンディアスは自らの遺物では決して召喚に応じず、妻ネフェルタリの遺品にて召喚に応じる。妻の墓を荒らした一族朗党を皆殺しにするために。或いは自らの教示や教訓にて。それらの召喚を断固拒否する手合いもいるという。彼等に出来て彼女が出来ないとは考えにくいが・・・

 

「・・・それでも、今の私は少なくとも・・・珍しいお話ですが、自分の意志にて此処にいます。普段のように死に怯え、生存を第一とする在り方とは異なっている、はず、です」

 

自信なさげに目を伏せるシェヘラザード。今の自分は気持ち、アグレッシブなシェヘラザードだというのだ。それは何故かと問われた時、自分はこういうのだという

 

「『完全無欠の物語』。愉快な王が紡ぎあげた誰もが笑顔で終わる幸福な物語・・・それを、一目でいいのです。私は、そんな物語があるとするのなら。語ってみたいのです。座に刻み付けるような物語である事を信じて、それを知りたいのです」

 

誰もが欠けず、誰もが消えず、誰もが潰えない最高の結末と物語。語り手として、誰もが笑顔を浮かべるような輝く物語が、誰も知らない物語が天の宮殿に・・・地底を抜けた先に存在しているという。シェヘラザードは、その物語を垣間見、座に持ち帰り、それを召喚の報奨にしたいというのだ

 

「数多の死、夜の果てに・・・輝くような朝陽を、輝きを見たい。だから私は此処にいるのかもしれません。少なくともこの私には、為し遂げたいことがある。それを成し遂げるまで・・・私は王に仕える語り手としての本分を全うしようと考えています」

 

いつか召喚の果てに、なにかを掴めるのなら。死の恐怖の果てに、なにかがあるのなら。それを、勇気を奮い立たせ見出だしたいとシェヘラザードは言う。少なくとも、この地底にいる自分はそうなのだと、熱の籠った言葉を紡ぎあげ・・・

 

「・・・す、すみません。私などの目的などを語ってしまい。お耳汚し、申し訳ありません」

 

深々と土下座するシェヘラザードを優しく起こし、大丈夫だよと手を振る。彼女もまた求めているのだ。財宝を、新天地を。どのような物語か解らなくとも、確かに在ると信じる・・・確信があるという『完全無欠の物語』を知りたいという。彼女の言葉に、リッカは決意する

 

「必ずいこう。天の宮殿へ。私達の旅路の他に、そんな物語があるのなら。それは私も見てみたい!」

 

「我が王・・・」

 

「必ず、シェヘラザードを笑顔にしてみせるよ。死なせない。だから皆で行こう。天の宮殿。形も見た目も分からないけど、必ず在る其処へ!」

 

その決意を表明し、シェヘラザードに告げる。目的と行き先が同じなら、必ず連れていく。捨て駒や、けして犠牲を産み出しはしないと誓い、目的へと賛同を示した

 

「──はい。我が王。どうかよろしくお願いいたします。その為なら、どのような困難をも穏便に切り抜けてみせましょう。こう、和平交渉や和睦を第一に・・・」

 

そうした歓談を重ねた時、その瞬間──ダ・ヴィンチちゃんからの通信が飛ぶ。どうやら些かばかりの危険が向かってきているようだ

 

『すまない、シバにゃんが戯れに不夜城の電気代の計算をしていたら敵勢反応を感知した!あまりの浪費にシバにゃんが倒れたのを介抱していてね、──そちらに向かってきているよ!』

 

何をしているのか、といった疑問は即座に答えを得る。荒い息に、数メートルはある巨大な体躯。血走った目に漆黒の身体・・・

 

【グルルッ、ヘッ、ヘッ──】  

 

「・・・犬?」

 

凶悪な犬が路地裏に迷い込み、リッカらに相対する。無言でシェヘラザードを庇うリッカ。じりじりと距離を計る両者。突如始まった生存競争・・・

 

【ガアァアァアァア!!!】

 

唸りを上げ、そして襲い来る巨大な警備犬。その牙と爪は飢えにて研ぎ澄まされ、癒さんと襲い来る。一般人であるならば十分以上に驚異ではあるのだが──

 

「──せいっ!!!」

 

サーヴァントでもなき、ケルトの猛犬でもなき犬になどリッカが遅れなど取る筈がなく、飛び掛かってきた犬の眉間に左手の渾身の拳を叩き込む。骨が砕ける手応え、鈍い音。数メートル吹き飛び、痙攣した後に動かなくなりし犬を、息絶えるまで警戒するリッカ

 

「・・・警備犬なのかな・・・迷い込みかな?」 

 

それと同時に──街が慌ただしくなり始める。この騒ぎの他にも、どうやら問題が起こったようだ。何事かと皆に連絡を行うと・・・

 

「いけません、我が王。すぐにこの場から離れなくては。この死体を見ればやってきてしまいます。死んでしまいます・・・」

 

「やってくる?誰が?」

 

「・・・執行人、治安維持の拷問官。望まぬ真実すらを導きだす、おぞましい秩序の維持者が・・・」

 

その言葉の意味を、彼女らは理解することとなる。眠らない街。それは、一時たりとも安寧なき都市なのだと言うことを・・・




街中

コンラ「けふ、お腹一杯です・・・」

マシュ「たくさん食べましたね、コンラちゃん。それではそろそろ、先輩と合流しましょうか」

シャルル「お、やっぱ中心にいるよな!真ん中には良くわからない台があるし、待ち合わせには最適だぜ!」

アストルフォ「なーんか居心地悪いなぁ、ここ。みーんなイチャイチャベタベタしてて節操無しって言うか。家でやりなよってっていうかぁ」

デオン「男性が女性を甲斐甲斐しく世話しているように見受けられるな。女尊男婢が推奨されているのか・・・」

シャルル「あー、なんか途端に肩身が狭くなってきたような気がするなぁ。・・・ん?」

男「・・・」

男「・・・」

「なんだあいつら、トイレ待ちか?・・・あぁ、お付きか。とりあえず話でも聞いてみるか──ん?」

男「・・・なんで俺はこんなおべっか使ってんだ。なぁ、お前だってそうだろ?我慢の限界だ。死にたくないから従ってるが、俺はこの国の臣民──ペットじゃない。ただ此処に流れ着いたってだけだ。地上には妻も子もいるんだ。──逃げようら、外にさえいきゃあ・・・」

シャルル「!おぉ、やっぱ不満持ちもいたわけか!よし、お前も桃源郷に連れ──」

コンラ「シャルルにーさん!ストップです!」

「!?」


男「・・・おい、なんとかいえよ。お前も・・・」

「──すぅっ・・・『密を告げる』!『密を告げる』!『密を告げる』!」


シャルル「!?」

男「この者、不夜城の泰平を乱すものなり!安寧光輝の都からの逃亡を企てるものなり!」

「な──チクリだとぉ・・・!?」

「来てくれ!咎人だ!咎人がいるぞ!陛下の異を此処に!」

男「あ、あぁ・・・止めろ、止めろ。あいつらを呼ぶのは止めてくれ。嘘なんだ間違いだ、冗談なんだ・・・!だから・・・【酷吏】を呼ぶのは止めてくれぇえぇえ!」

マシュ「・・・酷吏・・・!?」

【フシュー】

コンラ「うっ!?」

アストルフォ「わぁ!?ビックリしたぁ!?」

「この臭い・・・【血】か・・・!?」

金槌、鉈を所持した血染めの女。その異様な姿をした存在が現れ、瞬く間に集う

──望まぬ真実すらも引き出す拷問官。伝承の存在が恐怖を示し現れる──

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