人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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イース「水門の鍵があったでしょう?それはね、もうひとつの形があるのよ。水門の鍵の他に、何処かに繋がる鍵が、ね」

リッカ「何処かの扉がある、ってことだよね?それ、見当はついてる?」

ダユー「えぇ、勿論。興味がなかった訳ではないけど、私はやっぱり惰性の所持はしたくなかったの。どうせ要らないのなら、興味も持たない。そういうわけで、竜宮城への道は忘れていたわ」

シャルル「ホンっとに無頓着だな!」

「誉めてくれてありがとう。あったあった、此処よ」

『隠し階段』

「ここからは長い長い階段よ。覚悟して下りなさいな。帰ってくる事を祈ってるわよ?」


リッカ「勿論!そっちも早くミサが終わるといいね!」

「ふふっ、手厳しいわね」




セミラミス「さて、ヒュドラの毒は手に入るかどうか・・・手にはいったならばそれでよい。手に入らなければ・・・まぁ、一度くらいは助力をしてやっても構わんか」

天草「流石はセミラミス。用心深いですね」

「フン、楽を覚えては堕落する。手段があるならばそれを求めよというだけだ。・・・ヒュドラの毒が、そう簡単にあればの話だがな」

天草「えぇ。そして・・・ギリシャ組の動向も気になりますね・・・」


『儚き国』竜宮城

イースの真下、海上都市の直下に位置する海底。その場にて偶然、ダユーが見つけ同時に放置していたとされる都があるという。その場に辿り着く手段はイースの玉座の間、何処に繋がるかも解らぬ隠し階段を伝って降りていくのだという。メガロス・シャフリヤールの存在に対抗するべきカウンター。その打倒のきっかけとなるヒュドラの毒を手にするために、一同は迷い無くイースへ、そして隠し階段を下りその幻の都へと向かうことを決意した

 

ヒュドラの毒を扱うセミラミスが言うには、アレほど狂い果てた英雄となるならばサーヴァントの技や魔力にて産み出すモノなど弾きかねないとし、特異点にて呼び出された『概念』こそが磐石を期す手段であるといった仮説を立てた。かの大英雄に、土壇場で効かなかったでは笑い話にもならない。それ故に、万全を期すために蛇たるヒュドラ、水に縁深い竜宮城を目指し手懸かりを掴もうとする一行であったのだが・・・

 

「長い階段だなぁ・・・かれこれ一時間は下ってねぇか?下へ下へ、まるで下山みたいだぜ」

 

イースの階段はとても長く、ひたすらに薄暗く味気無い。一同の足音のみが反響し続け、ただひたすらに下へと進む味気無き行軍。その地味な道行きに、シャルルが感想を漏らす。彼の言う通り。行くと決めてから一時間程階段を下っていっているが、めぼしい変化はまるでない為にその無味乾燥さを口に出す

 

『ダユーが今更私達を騙すとは考えにくい。其処に階段がある以上、必ず其処には何かがあるんだろう。警戒をしつつ、信じて進んでみようじゃないか』

 

反応を探知するダ・ヴィンチの声が反響する。その暗い空間に似遣わぬ軽快な響きと言葉を信じ一同は歩き続ける。無限に続く階段を降りていく一行の足音もまた、静かに反響していく

 

『ワンッ、ワフ!』

 

「え?アマママさま?・・・必ずある?竜宮城は存在する、ですか?」

 

思わぬところからの太鼓判に驚くコンラ。カルデアの中でも屈指の良識と常識を持つアマテラスが告げるのだ。その先に、必ず竜宮城はあると

 

「あまこーが言うなら必ずある!そう信じて前へ進んでいこう!」

 

「そうそう!諦めず前へ進んで、必ずたどり着こう!どのみち引き返したらもっと時間がかかるしね!」

 

その意思を示した一行の徒労は、正しき場所へと辿り着く。歩き続けた一行の前に──色鮮やかな蒼き扉が、巨大な珊瑚が描かれた扉が突然現れる

 

「これ?あからさまに雰囲気が変わったけど・・・」

 

その蒼は穢れなく澄んでいて、見るものに清らかな印象を与えている。その先にあるものに期待を懐かせる意匠。その全容に想像を膨らませる扉・・・そして、そこに差し込むべき鍵が輝き始める

 

「!水門の鍵が・・・」

 

リッカが手にした水門の鍵。それが目映き輝きを放ち始める。穢れていた鍵の錆や汚れが取れ、蒼き光を放ちながら存在を誇示する。手にしたリッカの手が、吸い寄せられるように珊瑚の扉に鍵を差し込み、手を捻る。すると──

 

「くっ!?これは・・・!?」

 

光が満ち溢れ、そしてゆっくりと扉が開いていく。七色の光が満ち溢れ、一行を包んでいき、そして目映いばかりの輝きが辺りを満たしていく。目すら開けられぬ程の光が満ち溢れ、竜宮城を目指す旅人を迎え入れ・・・

 

「皆!離れないでね!此処まで来て離ればなれなんて話にならないから──!」

 

リッカの言葉に従い、自らの位置と存在を強く意識する。そんな中、シェヘラザードの言葉が響き渡り、一行を自らの力にて保護を行う

 

「はい、御安心ください・・・我が王。皆様は私が、絨毯でくるんで保護します・・・」

 

新たなる都市への到達。その目の前に広がる風景に、一同は圧倒され目を見開く事となる・・・

 

 

ましたへと くだりくだりし けものかな

 

 

 

『ワフ、ワンワッ!』

 

膝をつき、前後不覚となっていたリッカの耳にアマテラスの声が響き、慌てて頭を振り、立ち上がる。迅速な現状把握に努めたリッカは、目の前に存在する光景に、目を見開く事となる

 

「──おぉ・・・」

 

其処には、七色の光を放つ宮殿が聳え立っており、海底とは思えぬ程に明るく、そこかしこに鮮やかな珊瑚が屹立していた。四季の木々が生え、明るい日が射すような輝きに照らされ貝殻や真珠が辺りに敷き詰められ、見るものに幻想的と言った単語を脳裏に浮かび上がらせる。絢爛にして儚く、美しくも泡のごとき繊細さを兼ね備えた美の空間。そんなイメージを誇示し、しかして気品や風格を感じさせるその都を、理屈ではなく心で理解させる。此処こそが・・・

 

 

「・・・竜宮城・・・此処が・・・」

 

「先輩!目覚めましたか!凄いです!イースの真下に、こんな都市があっただなんて・・・!」

 

興奮冷めやらぬといった様子でマシュが鼻息荒くリッカに声をかける。一同は素早く現状把握と言う名の散策へと出掛け、それぞれが未知の光景を堪能している

 

「おーい!見ろよリッカ!柔らかい貝殻とか変なのがあるぜー!」

 

「珊瑚クライミングだー!やっほーぅ!」

 

「こら、礼を失するんじゃない!誰か統治者がいる筈だ、無礼となってしまうだろう!・・・しかし、美しい真珠だな・・・」

 

「・・・天の宮殿も、新天地もこんな風に綺麗なのかなぁ・・・」

 

オーロラのようになびく白き光の波。白き泡が湧き出、珊瑚や木々が宮殿を彩っているこの空間・・・竜宮城は静かに来訪者を迎えている。侵入者への警戒なく、そして応対の声もなく。歓待の声も無い。あまりにも精緻で静寂な・・・

 

「──・・・静かすぎない?」

 

そう。静かすぎるのだ。絢爛な光景は広がれど、其処に存在するべき従者や衛兵、侍女や働いている者達、生命の息吹がまるで存在しない。その空間に感じるべき喧騒が、まるで聞こえてこないのだ。これはどういう事かとリッカが首を捻っていると・・・

 

【シャアァアァァーッ!!!!】

 

巨大な咆哮、激震の叫びが心胆を震わせる。ビリビリと空間を震わす存在の怒号が、竜宮城を揺るがしている。何事かと弾かれるように目線を飛ばした先に、巨大なる『それ』はいた。濃い紫の体躯に、巨大な蛇そのものの頭。それらが数多存在する異形の怪物・・・

 

『巨大なエネミー反応だ!竜宮城の外から猛烈に迫ってくる・・・!恐らく今見えている存在がお目当ての敵だ!つまり──』

 

「これが、ヒュドラ・・・!?」

 

巨大な多頭の海蛇。そういった印象の巨大エネミーと相対する一同。アレが本当にヒュドラなら、人間が見上げるほどに巨大である怪物ならば今すぐに全力にて立ち向かわなくてはならない

 

「皆!戦闘準備!来るよ皆!アレがヒュドラなら、此処で倒して──、!?」

 

戦闘にて撃退、討伐を試みたリッカらの目に、再び不可解な現象が巻き起こる。一直線に突撃してきたヒュドラの頭部が、勢いよく『膜』にて弾き飛ばされたのだ。数多の首が勢いよく突撃を行うも、その薄くも清らかな膜の守護に、なすすべなく弾き飛ばされていき、牙を突き立てても身体をぶつけても守護と防御を突破が叶わず、やがて忌々しげに何処かへとヒュドラは帰っていく。再び静寂が戻り、一同は一様に不可解と困惑を示す

 

「ヒュドラ、だよな・・・?ヒュドラでいいんだよな?あれ?」

 

「おっきかったですね!でも、イメージよりは神話に寄っていなかったように思えます。流石に魔獣や幻獣のヒュドラは呼び出せず、概念だけを付与されたのでしょうか・・・?」

 

一同の予測と困惑、把握しかねる現状に、答えを示す者の計らいと、同時に誘いと初の歓待が示される

 

「御覧ください、我が王。竜宮城の城門が開きます。どうやら私達を迎え入れるのではないでしょうか・・・」

 

その言葉の通り、紅き門が開いていく。誰もがいないとされていた竜宮城の初めて・・・いや、先程の防衛を含めれば二度目の動きを行った者が、リッカらの前にコンタクトを、声明といった形で皆に表したのだ

 

『──竜宮城、宮殿に御越しください。この場に現れし貴女達が、善なるものであることを願います──』

 

その言葉は儚く、消え入りそうなか細さであり、希望に期待を乗せた響きを醸し出している。その静かかつ疲弊している声音を受け、一同は頷き合う

 

「・・・行ってみよう、皆。とにかく話を聞いてみないとね」

 

コロンブスも真珠を見つめ、覗き込みながら賛同を示し、住民のまるでいない竜宮城の真実を質すことを決意する

 

「そうだね、マスター。ともかく話を聞いてみなきゃ分からない。せっかくたどり着いた場所がこんなに寂しかったら甲斐が無いじゃないか」

 

そう。この場所にて何が起こっているのか。全く生命が垣間見えないのは何故なのか・・・その真相を知るために、一行はその扉をくぐる──

 

 

 

「・・・よくぞ、来てくださいました。最早まともな歓待も宴も開けぬ有り様ではありますが、心より皆様を歓迎いたします」

 

人の気配なき貴人の間。その玉座に鎮座する者がある。薄い桃色の服装に、美しき黒髪。天女のような羽衣を纏い、高貴な風格を示す美女。・・・なれど、顔色は真っ青を通り越し白く、同時に其処に在るのがやっとといった華奢さを持つ存在が、深々と一同に頭を垂れる

 

「私は、キャスター・・・乙姫。この竜宮城を守護せしサーヴァントです。どうか皆様。伏してお願いいたします。皆様の力を、かの邪悪なる蛇を討ち果たすために御貸しください──」

 

玉座から懸命に身体を起こし、深々と、深々と頭を下げる

 

「キャスター!?」

 

「乙姫って・・・!竜宮城の!?」

 

その驚愕の最中にある乙姫と名乗るキャスター。人がおらぬ国、巨大なるヒュドラ。──この地下にもまた、動乱の兆しは潰えずにリッカらを待ち受けている──




リッカ「あ、その・・・乙姫さん。御体は大丈夫ですか?具合が悪そうで悪そうで・・・」

乙姫「えぇ、お気遣いなく・・・かの蛇の防衛に、疲弊しているだけですから。まだまだいけますよ、はい」

シャルル「そうは見えないけどな・・・少しは休んだらどうだ?」

「いえ・・・休んでいる暇はありません。民達の力を結集している今、私に休んでいる時間など」

マシュ「民達の力を・・・?乙姫さん、あなたは・・・」

乙姫「・・・はい。この場に国民・・・魚がまったくおられないことは気付きましたか?」

アストルフォ「うんうん。誰もいなかったね!」

「・・・彼等は自らの力を私に託し、眠りについております。自らの魔力を『玉手箱』として竜宮城の維持と防衛の礎とし、私に力を託して下さったのです」

シャルル「!」

リッカ「・・・民達の皆で、ヒュドラから竜宮城を護ってる、ってこと?」

「──はい。それが、私達が取った手段。故国防衛の方法。・・・無論、詳しく説明いたします。どうかその果てに──我等が悪かどうかを御判断ください」

マシュ「・・・」

「我等は、あまりに弱すぎた。故に──民達に苦難を強いた国であるのです──」

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