人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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シバにゃん「よしよし・・・アマちゃん、竜宮城にいった事があるのですかー?」

「ワフ!ワン!」

「君は日本の神様だよね?諸国漫遊でもしていたのかい?」

「ワッフ!」

「下総の時の奮戦といい、なんでもやといい、君、一応最高クラスの神様なのに随分と働き者というか・・・」

「ワフ?」

「随分と平和と人助けが好きなんだねぇ・・・」

「──ワン!ワッフ!」



ギル「ほう、巨英雄・・・メガロスか。我ならなんの躊躇いもなくギガントと名付けるがな」

ロマン「大丈夫かな、ヘラクレスは特級の英雄だ。君や僕も、作業を中断して援軍に行くべきじゃ・・・」

──大丈夫です。リッカちゃんたちは・・・大丈夫だと信じています

《フッ、その通りよな。乗り越えられぬ苦難を前にして我にすがるような雑種を我が財などと呼ぶものか。我の知る楽園には、自らの限界に常に挑み続ける者しか存在していない。必ずや、我等がおらずとも試練を乗り越えるだろうよ。──我等はその奮闘の閲覧を心待ちとし、為すべき事を為すのみでよい》

──はい。互いが互いを信じ、困難と限界を乗り越える。ワタシ達の戦いはそういったものであり。これからもそうありたいと願っています。なればこそ、離れていても・・・ワタシ達は、ワタシ達の為すべき事を成し遂げましょう。これまでの戦いを、旅路を。其処にて磨かれた財達の輝きを信じて!

(多分リッカちゃんもそう考えただろうさ。──善き人々というのは、そういうものだからね!)

「その必要あるまい。──我等のマスターを侮るなよ、ロマン」

ロマン「・・・──ふふ。そうだね。僕たちの、カルデアのエースを信じようか!」


崇高なれど、微力な理想

「私はこの地底世界に、マスター無きサーヴァントとして召喚されました。そしてこの土地にまず降り立った際に、声を聴いたのです。『国を興し、治めろ』という、何者かの声を」

 

乙姫を名乗るキャスター、サーヴァントたる彼女は此処へ来た来歴を語る。彼女はまず、地底の海の底でありながら存在できる摩訶不思議な空間に召喚され、自らの国の統治を任されたのだと言う。その何者かは理解が及ばねど、乙姫の生来の心の在り方からしてそれは言われるまでもないことだった

 

「人の他に、数多に巻き込まれた者達もこの場へとやって来ておりました。世界の海に生息する魚たち。それらもまた居場所を求めさまよっており混乱を極めていたのです。そんな彼等の為に、私は力を振るいました。国や生まれなどは違えど、皆が分け隔てなく、地上に戻れるまで拠り所にできる国を、竜宮城を手掛けようと私は思い立ち、そのように私の国の在り方を定め、そのように皆から力を借り受けました」

 

魚達から力を借り、流れ着いた人間達、溺れて死にかけていた者達の保護を念頭に入れ活動していたという。地上へは顔を出せなかった。地上には群雄割拠の三国が存在しており、非力な自分達ではその争いに勝てるはずなど無いことを充分以上に理解していたがゆえの選択であった。ならばせめて、自ら出来る範囲で救えるものを救わんと決意したが故に、この地底の竜宮城を興したのだという。その統治は儚くも軋轢や瓦解を生むことなく、確りと力を合わせたコミュニティを形成していた。助けられた者は感謝を示し、力を合わせて帰還を目指し生き抜こうとした。だが・・・

 

「・・・私達は生きること、自らが生存することにすら手一杯の集団。そんな私達に、この特異点をも覆しかねない存在が牙を剥いたのです。地上に現れれば、その総てを滅ぼしかねない邪悪なる毒を持った怪物・・・神話に伝わりし大蛇が」

 

「・・・ヒュドラ・・・さっきの大蛇だね」

 

その存在は海底に点在し、竜宮城として密やかに、細やかに生き延びていた乙姫らに躊躇いなく襲い掛かった。巨体もさながら、その毒は痛烈無比で、一度吐き出された土地の一部は破棄を余儀無くされるほどに汚染され、みるみる内に生存の区画が狭まっていったと乙姫は語る。地下の海底に広大な土地の存在を認めし事も不可解だが、ヒュドラの存在が其処に封じ込められるかのように在る事もまた気にかかるものであった。まるで、隠された攻略の要素であるかのように。そして乙姫は、その存在に対して抗戦を選択したのだという。あまりに無謀であるとしても、あまりに無茶であるとしても立ち向かわなければ全滅を待つのみ。戦わなければ、この恐ろしい魔獣が地上に出て総てを滅ぼすだろうと確信した乙姫は、その総てを懸けて民を避難させ、自らの陣地による防衛に総てを尽くした。だがその敵は余りにも強大で、民を、竜宮城を守護し、毒から民達を防衛し、ヒュドラの攻勢を凌ぐことで手一杯となってしまったと乙姫は言う。崇高なる理念に、自らの力が全く伴っていなかったと自嘲する

 

「力及ばずとも、打倒叶わずとも。諦めるわけには参りませぬ。倒せぬならば、この身を懸けてかの大蛇を押し留める。万が一にでも地上へあの大蛇が出てしまえば、地上の全ては死に絶えてしまう。それは最早私達だけの問題ではありません。この場所、巻き込まれた生命全ての問題でした。・・・ですが、私の力ではどうしても打倒や撃破は叶わず。己の魔力が枯渇する寸前まで酷使を行い、ようやくかの大蛇を凌げる有り様。そんな在り方にて滅びを迎えんとした私に・・・民は、その身を殉じてしまったのです」

 

度重なる戦闘にて限界を迎えようとした乙姫。防戦にて、僅かな綻びも許されないヒュドラとの交戦。霊基すらも費やして戦った乙姫に、民達は自らも戦いに参ずるために、自らの身を乙姫の力としたのだ。生命が産み出す気力や活力を全て、竜宮城に捧げ力の一端としたのである。竜宮城は乙姫の陣地にして魔術工房。それはけして不可能な手段ではない。極めて少ない人数とはいえ、陣地内ならばその魔力は増幅され、僅かながらも強い力となり供給源となる。その選択を、乙姫はしかして強く反対したと言う

 

「民を救うべき私が、守護すべき私が民に苦難を強いて搾取を行う。私は伝えました。『守護すべきものは民草に竜宮城。あなたたちの安寧でありその為にあなたたちに苦難を強要するのは決して許されることではない』と。・・・ですが、力なき理念は無力でありました。私の魔力は底を突きかけ、現界を保つ魔力すらも無くしかけていた有り様。そんな有り様を、彼等は心配してくださった面もあるのだと思います」

 

『恩を返すのだ』『助けてもらった御礼がしたい』『自分達も一緒に戦う』。そんな善意と決意の発露を拒絶できるほどに、乙姫は冷血になれず非情にもなれなかった。かつて、自らに出逢いし若者が行った事のように。その志の申し出を否定することは、どうしても叶わなかったのだ。そして──彼女は、決断した。彼らを仮死状態とし、己の宝具、『竜宮城』に連なる第二の宝具。魔力を蓄え、増幅し、そして何倍にも蓄積して使用することが出来る『玉手箱』の使用に踏み切り、彼等の魔力を結集して戦いを継続できたと。だがそんな手法は民を自らの私利私欲に苦しめる者達となんら変わりない、暗君や暴君の在り方だと乙姫は言うのだ。如何なる理由があれ、民を苦しめなければ立ち上がることすら叶わない自らの弱さこそ、何よりも責められるべき弱さだと

 

「その不甲斐なさに打ちのめされながら、私は戦いを止めるわけには参りません。地上には未だ巻き込まれし者達がおり、如何なる姿勢であれど過ごしている者達がいる。私が戦いを止めれば、それら全てが危機に晒され滅びてしまう。増援も・・・期待は出来ぬ中、ただ私はひたすらに防戦を行い大蛇を食い止め続けました。せめて、いつか。民達を託すことが出来る者達が、此処へたどり着いてくださる事を淡い希望として。短かったのか、長かったのか。時の流れすら曖昧になるいつ終わるとも知れぬ戦いの果てに・・・あなた達が此処へと来てくださったのです。楽園と呼ばれる者達の使者。困難に挑みし真に強き者たち」

 

民達に犠牲を強いた自分とは違う、真なる強き力と勇気を持った者達の来訪を待ち望んでいたとする。今こそ仮死状態の民達の苦難が報われ、あの邪悪なる大蛇が、そして──非力なる暗君が滅びる時であると確信し、今にも崩れそうな身体に力を込め、リッカらに乙姫は告げるのだ

 

「どうか、私と共にかの大蛇を討ち滅ぼし、民達に安寧と平穏をお与えください。勝利の暁には、この竜宮城をお譲りいたします。この外道の在り方を糾弾し、我が身が滅びる前になんとしても、かの大蛇だけは倒さなければならないのです」

 

乙姫の霊基は限界間近であり、竜宮城から一歩出れば消滅が始まるほどだ。だがそれでも、リッカらと共に戦い、かのヒュドラを滅ぼす為に奮い立つという。かの毒を遮断し、食らわぬように皆を護ると進言したのだ。──自らも、最後まで皆を護ると

 

「我等は、私は弱かった。崇高なる理念や、気高き理想。美しき信念を貫くだけの力を持たなかった者。理想の下に民達に犠牲を強いたもの・・・それでも、一つだけ信じてもらいたいことがあります」

 

手足の先から、魔力が僅かにほどけている。その疲弊と苦難を微塵も見せぬ毅然とした立ち振舞いで、リッカらに告げる

 

「私が願うものは、平穏と安寧。民草の・・・竜宮城を支えて下さった方々の平穏。それのみです」

 

この有り得ざる現界に、自らの信じる信念を貫かんとした一人のサーヴァント。力及ばず、民に困難を強いた自分に最早そんな言葉を告げる資格が無いとしても。彼女は告げた。──かつて、自らの竜宮城に脚を運び、竜宮城を良きものだと告げた者の言葉に、かつての彼が愛したこの都市を護る為に

 

「どうか、力を御貸しください。民達の苦難と忍耐に終焉を。そして、かの大蛇を打ち払う力を・・・どうか」

 

深々と頭を下げる。理想と理念を貫くには、余りにも弱すぎた者。その統治の在り方に、誰よりも絶望しながら、けっして挫けずに戦いを続けていた者。その苦難と慟哭に堪えながら、民達の自由を奪い、国を護るしかなかった自らの弱さを痛感しながら護り続けてきた一人の姫の懇願が、空虚なる都に響き渡る

 

「大蛇を倒した暁には・・・私を信じてくださった民達に、御伝えください。『私の愛する民。誰かを助け、救わんとする心を忘れることなかれ』と」

 

それだけを告げ、静かにひざまずく。自らの処遇と対処を委ね、思うがままに成される事を。対立か共闘かを、リッカらに委ねたのだ

 

『・・・どんな判断を下すかは、マスターである君に任せよう。どんな判断であろうとも、ヒュドラとの交戦は避けられない。君の方針に、私達は従うよ』

 

ダ・ヴィンチちゃんの言葉に頷き、ひざまずく乙姫に膝をつき肩に手を置く。そして、そっと顔を上げさせ、告げる

 

「終わらせよう。奮闘と苦難を。貴女と貴女の民達を救いに行こう」

 

「・・・マスター様・・・」

 

「力を貸してもらうのは私達の方だよ。自分の総てを懸けて挑んだ貴女の戦いに、私も力になりたい。力を合わせて、望まない戦いを・・・平穏を取り戻そうよ」

 

それが答えであると言うように、サーヴァント達も力強く頷く。戦う事を望むこと無く、されど誰よりも死線を潜り抜け、自分達が辿り着くまでこの場所を護り抜いた『強き姫』に、助力を誓う

 

「もう大丈夫、私達が来た!だから終わらせよう、ヒュドラを倒して!特異点を私達が直すその瞬間まで・・・あなたたちの国の在り方を取り戻そう!」

 

「・・・はい。私も最善と全力を尽くします。どうか、皆様・・・私達に、この竜宮城に。かの大蛇を祓う力を・・・!」

 

その顔に、その瞳に希望が宿る。孤独と孤高を貫かざるを得なかった竜宮城の主と共に、彼女らは最悪の毒蛇、ヒュドラに挑む。巨英雄への活路を手にするために。そして・・・

 

「行こう!竜宮城を救いに!」

 

海底にて出逢った、気高き統治者の国。その本来の姿を、取り戻すために──

 




応接の間

ダ・ヴィンチ『キャスタークラスで幸いしたね。そして君自身の能力の相性も良かった。竜宮城という概念、そして魔力を束ね増幅する玉手箱・・・民達は、君を信じた人々や魚達は生きているよ。・・・しかし、魔力を貰うとは言ったが、これだけの魔力なんて些細なものだ。君は自らの霊基を削りに削っていたんだろう?』

「そうしなければ、対抗することも叶いませんでしたから。ですが、それももう終わりです。ようやく・・・竜宮城は竜宮城としての姿を、取り戻すことが出来る。その為の・・・戦いが出来るのです」

『・・・日本のサーヴァントは、精神性に強烈なものを持っていることを痛感させられるよ。私達が現れるかどうかはわかっていたのかい?』

「確証はありませんでした。ですが・・・悪であれ善であれ、此処に来る者は現れると信じ、それまでは死ねぬと戦っていたのです」

『・・・ようやく貴女も休める日が来た。さぁ、やってしまおう!準備はいいかい皆!』

アマテラス『ワフ!ワン!』

乙姫『!』

『ワン!』

『貴女は・・・、・・・?貴女は、まさか・・・』



リッカ「うん!任せて!」

『リッカ君。ヒュドラは御存じの通り猛烈な毒を持っている。竜宮城と乙姫の効果でそもそも触れられないようにはなっているが、万が一という事もある。毒に浸されたら終わりだ。慎重に、万全を期して戦ってくれ!』

「解った!行くよ皆!」

マシュ「スパルタ、展開・・・!私が全力でフォローします!皆さん、全力で参りましょう!」

デオン「あぁ。崇高なる志に、報いよう!」

シャルル「カッコいい理想に力がいるってんなら、俺達が力になってやるぜ!来やがれヒュドラ!」

コロンブス「都があるなら、宴の一つでも披露してもらわなくちゃね!」

乙姫『来ます。──あなた方は、私が・・・竜宮城のすべてが護り抜きます。ですが、毒を身体に入ることを阻むことしか出来ません。あなたたちに──すべてがかかっています』

『来るぞ!戦闘準備!!』


【シャアァアァアァアァア!!!!!】

アストルフォ「やっつけて!乙姫さんを休ませてあげようよ!」

コンラ「ギリシャの魔獣・・・!いざ、尋常に!!」

リッカ【よぉし!!堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍ぶのは此処で終わらせる──!!】

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