人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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マルタ「あんのっジジィ!!ヤキ入れなきゃわかんないようね!!」

モーセ「はいはいまぁまぁどうどう。信仰の形は自由だし?」

ゲオルギウス「最早無断レイシフトも辞さない勢いです。断固抗議しましょう」

ジャンヌ「聖母マリアになんてことを!これは酷いですね!早速抗議します!麻婆で!」

天草「ははは、なんですかその抗議」



乙姫「皆様、どうか・・・無事で・・・」

ペンテシレイア「ふん、杞憂だ。我が姉が負ける筈が無かろう」

ダユー「フフ、どちらが勝とうとも・・・私は構わないけど?」

武則天「妾の国をこっぴどく否定したのじゃ!奮戦及ばず等赦さぬぞ!確り帰ってこぬか!ばーか!ばーか!!」



錨を下ろせ、此処が目指した新天地

『此より語られしは、あらゆる困難にも、あらゆる苦難にも。けして折れず、挫けずに戦い、立ち向かいし勇者達。──それらが織り成す・・・』

 

シェヘラザードが、特異点総てに響き渡る声音、魔力の共鳴にて物語を紡ぎ上げ、歌い上げる。この地にて、コロンブスではなく、新たに覇者と勝者を導くための。シェヘラザードのみに行える戦いを繰り広げる。その言葉と想いを言葉に込め、全身全霊で立ち向かうカルデアの仲間達の奮闘を祈り、願いを届けんと。滑らかに艶やかに、その全てを以て紡ぎ上げるのだ。この場にて、未だ定まらぬ未来の物語を

 

「テメェ、このアバズレがァ!殺してやらねぇで生かしてやったら飼い主に反逆するとはどういう了見してやがる!!」

 

激昂するなか、コロンブスの纏う輝きが弱体化していく事が衆知に晒される。同時に、浅ましく輝いていたコンキスタドール像も弱々しく光が淡くなっていく

 

「──コイツは、まさか!シェヘラザードの語りが俺の勝利を歪めてやがるってのか!チクショウめ、ふざけやがってェ!!」

 

躊躇い無く銃を突き付けシェヘラザードへと発砲するコロンブス。自ら突破口を示しておきながら浅ましいことこの上ない稚拙な抵抗を苛立ちと共に叩きつける

 

「この恩知らずのクソ女がァ!!」

 

「──ハッ、バカなのはお前の方だ!解らないのか、あの人の価値が!」

 

その反撃を、少年が防ぐ。老獪にして外道なる自分自身を、その身を呈して阻む。シェヘラザードの手により産み出され、聖杯にて導かれた少年コロンブス。二人の同一人物が、サーベルにて鍔ぜり合う

 

「船の上での娯楽は殆どない。だからこそ、沢山の物語を知り、聞かせてくれる語り手は何よりも貴重や人材だろう!」

 

「ハッ!んなモンで辿り着けるなら苦労はしねぇ!わかってねぇのはテメェだぜ、コロンブス君よぉ!」

 

ゴリゴリと力で押し込まれ、そして制圧を間近とされる少年コロンブス。更なる弾劾と、徹底的な罵倒を叩きつける

 

「テメェが信じてるモンなんざ、ネズミのクソにもならねぇモンだぜェ!夢を叶えたなら儲けねぇでどうする!誰よりも金を掴まねぇでどうする!だからこそむかっ腹が立つぜ!儲けようとしねぇ俺なんぞ、俺モドキ以外の何者でもねぇ!」

 

再び心を折りにかかる老人の目を、真っ直ぐにコロンブスは睨み返す。そこにもう、迷いは見られない。見付けたからだ、自分の目指す場所を

 

 

「お前が僕を許せないように、僕はお前を許さない!新天地への夢と希望を、金勘定と奴隷だなんていう悪辣さで汚したお前を!だから──お前は此処で倒すんだ!僕が!此処で!」

 

互いに夢をゆずらぬ者。夢から目を背けたと語り、夢を汚したと叫ぶ。互いの激突は、まさに互いを乗り越える航海そのものだ。だからこそ、それを乗り越えた者が辿り着く。互いの背中に互いの目指す地平は見えているのだ。ありとあらゆるその全てをぶつけ、老人と少年が快音の剣戟を響き渡らせる。そのぶつかり合いは──即座に均衡が崩れた

 

「チィ、どうなってやがる!コロンブスは俺だ、夢に向かう頑張り屋さんだ!なんだってこんなガキどもに──!」

 

徐々に、しかし確かに。老人のコロンブスが押し返されていく。着々と、しかし確実に一歩一歩。前進が信条のコロンブスを引き下がらせていく。その頼りない小さな身体から、不屈の意志をみなぎらせし少年が気迫の咆哮を上げサーベルと全身を駆使して、自分自身を押し込んでいくのだ

 

「僕は確かにガキで、お前の影でしかない!だけど──!」

 

そう。だからこそ。未完成だからこそ、未熟だからこそ。自分の結末は自分で決められる。何を為すか何を為し遂げ何処で終わるか。リリィたるサーヴァントが持つ、現在を変えていく可能性。少年はその力を奮っている。同時に──彼は本当の意味で、前しか見ていないのだ。諦めずに前へ。諦めずに進み、皆が辿り着ける新天地へ。その特攻にも似た、乾坤一擲の純粋さが、打算と欲望に曇ったコロンブスを圧倒しているのだ。そして──

 

『彼は今一度立ち上がりました。暴虐にして残酷なる未来に、王の叱責を受けて。彼は夢と希望を信じ、挑むのです。恐ろしき嵐と、高き山。そして、自分自身を乗り越えるために』

 

その懸命な語りが、言葉が、コロンブス少年に力を与える。より前へ、より先へ。一人ではなく、全員で。歪み、狂った老コロンブスに対抗する力として。勇気を振り絞り、死の恐怖を呑み込みながら

 

「止めねぇか!俺の街!俺の市場!俺の特異点!俺の夢を邪魔するんじゃねぇ──!!」

 

間も無く先に見えている筈の新天地を何度ともなく阻まれ、邪魔され、そして──他ならぬ自分自身が。夢にも地位にも名声にも興味を示さない自分の形をした何かの存在。怒りと焦りが、コロンブスの人格をより一層醜悪にしている

 

「──かつてのように!お前は誰にも看取られずひっそりと倒れるんだ!その欲望と先見の明の無さ!どうしようもない欲の皮と弁えなさで!全てを失って!」

 

「ガキがッ!知ったような口を訊いてんじゃねぇ!」

 

瞬間、深々と肩にサーベルが突き刺さる。少年の身体を確かに捉え、尋常でない執念と気迫を見せ付ける

 

「ぐっ──!!」

 

「誰にも邪魔はさせねぇ!俺の新天地はすぐ其処だ、此処が俺の新天地だ・・・!諦めねぇ、俺は諦めねぇぞ・・・俺はよぉ・・・!!」

 

聖杯の影響力、そしてシェヘラザードの物語の編纂が効いてきたのか、みるみるうちに魔力が萎んでいく老人コロンブス。その妄念、執念にて突き刺された少年は、しかして──ニヤリと微笑む

 

「諦めなくていいよ。──僕も同じ気持ちだからさっ!」

 

深々と、自らの脚でコロンブスの脚を踏みつけサーベルを突き刺す。完全に動きを止め、そして同時に──

 

「このッ、ガキがァッ──!!ぐはぁっ!!」

 

四発、五発、六発。全力にて渾身の拳銃の射撃が次々とコロンブスを貫いていく。自分自身の癖を知り尽くした少年。奴隷に対する失敗──イザベラ一世に『叩けば泣く玩具』として奴隷を送りつけた時と同じようなミスだ。『自らの価値観に溺れ周りが見えない』という、視野狭窄を突いた、二の句を告げぬ連撃を浴びせかける

 

「お前は、僕は!此処で倒されるんだ!クリストファー・コロンブス!」

 

 

「チクショウめ、まだだ!俺には聖杯が、俺の夢の象徴が──!」

 

その全てを否定すると。その全てを打ち砕くと。シェヘラザードの言葉を聞き、そして奮起せしコロンブスがサーベルを掴み、告げる。コロンブスの宝具にして、夢の象徴。ただそれのみを求め、いつか下ろすのだと想いを馳せていた象徴を、今開帳する

 

「夢が溢れる国で僕はこの錨を下ろす!未知が溢れるこの島でこの錨を下ろす!──かけがえのない仲間達の未来を切り拓く為に、僕はこの錨を下ろす!僕の望んだ新天地は、すぐ其処だ!」

 

鎖が、錨が、無数に伸びていく。コロンブスはもちろん、醜悪に暴れ回りしコンキスタドール像にすらも、巨大な鎖が巻き付き、そして錨が天空を駆け抜けていく。老コロンブスの鎖と錨を引きちぎり、真なる結末へ、新天地へと辿り着くのだと振りかざされる少年コロンブスの宝具──

 

 

「『新天地探索航(サンタマリア・ドロップアンカー)』!!!」

 

がんじがらめに縛られ、最早身動きすらとれぬコンキスタドール像、そしてコロンブス。宝具を、シェヘラザードやリッカのバックアップを受けての完全解放。──コロンブスが勝者だと言うのなら。それは、戦う意志を奮い起たせたこの少年にも同じように働くものだ。何故なら彼は、紛れもない──

 

「僕はコロンブス!クリストファー・コロンブスだ!──皆!ヨーソロー!!全速前進だ!!」

 

完全に動きを封じられたコロンブス、コンキスタドール。最早その風景に、その戦況に添えられる言葉は決められている

 

『──悪逆にして、欲望に目を眩ませし奴隷の王、クリストファー・コロンブス。その暴虐と功績が、潰える時がやって来たのです』

 

「こ、の──値段も付かねぇクソアバズレがァ!!非常食のネズミ以下の価値だぞテメェェエ!!」

 

他ならぬ自分の自信の拠り所を自分にやり返される。完全勝利を、自分自身に、大して価値を見出だしていなかった存在に台無しにされる。その彼にとっての不条理に、縛られたコロンブスは最早絶叫しか出来ぬ程にヤキが回る。そして──その時が訪れる

 

【語るに落ちたね。ならそんな私達にやられるアンタはそれ以下の価値ってことだよ】

 

渾身の力でスピンダブルアームソルトに固め、回転に回転を重ねるリッカ。──最早先程の宝具で決着はついた。だからこれは、その決着のゴング代わりだ

 

「クソ、クソ、チクショウめ!すまねぇ神よ・・・アンタから貰った幸運ってヤツを、俺は無駄遣いしちまった──!」

 

回転にて身体が鎖ごと浮き上がるコロンブス。露出しているのは『首』のみとなっている。──少年がマスターに示し合わせた、必殺の手順

 

【地獄の九所封じ、ラストワン+改】

 

「だが、俺は諦めねぇ、諦めねぇぞ・・・!『縁は結ばれた』!『そっち』に行った俺はもっと上手くやる!必ず、必ずだ──!」

 

左足に右足を叩き付け、そして右肘を叩き付ける。ゲーティアに食らわせた、必殺にして最強の奥義のフィニッシュ。不可解な言葉を告げるコロンブスに耳を貸さず、カルデアの皆を侮辱した者への断罪を完遂させる

 

「楽しみだ、あぁ、楽しみじゃねぇか──!ハ、ハハ、ハッハッハ!ファッハッ──」

 

【──憐憫の断頭台(ゲーティア・ギロチンライブズ)ーーーーーッッッッ!!!!!】

 

怒りと鬱憤を爆発させ、その感情のままに必殺の奥義をコロンブスに叩き込む。霊基を余さず砕き壊すだけの強さと迫力、全身全霊のリッカの最大奥義。征服者たるコロンブスの言葉と笑い声は、此処に途絶える

 

『──少年は、黒く優しき龍と心を通わせ、その背に導かれ共に新天地を目指したのです。龍は数多もの輝く財宝を守護しておりました。龍は心優しき者ではありましたが、同時に何よりも財宝を愛し、大切にし守護を誓っていました。だからこそ、その逆鱗に触れたものには容赦はない。──少年と龍は力を合わせ、悪辣にして外道である欲深き王を遂に撃退したのです。──そして、その陥落と共に、その破滅と共に、後を追うものがもう一つ』

 

シェヘラザードの語りと同じ瞬間に、コンキスタドールも鎖に縛られたままに断末魔の叫びを上げ苦しみ出す。自らの支配者であるコロンブスが戦闘不能となったことで、聖杯とサンタマリア号の集合体であるコンキスタドールにエラーが発生したのだ。今が好機である──一同は今こそ、勝負に出る

 

 

『──快活ながら、誰よりも英雄の在り方を信じるもの。理性ではなく心で誰かを助けし、天真爛漫な騎手』

 

「ヒポグリフ!脚に!行くよ!『触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)』!」

 

馬上槍を構え、コンキスタドールの脚を力と速さにより切り裂く。その宝具の効果──脚を強制的に霊体化させ、立つことが叶わなくなるようにするトラップ宝具。単純なれど効果は絶大であり、巨体を誇るコンキスタドールが大きくよろけ倒れ込む

 

『白百合の騎士。誰よりも冷静で、誰よりも誇りを重んじた、見目麗しきフランスの誉れ』

 

 

「二人とも、準備はいいか。──行くぞッ!」

 

デオンが渾身の力、筋力Aによる強力により、二人を力の限りに投げ付ける。それぞれ胸部に、そして頭部の間近に。聖杯に、そしてサンタマリア号の正面に

 

 

『その身に祝福を宿せし幼き勇士。誰よりも無邪気にて、誰よりも真っ直ぐに戦う、我等が旅路に参じたケルトの輝く宝が、輝くのです』

 

 

「全ルーン、展開。身に宿りし祝福に報いる極光の槍、御父様に、お祖父様に。──星見の天文台に、精霊達に捧げ奉る!」

 

光輝くコンラ。手にせしは五つに分かたれし祖父の槍。託されし光輝なる祝福と本領。ランサーたるコンラの絶技にて本領──

 

 

『幻想に生き、そして誰よりも誰かを助けるために奔走した生きざまを貫いた春風がごとき騎士。その世を巡る輝きは、今此処に集う』

 

「星見に寄り添う千変万化の煌めきよ、星の瞬きが集いし我等が楽園よ。今こそその誇りを担い、幻想ならざる王勇を誓う!!」

 

輝きを放ち様々な色へと変わり行く幻想の聖剣、ジュワユーズ。輝きと、ただの一度だけだった筈の必殺の一撃。──再び楔は穿たれ、今こそ邪悪なる征服者へと誅罰が下される

 

「その聖杯、貰い受けるッ!『星照らす極光の槍(ルアヴァータ・ブリューナク)』!!」

 

光速の概念となりしコンラが、蒼空を駆け抜ける金色の光束に変化し撃ち放たれる。コンキスタドールの額に叩き込まれ、その中核に在りし聖杯を──

 

「──獲った!」

 

その手に掴む。聖杯を手にし、勝者を、特異点を是正する手段をその手に掴む。同時に──

 

 

「受けてみやがれ!!『王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣(ジュワユーズ・オルドル!)』!!」

 

豪華絢爛にして数多無数、千変万化がごとき輝きが光線となりてコンキスタドールの中核たる船を叩き砕く。幻想にて、数多の魔を祓った十二勇士の力を合わせた至高の一撃が、その像への止めとなる

 

『──────!!!!!!』

 

二つの核を穿たれ、貫かれ、抜き取られ。おぞましき叫び声をあげながら崩壊を起こしていく。天の宮殿へと倒れ込み、全てを無に帰そうとしたのは最後の抵抗か。それを──

 

「させません!『来たれ、聖なる杯(サモン・ホーリーグレイル)雪華の鎧よ、身を纏え(オルテナウス・プットオン)』!!」

 

最後の力を以て、マシュが質実剛健かつ流麗な鎧に身を包み、その全ての防御機能を展開し天の宮殿を守護し、死骸を跳ね返し押し戻していく

 

「先輩は、皆さんは──やらせません!」

 

威風堂々にてマシュが最後の悪足掻きを押し返し、跳ね返し、100メートルの像を、その守護にて跳ね返す

 

「フェイズ2──『今は遥か、理想の城』・・・!」

 

再現される、白亜の城。その防御と防衛は、正しく形を成し──

 

『──心優しき白亜の少女にて、天の宮殿は護り、たもたれました。──巣食っていたものは滅び去りました。何も手にすることなく、何も掴むことなく』

 

シェヘラザードもまた、その言葉を締め括る。消滅が始まりし老コロンブスを見詰めながら、そっと目を閉じ──

 




『──おしまい』


コロンブス「いや、いいや・・・!終わってねぇ、終わってねぇぜ・・・俺がドジを踏もうが、必ず俺が上手くやる!」

【──・・・】

「だからよぉ、──また会おうぜ!縁を結んだからな、今度は、カルデアでよ──肩を組んで航海しようやぁ・・・!ハハッ、ファッハッハッハッハァ──!!」

少年コロンブス「いいや、コロンブス。あなたは・・・僕らは絶対にカルデアには行けない」

「──あ?」

「あぁ、そうだ。だって──カルデアは希望と輝き、完全無欠の結末って言う御宝を求める船だ。そんな船に──『征服者(コロンブス)』の席なんて無いんだよ」

「──」

「言った筈だ。此処が僕の、俺の新天地だと。──此処で、僕達は終わりなのさ、クリストファー・コロンブス」

「──なんだそりゃあ。認めねぇ、認めねぇぞ。俺は、俺は必ず──」

その先は言えなかった。コロンブスの額を、少年が撃ち抜いたからだ

「──さようなら。いずれ至る僕よ。僕はコロンブスでも、お前とは違う結末を選ぶ。──僕は、此処で錨を下ろすんだ」

「──」

「・・・おしまい、じゃないよ。シェヘラザード。その時はこう言うのさ」

全てが終わった。コロンブスは輝くような笑みを見せ──

「『めでたし、めでたし』ってさ!」

──その物語を、締め括る。少年の冒険の、一区切りとして──

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