ギル「可愛い子には旅をさせよと言うではないか。我が楽園を代表するマスターなのだ、研鑽の場は多ければ多いほどよい。なに案ずるな。アレを討ち取りたくばエアとアマテラスめを持ってこいと言うのだ。世の理や法則ではアレは屈する事は無かろうよ」
「スパルタ!リッカ先輩だけ戦慄するほどスパルタなんじゃが!サルにも丸腰で武田落として来いとか言ったことないぞわし!有能すぎるのも考えものだね!まぁそれならともかく!わし、リッカ先輩のパーソナルサーヴァントとして立候補を」
沖田さん「なーにがパーソナルサーヴァントですか!一番近くにいながらみすみすマスターを死地に追いやってる失態はどう償うつもりなんですか!沖田さんがせっかく特上八つ橋でリッカさんの胃袋を掴んで大勝利ー!する筈でしたのにぃ!はーつっかえ!ノッブ本当つっかえー!」
ノッブ「なんじゃと沖田ァ!やけに素直じゃなと感心していたら結局それか!あざといな流石斬りサー姫あざとい!つっかえとかよくぞほざいた!表出よ!本能寺ファイヤーして焼き殺した後遺影に落書きしまくっちゃる!リッカ先輩には伝えておくから安心せい!おかしい人を無くしたとなァ!」
沖田「はい渡ったー!今三途の川渡りましたからね吐いた唾は飲み込めませんからね!マスターを助けに行く前に決着つけてやりますともノブノブぅ!」
「その呼び名はやめてなんか凄く糞臭い!」
ギル「やかましい奴等よな・・・焦る理由など無いが故の泰然自若よ。たかだかイレギュラー転移程度なんだと言うのだ。──ロマン!」
ロマン「大丈夫、もう既に現地にサーヴァントを送ったよ。機材とサークルも確保しておいたから、合流次第通信が開くと思うな」
「ダ・ヴィンチ!」
「お任せー♪歴史と特異点の解析と座標を割り出してるよ。あと一分くらい時間をくれたまえ!」
「シバ!」
シバ「見えます見えます・・・これは極東、首都の町並み・・・だーいぶ古いですねぇ。あ、あとサーヴァント未満な魂と、溜め込まれた魔力が見えますねぇー。あ、ネタバレ厳禁です?」
「オルガマリー!」
「総員レイシフト証明配備!リッカのバイタル、単独顕現の際の反応にて照らし出すのよ、すぐに掴めるはず!」
「「「「了解!!」」」」
ムニエル「待ってろよリッカ、お前のチョコが欲しい男の意地を見せてやるぜ!」
「アイリスフィール!マストリア!」
アイリスフィール「待機完了よ。決戦の際にはレイシフトにて増援となるわ!」
「契約サーヴァントがいないので待機です。・・・円卓辺り来ませんでしょうか」
「マシュ!」
「はい!令呪の使用の際には即座に応えます!」
──転移、聖杯回収のアンロック。攻撃宝具の選別完了。万一の際には出陣の準備も万全です!
(単独顕現するなら任せてくれ!ナビになってみせるよ!)
沖田&ノッブ「「ここの設備ガチすぎなんです&じゃが!?」」
『こちらおぼろ丸。現場に到着。散策偵察の後、合流する』
「丸!貴様抜け駆けかナイスぅ!先輩の安否を頼んだぞ!わしのマスターちょっとやんちゃじゃから!」
「ちょっと!?」
土方「──よし、行くか」
「土方さん!?行くって!?」
「決まってんだろ。迎えにだ」
ギル「許す。適当に暴れてくるがよい。さて──放浪癖を患う龍めを迎えてやるとするか!」
「「「「ノーッブ!」」」」
明快にして軽快な声を上げながら、逃げ惑う民達を片端から撃ち殺していくちびノブ。火縄銃、悲鳴、喧騒、銃声、怒号。混迷と混乱の最中、そして坩堝に叩き込まれし都市、そのまっただ中に放り込まれたリッカもまた、その戦乱の洗練を受け手荒い歓迎に晒される
即座に囲い込まれ、火縄銃を突き付けられ降伏の是非もなく一斉射撃を叩き込まれる。その有り様は一般人を一方的に破壊し破滅させる蹂躙の射撃。珍妙な見た目こそしているものの、その神秘を込めた凶弾は人には脅威にすぎる。人は、無力な者は逃げ惑う事しか出来ず。また嘆く事しか出来ない。覇への礎とばかりに皆殺しにされる民達と同じように、訳も解らず巻き込まれた一般人たるマスターなら、此処で運命は潰える筈であった。丸腰でサーヴァントもいないマスターなど、ただの的すら下回る肉袋でしか無いが故に
「「「「「──ノブッ?」」」」」
だが、この物語におけるマスターは・・・とりわけこのマスターは話題と前提が異なる。此処に在りしマスターは決してただの一般人に非ず。数多無数の可能性の中でも無二であろう稀有な存在。──憐憫の獣の忘れ形見にして、人類の未来を守護する龍と為りし者
【──またワンマンアーミー案件かぁ・・・下総以来でもあるけどすっかり慣れちゃった自分が怖い!】
少女の姿は泥に纏われる。強固な鎧が鱗となり、黒き翼を開き、顎と眼光は輝く兜となり、その様相を・・・少女を、人類史の澱みにして燦然と輝く人類の希望へと変身させる
「「「ノ──」」」
紫電の白刃が閃き、火縄銃が叩き斬られる。ノブ達の眉間に月夜の弓矢が放たれ無音にて屍と為す。放たれた弾丸は魔力に還元され、夜闇の月光が黒き人龍を浮かび上がらせる。この混迷なる環境にも翳ること無き、黒曜の漆黒。そして白夜が如し、白き四肢なる龍の少女が顕現する
【とりあえずやるべき事、やらなきゃいけないことは大体解った!カルデアから連絡付くまで私は私がやりたいことをやらせてもらう──!】
人類悪、見参。藤丸龍華が成すべき事をその眼で捉え、その胸に火を灯し。カルデアのマスターとして、彼女は成すべき事を成すのだ
【此処は私が!逃げて、皆!振り返らないで!】
即座に逃げ惑う民達を背にし、ちびノブ達より庇い立てる。サーヴァントを呼ぶ準備を試みつつ、目の前にいる暴虐の魔の手より無力な民達を身体を張って護ることを選択したのだ。命を護ること。それが、未来を守護する第一歩であるが故に
「な、なんだあんた!?」
「ば、化け物だぁ!逃げろ、逃げろー!!」
リッカのその姿勢に、喝采や称賛はない。民達に取っては等しく脅威と暴虐の化身でしかないその姿。鳴り物入りで現れた人形の龍に畏怖し、戦き背を向けて逃げ惑う。無数に放たれるちびノブ達を前にするリッカに、そもそんな称賛や評価を気にする気概は微塵も無いのだが
【数が多い!もー、いてほしい時にいないなぁなすび!スパンキング決定!無茶ぶりにも応えるのが後輩でしょー!】
ちびノブの射撃は、ヘラクレスより借り受けたマントが変異した翼にて片っ端から叩き落としていき、流れ弾すらも届かせはしない。月の加護を最大限に発揮し、近距離に来ようとしないちびノブに片っ端から反撃からの射撃で撃退していくリッカ。マシュという最も頼りにしている守りがあるならば楽なのにといった軽口は、自分を鼓舞する方便だ。守護と反撃にて一般市民達を守護する戦線をたった一人で維持していく
【埒が開かない!なら抉じ開けるまで!】
弓矢を即座に上に展開し、月の輝きを滝のように、星の涙のように収縮させ引き絞る。夜であり月が出ている時の月女神の弓矢は、リッカが所有する武具の中でも最優のスペックにパフォーマンスを発揮する最も頼みとする絆の証であるのだ
【虐殺なんて、私の目の黒い内は赦さない!──蹴散らす!吹っ飛べぇ!!】
引き絞られた月の光が、莫大なる魔力の彗星となりて大地と大気を抉りながら飛翔し、ちびノブ達を白き輝きの中へと呑み込む。龍より放たれし月の祝福が民達を護るために奮われ、その力を正しき加護として現す。一個小隊ほどに展開していたちびノブ達は、放射された月の弓矢に呑み込まれもろともに戦線崩壊と相成った。全ての民達が離脱した事を確認し、リッカはほっと息を吐く
【──ちびノブというか、ゆるキャラやマスコットキャラがシリアスに人を害してる光景っておっかないなぁ・・・正気度が削れる類いの怖さだよね】
しかし、何故という疑問が頭を過る。未曾有の危機が来たならば解る。エイリアンやインベーダーが攻めてきたならクリーチャーが出てくるのも道理だ。何故、よりにもよってぐだぐだな象徴のちびノブが、殺戮に手を染めていたのだろうか?ミスマッチの極みに頭を捻っていたリッカに──即座に答えが示される
「──尖兵が蹴散らされているなどといった報告に、是非もないと顔を出して見れば。なんじゃ貴様は。人間か?怪物か?」
──声と、銃声は同じタイミングにて響いた。間一髪にて
【リッカ、後ろですよ】
・・・否。リッカの身体に眠る【龍吼】と、魂に眠る母の分け身が放たれし凶弾を弾き落とし身を護る
「──妙な気配よ。サーヴァントなのか人間なのかすら解らぬ。解るのは・・・」
【──!】
その顔、風貌は・・・見間違えでも勘違いでもなく、正しく認識するに困難はない。先程まで、仲良くぐだぐだにて語り合っていた天下の風雲児。カルデアにて最も気さくな、共に笑って過ごしていた筈の──
【・・・ノッブ・・・!?】
織田信長・・・その筈である。南蛮の装束に帽子、美しい長髪に、覇気みなぎる眼差し。見間違える筈がない。・・・カルデアでは片鱗すら見せぬ、絶対零度の殺意を除いて、それは間違いなく織田信長であり見間違う要素は何処にも無かった
「人語を介すか。どうやら知性と理性は所持してはいるようじゃな。まぁ・・・今やどうでもよい事であるが──そして、心して聞くがよい」
リッカに対するその声音は、何処までも冷淡、次いで冷酷。カルデアにてかけられる親愛と友好に満ちた信長と同じ存在であるとすら認識できる事に時間がかかった。信長は告げた。この場にて現れた──『敵対者』に、端的に明快に
「気安いぞ。下朗。わしを、誰と心得るか」
無数に召喚される火縄銃。放たれる殺気。一秒後に迫る明確な死の運命。即座にリッカは動き、生存への道筋を手繰り寄せたのだ
「──ほう」
火縄銃より放たれし無数雑多の一斉射撃。本来なら逃げ場の無い極大の弾幕に、リッカは月女神の弓矢による生存の迎撃にて対応した。月が在るならば必中の概念を賜る月女神の弓矢を最大限に活用し、『飛来した弾幕を、弓矢にて叩き落とす』という神業をやってのけたのだ。然もありなん、可能とせしめたのは一重にアルテミスが比類無き弓矢の技術を司る狩猟の女神ゆえの幸運だったが故に。リッカの立つ場所を除いた全てが、蜂の巣となり果て破壊し尽くされる
【──カルデアのノッブがこんなシリアスな訳はなし。・・・多分私、また何処かの聖杯戦争に巻き込まれたっぽいね・・・!】
油断なく刀を構え、迎撃の態勢を見せ、曲芸紛いの神業で弾幕を退けた目の前の鎧に、信長らしき少女は片眉を上げ鼻を鳴らす
「やるではないか。南蛮の曲芸師かキャスターあたりの手駒か。・・・どちらにせよ面白い。気に入ったぞ、貴様」
そしてその声に応えるように、更なる火縄銃が一斉に展開され無慈悲に向けられる。数十もの銃口が追加され、リッカの鎧を撃ち貫かんと撃鉄を下ろさんとしているのだ
「しゃれこうべを盃としてやろう。その鎧は召し上げてくれる。──中身は要らぬ。死ぬが良い」
【──・・・!!】
更なる無数の銃撃が来る。覚悟を決めたリッカは踏ん張り、刀と弓矢を同時に構え更なる怒濤の弾幕を受けて立たんと息を吐く。会話が成立する手合いではないならば、まずは生き延びるしかない。刹那の死線を乗り越える為に睨み合うリッカ。──そして、その運命の火花が降りる瞬間──
「・・・む?」
【ふぁっ!?】
突如、リッカの身体が抱き上げられ浚われる。疾風のように躍り出た何者かが、リッカを抱き上げ信長の前より浚い出したのだ。戦線からの離脱、撤退。それらを主眼とした戦術行動。訳も解らずに成すがままのリッカは連れ去られ、信長は静かにその状況を見定める
「・・・サーヴァント、マスター・・・そうか。アレはマスターであったか。・・・些か妖怪、怪物めいておったが。随分と変わり種と見える。そして、あのセイバー・・・」
セイバー。身の丈を大きく上回る大刀を持つ、褐色に白髪のサーヴァント。あの装いであるならばセイバーで相違無いのだが・・・信長は其処に違和感を覚えた
「なんじゃあれは。身体捌き、戦況の把握・・・まるで赤子のそれよ。不甲斐なきサーヴァントを庇うためにあれほどマスターがおぞましく変化するという仕組みか?」
実力の把握もままならず死地に割って入る迂闊さ。形振り構わずマスターを浚う強引さ。サーヴァントとしては話しにならぬ魔力。全てが足りぬ、セイバーとは信じられぬ謎の存在に首をかしげ・・・
「──まぁ良い。次に見たならばもろともに殺すのみよ。我が兵を削られた対価は必ずや贖わせる。努覚えておくがよい」
些事にかかずらう場合ではない。この場にて行われている戦争と混乱に覇を示し、自らの国を平定しなければならぬ。その覇道を遵守するが故に、信長は即座に兵らを引き上げさせる
「戦況を把握する。信勝に伝えよ。補充と侵略を行えとな。是非もなし。喪ったならば奪うまで。─第六天魔王波旬、織田信長の覇道を邪魔立てするものは皆殺しよ。例え何者であろうとな」
静かに、厳かに告げる冷酷なりし魔王の開戦の言霊が静かに闇夜に溶け行く。──この混迷に満ちた日の本に、真なる覇を示さんが為に
「──名も顔も知らぬが、是非もなし。次は逃がさぬぞ、黒南蛮」
静かに、リッカへの裁定を魔王は下す。次に見えたならば、必ずや殺すと。無感動に信長は空へと令を放つのだった──
「・・・・・・」
【飛んだねー!ありがと!助かったよー!貴女は・・・】
「・・・──、──」
【・・・喋れないの?】
「──・・・」
【あ、本当に喋れないんだ!・・・その見た目、おっきな刀、それに・・・沖田さん褐色モードみたいな見た目・・・】
「・・・──」
(えーと、リッカマニュアル的に、コミュニケーションの意思があるけど諸事情で出来ないような子には・・・)
【じゃあ、はいかいいえ、首を縦か横に振ってね!いい?】
「!──(こく)」
【よし!じゃあ・・・私は藤丸リッカ!ちょっと訳ありでフラフラしてるマスター!──じゃあ行くよ!】
「・・・」
【──貴女は、私のサーヴァント?】
「──!・・・・・・、・・・う」
【う?】
「・・・そう、だ。私は・・・おまえの、サーヴァント、だ。・・・言葉か。よし・・・おぼえた、ぞ」
【学習!?今!?頭いい・・・!】
「私は、お前に、あいたかったような。そんな、気がする」
【嬉しいこと言うね!ありがと、えっと・・・マジンさん!】
「・・・?マジン?」
【あ、なんか貴女ね、とある二人が合体した姿に似てるの!魔神セイバーって言うんだけど・・・名無しより、マジンさんの方がカッコいいと思わない!?ね!凄くおっきい剣も持ってるし!】
「・・・マジン、マジン・・・さん。・・・うん。カッコいい。きにいった。私は、マジンさんでいい」
【やたー!助けてくれてありがと!じゃ、これからよろしくね!】
「・・・うん。任せてくれ。がんばって、マスターを護るぞ」
おぼろ丸「言うは易し、行うは難し。まずは絆を紡ぐ処から始めるといい」
「!」
【あ、丸くん!来てたんだ!】
「何故か拙者が最も迅速に来れたが故。──そしてその理屈には、答えを出している。主君、新たなる協力者だ」
【え、協力者?】
「・・・」
?「おーい、モヤシ丸。そいつか、カルデアのマスターっていうお竜さんのマブダチは」
「いやいや、あくまで通り名で本当に龍なわけでは無いんじゃない?案内、ありがとうね。おぼろ丸くん」
「任務であり戦力拡張故。主君、宿屋と協力者、そして新たなる絆を此処に招いた」
【──有能・・・!】
「忍が顔を出す時には、任務を完遂した時のみ姿を見せるものだ。──では」
「あぁ、ようこそ。日本首都、東京へ。歓迎するよ、カルデアのマスターさん。こっちは・・・」
「お前が洋風とかげか。お竜さんはお竜さんだ。よろしくな。カエル食べるか?」
「はいはい、後でね。・・・いいかい?」
「構わぬ」
「──じゃあ遠慮なく。僕は、坂本龍馬。この帝都の争いを終わらせるために戦ってる、変わり者さ。おぼろ丸くんの強い説得に折れてね。君達に力を貸したいと考えているよ」
「・・・サカモト・・・」
「まぁ立ち話もなんだし、僕の探偵事務所に行こうか。彼女がきっと、料理を作って待ってるだろうしね」
おぼろ丸「・・・感嘆すべきなのだろうな。何の因果が此処に来て結実しようとは──」
静かに呟くおぼろ丸。その眼差しは──「こんなに洒落ていただろうか?」という輝きを以て龍馬を見つめていた──
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