人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ギルガメッシュ《ふむ、どうやら聖杯による支援はクラス毎に異なるようだな。陣地による強化、デメリットの削除。有利な環境を作りこれを奪い合う、か。分かりやすくも単純な催しよ。さて、何処から手をつけたものか・・・》

──?ギル!リッカちゃん達のもとへ向かうサーヴァントが!これは・・・アサシンです!

フォウ(お、ポメラニアン人斬りガバガバマンじゃないか。リッカちゃんに真っ先に喧嘩売りに行くとかバカなのかな?)

──この淀みない歩み。王、彼は恐らく他のサーヴァントの位置を把握しています。聖杯のバックアップの効果でしょうか?・・・脅威にも活路にもなれる能力、野放しにしていては勿体無いと進言いたします

《やはり我と同じ閃きか、エア。──あちらから来たのだ。戦闘は避けられまい。そして塵に還すもまた惜しい。なれば此処は──剣の道を図らずも駆け抜けた我等がマスターに、一芝居打ってもらうとしようではないか》



はぐれサーヴァント【・・・!!】

アサシン「おまんのその剣・・・『もう、覚えた』」

【!!】

「わしにかかれば、あらゆる剣は思いのままよ。・・・待っとれよ龍馬、次はおまんじゃ。必ず殺しちゃるきのぅ・・・!!」


おぼろ丸「・・・聖人君子、何にも恨まれぬ事など有りはせず、か・・・」

(さぁ、この確執。貴方はどう活かす?坂本龍馬・・・)


人斬り『始末剣』

「あ、あめんぼ、あかいな。あいうえお」

 

「そうそう。あめんぼあかいな、あいうえお!」

 

探偵事務所にて、聖杯戦争が繰り広げられている舞台とは思えぬ声とほんわかした空間が展開されている。正体不明・・・未知数のサーヴァント、マジンさんが机に向かい、言語の本を参考にしながらリッカと共に言語の勉強を行っている

 

帝都に現れし、マジンさん・・・大刀を構えた謎の存在。気がついたらリッカを助けていたと称する存在。サーヴァントとは本来、召喚された際には現代知識が聖杯より与えられ補整を受けるのだが、マジンさんが言うにはそれらは全く与えられていないばかりか、言語すら起動していなかったという。実力もサーヴァントと呼ぶには余りにも頼り無く、マスターたるリッカの護衛と防戦を全身全霊で行ってやっと、と言った有り様である

 

自分の在り方すら分からない・・・そんな彼女に対し、リッカはまず彼女の存在を確立させることを選択したのだ。与えられなかった言語、知識を。まずは何よりそれを手にしてもらいたいとして、大量の資料を用意しマジンさんへマンツーマン授業を行っているのである

 

「ありがとう、マスター。ようやくりゅうちょーに喋れるようになった。マジンさんは手間のかかるサーヴァントだな」

 

「オルタはみんなそんなものだよー。じゃん・・・あ、私のイチオシサーヴァントもね、最初はマジンさんみたいだったんだよ!」

 

「・・・イチオシ、か。私もリッカのイチオシになれるように努力するぞ。マジンさんは頑張り屋だからな」

 

何をするべきか、自分が何をすべきか分からなくても。自らを支えてくれるものが確かにいる。その事実がマジンさんをマジンさんたらしめているものだと彼女は自負しているのだ。リッカもまた、マジンさんが持つ可能性や素直さを気に入り、早くも大切な妹分として彼女に接しているのだ。二人席に隣り合い、同じ教本を読み、同じラジオを聞いていることからそれが伺い知れると言うものである。龍馬達は調査、茶々は買い出し。おぼろ丸は斥候に偵察と、此処にいるのは二人だけである。少女が二人ではあるが、彼女を知るものからすれば全く危機を感じぬ状況であるのは明白と言うものだ

 

『・・・──臨時ニュースを申し上げます。陸軍第四魔導機関発表、本日未明を以て帝都東京にて聖杯戦争を開始せり』

 

「東京の聖杯戦争はラジオで教えてくれるんだー。親切だねー」

 

『え、それはどうなんだろう?日本の聖杯戦争ってそんなにオリンピックめいているのかな?』

 

『ロマニ、そんなわけないでしょう。きっと何か、戦わせて勝ち抜かせる事を推進しているのよ。・・・それが何を意味するかはまだ分からないけどね』

 

オルガマリーの言う通り、本来なら有り得ない。だからこそ、魔術の秘匿を省みない聖杯戦争・・・つまりこれは、『何者かにて開催された』ものであると彼女は睨んでいるのだ

 

「むぅ。ラクエンのサーヴァントと比べたら私はへっぽこだ。マスター、頼り無いかもしれないが・・・大丈夫だろうか」

 

霊基は安定せず、そして自らが何者かも分からない。命を預けるにはあまりにも不明瞭な存在を側におくリッカに、楽園の方針に彼女は不安を懐く。だが、リッカのマスターとしての特性として・・・『強弱でサーヴァントを計る必要がない』というものがある。自前の戦闘力の為に、サーヴァントという存在に、その人格を最大限尊重することが出来るのだ。故にこそ、まだサーヴァントとして頼りないマジンさんを近くに置くという選択が取れる

 

「これから頼もしくなってくれればいいのいいの!一緒に二人三脚で頑張ろうよ!」

 

「・・・うん。マジンさん、やるぞ」

 

その微笑ましい空間の一時に・・・一つのチャイムが鳴らされる。顔を見合わせ、彼女らは誰かが帰ってきたのか?或いは探偵事務所の客かも?と予測するが・・・

 

『──気を付けて、二人とも。サーヴァント反応だ。この気配遮断ぶりは・・・アサシンだね』

 

ロマンは即座に察知し、襲撃、そして奇襲である事を告げる。工房や陣地が成っているキャスター、それも魔術王の目を誤魔化せる筈もない。リッカはマジンさんに目配せし、用心深く扉をそっと開く

 

『一難去ってまた一難か。よいぞ、催しは間断なくだ。飽きが来ないよう出典を繰り返す。エンターテイメントのなんたるかを心得ているではないか』

 

「!ギル!」

 

其処に、英雄王も顔を出す。その来客に対し迎撃を行わんとする二人に、とある指示を出す

 

『よいかマスター。まずはそのマジンとやらをマスターとして支援せよ。互角、のちに敗退が手頃良い』

 

「え?──負けていいの?」

 

『然り。その後にな──』

 

王の告げた作戦は、ある意味でアサシンの常識を覆すものだ。認識と常識を覆すものであり、確実に困惑と狼狽は間違いないだろう。

 

「解った。任せて!じゃあその後は任せるね!」

 

『うむ、任せるが良い。また一つ、愉悦の駒を増やす機会に恵まれるとは幸先が良いではないか。マジンの。今のうちにサーヴァントとマスターの関係にも慣れておくがよい』

 

「解った。・・・大丈夫か、マスター」

 

「うん!大丈夫!アサシンの奇襲くらいで死ぬほど、やわな人生は送ってないからね」

 

──王の指示を承諾し、頷き合い気を付けて開いた扉の先には、マフラーと着物、黒コートを身に纏いし青年。髪を束ね、尋常でなく鋭い光を目に宿した男。その眼差しが、静かにリッカを見つめている

 

「・・・ごめんください。こちら坂本さんのお宅で?」

 

「探偵事務所です。あぁすみません、でも今留守なんですよ龍馬さん」

 

とりあえず応対する。油断なく笑い、そして出方を伺う。その言葉を聞いた青年は、静かにくっくっと笑みを溢し・・・

 

「──好都合。じゃあ、死ね」

 

白刃が閃き、瞳に狂気が宿る。目にも止まらず振るわれし凶刃。神速に近しいほどの迅速さ。過たずリッカの首に飛来する、幕末を戦慄させし『人斬り』の一閃

 

「やらせないぞ、マスターは」

 

即座にマジンさんが躍り出、リッカの身柄を護る為に剣を抜く。一瞬にて火花が散り、甲高い金属音が響いた後にリッカが飛び退き間合いを計る

 

 

「チッ、今ので終わらせられたら話は早かったんちゅうんに邪魔しよってからに。・・・その大太刀、さてはセイバーか?」

 

「えくすとら・・・なんとかだそうだ。まだまだ成長している最中だぞ」

 

「──そうかい。だがわしはついちゅー。よわっとるサーヴァントを従えたマスターなんぞえぇ鴨じゃ。──首をもらうも手土産にするも、やりやすいっちゅーがや。さぁ・・・覚悟せぇ!!」

 

構え、一直線にマスターを狙い駆け抜け、剣を引き抜くサーヴァント。マジンさんを眼中より外し、マスターのみをただ狙い定める凶なる刃。マスターさえ倒してしまえば、サーヴァントなぞ容易く塵と消える存在でしかない。それを理解しているが故の戦法を取ったのだ。リッカに迫る必殺の刃。幕末を震撼させた希代の人斬りの刃は、しかして大太刀にて阻まれる

 

「やらせないといった」

「あぁん・・・!?邪魔じゃ女ァ!」

 

マジンさんがアサシンとされるサーヴァントへ立ち塞がり、リッカへの攻撃を阻み抜く。体捌きは素人であり、間合いの量り方は拙い。本来ならば勝負になどなり得ない実力差ではあるのだが・・・

 

「リング起動!瞬間強化、全体強化、緊急回避、回復!」

 

マスタースキルを駆使し、マジンさんをサポートし続けその強さを何倍にもリッカが跳ね上げる。カルデアの礼装を自在に使用することができるスペシャルチェンジリング。龍の鎧を控え、身分を偽る際に有用な装備をもってあらゆるスキルを並列使用しマジンさんをアサシンに拮抗させているのだ。マスターとしてもリッカは場数を踏んでおり、戦法を自在にスイッチできるのが強みにして利点。絆は未だこれからなれど、信頼関係は万全に築かれている。それを力とするのだ

 

素人剣を振り回し、それでもマスターの支援を以て食い下がっていくマジンさん。アサシンからしてみれば不愉快極まる戦いだ。何せ、『目の前の存在の剣など、覚える価値もない』。自分より遥かに劣る存在に拮抗される事実そのものが、マスターへの刃を阻まれることこそがアサシンを苛立たせる

 

「剣筋は滅茶苦茶、捌きは素人!そのばかでかい太刀はこけおどしかよ!それより何より、そんな雑魚が天才のわしを阻もうなんぞ、笑わせるなや!」

 

「むむむ・・・マスター、やはり私は弱い」

 

その実力差は明白だった。マスターの全力の支援を以て、ようやく勝負になるといった有り様。そのあまりにも未熟な実力を恥じ入りながらリッカを護るが・・・

 

「大丈夫!やれるとこまでやってみて!最悪私がなんとかするよ!」

 

「むむ・・・マスターに助けられるサーヴァントとは不思議な感じだ。・・・解った。やるぞ」

 

気合いを入れ、思いきり剣を上段に振るい抜くマジンさん。当たりさえすれば真っ二つにできる。その可能性に懸けた一撃だ。だが──

 

「いつまでバカにしゆうがか!わしを侮るんも大概にせぇよ!邪魔じゃ言うとるがじゃ女ァ!!」

 

「ぐぬっ・・・」

 

柄に仕込まれた剣が、マジンさんの意識外から襲い来た。暗器なる、暗殺に特化した剣。天誅を司る『始末剣』。外道の剣なる真紅の仕込み刀が、マジンさんの意識の外より、下段から上段にかけて切り裂かれる

 

マジンさんの衣服が裂け、鮮血が吹き出す。咄嗟に退いた事により致命傷は避けたものの、その才のみに支えられた剣。その凶刃がマジンさんを吹き飛ばし防衛線を決壊させる

 

「はははははは!見たか!これがわしの剣じゃ!わしは剣の天才じゃ!どんな剣も思いのまま。おまんのような素人にはたどり着けん境地ぜよ!うははは!わしは無敵じゃ!わしは天才じゃあ!!」

 

「・・・沖田さんと同じくらいかも、この人の剣の腕・・・」

 

その才は偽りなく、まさに天賦のもの。その腕前と技の冴えは紛れもなく天才だ。沖田さん、或いは武蔵ちゃんにも届くやも知れぬものだ。まだ真名は預かり知れないが、確実に名を馳せた存在な事を痛感し、リッカはアサシンと相対する

 

「さぁ、覚悟してもらうぜよ!カルデアのマスターを斬ったとあれば、わしをバカにするヤツは何処にもおらん!さぁ、わしの為に死ね!その素っ首、わしのもんじゃあ!!」

 

人斬り、始末剣。その完遂を、天誅を図りし刃がリッカに迫る。最早それは勝利を確信しきったもの。喜悦を浮かべきったもの

 

「マスター・・・!」

 

「天誅ぅうぅうぅう!!!」

 

閃く、外道の天誅。物欲と才にまみれたその剣が、リッカに襲い掛かる。その白刃が、リッカの首を捉えんとした、その時──

 

「──剣なら自由自在って言ったよね。なら、これはどう?」

 

「──!?」

 

・・・──閃いたのは雷の輝き。才にのみ頼りを置くアサシンの目が驚愕に見開かれ、リッカの右手に、白く輝く刃が。母上の護り刀が握られる




マジンさん「ふぅ、良かった。あとはやっつけるだけだな、リッカ」

マジンさんは立ち上がり、治癒にて回復する。頷き合い、示し合わせた事をアサシンに伝えるコンタクトをとる

アサシン「な、なんじゃ・・・!?おまん今、何をしよった!?」

「何をしたか?『抜刀』したんだよ、今」

剣には雷が帯びている。リッカがたどり着いた位を、自分の極致を。天才と称しみずからを狙ってきたサーヴァント相手に開帳したのだ

リッカ「マスターとして戦うのはここまで。──剣を真似られるっていうなら、私のとっておきを見せてあげる。・・・よーく。見ていてね・・・!」

──其処から先は、アサシンの全く預かり知らぬ領域であった

「ぐっ、がぁっ!?ぬぁあぁあぁ!な──」

耳をつんざくような雷鳴、響き渡る爆音と鋭く絶ちきられる自らの身体。それが、目の前の少女が放つ『斬撃』である事など、理解が及ぶ筈がない


「なんじゃあぁあぁぁあぁ!!?」

雷に打たれたが如く、衝撃と斬撃が間断なく襲い来る。為す術などない。『目にも映らぬ太刀筋』など、覚えることも対処も叶うはずがないのだから

──やがて、戦闘不能となり、倒れるアサシン。信じられないものを見たと言わんばかりに、リッカの手に握られた刀を見ている

「う、嘘じゃ・・・こんな、こんなはずが・・・マスターがなんでこんな訳のわからん剣を振るうんじゃ・・・」

「雷位、開帳。──真似できるなら真似してもいいよ。その代わり・・・自分の一番大切な人を切り捨てる覚悟はしてね」

倒れ伏すアサシン。──王の目論み通り、『聖杯戦争のサーヴァントの位置を把握できるサーヴァント』の確保に成功する

『よくぞやったマスター、マジンの。後は任せておくがよい。──報酬、報奨に糸目はつけぬ。盛大に雇い、使い潰してやらねばな』

──その前に、まずは身体を癒しましょう。・・・起きてくださいますでしょうか・・・

龍馬達が帰って来る頃には、ベッドにて泡を吹いて気絶しているアサシンが寝かされ、それを目の当たりにした事による驚愕と爆笑が探偵事務所を包んだという──

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