人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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小太郎「日本の武士とは物欲にまみれているのですね・・・いえ、正しいのかもしれませんが」

武蔵「お、お金や名誉の為に剣を振るうなんて!ブシノカザカミニモオケナイワネー」

きよひー「は?」

巴「まぁまぁ、立身出世という概念もございます。決して間違った観念ではないのですよ?えぇ」

武蔵「そうそう!そうなの!・・・しかしリッカさんの傍にいるあの剣士。なーんか変な感じなのよねー」

「?変、とは?」

「んー、なんていうか『何もない』のに『それでいい』っていうか・・・後にも先にもこれっきり、っていうか・・・一期一会?」

頼光「随分と抽象的ですね。・・・ですが心配です。見たところあまりに頼り無さげな実力。あぁ、叶うならばリッカへの助力を・・・」

将門公『あれで、良い』

一同「「「「!?ははあっ──!!」」」」

『かの娘、在るがままに在るが佳し。それこそが、無にして穹の真如なり』

アマテラス「ワフ!」

『・・・面を上げよ、皆の者』

武蔵「──無穹・・・?」


才覚

「はっ、何処の武芸者・・・道場剣法が何を偉そうに構えちょるがじゃ。そこらの雑魚サーヴァントを倒した程度でずいぶん調子に乗っちょるようじゃが。このわし・・・一億侍、人斬り以蔵に見付かったのが運の尽きよ!今すぐぶったぎってやるから覚悟せい!」

 

目の前のランサー、神槍と謳われし二つ名を戴く最高クラスの武人にも怯むことなく吠える以蔵。その腕前と才に裏打ちされた自信と慢心が、物怖じや恐怖を全て後に追いやり彼を支える原動力となる。その様はまるで、小さき犬が構えし虎に懸命に吼えて威嚇をしているような様相を思い至らせる。──恐怖を感じぬことはけして良き事ではない。恐怖とはけしてはならぬものであり、そして向き合うものであるのだが・・・その以蔵の有り様に、何何、と若き神槍遣いは哄笑を上げる

 

「よいよい。よい威勢、よい声だ。狂犬さながらよ。ぶちまけるのにも遠慮はいらん。──で、どちら・・・いやさ、誰から始めるのだ。纏めてでも一向に構わんが」

 

「・・・・・・」

 

──束になったところで御しやすくなる相手ではない。リッカはそれを痛感している。彼は、李書文はカルデアにおけるリッカの槍の師匠の一人。かの境地に至るにはどれ程の研鑽を積めばよいのか想像もつかぬ武人。その実力と在り方を心得ているリッカは孰考する。その思考には、カルナやクー・フーリン。スカサハやコンラといった槍の名手が浮かんでいる。楽園のトップクラスのサーヴァントを招いて力を借りるべきかと決断せしめんとしたその時──

 

「あぁん?こいつらはただのおまけじゃ。きさんごとき槍使い、わしの剣の敵じゃないきに!」

 

「え、ちょ、以蔵さん!?」

 

「素人サーヴァントにインチキマスターはそこで見ちょれ!──わしの報奨ん為に!死ねやぁあぁあぁ!!」

 

以蔵はマスターの思案より、誰よりも早く動いた。目の前の敵に、ランサーに躊躇いなく噛み付き斬りかかったのだ。引き抜かれる始末剣、幕末にて恐れられし外道の剣が、槍とぶつかり火花を散らす

 

「以蔵さん!待って待って!迂闊に行っちゃダメ!」

 

リッカの驚愕、マジンさんは静かに頷き手を打つ。あ、馬鹿だったんだなと思い至り命令違反は悪いことと理解し覚え、そっとリッカの護衛へと回る。今までのサーヴァントの中でも屈指の無軌道ぶりにリッカを巻き込み振り回すその姿勢に、好好爺でもありしランサーは同情の笑みを溢す

 

「呵呵!とんだ犬を従えたものだな、極東のマスター!だがよい。極東の剣術、特と堪能させてもらおうぞ!」

 

「おまんは其処で見ちょれ!あぁみせちゃるき、冥土の土産にしいやぁ!!チェエストォオ!!」

 

以蔵の剣が、ひたすらにランサーを滅多打つ。今まで見てきた剣技を余さず再現し披露する。徹底的な攻めの勢いは、ランサーを防御一辺倒に押しやり押し込むほどの一気呵成ぶりである。その証拠に・・・ランサーの表情が喜悦から即座に曇る程だ

 

「おぉ、やるなしまつけん。圧倒だぞ」

 

様々な太刀筋、様々な乱舞による攻めて攻めて攻めぬく怒濤の剣。縦横無尽に振るわれ閃く白刃に散る火花。防戦一方のランサーに攻め続ける以蔵。傍目からしてみれば以蔵の圧倒、大健闘に相違ない

 

「うはははははははははぁ!!見たか!これがわしの剣!わしの才能!わしの天才の剣じゃ!道場剣法なんぞに遅れを取る筈がなか!どうしたそないなもんかいのぅ!そんの長い槍はこけおどしかぁ!」

 

「───いやはや、なんともまた・・・」

 

一人ごちるランサー。打ち合い、剣閃は50を越え、力の限り叩き付けられる剣を槍にて受け吹き飛ばされる。その表情を浮かべる顔は暗い。思うところ、物申したい部分が多分にあるといった様相だ。そしてマスターに、リッカに目線を送ったのだ。──気付いているか、と

 

「やはり道場剣法、手も足も出んようじゃのぅ。やはりわしは無敵、天才なんじゃ!どんなサーヴァントだろうとわしの敵じゃなか!わしは最強なんじゃぁ!!」

 

「以蔵さん、ストップ!これ以上は本当にまずいよ!悪いことは言わないから!凄いのは分かったから仕切り直し仕切り直し!」

 

「あぁん?何言うちょる!今が勝機、逃す手は無かろうが!さぁ、覚悟せぇよランサー!おまんの首で、またわしは億万長者ぜよ!」

 

リッカの制止を一蹴し、その始末剣を振るい抜き首を取らんと飛び掛かる。その閃きが走ったとき、誰も立っていた者はいなかった。なればこそ上手くいく、自分は天才であり無敵なのだから。これからもずっとそうなのだ。自分は最強の人斬りであるのだから

 

「天!!誅ゥ!!うらぁあぁあぁあぁ!!」

 

その上段より放たれる渾身の剣技に・・・ランサーが、動いた

 

「・・・狂犬、と銘を打ってみたが正鵠を射ていたか。凶相に凶剣、指示する主の諫言も届かぬとは、随分と難儀な性分よ」

 

──其処からは、まさに瞬間による神業。武に己を捧げ抜き神に至った槍の冴え。中華の絶招が人斬りの剣に開帳されたのである

 

「はっ──?」

 

一つ、まずは以蔵渾身の一撃を脱力と静止により『たわませた』槍の弾みで容易く無力化する。あっさりと以蔵の剣を弾き、彼の体勢を崩させる

 

「───憤ッ!!」

 

二つ。渾身の震脚による踏み込みにて全身に気を、覇気をみなぎらせ槍を構える。踏み抜かれた石畳が粉々に砕け散り大気が震え放たれた怒号に辺りの木々の木の葉が全て舞落ちるほどの気迫と気合いにより全身に気を満たし、ただ、真っ直ぐに──

 

「覇ァアァアァッ!!!」

 

槍を突き込む。ただ一直線に。全てを置き去りにする究極の一突きを以蔵に叩き込む。音速を越えた槍の一撃は衝撃波を発生させ、辺りの全てを切り刻み吹き飛ばしそのあらゆる物質を蹂躙し両断せしめる刃となった。副次の効果にてこの有り様。以蔵に放たれた本命の一撃は遥かに重厚にて必殺のものであった

 

「がっ──げぶぁあぁぁあ!!」

 

放たれた瞬間、気迫と練り上げられた気が以蔵より突き抜けた。遥か彼方の岩壁に叩き付けられ、叩き付けられた壁が全て粉々に砕け散る。凝縮された槍の一撃が、以蔵の体に収まらず大地と壁を余さず砕き散らしたのだ。──顔のあらゆる穴から血を吹き出し吹き飛ばされ床を転げ回る以蔵。霊核を狙った一撃ではあったが以蔵はまだ消滅には至っていない。寸での所で、天性の心眼が導き出したのだ。自らが生き残るために為すべき事を

 

「以蔵さん!!しっかり!今治すから!『令呪を以て、以蔵さんの全快を願う』!」

 

令呪にて瀕死であった以蔵を治療し快復させる。霊核が無事である事が幸いした。時間神殿にて強化された令呪は退去が完遂してさえいなければ復活、蘇生、復元すらも可能な特別製である。九死に一生を得た以蔵が、呆然とランサーを見上げる

 

「・・・ば、馬鹿な・・・!このわしが、このわしが、負けた・・・こ、殺されかけたじゃと・・・!」

 

「──我が必殺の一撃、寸でずらした才覚に感謝するのだな。・・・だが、落胆も此処まで来ると肩の骨が外れかねん。──才も手札も底は見えた。後は、玉砕しかあるまい」

 

心から残念げに、惜しむように。そして決着をつけんが為に。今一度槍を構えるランサー。その覇気が、今一度練り上げられる

 

「そら、最後の一突きを仕掛けてこい。次は首を貫いて終わりにしてやろう」

 

「っ、っ・・・!そんな訳が、そんな訳があるか!わしは、わしの剣は無敵なんじゃ!!」

 

認められない。認めたくない。自分より上な者などあってはならない。決して容認できないと以蔵は吠える。それは、なけなしの、そして唯一無二の矜持でありすがるしか無かったプライドであった

 

「わしが、わしが負けるなんぞ・・・!そ、そうじゃ!戦線!おまん、知っとるぞ!三騎士はわしらより強い聖杯からの支援があるちゅうがじゃ!な、なんぞ卑怯の手をつこうとるじゃろ!」

 

「違うよ、以蔵さん。彼は、李書文先生はただ『強い』だけ。積み重ねた技術と技量しか、あの人は使ってないよ」

 

「な・・・──」

 

「・・・・・・ふむ。生来の短慮さが仇となったか。惜しいな。それほどの剣才であるならば、伸ばしようはいくらでもあったろうに」

 

先程見せた、曇りし顔。それは驚異ではなく、惜哀の感情であった。才を才のまま、原石を原石のまま持て余した未完の才を惜しんでいたのだ。──あの振るわれた様々な剣。どれか一つでも極めていたなら、免許を皆伝していたならば、と

 

「な、なんじゃと!?わしは、わしは剣では誰にも後れを取ったことはないがじゃ!誰も、誰もわしには勝てんかった!どんな剣でも一目見ればモノに出来る!わしは、わしは・・・剣の天才なんじゃあ!」

 

「語るに及ばず」

 

「!?」

 

「・・・まさに天性の観察眼よ。才で言えば儂を凌ぐだろうさ。だがそれだけよ。武の才とは、多岐に渡るもの。才のみで誰にもすがれぬ高みに辿り着くなど、いやはや。そのような思い上がりは若造のうちに捨てておくものよ」

 

武とは磨くもの、修めるもの、極めるもの。才とはあくまで入門、足掛かりにすぎない。地図のみで山頂に至れぬ筈がなきように。それだけでは決して道は開けぬのだ

 

「そして、貴様は武運に恵まれなかったようだ。生前は『若造のまま死に絶えた』と見える。なんとも勿体ないことよ」

 

天才は天才であるがゆえに、誰も敵がいなかったがゆえに。彼に『研鑽』と『向上』を求める者はいなかった。人を斬らせ、そして果たせれば持て囃しそれを良しとした。それ故に、彼は自らを上回る者との一騎討ちも、死地による生死の錯綜も、極みに至るための旅すらも行えなかった。誰も、彼に『天才』以上を求めなかったがゆえに。『極』への道を示さなかったが故に

 

「な、なんじゃと・・・」

 

──哀しきかな、岡田以蔵は天才であるがゆえに。その才を輝かせる事が叶わなかったのだ。彼がアサシンである理由はそれなのだ。彼は決して・・・極みには至れぬ人斬りであるが故に

 

 

「さて、話は終わりだ。儂は一戦一殺を心がけておる。アサシンはここで殺すが、そこの娘二人は今なら見逃そう」

 

「・・・道行くすがら殺していたら、飯を食うにも困ろうさ・・・でしょ?」

 

「呵呵呵呵!よく分かっているな!ふむ、その目・・・儂を招いて使役していたか。畏怖と驚愕の正体はそれか。まこと繊細な娘よ」

 

ランサーの理念は理解している。このままでは、確実にランサーに以蔵は殺される。だからこそ、それを理解しているからこそ──

 

「・・・逃げない。あなたを倒して生きて帰る!行くよ、マジンさん!」

 

「うん、待っていたぞ。やってみせる、私はサーヴァントなのだから」

 

へたり込む以蔵を庇い、マスターとしてリッカがマジンさんを全身全霊にてサポートする体勢を取り、そしてマジンさんがリッカに背を預け構え、ランサーに相対する。・・・ランサーを、討ち果たすために

 

「ほう・・・見たところ素人のようだが。勝算はあるのか?」

 

「勝算が無いなら何もしないのか?マジンさんはリッカから教わったぞ。『細かいことは、ぶっ飛ばしてから考えよう』と」

 

「呵呵呵呵!いや然り!その通りよ!」

 

「・・・──リッカはやらせない。やっつけてやる、ランサー」

 

「・・・忠あってこそ、信極まるか。良かろう。『人』を殺すのは久方ぶりよ!」

 

相対する、神槍と未だ底が見えぬマジンさん。リッカの剣で在らんとする彼女の行く末は、果たして──




以蔵「お、おまん何を考えちょるんじゃ!わしが勝てなかった相手ぞ!あんな素人が勝てるわけないっちゅうがじゃ!」

リッカ「分かってる。・・・でも、考えてみたんだけど。マジンさんはなんで素人のまま召喚されたんだろうって」

「あん・・・!?」

「この特異点、きっとマジンさんは重要な鍵だと思う。私達がこの特異点を制覇するために大事な・・・そんな気がする。だから、マジンさんと死地を乗り越えなきゃ!」

「な、何を訳の分からんことを・・・!」

「どのみち、私はマジンさんに賭ける!今回は人類悪じゃなく、マジンさんのマスターとして彼女をサポートして勝つ!それがきっと・・・私達の勝利に繋がると思うから!」

マジンさん「──私には、絶対に負けない理由がある。・・・行くぞ、ニーハオランサー」

「応とも。仁義の剣にてこの槍を手折ってみせるがいい──!」

「リング起動──頑張れ、マジンさん!」

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