「敵である私に随分と気安いですね。何やら私をよく御存知のようですが、これは聖杯戦争。あなたの知る沖田総司と、ここで剣を振るう沖田総司が同じものである筈が無いでしょう」
マジンさん「一つ訪ねる。・・・私は、お前なのか?」
沖田「さあ、どうでしょう。私はそんな太刀、振ったことはありません。・・・ですがこれは聖杯戦争ですからそんなことも・・・」
リッカ「・・・サーヴァントの仕組み、分かってるつもりだけど・・・親しい人と戦うのは、やっばりいつでもしんどいなぁ・・・」
マジンさん「──しんどい事は、二人で乗り越えよう。行くぞ、沖田総司。私が何処の誰だろうと、私はお前を越えていく」
「その意気や良し!いざ、参ります!!」
~
以蔵「おまん、龍馬とどんな関係なんじゃ。あいつが忍抱えてたなんぞ、初耳じゃ」
おぼろ丸「そうだな。拙者もまた、拙者がいた歴史が本流かどうかは預かり知らぬ。・・・拙者は招かれたのだ。彼に・・・龍馬に。『でっかい夢と世界を見るぜよ』とな」
「あいつにじゃとぉ?いかんぞおまん、騙されちょる。あいつは嘘つきじゃき!賢いわしが言うんじゃ間違いない!」
「フ──嘘ならば最早腐るほど垣間見味わってきた。忍の世には真など何処にもない。真偽、忠義、忠節、仁義。それらは全て立場で変わるものだ。──いくら重用されようとも、一度抜ければ死ぬまで血塗られた道を往く。それが忍だ。・・・そんな中・・・」
「・・・」
「──おまんとなら、キレーな夜明けが見えるぜよ。・・・そう言ったあの男が、随分と眩しく、美しく見えた。・・・その自分の感慨、そして、拙者に声をかけてくれたあの男の言葉は・・・真実であると信じられたのだ」
「はぁ~・・・そないなもんか。わしにゃようわからんもんじゃのぅ。それより・・・」
「・・・?」
「この石になったわしの体!さっさと治さんかぁ!!」
おぼろ丸「・・・峰打ちで半分石になったか。あいやすまん。暫く待て、一時間程な」
「意外と長いスパン止めぇ!」
「・・・よし、ならば少し待っていろ」
「あん?何処に行くんじゃ!」
「──またぞろ死の危機にあるであろう、世話のかかる同志の救援よ。これで都合、死の危機を救った回数は108回目だ」
「あ、ちょお待たんか!わしも連れていかんか!おい!丸の字ぃ~~!」
「速く、鋭くッ!」
余分な言葉も、対話も無駄もなく閃く縮地により放たれし沖田総司の剣が、過たずマジンさんに襲い来る。回避するなど及びもつかぬ瞬速にして鋭利なる剣の閃きに、マジンさんはなす術もなく防戦を強いられてしまう。大刀に対し太刀という得物の特性上の相性もあれど、これは単純に絶対的な才覚と経験の差の発露であった
「く、う・・・」
幕末の動乱。最も刀が人を斬り捨てた時代を駆け抜けた組織、新撰組の中でも最強に位置する存在たる沖田総司が、全身全霊を以て命を奪わんが為に剣を振るい己のすべてを懸けた剣をマジンさんに叩き付けている。英霊として昇華されたその腕前、人生に至るまでに磨きあげ練磨した剣。あらゆるものを喪失し、覚えのないマジンさんにはそれを受けきれる術を有してはいないのだ
瞬間移動にも等しい剣技が縦横無尽に振るわれる。前方を防いだとすれば即座に背後より斬り裂かれる。苦し紛れに振り上げた刀の懐に潜り込まれ一閃が襲い来る。境内の何処にも逃げ場はない。一対一の戦いでありながら、マジンさんは全方位からの攻撃に晒され、その対処を余儀無くされている。致命的な一撃を無力化し、防ぐことに全身全霊を尽くさなければ即座に核を撃ち抜かれ敗北を決定付けられてしまうほどだ。流れる汗が地面に落ちるよりも速く、火花が散るよりも尚速く沖田とマジンさんのつばぜり合いが展開されているのだ。・・・──マジンさんの防戦一方という呈を催しているという事実は、如何ともしがたき事実であるのだが
「く、っ・・・これは・・・──」
呻きを上げるマジンさん。目の前の自分の似姿を持つ剣士に為す術なく圧倒されせしめる自らの不甲斐なさを恥じ入ると同時に、何か、決定的な何かが遅れを取っているといった漠然たる予感と実感がある。自らの根本、抜本的な存在の起源にて彼女に突き放されている様な感覚。このままでは・・・マジンさんは目の前に横たわる結末を垣間見る。押し切られ、切り捨てられ敗北を喫するという結末を
「マジンさん!今サポートを・・・!」
このままではマジンさんが倒されてしまう。そんな予感が確信へと変わったリッカは矢も盾もたまらずにサポートの姿勢を展開する。あらゆるサポートを展開しようとした刹那、──その状況の違和感に、即座にリッカは気付き支援の手を止める
・・・──これだけ圧倒されていながら、何故マジンさんは倒されていないのか?押し切られるのは時間の問題であるといった予感はあり、事実最早マジンさんの対応は防戦一方であり完全な後手だ。そうでありながら、沖田からの決定的な一撃は訪れていない。長期戦は不得手な沖田さんが、いたずらに戦闘を長引かせる筈が無いと言うのだが・・・
「私の弱体化や魔力切れを狙っているなら無駄なことです。私の戦線にいる限り私に魔力切れは起こらず、私の身に刻まれた病魔すら私の動きは阻めない。それが私の聖杯からの支援なのですから」
つまり、病弱を克服したパーフェクト沖田さんという事であり、真の意味で天才剣士の本領を発揮出来るという事に他ならない。ますますもって勝機が遠退くような事実を以てなおもまだ・・・いや、ならばこそ疑惑と不可解さは増すばかりだ。
(それだけの力があるのなら、一撃でマジンさんも仕留めることは簡単な筈。なんでわざわざ沖田さんはマジンさんとタイマン勝負を・・・?)
それだけ磐石ならば、鎧袖一触など造作もなきこと。にも関わらず沖田はマジンさんと譲らぬ戦いを、凌ぎを削り剣を閃かせている。その真意の在処を予想し考えるとするならば、それは──
(・・・もしかして、沖田さんは・・・マジンさんを・・・)
そう考えたなら、一応の辻褄は合う。彼女が何を思うか、何を至るかなどを考えるのは容易いと自負している。彼女とはカルデアにて、気のおけない友人の関係であるのだから。ならば──
「・・・頑張れ、マジンさん・・・!!」
あえて此処は、何もせずに見守り信じる。二人の行く末を、二つに一つ束ねた結末の果てを信じる。何より沖田さんを、マジンさんを信じる。そうすることこそが、今このときにおける最高、最善の選択であると信じて、リッカはただ見守る。鏡写しに戦うかのような、二人の『研鑽』の行く末を。そのマスターの信頼と見識は、やがて二人の会話となりて示され証明されていく。疾風にして怒濤と呼ぶに相応しき剣にてマジンさんを打ちのめしながら、自らの剣技の狭間にてマジンさんに言葉を、激となる言霊を宣告していくのだ。その行為は、本来ならば彼女は・・・沖田は決して取らない選択であったのだが。如何なる胸中か、彼女が目の前の存在にかけた言葉は意外なるもの。予想の外におけるニュアンスであったのだ
「──遅い!踏み込みは脚でするものではありません!臍下丹田に気を張り、身体で相手の間を削ぐのです!」
言葉を放ち、マジンさんに叩き込みしは歩方の極意。死ねばそれまでの剣を添え、それを伝授し実践を以て褐色のサーヴァントに言葉無く雄弁に託しているのだ
「──、なんだ、これは」
その教えと剣閃の最中、マジンさんの脳裏に何者かの記憶が去来する。誰のものか、なんのものかすら定かではない記憶。されどそれは、心と記憶より湧き上がる・・・──
~
『・・・・・・この子はもうだめだ。生まれるん
が早すぎたんじゃ。』
──抱かれている。自分が、何者かに抱かれている
見ろ。肌は土色、息も殆どしとらん
『なんとか、なんとかなりませんか・・・?』
子を抱き、懸命にすがりし女がいる。その抱いている子こそが、まさしく・・・
『あきらめろ、おみつ。もってあと三日だ。もう仏様にすがるしかあるめぇ──』
~
「──ぐ、おっ・・・」
衝撃で、現実に叩き戻されるマジンさん。今の記憶は、今の追憶は紛れもなく自分の、忘れていた筈の自分自身の・・・。思い返す暇はない。二の次、矢継ぎ早に剣が、瞬速の極致が遅い来る
「剣を手先で振ってどうするのです!剣とは腰で振るうもの。刀ではなく身体で斬りなさい!」
「・・・ぐ、っ。そんな、ことは・・・」
~
『──阿弥陀様!なんとか、宗次郎を・・・宗次郎をお救いください・・・!』
・・・其処は、決定的な契約の瞬間。己の行く末、天命を定めし分岐。分かたれし、本流より外れしも己を象どりし宿命
『どうか、どうか・・・宗次郎を。この子は、きっと良きことを成します。なにとぞ、宗次郎をお救いください・・・』
・・・死に果てる筈だった我が身。潰える筈だった天命。──されど
【・・・なれば、その童。この先の生において、我と約し】
その運命は、ただ一度きりの盟約にして契約。ただ一度、決戦と抑止の約定を果たすために
【────その身、世界へと召し上げん】
・・・・・・我が身。この身は、抑止の守護者と成る──
~
「バカですかあなたは!私の刀とあなたの大太刀!見てくれ違えど理は同一!」
「・・・──分かっている、分かっているんだ。あと少し、あと少しなんだ。私は、マジンさんは負けられないんだ・・・っ」
頭に去来する記憶、そして目の前に在りし存在・・・沖田総司に叩き込まれし極意。ランサーにて示された、マスターを、自分の相棒を信じること。そして──
~~
『よーく見せてあげる。じゃあ・・・よく見ていてね・・・!』
自分に名前をくれたマスターの、必殺の剣。極の位、何者も追い付けぬ迅雷の剣
その、無穹を穿つ青天の霹靂を以て・・・
『──あぁ、そうか。私は、死に果てる筈だった我が身を救いし世界に、借りを返すために。唯一度の抑止の顕現として・・・そして・・・』
──彼女は至る。自らの根源に。自らが至りし天命を掴む、その自らの証明を果たさんが為に、今こそ・・・
──無穹を以て、天命を穿つ──
~
「・・・むっ!?」
変化は即座に現れた。防戦一方で追い付く事すらままらなかった沖田の剣技に、マジンさんが初めて『追い付いた』。身の丈以上もある刀を、沖田の瞬速の剣に拮抗させしめたのだ
「・・・追い付けた。あぁ、私は恵まれている。私の起源に至るための極みを持つ、マスターに出逢えた事」
「マジンさん・・・?」
その仕合を以て、何を得たのか。──先程のマジンさんとは見違えるほどの覇気。見違えるほどの決意。見違えるほどの──リッカへの親愛と情愛
「決着を付けよう、沖田総司。・・・今の私は、守護者でも宗次郎でもない。──藤丸龍華の刃だ」
「・・・その意気や良し。漸く形になりましたね。ならば、いざ!私の全てを懸けて!」
距離を取り、呼吸を整え剣を構える。開帳せしは必殺の秘剣。全く同じ場所に三段の突きを叩き込む、無明の煌めき
「新撰組一番隊隊長、沖田総司推参!我が秘剣の煌めき、受けるがいい!」
「──望むところだ。私は負けるわけにはいかない。私を『マジンさん』と呼んでくれたリッカの為にも。全身全霊を懸けて、私は私を越える」
極地。あらゆる場面、あらゆる場所において十全の実力を発揮せしめる究極の歩法。彼女が思い出した、自らの起源に基づく守護の力の発露
「マジンさん!」
「────」
リッカの問い掛けに、リッカの声に。マジンさんは変わらず向ける。人懐こき、無垢なる笑顔を
「・・・──絆、情。仁。三光束ね道を拓く」
大刀『煉極』が赤く刀身を耀かせる。その魔力を凝縮させ、発露せし奔流が空中へと立ち上ぼり力を為す。全ては、刹那の先の決着を乗り越えんが為に
高まる気運、迫る必殺の交錯。共に今、全力の瞬間と一瞬の生死を分かち、二者を束ね穿つ斬撃と穿突が交錯し──
「『無明・三段突き』────!!!!」
「『魔神剣・煉極斬』───」
決意と意地、矜持と誠の戦い。三連の魔剣と決意の一一刀。マスターたるリッカが垣間見る勝者は、瞳に映りし覇者はどちらであるのか
・・・──やがて巻き上がる風が収まり、視界が晴れ渡る。膝をつき刀を支えに見上げるもの、見下ろすものが陰影を露にする
「マジンさん!大丈夫!?勝った!?怪我してない!?」
「──うん。大丈夫だ。マジンさんは、マスターを絶対に裏切らないぞ」
リッカの言葉は・・・確かに受け止められたのだ。他でもない。自らが信じる、大切な相棒に。──同時にその返答は確かに。この場における勝者を告げる凱歌となったのだった──
沖田「・・・・・・やれやれ。自分がもう一人いる、というのは妙なものですね。お陰さまで、余計なお世話まで焼いてしまいました」
リッカ「やっぱり・・・斬ろうと思えば、マジンさんがへっぽこな時に斬れたよね沖田さんなら!それをしなかったのは・・・!」
「・・・私をライザップするためか、沖田」
「何を言ってるのか二重の意味で分かりません。私は聖杯に召喚され、ここで人を斬り続けた人斬りです。ただ生前も今も。人を斬り続けた。何故生きているのかも忘れて。──それ故に、あなたに借りを押し付ける事になってしまった」
マジンさん「安心しろ。その借りで私は生を受け、リッカに会えた。感謝こそすれ恨みはしていない。私は・・・幸せだ」
リッカ「(シュワァ)」
「・・・ふふっ。これを持っていきなさい」
マジンさんに託されしは、沖田の誠の証。誓いの羽織。──同時に、それを託されたマジンさんの身が、雄々しく。そして威風堂々たる装いと姿を変える
リッカ「あー!魔神セイバー!!」
そう、その姿は正しく。楽園の沖田とノッブが合体して現れし抑止の守護者としての顕現──
「いいですか、あなたの。あなただけのマスターを絶対に護りなさい。それは、生前の私には出来なかったこと。私はするべきだったかもしれないこと」
マジンさん「・・・言われるまでもない。名前をくれた、思い出をくれた・・・大好きなマスター。私は命を懸けて、大切な大切なマスターを護り抜く」
リッカ「(ジュワァ)」
「──さようなら。未来にこうあるべきだった私。阿弥陀様に謝っておいてください。私は、私の為だけに生きてしまったと。・・・そして、リッカさん・・・でしたね?」
リッカ「は、はい!リッカです!」
「──もう一人の私を、その時まで見届けてあげてくださいね。どうやらその私、貴女にゾッコンみたいですから──」
最後に、見知った笑顔を残して。・・・沖田総司は帝都より退去する。確かに遺したものを、二人に託して
「・・・何を思い出そうが、何を為すべきであろうが。何も変わらないものがある」
「・・・それは?」
「・・・私は、リッカのサーヴァント。ナンバーワンサーヴァント見習い・・・マジンさんという事だ。──帰ろう。私達の真の戦いは、これからだ」
リッカの手を繋ぎ、引っ張り走り出すマジンさん。・・・その遥かに重き天命にも、けして挫ける事なく──
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