人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ファンタズムーン「はい!と言うわけで!ファンタズムーン!あなたをカルデアに招く魔法少女よ!宜しくね!」
ヒナコ「」
ファンタズムーン「今回は、あなたの身柄をカルデアに招き入れたいと思い至り!わざわざやって来ちゃいました!あのしみったれた人理保証施設だと思うでしょ?思うでしょ?そんなことは無いのです!じゃあ早速行ってみましょう!カルデアは、何故楽園になったのか!」
「」
・・・愉快な説明は、長く長く続いた。具体的には、これが12時間前の出来事である──
「はい!と言うわけで!カルデアはこんなにも素晴らしいリゾート・・・いえ!楽園になったのでしたー!英雄も人間も吸血鬼も皆楽しくラッキーハッピー!毎日が楽しくエンジョイできて運気もアップして受験にも受かる!そんな素敵な場所にパワーアップしたの!私も招かれてビックリ!もうスゴいんだから!欲しいなー、と思ったものが全部あるの!全部よ全部!ご飯も寝床も友達もみーんな揃っちゃったんだから!」
自宅に突如殴り込み、身ぶり手振りを含めたアクションで如何にカルデアが素晴らしいか(聞いてもいないのに)力説しまくるふざけた格好をした謎の存在を、死んだ目で見つめている芥ヒナコ。そのあまりにもあまり、魔法少女や変身ヒロインという概念を雑に再現したような頭の悪い、ファンタズムーンを名乗る相手の奇行を、ただ呆然と眺めている
(え、嘘。同類?同類なの?こんな頭悪そうなのが?ホントに、私と?)
芥ヒナコの身体には秘密があり、誰にも言えない人類種との隔たりがある。カルデアにいた頃はロマンのフィジカルチェックを固辞し、本を手にし徹底的に交流を廃していた理由がその秘密にこそ起因する。──精霊のカテゴリに分類される存在、それは真祖とも呼ばれる存在でもある、星謹製の触覚でもある自然の擬人化。・・・彼女が本当に真祖であるのかどうかは議論が介在するやも知れぬが、ともかく彼女は真っ当な人間と一線を画する
不老不死──人類が追い求めし業の終着点を、彼女は既に所持している。それだけは確実であり、彼女が精霊として、真祖の名を冠するに値する存在であることを確かに示唆しているのである。・・・それが幸福に繋がったかは、彼女の人への態度にて存分に現れていた。人は、未知を疎み迫害するものであるからだ。
そんな地球の表層端末、精霊の前に現れた正真正銘の本物にして規格外の逸品。『真祖』と呼ばれるに相応しきその存在の底抜けのフレンドリーさに、奇怪を通り越して理解不能と思考が拒否される。同じだというなら、同類だというならば何故こんなにも・・・
「おいでよカルデア!いらっしゃいカルデア!いつでも皆は、あなたを待っている!あ、これパンフレット!はいどーぞ!」
『おいでませカルデア!』と珍妙な白い獣が表紙を飾るパンフレットを渡され、12時間に及ぶ講演が終了する。ファンタズムーンと名乗る頭のおかしいとしか言い様の無い同類の言葉に、ヒナコの返す答えは、考えるまでもなく一つであった
「どう!?カルデア!来たくなったでしょ!」
「全然」
「そうよねそうよね!じゃあ早速・・・ってえぇえ!?」
信じられない!とばかりに後ずさり驚くファンタズムーン。そんな、プレゼンは完璧だったのに!?と驚愕する様子を、最早どんなテンションで見ていいかわからずヒナコは大きく息を吐く
「リッカマニュアルも借りてきて実践したのに!?最高の立地条件だし、地球最後の秘境よ!人工的だけど!?何が気に入らないの!?何がダメなの!?」
「あなたの格好よ。・・・カルデアに行ったら、私もそんなバカみたいな格好することになるんじゃないの?」
「えぇ!!」
「絶!対!に!嫌!!」
力尽くで排除・・・は逆立ちしたって出来ないので布団にくるまり全てから目を背ける。何もない、机と寝る場所しかない殺風景な部屋に、また見たくないものが現れた。もう勘弁して欲しいとヒナコの精神がみるみる摩り切れていく
「何が嫌なのよー!自分に出来ないこと、いつもやらないこと全力でやるの!スゴく楽しいんだからね!」
「そういうのをやるの、主導は人間でしょ!私はそういうのっていうか、人間がだいっきらいなのよ!カルデアから送り返されて清清してるんだからほっといて!あとオルガマリーにはお礼言っといて!」
「自分で言えばいいじゃない!なんで人間嫌いなの!私はガトー嫌いだけど!言ってくれなきゃ何も分からないでしょー!」
「あぁ止めて!布団、布団ちぎれちゃう・・・!」
ファンタズムーンと精霊種との押し問答は白熱し、数十分に続く中漸く小休止が訪れ距離を互いに取り合う。布団にくるまり拒絶を示すヒナコ、そして肩で息を吐くファンタズムーン。議論は平行線であった。ふむ、とファンタズムーンは静かに考える
(どうも半信半疑みたいね・・・どうしたものかしら。いっそ無理矢理連れていっちゃう?ファンタズムーンしちゃおうかしら?)
同類、地球の触覚であるならば彼女の存在はこの星が保証するであろうことを思案する。ならば此処で身柄、五体が健在であるかどうかを考える必要はない。首から下を粉々にして抵抗できないようにし身柄を確保するか、いっその事リッカに来てもらってちょちょいとナニカしてもらうか。むしろそっちの方が早くない?私賢くない?よし決まり!と即決し、パキポキとファンタズムーン・・・アルクェイドは指を鳴らす
「──細かい事はカルデアに招いてから考えましょうか。そっちのが早そうだしね」
「ッ・・・!」
友好的であった時点から一転した静かな決意。鳥肌が立つような静かな声音。その切り替えの早さに、そして決めた事を遂行する決断力。──人の論理に縛られないその気儘さ、自由さ。ヒナコは戦慄と共に痛感する。自然現象のような流転と暴威。彼女はまさしく──
「大丈夫よ、すぐ終わるから。あなたも財になー・・・ん?」
布団ごと八つ裂きにしようとした瞬間、ベッドからぱさりと、一冊の本が床へと落ちた。しおりが沢山挟まれ、年期が入っていながらも丁寧に手入れが為された一冊の本。アルクェイドは、それを手に取り表紙を読み上げる
「『劉邦と項羽』・・・?なに、あなた中国が好きなの?」
「──!!」
弾かれたように顔を上げるヒナコに気付かず、アルクェイドは栞が挟まれたページを開き、悪気なくそれを読み上げる。それは、項羽がとある女性に読み上げ、その身を案じた詩であり、そして・・・
「~?何て読むの?ぐや、ぐや?なんじを、いかん・・・?」
「──止めて!返して!!」
布団から飛び出し、アルクェイドに掴みかかり本を奪い返す。気だるげな先程の態度からの豹変に、アルクェイドはビックリして行動が出来なかった。本を抱き抱え、やがて呻くようにヒナコは言葉を絞り出す
「・・・そんな事言って、魂胆は解ってるわ。どうせあなたたちカルデアは、惜しくなったんでしょう・・・!不老不死が!」
「???」
「とぼけないで!あなたから知識を吹き込まれたカルデアの連中が、掌を返して自分達の食い物にしようと媚を売ってすり寄ってきた!そうでしょう!」
そうじゃなきゃ説明がつかない、とヒナコは捲し立てる。目の前にいる変な格好をして人間にほだされた、あらゆる意味で信じられない存在に
「何で行きたくないかなんて決まってるでしょ・・・私、人間が大嫌いだからよ・・・!欺いて、嘘をついて貶めて辱しめて!この世界で一番薄汚い二足で歩く猿が大嫌い!そんな人間がやってるカルデアにまた出戻れ?バカじゃないの!信じられるわけないじゃない!」
「・・・」
「マリスビリーの目論見が外れた時点で、私はもうお役御免。そんなカルデアがまた私が欲しいだなんて、しかも人理修復が終わった後に・・・!あからさますぎて逆に笑っちゃうわね。もうちょっと騙す努力をしなさいよ・・・!ホンット、人間って数だけ多い馬鹿ばっかりね!」
その呪詛は何百年も溜め込まれたものであり、彼女自身の感情でもあった。人は醜く、浅ましく、恐ろしい。自分を迫害したに留まらず、こともあろうに『彼』を愚かな蛮勇の徒と辱しめた。赦せる筈がない。人間という文化が、文明が赦せない
「もう私は何処にも行かない、行きたくないの。もう私は、誰にも会いたくないの。お願いだから帰って。私を一人にして。人間なんかの世界に戻さないで・・・!」
「・・・──」
その慟哭に、アルクェイドは困ったように目を泳がせる。むー、んー、と喉を唸らせ、やがて考え込み答えを返す
「や、あなたの素性なんてどうでもいいんだけど」
「!?」
そう。不老不死だとか人間への所感だとか、そんなものを見込んで此処に来たのではない。ただ──
「あなたに楽園カルデアに来て欲しいから招いてるの。あなたが不死だとか、人間がどうだとかそんなの一々考えてないわよ、私?」
「・・・何を・・・」
「例えば、例えばよ?その本にある・・・ぐ、ぐびじん?それがもしも、長い間生き抜いてきたあなたの別の名前とするじゃない?あなただとするじゃない?」
息をのみ、絶句するヒナコに気付かずあっけらかんとアルクェイドは言葉を紡ぐ。不死者ならそういうこともあるわよね!といった軽いノリで、アルクェイドは真理を交えた仮定を示す
「あなたを愛してくれたその人、項羽だっけ?その人が最期まであなたを思ってくれていたのに、あなたがそんな風にビクビク生きていくの、その人辛いんじゃないかなー」
「あ、あなたに、何が・・・」
「分からないわよ。あなた、何も教えてくれないじゃない。知らないことは、知ろうとしないと分からないわ、そうでしょう?」
「っ・・・」
言い返そうにも言い返せない。その言葉は、まさにかつて、彼女が彼に・・・
「もっとシンプルかつ現実的な言い方をするなら・・・もう多分、この星に私やあなたの居場所は彼処くらいしか無いわ。人間はご存知の通り、星に満ちているしね。だから・・・ルームシェアの御誘いみたいなものも兼ねてるのよ」
「・・・」
「私が保証するわ。彼処に行けば、きっとあなたの安息の地になってくれる筈。だから来ない?誰かに怯えることも、誰かに気を遣う事もない。当たり前の日々があなたを待ってるわよ?」
・・・ヒナコは長く、長く沈黙を示した。アルクェイドもまた、言いたい事は言いきったと口を閉じる。長い、長い沈黙。そして、やがてヒナコが口を開く
「・・・一つ、教えて」
「いいわ、何?」
「・・・カルデアの召喚システムは、まだ、生きてるの?人理修復は問題ないでしょうけど、凍結とかしてないかしら」
不思議な事を気にするのね、とアルクェイドは首をかしげながら肯定を返す。まだ非常時に備えて、英霊達を招く準備はしてあると。巧妙に、未だにサーヴァントが滞在しているとは口にせず
「・・・・・・そう、なの。じゃあ、もしかしたら、いつか・・・」
「何?召喚したい英霊でもいるの?」
「ッ──止めてよ、そういう風に人を見透かすの・・・」
本当に最悪、と溜め息をつき、やがてヒナコは観念したように、そっと眼鏡を取る
「・・・解った、考えるわよ。もう、どのみちあんたの言う通り居場所なんてない。なら、いっそ・・・彼を待つことにするわ」
「?」
「でも、まだ予定は未定。万が一の為の準備もしないといけないから、すぐには行けない。でも、多分、きっと・・・行くと思うから。期待しないで待っていて」
「!解った!待ってるからね!絶対来てね!精霊トークしましょ!ヒマラヤであった変なのとかの話もしてあげる!待ってるからね!ね!」
途端に満面の笑みを浮かべ、それじゃあね!と扉を叩き開けて走り去る魔法少女めいた真祖。嵐が去り、やがて漸く待ち望んだ平穏が訪れる。ヒナコはそっと、本を手に取りタイトルをなぞり上げる
「・・・項羽様。マリスビリーやあの変なのが言うように、この星にもう、居場所は消え去ってしまっているようです。なら、・・・私は、せめて・・・」
かつて、その人が謳ってくれたように、案じてくれたように。最後の不安と思案の答えを示すべきだと、ヒナコは決断すべきだと胸に思い浮かべる
「──カルデアにて、もう一度。あなたと巡り会う未来を想うことを、どうか・・・赦していただけますか?──項羽様・・・」
もう、生きることには疲れ果てた。あとはもう、僅かな奇跡であろうと恥辱にまみれようと、ただ──安らぎがほしい。大切な彼と過ごす時間がほしい。願うことは、ただそれだけだ
「・・・カルデアのマスターなんかに、絶対力なんか貸してあげないんだから。私が先輩として、こきつかってやるから、今から覚悟しときなさいよね・・・」
そんな奇跡が、楽園にあるのなら。──ただ漂い、流されるばかりであったヒナコの生に、細やかな目標と望みが生まれ落ちた瞬間であった──
アルクェイド「と言うわけで!スカウトは微妙な感じに終わっちゃったの・・・ごめんなさい!」
ギルガメッシュ「ふむ、よもやあの人間不信の精霊に肯定よりの保留を引き出すとはやるではないか。戯れ言の中に真実でも紛れ込んでいたか?」
アルクェイド「んー、リッカちゃんみたいに喋ってみたんだけど、上手くいかないものねー。でも、来るかもとは言ってたから!あと、英霊システムはどうかとか言ってたから、もしかしたら招きたい英霊の触媒を探しにいったのかも?」
──招きたい英霊・・・確か、ライダーを所望していたと言う記録がございましたね?
《うむ。どうやら長寿にて巡り逢っていたか。・・・まこと、不死とは生物の手に余る劇薬よな》
「そんなわけでただいまー!バレンタイン!バレンタイン!チョコ沢山食べなくちゃ、ね!リッカちゃん、作ってくれたかしら!」
《だが良い、決めるのはあやつよ。一度放った生命だ、今更執着することもあるまい。ただ・・・マスターの人手はあればあるほど良いがな》
──はい!いつか、巡り会うことが出来ますように!
空港
オルガマリー「えーっと、後は・・・カドックは何をしているかしら。ペペはまた音信不通だし、とりあえず、楽園には戻らなくちゃ・・・」
『LINE』
「・・・?」
『そのうち 顔出すから ヒナコ』
「・・・──嘘、まさかの・・・!?」