人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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すまない、丸々一話使って本当にすまない・・・次の話で英雄王が現れる。暇潰しに読んでくれ・・・本当にすまない・・・


竜殺

「数多の障害、数多の運命を超えてここまで来た。――よくやるな。マスター」

 

 

 

相対せしは邪竜・ファヴニール。身の丈の何十倍も大きい、生ける邪竜

 

 

「うん。こいつさえやっつければ、勝ちは見える!」

 

 

「その通りだ。――改めて思うのだが」

 

 

気迫をたぎらせるジークフリート

 

「実のところ、――どうやって勝てたのか、まるで覚えていない」

 

「ちょ!?今になって不吉なことを言わないでください!」

 

『――仕方無いわ。ジークフリートの出典、ニーベルンゲンの歌で、確かにジークフリートは邪竜、ファヴニールを討ち果たした。それは紛れもない事実、紛れもない伝承』

 

「所長……」

 

『けれど、その戦いの詳細はまったくといっていいほどない。ジークフリートが、ファヴニールを討ち果たし不死身になった、という事実だけが記されているの。つまり、誰もその顛末を見ていない』

 

『どちらかと言えば、ジークフリートというよりその妻クリームヒルトの活躍の方がメインだからね、ニーベルンゲンの歌。夫を殺されたクリームヒルトの哀しみと絶望はそりゃあもう物凄くて……おっと』

 

「……」

 

沈黙するジークフリート。マシュがドクターに抗議の目線をおくる

 

 

『あ、ご、ごめんよ』

 

「気にしないでくれ。すべて事実だ……だが、今は違う」

 

ゆっくりとファヴニールに向き直る。呪いを吐き、火炎を吐き、絶望を撒く幻想種の頂点

 

「――今の俺には主命があり、意地があり、願いがあり、矜持があり、誇りがある。――マスターを頼む、マシュ。そして、見ていてくれ、マスター」

 

バルムンクを引き抜き――ファヴニールに抜き放ち、突き付ける

 

 

「俺は再び、あの邪竜を討ち果たす。――すまないが、どうか見ていてほしい。その眼で、その全てで――竜殺しを成し遂げるこの身を」

 

 

狙うは、生涯の宿敵――遥かなる神話の再来を此処に

 

「うん!私は逃げない。傍にいるから!」

 

「すまない、ありがとう。――さぁ、始めるぞファヴニール」

 

 

「グォアァアァアァアァアァア――――!!!!」

 

吠え狂う邪竜、ファヴニール

 

 

「――俺と貴様の運命を――!!」

 

 

呼吸を整え、魔力を爆発させ。猛然とファヴニールに斬りこむ――!

 

 

「ぉおおぉおぉおおぉおっ――――――――!!!!」

「ガアァアァアァアァア!!」

 

 

振るわれるバルムンク。斬る、裂く、穿つ、突く、払う、弾く、叩く、受け流す、切り刻む

 

猛り狂うファヴニール。薙ぐ、払う、叩く、振るう、蹴散らす、叩き潰す、振り払う、皆殺す

 

 

その総てが一撃必殺

 

その総てが乾坤一擲

 

互いの存在総てが――全身全霊にて宿敵を殺めんと総動員される――!!

 

 

「くぅっ!先輩!私の後ろに――!」

 

「これが、竜との戦い――!」

 

爪を叩きつけられる。爪を切り飛ばす

 

身体に深く斬り込む。鱗が消し飛ぶ

 

ブレスを吐き出される。バルムンクで受け止める

 

掌で叩き潰される。腕の先をバルムンクでたたっきる

 

ジークフリートが猛る、ファヴニールが吠える

 

ファヴニールが吠える。ジークフリートが猛る

 

 

「ファヴニールッ――――!!!」

「ガアァアァアァアァアァアァアァアァア!!!」

 

 

その光景――ニーベルンゲンの歌の再来なり――!!

 

 

「これが、大英雄ジークフリート……!」

 

 

――

 

口をついて出るのを止められなかった

 

すまないと

 

謝らずにはいられなかった

 

すまないと

 

 

生前の自分は、何も己の願いを持たなかった

 

ファヴニールを倒し、不死身となった身体にて、戦闘はただの作業になった

 

あらゆる攻撃が通じず、無造作に敵を葬るだけの毎日

 

ラインの黄金を手にしながらさしたる使い途も思い浮かばず、使わぬまま生を終えた

 

 

無敵の身体と財宝を手にしておきながら――自分がしたことは、周りの誰かを不幸にしただけだった

 

求められればそれに応じた。悪であれ求められれば加担し、善であれ乞われなければ見殺しにした

 

――求められなければ、手を差し出すことすらしなかった

 

自分の死すら求められても、それは変わらなかった

 

友に背中を預け、刃を突き立てられ、生命を落とした

 

――ようやく解ったのだ、空虚さの意味を、その源泉を

 

自らは何を望んでいるか解らない、夢も希望もなく、未来を思い描くこともできない。そんな空虚があったのだ

 

だから、こんな空虚な自分が死んでも、何一つ良いことにはならなかった

 

友には望まぬ不義を着せ

 

妻には哀しみと絶望を送り復讐に身を投じさせた

 

――大切な存在にすら、破滅を結果的に捧げてしまったのだ

 

絶対応報、流した血の数だけ血を流させる

 

――結局、自分のしたことは。あらゆるものを不幸にしただけだった

 

何が英雄か

 

何が竜殺しか

 

――だから、呟かずにはいられないのだ。すまない、と

 

 

――だが

 

 

 

 

「うぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉお――――!!!」

 

均衡が崩れる

 

 

少しずつ、確実に。ジークフリートの気迫がファヴニールを呑み込んでいく――!

 

 

「ガァァアァアッ……!?」

 

「――生憎だが、今の俺にはかつてなかった全てがある――!」

 

 

そうだ

 

フランスを救う

 

仲間たちを護る

 

散っていった命に報いる

 

己の為――この邪竜を討ち果たす!

 

 

「俺は貴様を殺す、必ず殺す!例えそれしか誇れずとも、それだけ誇るものがあればそれでいい!」

 

ファヴニール渾身のブレスがジークフリートを襲う。だが、その不死身の肉体に致命傷にはなり得ない

 

 

「俺は英雄、ジークフリート!人として生まれ、英雄として死した我が生涯に――微塵の禍根と後悔はない――!!!」

 

 

背中に立つ――

 

 

――私の仲間がピンチなの!貴方の力が必要なんです!

 

――だからお願い――助けてください!!

 

 

初めて顔を合わせ、涙を流して自分を求めた――

 

 

「貴様らに――千年もの繁栄は訪れない!此処が、今日が!――貴様ら邪竜の黄昏の刻だ――!!」

 

あのマスターの願いに、応える為に――!!

 

 

「今こそ借り受けるぞ、英雄王!ここで決める!」

 

託された鍵に魔力を込める

 

「ガァァアァアッ!!?」

 

 

無数の竜殺しの原典がファヴニールを徹底的に打ち据える――!

 

「――邪悪なる竜は失墜し」

 

詠唱が始まる。貯蔵されたエーテルが解放され、莫大な黄昏が放たれる――!

 

「世界は今、落陽に至る――!」

 

無限の財に阻まれ、阻むことすらできないファヴニール

 

――決着は今、この刻に

 

「撃ち落とす!!――邪竜ファヴニール、これが貴様の結末だ――!!」

 

上段に構え――――

 

「――『幻想大剣・天魔失墜』――――!!!!!」

 

 

黄昏を、叩き放つ――!!!

 

 

――――死の間際、浮かんだ想いを確かめる

 

 

誰に認められなくてもいい

 

「やった、やりました!!」

「やったぁ!流石ジークフリート!!」

 

誰に称賛されなくても構わない

 

『ファヴニールを、一人で……』

『凄いぞ!これが歴史上最強のドラゴンスレイヤーの力――!!』

 

ただ自分が信じるものの側に立って生きていきたい

 

「俺の力だけではない。幾度も英雄王の威光に曝され、貴様は大いに弱っていた」

 

そう――胸に抱いた、最期の願いは……

 

 

「そんな状態で、俺と出逢ったのが運の尽きだ。――地獄の手土産にするがいい、ファヴニール」

 

 

「――我が名はジークフリート。如何なる英雄も誰一人並ぶものなき、最強の竜殺しであると」

 

――正義の、味方になることだったのだ――

 

 




「⬛⬛⬛⬛⬛・・・(懐かしい・・・あれほどの怪異、私も12、3体葬ったものだ)」

「⬛⬛⬛⬛⬛・・・?(・・・多くね?)」

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