人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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じゃんぬ「事の次第は、オーダーメイドのチョコレート受注が終わって全員に作る友チョコレートの発注をこなそうてしていた時だったわ・・・」



「えーと、マタ・ハリにブーディカに・・・何よ、王妃様本命と友チョコ両方受注してるじゃない。まったくこれだから王妃様は・・・」

【【【【】】】】

「リッカには本命作ってあるし、どうせだからおまけのチョコレートも・・・ん?」

【【【【【──】】】】】

「ちょ、はぁ──!?」



リッカ「みたいな感じで動き出したと!」

「何を言ってるのか分からないと思うけど私も何が起きたか分からないのよ・・・聖杯だとかイベントだとかそんなチャチなものじゃ断じてない、もっとヘンテコな概念を味わった気がするわ・・・」

エルキドゥ「ふむ、だからなんだね。楽園に変な気配が乱立しているのは」

「分かるの、エルキドゥ!?」

「気配には敏感なのさ。──どうする、リッカ?どうやら事件のようだけど?」

リッカ「聞かれるまでもないよ!じゃんぬが困ってるなら助ける!これはもう真理だね!」

「リッカ・・・ごめんなさい。あと、ありがとう・・・」

「いいのいいの!ちょっと待っててね!色んな意味で!エルキドゥ、力を貸してくれる?」

「構わないよ。いい運動になりそうだ。彼処に行く前のちょっとした暖気運転と行こうかな──」

じゃんぬ「全部終わったら、また店にいらっしゃい。店、貸しきりにするわよ。リッカ!」

「楽しみにしてる!じゃんぬ、ささっと解決するから待っててね──!」


セイレムの導きあれ

「ウァレンティヌゥゥウス!!ウァレンティヌゥゥウゥウウス!!フォオ、カァアァアァアァア!!!」

 

突如発生し、そして解決せねばならなくなったチョコレート大脱走、解決ミッション。何の要因か走りだし、逃げ出したチョコレートを回収せんとエルキドゥの気配察知を頼りに駆け抜け、導きのままに訪れし楽園の一画にて巡り逢ったのは漆黒のローブに身を包みし快楽殺人者にしてジャンヌガチ勢、ジル・ド・レェ・・・キャスタークラスの青髭であった。最早間違えようはずもないその狂乱のテンションにて、泡を吹かんばかりの剣幕にて何かをわめきたてている

 

「アレだね。チョコレートはこっちに来たみたいだ。僕が回収するから、リッカはアレの鎮静を御願いするよ」

 

「助けてジャンヌ!割りと切実に!」

 

チャオ、と駆け抜けていくエルキドゥ。リアリストな役割分担を請け負いしリッカが意を決して歩み出す。二人のジャンヌに囲まれ、綺麗なジルとなっていた彼が此処まで狂乱するのは大分珍しい事だ。興味半分、そして会話通じるかなぁと若干の不安にて彼に近付くと・・・

 

「ぬふぅうぅう!!恥を知りなさい!恋人たちの日!聖バレンタイン(デイ)などと!あの男が何をしたと言うのです!神が恋人を用意すると言うのです!?解せぬ!!まったく解せぬ!!」

 

「あー・・・」

 

彼は誰よりも神を信じ、その存在と自らに下るべき神罰を信じた。神がいるならば必ずやジャンヌを助け、そして愚かなる自分を裁きその威光を知らしめる筈だと。数多の虐殺を繰り返し彼は神にその所在を説いて裁きを求めた。悪辣な自分の断罪をもって神は存在することを知らしめんとした

 

しかして、彼に与えられたのは彼の財を惜しんだ者たちの利己的な法と欲得による財の接収と言う結果に終わった。下るべき罰は下らず、彼には悪逆非道の殺人者と言う人に与えられたレッテルのみであった。裁きすら与えなかった神が、恵まれぬ者たちに何かを用意するはずもない。ましてや──

 

「我が麗しのジャンヌ!我がマスターの半身たるジャンヌを過労に追い込みながら自らはのうのうとチョコだの恋人への感謝だの!ぬぅうぅう許せん!許してなるものかぁあァアァア!!正しき者に、正しき報い在らずしてこの世界の、この楽園の他の何処に真理があるというのかァ!」

 

第二装甲がジルの元へと装着され、シルエットがおぞましく変化する。手には人の皮で編み込まれた本が握られ、そしてパタリと開かれオーラが立ち上る

 

「この怒りを静めるもの、それは理不尽なるバレンタインの根絶!他者が喜び他者が疲労に沈むなどと言う真理の何処に!歓びがあるという!」

 

「──よし、ならあなたにも知ってもらおう!バレンタインの喜びをね!」

 

楽園にて不平等は許されない。自分達の上にいるのは王だけであり、皆等しい財である。だから、彼の慟哭を沈めてあげなくてはいけない。その手段は、自分が他ならぬじゃんぬと手掛けたのだから

 

「甘き死よ来たれ!甘き死よ来たれ!!あるいは、甘き菓子よ!来たれ──!!!」

 

決意し腹を決め、いざ行かんと一歩を踏み出し声をかける。その悩める魂に、甘き救済を届けて見せるとリッカは奮い起ち──

 

「超COOLな甘き菓子を、届けに来たよ旦那ぁ!」

 

「むっ!!?────」

 

噂をすれば、糾弾してみれば其処にいたのはじゃんぬとジャンヌの大切なマスター。そんな突然の来訪にジルは平静を取り戻し装甲をそっと仕舞い戻す。彼女こそ、楽園にてじゃんぬとジャンヌのマスターに相応しき対話の龍、とくに龍が神を冒涜するに相応しき獣の概念に近しいためとりわけ好ましきもの。マスターの、そしてかつての理解者と同じ言葉に精神判定が成功する

 

「ほほほ、これはリッカ殿、何事でしょうか。私は御覧の通り瞑想の最中でして。一見して暇そうに見えるでしょうが、我が脳内は蛸壺にて蠢く触手のごとくみっちりと活動中。できればそっとしておいてほしいのですが・・・」

 

私の知ってる瞑想と違う・・・まぁそんな解釈違いは些末なので、リッカはこの聖なる怪物に渡す。確かな救いと、確かな甘きものを

 

「はい、ジル!ハッピーバレンタイン!」

 

手渡すそれは、ジャンヌの旗とじゃんぬの剣をあしらった二人の聖女をモチーフとしたチョコレートである。旗には『かるであのみなちん』と書かれており、じゃんぬの剣にはリッカのマークが描かれた二人の聖女との合作である

 

「ジルの為にじゃんぬ二人と作り上げたCOOLなチョコレート、あげる!味わって食べてね!」

 

「・・・────おぉ、おぉ・・・聖女が、マスターが・・・私めに、私の為に・・・?」

 

なんという、なんという事でしょう・・・そう言ってインスマスアイから滝のように涙を流し続けるジル。よほど胸に響いたのか、泣くうちに目が引っ込んでいく

 

「──楽園には、救いが満ちている・・・私の懐いた憤怒すらもこうして即座に救済をもたらすとは我が憤怒が物理法則を歪めたかと思いましたがそんな事は無かった──」

 

「良かったね、ジル。ほら、食べてごらん?」

 

言われるままに口に運ぶジル。ホワイトチョコの旗、ビターブラック(リッカマークだけ甘い)の剣を、涙しながら食べ進めていく

 

「おぉ、私ともあろうものがこの幸福を表す言葉をみつけられぬとは・・・リッカ殿、あなた様は本当に美しく雄々しき、誇り高き魂をお持ちだ・・・」

 

「大袈裟だよー。これからもジャンヌたちと仲良くね!」

 

鎮静したことを確認し、そっと一人にしてあげようと離れんとするリッカを、ジルは呼び止める

 

「リッカ殿、少々お待ちを。言葉では返せない以上、違うもので御返ししたく・・・」

 

そう言って彼は静かに工房にこもり、数分ほどした後にとあるものを持ってくる。黒き包装に包まれし、可愛らしく・・・?デフォルメされたジル・ド・レェ。その名も・・・

 

「ジル君人形!じゃんぬから話には聞いていたけど、現存していたというのか・・・!」

 

「ほほほ、そうかしこまらずとも結構。カルデアにてフォウ殿パペットとクリスマス商戦を戦い抜き、やがてワゴンにうず高く積まれることとなった歴戦の勇士、ジルくん人形でございます!」

 

フォウくんパペット、そしてジルくん人形。クリスマスの子供サーヴァントに大人気であった商品の片割れがひとつ。初回生産プレミアものをリッカに渡すジル。そこに込められた意味は、ただ揺るぎない感謝のみである

 

「どうぞお納めください。このジル・ド・レェ、最大限の感謝の気持ちです」

 

「いいの?私、お礼目当てな訳じゃ・・・」

 

「良いのです、良いのです。共に受け取るから感謝、意思の疎通を共有せしめることこそ触れ合いの妙。この良き日を永遠になさることが出来るよう、ジルめの願いにてございます」

 

ともに感謝するから、それは素晴らしいのだとジルは語る。一人ではなく、他者の繋がりこそが大切である。かつて聖女に、魅せられた時のように

 

「じゃんぬとジャンヌ、私の救い。どうか貴女に託します。我が麗しの聖処女をどうかこれよりもよろしくお願いいたしますぞ、リッカ殿」

 

「ジル・・・」

 

「ささ、このような怪物めにかかずらう時間はあなたにはありませぬ。貴女はどうか、光溢れる道にてその黒曜石がごとき魂を輝かせなさい。私はそれを、遠くから見守っておりますゆえに──」

 

深海の音、貴女にセイレムの導きあれと、リッカを送り出すジル。その顔は、より一層の笑顔と輝きに満ち充ちていたという──

 

そして、リッカは再び赴く。逃げ出したチョコレートの回収の旅へ──




エルキドゥ「チョコレートの回収は完了したよ。どうやら満足したらチョコレートは元に戻るみたいだね。不思議なものだ、楽しいけれど骨が折れるね、リッカ」

リッカ「ううん、楽しいし交流できるから大歓迎!このままどんどん行こう!」

エルキドゥ「そうだね。どうやら次は楽園の外に行ったみたいだ。的確に回収して本題に戻ろっか。僕も君も、渡してあげたい人が待っているもんね」

リッカ「そだね!じゃあ早速──!」


~管制室

ロマン「あぁ~・・・コタツ、あぁ~・・・シバの姿も見えないし、仕事は入ってないし、所在なさげな僕を癒すサンクチュアリ・・・最高じゃないか、ゲーティアも人理焼くよこんな素晴らしいものが人の手にあったら・・・」

オルガマリー「──仕事よロマン。チョコレートを回収しにリッカとエルキドゥが向かうわ。支度なさい」

ロマン「え!?ちょ、なんです!?チョコレート!?えぇ!?」

リッカ「場所は海上、海賊船・・・あっ」

エルキドゥ「~。道化の相手もしなくちゃダメみたいだね。まぁいいや。的確に行こうかな」

ロマン「え、ちょ、えぇ!?」

オルガマリー「気を付けてね。レイシフトスタート!教授がいたら私も向かうからよろしく!」

「誰か説明してほしいな!?何が起きているんだい──!?」

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