人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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上空

リッカ「何故に上空ー!!?ちゃんとウルクのジグラッド前に設定したんじゃ無かったのー!?」

エルキドゥ「ほら、あれあれ。サーヴァントになったらやっておきたい事があるんだよ僕」

リッカ「え!?こんなウルクの上空で!?何それ!?」

エルキドゥ「それはねー・・・(ワクワク)」

「──!?」

「(ワクワク)」

「・・・(泥で翼を展開しようとする)」

「あっ・・・(シュン)」

「──エルキドゥ!!着地任せたーっ!」

「任された~っ」

指示と共に、猛烈な勢いで足から魔力を噴射し、超速でリッカを抱え下へ加速、一瞬ふわりと静止し、ゆっくりとリッカを下ろす

「これこれ。『着地任せた』はサーヴァントがマスターにやりたいこと上位に入るからね。是非マスターしておかなくちゃと思ったのさ。あ、今のもジョークさ。──リッカ?」

リッカ「せ、世界が・・・世界が急落した・・・」

「あぁごめん、遅かったかい?じゃあ次は速くするね?」

「逆ぅ!?」

「ふふっ、付き合ってくれてありがとう。じゃあ、行こっか。ちょうど近くだしね」

リッカ「・・・此処は・・・」

エルキドゥ「そう──エビフ山さ」


~霊峰・エビフ山~


チョコレートと殺意とかつての恩讐

「幸せはー、歩いてこない、だーから歩いて行くんだねー♪」

 

神代、ウルク。人類が神と訣別し、そして独り立ちして歩き出した黎明の時代。人が人として、思うままに歩み出した時代。神秘が、神や悪魔が当然のように闊歩する、魔術の観点からも歴史の観点からも、大いなる謎とロマンが満ち溢れた時代に、レイシフトにて脚を再び踏み入れた者が二人、彼女らは今、片や軽やかに。片や恐る恐る・・・意外と整備された山道を歩んでいた。神代へのレイシフトを極めて精密かつ、万全に成し遂げられるのも、極限まで進化したカルデアの技術そして有能なスタッフがあればこそである

 

『リッカ、その先にいる者が何か分かってるのよね・・・?』

 

オルガマリーの声音にも、心配と憂慮の色が濃い。そう、此処は霊峰、エビフ山・・・とある女神が根城としている山であり、頂上には語るも恐ろしき天の女主人がいるのだ。そこに向かうのが、よりにもよって彼、エルキドゥと言うのだから不安はまさに尽きないのだ。エルキドゥ、そしてかの女神の仲の悪さは語り草となるほどであり、顔を見合わせた時に何が起こるか等、最早火を見るよりも明らかなのだ。当の本人が極めて上機嫌なのも、逆に不気味極まりない。一体、何が待っているのか・・・そうリッカが考えていた時

 

「さーんぽ進んで二歩下がる♪」

 

「ぶべらっ!」

 

前を歩いていたエルキドゥが突如バックし、リッカに背中からぶつかって来たのである。突如のバックアタックにも微塵も揺らがぬリッカの体幹にて、受け止められたエルキドゥの美貌が眼前に接近する形となる

 

「ダメだよ?余所見しながら歩いてちゃ。山道は危険がいっぱいさ。まぁエビフは僕らを歓迎しているみたいだけどね?」

 

「え、そ、そうなの?」

 

「こんなに穏やかな道行きは早々無いさ。──やり易くていい。さぁ行こう、リッカ。僕のお願いはたった一つさ。──これから行う交渉を、上手く取り成してほしいだけだよ」

 

即座に察するリッカ。確かにそれは、第三者がいないと成し遂げられる筈もない。目と目があう瞬間殺しあいが始まるような関係なのだ、むしろ交渉とはなんぞや?と言ってもいいくらいである

 

「この交渉に、ウルクの未来がかかっているんだ。頼んだよ、リッカ」

 

「──う、うん!」

 

バレンタインから何故にウルクの未来・・・・?そんな疑問を追いやるエルキドゥのかつてない真剣な声音に、静かに頷くリッカ。此処まで来たなら、やるしかないのだ。キーラを前にしたスマブラファイター達のように

 

「ありがとう。よーし再開だー。リッカ、押してってくれるかい?」

 

「待って!出来ないことはないけど二足歩行の利点を活かそう!」

 

のどかな、そしてかすかな緊張を孕み、二人は和やかにエビフ山の頂上に登っていく・・・──

 

けんえんの なかすらぬるき へいきかな

 

 

 

──そして、件のエビフ山頂上。山の許可なく建設されし、輝かしき天の女主人、イシュタル神殿にて──

 

「帰りなさい」

 

「ハハッ、取り付く島もないや」

 

殺意と霊気を、おぞましき神気をみなぎらせ、瞳を金色に輝かせ指に宝石を挟ませ臨戦状態にて二人を出迎える美の女神、イシュタル。二人の忌むべき来訪者、一人は容認するとして一人は敷地を跨がせることすらおぞましい相手に絶対零度の怒気を向けているのである

 

「リッカ、人理を取り戻した功績の報告と謁見の礼に来たのは誉めてあげる。百歩譲って、新年始まって一年経ったのもまぁ許してあげる。──でもね、お付きや従者の選択が最悪よ。もう喧嘩売ってるのかってくらい。あなたはもう少し聡明かと思っていたのに」

 

「そのー、エルキドゥがどうしてもと言うので、取り成しに・・・」

 

「話すことなんて何もないわよ。とりあえず、話をしたいなら沢山の宝石の持参と隣の泥人形をなんとかしてから出直してらっしゃい。じゃあまたね」

 

会話すら、同じ空気を吸う事すら疎ましいとばかりに鼻を鳴らし、奥へと引っ込まんとするイシュタル。本格的に虫の居所が悪いようだ。メンバー的に仕方ない部分はあるのだが・・・

 

『どう考えてもイシュタル的には穏やかじゃないよねぇ・・・犬猿なんか目じゃないくらいの不仲だもんね・・・』

 

『とはいえ、此処まで来てしまって手ぶらは上手くはないわ。リッカ、なんとかしてきっかけを・・・』

 

二人と作戦会議を行っているなか・・・──その拮抗は、唐突に崩れ去ることとなる。緑の麗人が、それを成し遂げたからだ。神をも恐れぬ行為、そのものを

 

「あいたっ!?」

 

背を向けたイシュタルに、エルキドゥが『ソレ』を投げ付けた。こっそりと作り上げた、イシュタルにのみ捧げんとするチョコレート──

 

「──ハッピーバレンタイン。最新の未来には、相手を高血糖と脂質で殺せる食べ物があるんだ。折角だしお前にあげるよ。豚のように貪って鼻血を流して死ねばいいと思うな」

 

内蔵を大量に詰め込みコーティングしたチョコレートと呼ぶべきではない生臭い贈り物をイシュタルの頭に投げつけるエルキドゥ。想いの籠った、サムズダウンを添えて

 

「────────」

 

その想いの籠ったプレゼントに、静かに笑顔を向けるイシュタル。──見るものが震え上がるような、おぞましき敵意と殺意を込めて

 

「あぁ、ついでにこれもあげるよ。醜悪な出来損ないなんだけど、きっと君の神殿にピッタリだ。ほら、同じ神代の出来損ない、メソポタミアの恥さらし同士──」

 

・・・其処からは極めて迅速に事が進むことになる。エネルめいた顔になるリッカ、静かに強制転移の準備にかかるロマン、静かに目を覆うオルガマリー。何かをやらかす筈とは予想していた。だが、初手でいきなりこのような挑発をするとは──

 

「────殺す!!」

 

侮辱に次ぐ侮辱、不敬に次ぐ不敬に短い堪忍袋の緒が完全に断ち切られたイシュタル。即座にマアンナを展開し、無数の砲撃魔術の絨毯爆撃をリッカらにお見舞いし命を奪わんと飛来させてくる。それを容易く捌きながら、リッカに背中越しに語りかける

 

「そういう訳で、なんとかいい感じに取り成してくれるかい?この通り頭に血が上っていて、話あいが出来る状況じゃ無さそうだ」

 

「頭に血が上ったのは確実にこっちのせいだよね!?交渉っていうか喧嘩売ったんだよね!?」

 

「あはは、そうとも言うね。じゃ、丸く収まる感じに頼んだよ、リッカ」

 

全てを丸投げし、イシュタルとの死闘に飛び込んでいくエルキドゥ。メソポタミア最強の兵器に美と戦いの女神イシュタルの予期せぬ激突は、エビフ山の全てを震撼させた。壮絶なぶつかり合いにて再び標高が下がってしまうエビフ山には同情を禁じ得ないが、残念ながら今はそれどころではないのである。なんとかして、彼等を止めなくてはならない。リッカの手腕に、文字どおり命運がかかっているのだ

 

「この状況で交渉!?決裂しちゃったんじゃないの今!?」

 

『交渉する前に限界まで相手を煽るなんて、ウルクの交渉は変わってるなぁ・・・』

 

『そんな事言っている場合じゃないわよ!リッカ、何でもいいから二人を鎮静させなさい、このまま好きにやらせていたらメソポタミアからエビフ山が無くなってしまうわ!』

 

無数の砲撃を、数多の兵器が飛び交う終末的バレンタイン風景。そんな未知の光景にて命運を託されたリッカ。この状況を丸く収めるための手段とは・・・懸命に頭を捻り、考え抜く最中にも・・・

 

「楽園出禁だなんて大人気ないことしてる金ぴかの前に、あんたを土に返してやるわ!精々いい肥やしになりなさい!」

 

「随分と癇癪にキレが無いね。依代の人の良さのお陰かな?勿体無い、こんな神じゃなく憑依元は吟味するべきだったね」

 

一つ交わるごとに天が裂け、二つぶつかり合うごとに地が震える。空を光線が飛び交い、地から対空に無数の兵器が飛翔する。轟音と魔力の交錯する殺し合いは、加速度的に規模を増していく

 

「割って入るのはリスク高いし、エルキドゥはやるときは必ずやるから・・・!イシュタルを止めるには・・・!」

 

頭脳と機転をフル回転し、この状況の打開を計るリッカ。チョコレートを渡すために行われる目の前の終末戦争の集結を計り──

 

「──はっ!もうこれしかない!よし!!」

 

思い至った、かつての戦いの折り。損得、損益を重んじるイシュタルならば、確実に聞き届けてくれるだあろう一言を、息を大きく吸い込んで──

 

 

「グガランナに後ろから襲われて死ぬかと思いました!!!!」

 

かつてのメソポタミア防衛戦、ウルクを護る際に行われた痛恨のミスにして、カルデアへの借り。それを本意ではなくとも、確かな約定を重んじる神にへと告げる。不始末と不手際で大変な事になり申した、と

 

「──うぐっ・・・!!そ、それは・・・」

 

かつてのおり、グガランナマークIIを手掛けティアマトと戦うリッカを援護したは良いものの、優雅な宿命に抗えずコントローラーを破壊してしまったイシュタル。その弊害にて、前方のティアマト、後門のグガランナという死線へと放り込んでしまった失態を糾弾され、冷静を取り戻すイシュタルに、エルキドゥは頷き静かに戦闘形態を解除する

 

「──話を聞く気になったかい?全くこれだから短気な女神は始末に困るなぁ。リッカがいなかったらどうなっていたか」

 

「あんたがややこしくしてたんでしょーが!!リッカだけならもうちょいスムーズに進んだからね!?」

 

「あはは、リッカなら必ず何とかしてくれると信じていたさ。だからほら、少しくらい煽ってもいいかなって」

 

「──あぁ、アンタは何も変わってないのね。ギルガメッシュについてきたとはいえ、リッカとカルデアには心底同情するわ・・・」

 

「其処に出禁受けてる君も大概だと思うな」

 

「アンタはもう黙ってなさい!?あーもう、用件はなに!?私は今宝石集めで忙しいんだからね!」

 

殺し合った相手と、軽快に会話を交わす。その天災と天候のような動体に、カルデアの一行は脱力せざるを得なかった 

 

『うん、確信した!ギルガメッシュが頭を抱えるのも納得だ、というか原典でも君結構ハチャメチャだったね!』

 

『リッカ、無事?・・・ともかく、話をしましょうか。お疲れ様・・・』

 

「ウルクメンバーには・・・お姫様とエレちゃんしか癒しがいない・・・リッカ覚えた・・・」

 

ともかく、ようやく交渉の目処が立った。神殿の修理の後、リッカらはイシュタルと再び相対する──




イシュタル「ひとまず、人理修復お疲れ様。リッカ、あのきれいな金ぴかに隠れがちかと思っているかも知れないけど・・・人間のあなたが、あの企みを覆したという事実こそが大事よ。良く頑張ったわね」

リッカ「お褒めに預かり恭悦!イシュタルはまだいたんだね?」

「まー、色々やらかして文無しになっちゃったし・・・稼ぐだけ稼がなきゃって、私の事はいいの!で、何よ協力って」

「あぁ、話に来ておいてなんだけど君には期待してないよ。君の火力と射撃に用があるんだ」

イシュタル「は?私の?」

「届けてほしいものがあるんだ。ウルクへ向けてね。遺憾だけど、メソポタミアでそれが出来るのは君しかいない。だから頼みに来たんだ。ほら、此処にチョコレートも持参してある」

「趣味悪!気持ち悪いわねそれ!生態系からして別種じゃない!」

「本当におぞましいのは内面なのに・・・見た目しか判断しないのは嫌われるよ?」

「アンタに嫌われても痛くも痒くもないわよッ!!・・・まぁ、そうね・・・」

リッカ「?」

「・・・迷惑かけたのは事実だし、何かの形でカルデアには力を貸したいと思ってたし。いいわ、エルキドゥ。リッカに感謝しておきなさいよね。本当ならアンタなんかには手なんか貸してあげないんだから!」

エルキドゥ「リッカありがとう。いぇーい」

リッカ「いぇーい!」

「ホントやることなすこと癪に触るヤツね!?で、いいから早く協力内容を教えなさいよ。何をすればいいの?」

エルキドゥ「あぁ、それはね──」


~ウルク


ギルガメッシュ「なんだ、カルデアの龍め。一目散にエビフ山などに赴きおって。まずはウルクの顔であり皆大好きギルガメッシュに謁見の後メソポタミアツアーをするのが通例であろう。エアめの健勝な姿を心待にしていた我のこの昂りをどうしてくれるのだおバカさんめ!」

シドゥリ「真っ先にイシュタル様に顔を出すとは・・・あの御年でなんと敬虔深い。お小遣いに銀五枚を差し上げましょう」

「全く、信仰する神は吟味しろと言うに。マルドゥークにティアマト、エレシュキガルがおるのだ、今更あの放蕩娘の何を信ずるという。──しかし、エアはおらぬのか・・・エルキドゥなど連れおって。私はこんなに自由アピールか!玉座から離れられぬ我への当て付けか!生意気になりおって、腹いせだ!アジダハリッカのサイン会を無許可で展開してくれるわ!シドゥリ、用意を──」

兵士「ギルガメッシュ王!失礼いたします!火急の用にて御座います!」

「む、どうした?あぁ、イシュタル関連はよい、適当に宝石をアンダースローで投げ付けて──」

「エビフ山より!甘い匂いを漂わせた謎の弾丸がウルクへと飛来して来ます!超速でありながらおぞましいコントロールにて、ウルクの民たち全てに!」

シドゥリ「!?!?」

「王、指揮を──おぐふっ!?」

「なっ、これは──」

『ウルクの民たちへ』

ギルガメッシュ「──えぇいリッカ!何をイシュタルに吹き込んだ!ウルクへの突然の来訪にしては物騒に過ぎるであろうが──!!」

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