人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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工房


『これ程の力を発揮する者などあるはずがない!お前は何者だ・・・!』

氷川『ただの・・・人間だ!!』


ダ・ヴィンチちゃん「──尊い・・・神すらをも感嘆させる人間の力、想い、発明、科学・・・」

(・・・尊い・・・私も神すらを驚愕する発明を作るに再び至れるだろうか・・・!よし、メカニカルライダーを見直そう!ありがとう愛弟子!ありがとうリッカちゃん・・・!)

「・・・次は、ドライブを見ようかなぁ・・・いや!ダブルがお勧めされてるし・・・よし!ビルドを見よう!いや、全部見るぞ!もしかしたらロリンチボディに手を入れるかもだ──!」


──そーっと、そーっと・・・



『鍵明け宝具』

──よし。お邪魔、します・・・


まつろわぬあなたへ捧ぐ、ありがとう

『──・・・?』

 

カルデアの区画の中に鎮座せし、黄金の偉容──英雄神、マルドゥーク。英雄王の蔵の最深にて眠り続けていた黄金の戦艦にして、神体を形成せし荒々しき五体。人類の中で最も尊き祈りに応え、魂のみを顕現させ人造のロマンに定着させた、財宝にして究極の英雄神。カルデアの守護神にして、ウルクをその威光と偉容にて戦い抜いた誇り高き神は、平時の平穏を静かに見守っていた。笑顔の溢れる楽園を、其処に満ちる人の営みを。ただ静寂に、静粛に。起動する事もなく、武装を振るうこともなく。祀られし神として、ただ泰然不動を維持し、カルデアのドックにて次なる戦い──遥かなる星の海へと赴くその瞬間を心待ちにし待機状態を崩さぬ彼の神の下に、とある者が現れる

 

『──air?』

 

その白金の輝きを見間違う筈はない。己が祈りに応えし、現代の姫。王の至宝。人としての輝きの極致に在りし、己をこの世界に招き入れし者。英雄王が至宝として寵愛する英雄姫・・・ギルガシャナ=ギルガメシアが、単身その魂のみにて、人気のない自らが鎮座するドックへと脚を運んで来たことに、マルドゥークは頭に?マークを浮かび上がらせ面食らう

 

──神の社たる場所に、無断で侵入する無礼を御許しください。我等が英雄神、マルドゥーク。・・・でも、どうしても。あなた様に、成さなくてはならぬ行いが、そして・・・示すべき想いがあるのです

 

いけない、魂が冷えてしまう。放熱して部屋の気温を上げようと考えたマルドゥークではあるが、かの姫は成し遂げたい事が、この機械の神体に在るという。──この身を楽園に招き入れし大恩、変わらぬその在り方にて充分すぎるというのに。だが、かの姫はこの世にて己を確立して一年しか経っていない。恐らく、彼女のみの考えがあるのだ。それを自らのお節介にて台無しにするのは上手くはない。・・・ここは彼女に任せよう。意識のみを起動させ、後は全てを停止させ彼女に委ねるとしよう。そう決意したマルドゥークの翠の瞳が静かに点滅するのみとなり、端から見れば完全に停止しているようにしか見えない状態となる

 

(・・・ドッタノ?)

 

静かに姫を見守るマルドゥーク。その思案と心配は、即座に覆される事となる。・・・神が神であるべきものを、神が神である為に不可欠なものを。彼女はこの日に、用意してくれたのである──

 

 

ありがとう かみもひとでも 伝えたい

 

 

──これから、少しの間。失礼いたしますね。誠心誠意、執り行わせていただきます

 

エアは日本・・・敬虔かつ信心深い文化に習い、二礼、二拍、一礼を行い。王より託され、生活用品や調度品に繋がる鍵剣を空間に差し込み、それを行う器具と道具を用意する。それは、清掃の為の用具一式、マルドゥークの神体をスキャンし解析する宝具、そして、かの神を『一人』にて掃除しきる為の時空間の流れをやや停滞させる宝具を展開する

 

──それでは、参ります。どうか、御無礼を御容赦くださいませ

 

一呼吸起き、意を決してマルドゥークの神体の清掃を開始する。そう、エアの成し遂げたい事とは、カルデアを・・・そして『王の都市』たるウルクを、その神威と威光にて守護し、獅子奮迅の活躍にてあの難局を完膚無きまでに打ち砕き、誰を欠けることなく乗りきる事ができた事への尽きぬ感謝と想いを。バレンタインという、大切な人へと伝える日を以て示そうと彼女は考えたのである

 

──流石にあなた様へ捧げるチョコ・・・そもそもチョコを動力に出来るかどうかも不明瞭でしたので。こういった直接的な手段と行動にて、僅かにでも感謝を示したいと思い至ったのです。どうか、少しでも。その身の癒しに、ワタシ達の感謝が、あなた様へと届きますように

 

60メートルもある巨体を、一分の無駄もなく流麗にして完璧な手順でエアが清掃、手入れしていく。装甲の傷を消し、駆動域にエーテルを循環させ、ピカピカに磨きあげ、異常が存在しないかを入念に、丹念に。念入りに。全て手作業にてエアが行っていく。言葉が届いているかは分からずとも、通じているかは不明であっても。エアは言葉を、感謝を紡ぐ事を止めはしない

 

だって、マルドゥーク神がいてくれたからこそあの結末は、ウルクの笑顔は・・・王の財は保たれたのだ。あの懸命に生きた者達の奮闘は、願いは、希望は未来へと繋がったのだ。そして──母との訣別を、人類の独り立ちが叶ったのも、その大きな力となってくれたのが、この神なのだ。強く、そして優しく。愉快にて笑顔を、明日を庇護してくれた。その想いと感謝は、蔑ろには決して出来ないのだから

 

──時間をいじるのは御容赦くださいね。チョコの代わり・・・ではないのですけれど、多少無茶でも、マルドゥーク神へ捧げる感謝として、なんとしても成し遂げたい事なのです。でも、バレンタインが終わってしまっては意味がありませんからね!チョコではなく、しかし同じ感謝を示す形としての行為、なのですから

 

その身が汗や汚れにまみれることを、エアは全く厭わない。己の身の穢れなど、気にすることも意に介する事もない。大好きなバイクを手入れするよりも念入りに、丹念に。滴る汗を拭いながら、汚れが磨きあげた装甲に移らないように、何度も拭きながら。感謝の想いを、溢れる願いを込めて磨きあげ続ける。誰も見ていない、誰の記憶にも記録にも残らない。──そんな事は些末な事であると。他人からの称賛も、礼賛も。気にかけ意識する事はない。ただ、己がそうしたいからそうしているのだから

 

感謝を告げる。ありがとうと言った想いを、大切な祈りを捧げながら清掃を行う。忘れない、忘れてはならない気持ちを、こうして捧げ奉る

 

それもまた、かけがえのないエアにとっての愉悦なのだから。心と心との触れ合い。示す繋がり。神であろうと、人であろうとも。その奇跡そのものこそが、人という種が見出だした、かけがえのない価値にて、大切なかけがえのない紋様であるのだから──それを、神たる彼に示さんとしているのだ。かつて、母に人の決意を示したように。この誇り高き英雄神に、心が繋がる素晴らしさを、こうして、感謝として示す行為こそ、彼の神に捧げ奉る、バレンタインの気持ちに他ならないのだから

 

『────・・・・・・』

 

マルドゥークはただ静かに、エアの手を、想いを、その言葉を受け止め、受け入れていた。神体に触れることを容認し、彼女の一字一句にただ、耳を傾けていた。苛烈さも、厳かさも其処には無い。静かに、穏やかに・・・暖かな心を、想いを、その柔らかな慈愛を受け止めている

 

・・・時間にして五時間。本来ならば二日かかる工程を、一切手を抜くことも、緩める事も無く。全てを手作業にて、全てを完遂し、汗を拭い、完成を──

 

──お時間を取らせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。最後に・・・ワタシが日本にて、一番大好きな言葉にて。この言葉と作法にて。締め括らせていただきますね

 

疲れを意に介せず、しかして身辺を完璧に整え、呼吸を静かに吸い、吐き出し。・・・目を閉じて、手を合わせ・・・輝きを放つマルドゥークに手を合わせ、その儀式を締め括る

 

──英雄神、マルドゥーク。ワタシの大好きな王と、その素晴らしき財たちを護り、未来を切り拓いてくださり、ありがとう──

 

深々と頭を下げ、心より、全身全霊の感謝を捧げる。どうかこれからも、これよりも。願わくば。ずっとずっと、自らを・・・そして、人類の行く末を見守っていてほしい。人は神と訣別を果たした。けれど、見守り、庇護してくださったからこそ、人は人として歩み出すことが出来たのだ。その心を、その想いを・・・忘れることが無いように

 

──ワタシのお声を聞き届けて下さって・・・嬉しかったです!マルドゥーク様、ありがとうございました!本当に、本当に・・・カッコよかったです!

 

・・・──マルドゥークの、感嘆にて潤み明滅する瞳に最後に映りしは。星の輝きすらも及びも付かぬ程に煌めくような。白金に輝く姫の笑顔。胸のトゥプシマティ・コアを狂おしく輝かせる、魂の煌めき──




──ふぅ。想像以上に時間がかかった上に、王の財にまで頼らなくては掃除ができないなんて。もっともっと精進しなくちゃ・・・


『──姫よ』

──エアの表情が、驚愕に見開かれる。荘厳にして優しき、慈愛に満ちた声音が、魂に直接響く

──マルドゥーク、様・・・!?

聞き間違える筈はない。それは、ウルクを、その威厳にて希望をもたらした──

『──その身に、森羅万象の祝福あれ』

その言葉と共に、エアの下へと恵みと祝福を形をもたらせしマルドゥーク。・・・エアの魂に纏われし、賜せしもの

──これは・・・!

マルドゥークの装甲と同じ材質にて、白金に輝きし、エアの為に拵えられし鎧──自らの神威と祝福の具現を、彼女に託す

『──その声に、その魂に・・・我は如何なろうとも応えん』

──・・・!!

・・・エアは再び、礼を尽くし頭を下げる。──雄々しきロマンの化身。英雄の中の英雄神。マルドゥークに有らん限りの想いを込めて──

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