フォウ(大丈夫かな、エア・・・ちゃんと渡せるかな・・・?)
「何を覗いてるのかな?」
(うわぁビックリした!?なんだエルキドゥか・・・エアがチョコを渡すからね。覗いてるんだよ)
「ふふっ、そっか。──じゃあ、一緒に見よっか」
(え?行かないの?)
「僕も空気くらいは読むさ。・・・でも、大丈夫だよフォウ」
(?)
「──ボクの友、君の姫が。ボクたちの事を忘れるわけ無いじゃないか」
──王。おられますでしょうか。貴方に名を、生を見守られしもの。英雄姫の名を賜りしエア=レメゲトン。拝謁の義を果たしに参りました
都合十度の深呼吸と共に、訪れし自らの部屋にして、王の玉座が存在せし楽園の中枢。いつもの穏やかな雰囲気ではなく、礼を尽くし、敬意を払い扉の前に立つ
そう、バレンタインの締め括りを執り行う為に。楽園の財たちのように。かの英雄の中の英雄王に感謝を告げるために。──作り上げた甘味を示すために、姿勢を正して王に謁見の許可を乞う
《──フッ。漸くか。一日千秋の想いとはこの事よな。待ちわびたぞ、エア》
返答にて響き渡りし、絶対的なる王の輝きと威光がエアの耳に届く。待たせてしまったとは言うが、それはつまりこの来訪と邂逅を心待にしていたということである。飛び上がりたくなるような喜びをぐぐっとこらえ、静かに一礼し、次なる王の言葉を待つ
《よい。この来訪を以て全ての問題を流すとしよう。──心の準備は万全か?さぁ来るがよい。我の下へ至り、その研鑽を我に示すのだ。・・・えぇい!煩わしい前置きはよい!楽園と御機嫌王たるこの我は最初から最後まで最高潮なのだ、お前もそれに従い、我に笑顔を見せるのだ!》
──は、はい!それでは、失礼いたします!王!
想像以上に積極的な王の様子に弾かれたように応え、ふよふよと部屋へと侵入するエア。いよいよ、バレンタインにおけるエアの研鑽を示さんが為に。胃が若干荒れ気味の王の下へと白金の姫が赴く──
ありのまま つたえしめすが すてきかな
《よくぞ来た。勇者の来訪を待ちわびる魔王、帰参を待ちわびる父親・・・うぅむ、上手い例えが見つからぬな》
──魔王を征伐した勇者を待つ王、でしょうか
《正鵠を射たな、流石はエアよ!善意の氾濫、ユーフラテスの奔流がごとき感謝の爆撃を乗り越えた我もその切れ味を見ればたちどころに復活よ!最早なんの問題もないわふはは!》
心なしかげっそりし目の下に隈が見え、疲弊していると見受けられる王の様子は気掛かりではあるが、かの王が問題ないと告げたのなら掘り返し、問い直すことは不敬に当たる。後で寝室にて休息を取ってもらおうと決意した後、──王はエアの身に纏われた白金の鎧にて、些かの遅れの理由を読み解く
《ほう、英雄神にも献身したか。ふはは、祈りを捧げた魂の奉仕は余程身に染みたと見える。信仰と信奉なくして神は成り立たぬからな。だが、マルドゥークめも無償の敬愛を向けられるのは初と見えるな》
──えっ?そうなのですか?
かの神が、なんの礼も示されないとは考えにくいのだが・・・それを王は問いにて補足を行う。神と人は基本、打算と協賛の上にて成り立つのだと
《神とは信仰を起こすシステムだ。宗教の象徴として信仰を示し、集め、己を確立する。そして神に人が祈るのは当然恵みを得るためだ。恵みをもたらさぬ神に信者は根付かぬ。白痴の神に信者がつかぬも、信仰する旨味がないからだ。──お前はただ、かの神に感謝を告げる事のみを決意し赴いたのであろう?》
──はい!ウルクを護ってくれて、ありがとうと言った気持ちを!
《忘れ去られし原初の神、それが最新に生きる魂に敬愛と曇りなき感謝を示されること。即ちそれは神にとって最上の供物に等しい。かの神は余程身につまされたのだろうよ。信仰が失われし現世にて、神官すら上回る信仰を示したのだ。──すべての銀河の中に、手を入れる必要すらない青き星を見つけたようなものだろうさ》
それほどまでに、彼の神は喜ばしかったと。それほどまでに感謝の気持ちは尊きものであったと。──何より、それほどまでにマルドゥーク神が感謝を受け取ってくれた事そのもので、マルドゥーク神と同じように。胸が満たされる感覚を覚える
《さて、それはそれでよい。何れ程の感嘆であったのかは、かの神威そのものたる鎧を見れば解ると言うものよ。その鎧、我が蔵にも存在せぬ逸品だ。カルナめの太陽の鎧、アキレウスの不死の肉体や盾すらも上回る性能を示すであろう財、努手放すなよ?》
王の告げる鎧の凄まじさに思わず生唾を飲み込みつつも、それだけで終わらせる事なく頭を振り王に真っ直ぐ目線を向け、姫と王の、瞳と視線が交錯する
──はいっ。・・・神に示した敬愛に、決して劣らぬと自負と想いの下。王に・・・ギルに、渡したいものがございます
《赦す。お前の研鑽と敬愛を認めよう。英雄王たる我が吟味し、裁定するに相応しき資格を存分に備えているとな。──最早言葉は不要だ。お前の全霊を我に示すがよい》
その言葉に頷き、エアは今こそそのバレンタインの成果を開帳する。賜されし黄金の鍵剣を虚空に差し込み、──都合三日をかけて作りし王のための成果の結実を、波紋より顕現せしめる
──絶対にして始まりの王よ。英雄の中の英雄王よ。これがワタシの尽きぬ想い、あなたの威光と輝きを心から信じ、人類を愛するあなたへ、孤高なるあなたへとお捧げするカタチにてございます
《──》
其処に現れしは──エア、否『無銘』である頃より共に在り、そして今なお輝き続けている『楽園』。王が手掛け、最先端にて彩り続け、そして進歩を続け、磨かれ偉容を示す・・・御機嫌王の『財』そのもの。其処に住むもの、其処に改築されたもの。其処に在りしもの。それら全てを、多種多様な材料とチョコにて再現されしもの
──チョコレートにて再現せし『
プレシャス・ロイヤルズたちの協力にて、それでも三日かかった渾身にて全身全霊の成果。サーヴァント、職員、ディテールも含めたカルデアの全てを精巧なる手作業で再現したもの。チョコにて再現し抜いた、カルデアに在りし財たるものすべて
《──我が治めし楽園、第二のウルク。それを再現したと言うのだな。エア》
ミニチュア、否、スケールダウンされたその場に在りしカルデア・・・外装に至るまで完全に再現されたその様相。何気なく手に取りし、精巧に作られたギルガメッシュの形を成すチョコレート。一人一人の風貌すらも完全に形どられている。手の中にあるギルガメッシュのチョコレートは、誰よりも楽しそうに笑っていたのだ
カルデアを支える職員たちがいる。召喚に応えたサーヴァントたちがいる。──本来ならば存在し得なかったオルガマリー、ロマンもまた、チョコレートとして確かに其処にいる
──色々考えてみたのです。アルトリアさんの等身大のチョコか、英雄王の宝物庫の樹系図を再現するか、乖離剣と天の鎖をチョコにするか・・・でも、それだと・・・
《──それだと、なんだ?》
──あっという間に食べきってしまい、王と・・・ギルと語り合う時間が無くなってしまうと思ったので・・・手間隙がいくらかかろうと、どれほど困難であろうと。共に語り合える時間と一緒に、一つ一つの思い出を振り返りながら・・・一緒に、食べたいな、と・・・
そう。一緒に食べたかったのだ。今までの思い出を、戦いの記録を、愉悦に満ちた旅路を、共に振り返りたいと。それを成し遂げるためのチョコを作りたいと願ったのだ
どの場所も、ただの一つも使い回しはなく。財の選別にてカロリー、そして栄養バランスと身体への影響を考え抜き、あらゆるチョコを使用した、何時間かかろうと飽きさせぬ作り。思い出を振り返り抜くまで、決して王を退屈させないようにと願い、作り上げられたチョコを、王に献上する。
──誰もが笑顔であること。誰もが欠けぬ愉悦に満ちた日々を送れる事。それは全て、王がいてくれたから。何よりも・・・
何よりも・・・知らない、分からない事ばかりであり。無味乾燥であり、王を汚す存在でしか無かった転生者の自分を見定め、そしてこの身体と魂、名を与えてくれた事。それはこの魂が滅び、潰えようとも決して色褪せない想い。・・・何をしようとも、何をしても。胸から溢れる想いを伝え切れはしないけれど
──ワタシを、『姫』と呼んでくださって・・・ありがとうございます。ワタシを、至宝と呼んでくださる事。それはワタシの、かけがえのない誇りそのものです。この在り方を、この想いを・・・決して損なわぬと此処に誓います
だからこそ、ならばこそ。王に伝えたい。何度でも、何度でも伝えたい。形にするもの、形に出来ないものでも。あなたの傍で、伝えたい
──ワタシの心と共に。どうか、お納めください。ワタシの大好きな、唯一無二の英雄王。どうか赦されるのなら、これからもずっとずっと、御側に侍らせていただけますように──
言葉を告げ、感謝を捧げ、研鑽を納め。深々と頭を垂れ王の前に片膝をつく。告げるべき感謝と言葉を尽くして
《──────》
王は長く、長く沈黙している。姫もまた、静かに王の裁定を待っている。心が重なり、通じあったが故の心地好き間。あっという間であったのか、それとも永劫に感じるほどであったのか
《──エアよ。お前の研鑽、確かに受け取った。・・・だが、一つ。このチョコには欠けているものがあるぞ》
──欠けているもの・・・?
王は玉座より立ち上がり、静かにエプロンを付けキッチンへと引っ込む。手伝うべきか否かを判断しかねているエアの前に、約三分経過した後、王はそれをエアに見せる。自らが唯一手掛けた、手掛ける資格を持ちうる『それ』を
《画竜点睛を欠いては台無しと言うものよ。そら、お前の面貌に似せられたかは分からぬが・・・何、戯れとしてとっておけ》
──!これは・・・!
・・・王が手掛け、形にしたもの。それは柔らかに微笑む『エア』のチョコであった。浮力を発生させ、腕を組み笑う王のチョコの傍に、そっと置き本当の意味でチョコを完成させる
《御機嫌王たる我は、お前抜きでは成り立たぬ。お前と言う至宝を庇護する事で、我は人類史ただ一度きりの『御機嫌王』足りうるのだ。それを努、忘れるな。──我の王道は知っているな、エア》
──王に相応しき財を獲得し・・・守護する・・・
《然り。──故にこそ。ただ一度しか言葉にせぬぞ。心して受け止めるがよい》
そう、故にこそ。エアを守護し──楽園を守護すること。それこそが・・・
《──お前は我の王道、そのものよ。我の傍から離れることは断じて赦さぬ。時の果て、怠惰極まる人間どもが価値を示すその日まで。我の傍にて人類史を楽しむがよい。これが、お前に下す決定だ》
──!
《──敬愛、そして献身。最早言葉にするも無粋な程に大儀である。──唯一無二たる我が姫よ。・・・これより先も、我はお前の無二たる王で在り続けてやろう。片時も、我の元より離れるなよ?》
輝く星のような。銀河の星の総ての煌めきを尚も上回るような、エアにとって珠玉極まる言葉を賜り、感激と感動にて、総てが報われた幸福に包まれながら──
──はい!どうかずっと、ずっと御側に!時の果て、遥かなる彼方まで──!
王のバレンタインの最後を締め括る、英雄姫の笑顔を以て。波乱なる、感謝と想いを告げる一日は幕を下ろす
玉座にて座る王、傍らにて寄り添う姫。チョコレートを口にし、楽しげに笑い合いながら。・・・穏やかに。紡ぎあげた叙事詩を、共に振り返るのであった──
エルキドゥ「──うんうん、良かった。この奇跡を、ずっとずっと見ていたいね、フォウ?」
(──────)
「・・・フォウ?」
(──ボクの分のチョコもあって・・・あって・・・皆の分のチョコも作って・・・それを誰にも自慢せず、ギルの為に──なんて、なんて・・・)
「おや、来るのかい?来るのかな?」
(とうと──)
──フォウ!エル!其処で見ているのではなく、一緒に食べましょう!
(宇宙創生のとうとみビックバンキャンセルッ──!!い、いいのかいエア!?)
──勿論!だってこのチョコは『王』だけではなく、『友』と食べる為のチョコなのですから!
《そら、何をしている!エアの朋友、我が無二の友!貴様らが伴をせず誰がすると言うのだ!此方へ来い!今夜は寝れると思うなよ!》
(ギル・・・エア・・・)
「──ふふっ、じゃあ・・・いただこうか、フォウ?」
(──よぉし!胃もたれとかは任せてくれ!プレシャスパワーで夜通し語り合おうじゃないか!!)
・・・完全無欠の叙事詩、楽園カルデア。その中心にて、王と姫、二人の朋友の笑顔が満ちる──
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