人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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閻魔亭前門

紅閻魔「本当に、本当に来てくれるのでちか?こんな、錆び付いた宿に、ゴージャス御大尽さまが本当に・・・?」

ぐっちゃん(ようこそ閻魔亭法被とハチマキを着用)「信じるのよ、世界を救ったカルデアの善性を!私はともかく、困難に窮するあなたを見捨てる筈がないわ!」

(というか来てくれないと困るのよ!此処まで来たら絶対来なさい!なんでもするから!してあげるから!)

「そ、そうでちね!精一杯おもてなしするでち!・・・でも、ぐっちゃんはすごいでちね!ゴージャス御大尽様に一声かけられるくらい偉いのでち!」

「あ、あはは・・・まぁね!伊達に長生きしてないわ!」

「『閻魔亭がピンチな事を、単なる場所を伝えただけで解らせる』なんて、とても普通では出来ないでち!ぐっちゃんは伝達上手でちね!」

「──あ」

(し、しまったぁぁあぁ!?具体的にどうピンチなのかどう大変なのか伝えてなかったぁあぁ!?これじゃあ完全に客として来るんじゃないかしら!?いや、来るわよね絶対!?何してるのよ私──!?)

「?ぐ、ぐっちゃん?」

「信じるのよ!!楽園の──オルガマリーの有能さを!!」

「は、はいでチュ!」

(来てから説明するわ!とりあえず来て!お願い──!)


開幕!ゴージャス慰安旅行!!

「皆、集まってる?突然だけれど、観測された特異点に対するブリーフィングを始めましょうか」

 

 

「「「「「了解!」」」」」

 

休暇中に、突如としてオルガマリーのLINEに送られし特異点の座標、そして『助けてくれないかしら』という芥ヒナコのメッセージ。その事態を重く見た所長は、王の許可を授かり即座に職員たちを集め作戦方針を打ち立てる。如何なる些細な問題であろうとも全力で立ち向かう姿勢は、微塵も揺らいではいない。冬であろうがなんであろうが無遅刻無欠席の記録は断じて途切れていないことは、楽園の皆の細やかな自慢だ

 

「・・・皆がF1レースグランプリに挑む顔つきをしている・・・こんな軍隊顔負けの士気で毎回やってきたのかね?覚悟決まり過ぎだろう・・・」

 

平時ののどかな雰囲気など微塵もない決意に満ちた戦士そのものの姿に息を呑むゴルドルフ。一人が一人残らず最高潮の士気という、ある意味では異常そのものの状態に戦慄を隠しきれない様子だ。だが、これは当然かつ標準な事。今更驚くには値しないのである。少なくとも、楽園の皆にとっては

 

(いかんいかん、私も今は楽園の不死鳥なのだ、傍観者でいてはいかん・・・!)

 

「リラックスしていいのですよ。それでは王。お願いいたします」

 

オルガマリーが声をかけ、静かに片膝をつき面を伏せる。一矢乱れずそれに倣い荘厳な雰囲気が満ちる中、楽園の大黒柱たる王の中の王が、単独顕現により虹色と黄金の輝きを放ち、威風堂々に腕を組み玉座に君臨する

 

「うむ、久方ぶりの特異点よ。士気は高きに越した事はない。新顔も増えた今、初心に帰りし形式を取るとするか」

 

上半身の裸体を惜し気もなく晒し、黄金の輝きを放つ英雄王。──見るべきものが見れば、白金の姫も傍らに侍っている。肩に至尊の獣を乗せた王が静かに、そして厳かに言葉を紡ぐ。ゴルドルフを除き、平伏せし財達に向けた王の金言に、一同は耳を傾ける

 

「此度の特異点、規模は極めて小さい。吹けば飛ぶようなもの故、人理を揺るがすモノとはなり得まい。ならばこれは如何なるモノか。──調べはついているな」

 

「うん、座標、規模、そして種類に心当たりがあるサーヴァントがいたからね。その場所の情報を纏めたよ」

 

ソロモンの姿のロマンが静かに立ち上がり、右手の指を動かす。すると全周囲に星空がごときディスプレイが展開を果たす。ロマンが振るう魔術、そのほんの一端だ

 

「アマテラス、将門公、乙姫の証言からするに、ここは『雀の迷い宿』。現代に残る、神秘が詰まった不思議な不思議な場所、雀が経営している、神や、精霊も利用していたとされるそんな場所なんだ。──そんな場所から、救援の要請が来ている。芥ヒナコ・・・元Aチームのマスターからね。つまりこれは・・・」

 

「ごくり・・・」

 

英雄王の圧倒的な迫力、ロマンが醸し出す清澄かつ絶対的な風格。即座に格の違いをしらしめる威風。魔術師であるならば、一目見ただけで心と膝を折る程の絶対的な魔力。その王気満ち溢れる中、魂を柔らかく労り包み込むような安らぎを感じながら耐え抜くゴルドルフ。Aチームのマスターからの救援要請、それは一体どの様な困難や試練が待ち構えているのか・・・そう身構えているゴルドルフの予想は、凄惨に裏切られることになる。何故なら──

 

「つまり──一年の休暇を彩る慰安旅行と言うわけだ!喜べ財ども!貴様らの奮闘と健闘を癒すのみの特異点が姿を現したのだ!!」

 

「「「「「いぇえぇええーい!!!!」」」」」

 

歓喜に沸き上がり顔を上げる職員達。盛大にずっこけるゴルドルフ。王に殺到し胴上げが行われ、特異点に赴く準備を手早く行うオルガマリーに、慌ててゴルドルフが糾弾を行う

 

「さっきとぜんっぜん空気が違うではないか!?なんかシリアスめな事言ってたよね!?なんでこんなに切り替え早いの!?Aチームマスターからの救援要請だぞ!?警戒とか無いの!?」

 

「どんな困難もどのみち乗り越えますし。救援要請が此処に届いた時点で、最早試練や問題は解決しているのです」

 

「何その因果逆転!?自信に満ち溢れた組織運用過ぎるだろう!?もっと情報とかだね!」

 

「はい、こちら『チュチュン!閻魔亭のススメ』なるパンフレットです。大体知りたい事は此処に乗っています。というか昨日の時点で調べあげました」

 

「有能すぎて口を挟む余地が何処にも無いとかどうなっているのかねこの組織は!?意識高すぎるだろう!?うわ!ワンポイントとか見処とかばっちり纏められてる!怖い!手際よすぎて怖い!」

 

「ダヴィンチちゃんが一晩でやってくれました」

 

「万能過ぎるだろうあの天才!?」

 

あまりにレスポンスが良すぎる突っ込みと天然のやり取りに、ロマンが思わず笑みをこぼす。いつもカリカリしていた所長が、今や誰かを振り回す立場になるという事実に、感嘆と感動を隠せない

 

「突っ込み役もしっかり増えたし、ますます賑やかだなぁ。あ、今回の赴くメンバーは誰にする?ギル?」

 

「そんな遠足みたいなノリでレイシフトを使用するのかね!?アレやる度に国連の許可がいるんじゃなかったのか!?」

 

 

「ふむ、そうさな。たまには貴様もカルデアから抜け出て気分転換をしてはどうだ?シバめとの旅行の場所に不足はなかろう」

 

「んー、皆はいいの?レイシフト適性が無い皆は留守番になっちゃうけど・・・」

 

「構いませーん!」「御幸せにー!クソァアァア!!!」

 

「満場一致よ、ロマニ。所長として命ずるわ。少しは羽根を伸ばしなさい」

 

「ありがとう、皆!じゃあ──付いていっちゃおうかな!」

 

「「「「「行ってらっしゃーい!!」」」」」

 

あれよあれよとロマンのレイシフトが決定し沸き立つカルデア一同。ロマンの奮闘と努力は皆が知るところだ。休むことに何の抵抗など示されよう筈もない

 

「オルガマリー。お前も共に来るがよい。アイリーンめの能力があらば容易いはずであろう?たまにはリッカらとレイシフトで行動するも良き経験になろうさ」

 

王もまた、その裁定にて所長の苦労を察し労る為に推薦を行う。オルガマリーのレイシフト派遣の決定に、カルデアが大いに沸き立つ

 

「私は・・・良いのでしょうか?」

 

「我の下した決定だ。異を唱えられる者は存在せぬ。我は一度捨てたAチームとやらに興味はない。そやつとの交流はリッカやお前に任せるとしよう」

 

建前であることは分かりきっている。王は告げているのだ。旧友と咲き、つもる話もあるだろう。ならばこそ、お前もまた赴くがよいと。弓である英雄王では決して有り得ぬ、尊大な労りであった

 

「やりましたね所長!このナンバーワン後輩と一緒に、のんびり先輩と羽根を伸ばしましょう!」

 

「はいはい。・・・あ、ゴルドルフさんも共に参りましょう。今回の一件、レイシフトの適性や特異点の概要把握に最適だと思いますから」

 

所長がゴルドルフを共に誘うのもまた、一刻も早く皆と苦楽を共にし、もし疎外感を感じているようならそれを解してあげたいとする当たり前の気遣いであった。──先日、人として自分を気遣ってくれた御返しでも、あるのだろうが

 

「わ、私かね?ま、まぁ旅館、旅館か・・・まかりまちがっても血生臭い事にはならない、か・・・?大丈夫かな・・・?」

 

「大丈夫です。もし何かあった場合は私やマシュ、ギル。そして何より──」

 

「──ふふっ。皆はしゃいでるなぁ。旅館や宿と言ってもれっきとした特異点。油断せずにいかなきゃダメだよ?」

 

ゴルドルフの背後から響く、歴戦の戦士めいた修羅場を潜り抜け肝が座りきった声音に、何より状況を的確に把握した言葉に助かったとばかりに振り返る彼の目に飛び込んできたのは・・・

 

「全く皆、遊び気分が抜けてないんだから!」

 

背中に大量の着替えや生活品、『かるであ』と書かれたはっぴを着込み、ハチマキを巻いてしおりをしっかりと握り込みワクワクキラキラと目を輝かせる人類最悪にしてカルデア最強のマスター・・・

 

「いや君が一番遊び気分では無いか──!?なんだその格好は!?温泉泊まり込みで堪能する気満々ではないか!?遊びでは無いとはなんだったのか!?」

 

「さぁ行こう皆!!特異点攻略《いあんりょこう》へ!!

 

「「「「「「おーっ!!!」」」」」」

 

「いやおーじゃないよ諸君!?もう少し危機感とか機運の高まりとかさぁ!あぁ待ちたまえ何をする!?コフィンに、コフィンに押し込まないでくれ!これ強制!?強制なの!?」

 

「師匠、レイシフト準備をお願いします」

 

「はいよー!楽しんできたまえ、愛弟子たち!エンジョイ・エキサイティングさ!」

 

「微塵の躊躇いもなく推進とはどういうことだ!?王!王よ!これは良いのか!?こんなんで良いのか!?」

 

 

《日本の風景、絶景を見渡せし天守閣、疲れを即座に落とす効能豊かな温泉、宴会に堪えうる会場・・・我等の羽根休めの別荘に選ぶ不足は見当たらぬな。準備は万端か?》

 

──はいっ!着替え、生活一式の財は選定完了しています!御覧ください、誰よりも上手に温泉卵を作る宝具を発見してきました!フォウ、皆と食べようね!

 

(うわぁい!混浴はあるかな?のぞきを見つけたら八つ裂きにして打ち首獄門にしてやるぞぅ!)

 

「なんだか目を閉じて満足げに笑ってるんだけど!?何あれ!?シンキングタイムなの!?」

 

「ゴルドルフさん。ボクも通った道さ。慣れよう!さぁ皆!レイシフト行ってみよう!」

 

「「「「「行ってらっしゃーい!!」」」」」

 

「此処でマトモなのは私だけなのかーーー!?」

 

「ふはははははははは!!案ずるな、いずれ貴様も慣れようさ!さぁ行くぞ!ゴージャス慰安旅行!此処に開幕を宣言する!!全身全霊にて羽根を伸ばすぞ──!!」

 

コフィンに全員が乗ったことを確認し、王が指を鳴らす。単独顕現とレイシフト、同時に展開される空間跳躍にて──

 

『アンサモン・プログラム、スタート。レイシフト開始まで──』

 

──座標、確認!王よ、新たな地へ顕現を!

 

 

新たなるメンバーを加え、愉快痛快なる慰安旅行が幕を開ける──

 

 




閻魔亭

リッカ「はい到着!おぉ、此処が・・・!!」


紅く聳える、豪奢なる日本建築。あらゆる神や精霊が集いし閻魔亭に、カルデア一行が降り立ったのだ

ロマン「えーと、ヒナコちゃんは来ているかい?座標、合ってるよね?」

オルガマリー「えぇ、間違いないわ。きっと・・・──ゴルドルフさん?」

ゴルドルフ「・・・気持ち悪い・・・」

「あぁ、独特な感覚に・・・ギル?」

ギル「──伝聞していた様相と大きく異なっているな。数多の部屋が閉鎖、閉じているのは如何なる理由だ?宿を彩る施設が開いておらぬではないか」

──確かに。これではまるで、潰れる寸前がごとき・・・

「ほ、本当に来てくれたでち!凄いでち!ぐっちゃんは凄いでち!」

ぐっちゃん「──助かった・・・!ナイス、オルガマ──、・・・!?」

リッカ「?」

(な、何よこいつ・・・!?なんなの、このおぞましいくらいに暗い邪気!なにこれ、呪詛まみれのくせに龍みたいに雄々しいの、何これ!?)

マシュ「──え?ヒナコ、さん・・・?」

オルガマリー「・・・その格好は・・・」

ロマン「イメチェンかい?真面目な子がキャバクラ落ちしたような感じがある背徳的な感じだね!」

「ぁ──」

(し、しまったぁあぁぁあ!!精霊スタイルで動いてたぁあぁ!?)

ギル「──貴様が女将だな、地獄の娘よ」

「はい!その通りでち!よく来てくださいまちた!」

「──客人として招かれるのは後だ。委細詳しく話せ。この閑散とした有り様は如何なる理由か、それらをつまびらかにな」

ぐっちゃん「──!」

(問題を一瞬で・・・!これが、楽園の王の慧眼ってわけ・・・!)

──もしかしたら、愉快痛快なる奮闘記が始まるかも知れませんね・・・!

(・・・なんだか、あの王さまから、凄く綺麗な気を感じるのは・・・気のせいかしら・・・?)

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