タマモ「いやいやいやいやなぜ威嚇なさっているのです!?参ります!参りますから!別にヘルズキッチンから逃げようだなんてそんなことはですね!?」
「ワウッ!!!」
「ぎゃわぁあぁかまないでくださいまし参ります参りますからぁー!!」
タマモキャット「うんうん。リリィ、残りの尻尾もむしってしまうのだナ」
将門公「雀宿・・・」
~
この鎧様、泊まりやすいでちゅ!
大木のような安心感があるでちゅ!素晴らしいでちゅ!
~
「──我、心より楽しみ也」
乙姫「山の迷い宿!それ即ち竜宮城!!早速行きましょう!私のノウハウが、少しでも活かせたらいいのですが・・・!」
(ウラシマ、もしかしたら・・・──何て、考えるのはわがままですよね。私は、私のやることをやります!)
「よーしやりますよー!ウラシマの!!バーーーカ!!!」
「よもや、此処までとはな。宿と呼ぶには余りにも侘しいものだ。このような有り様では、どのような慈悲深き来賓であろうと踵を返そうよ」
閻魔亭、件の慰安旅行先。王らが足を踏み入れし日本の秘境、最後の迷い里に辿り着きし者達が目にしたもの・・・──それは、旅館の目玉、あらゆる施設が機能しておらず。広さすら侘しさの一助となる閑散とした有り様である。軽く一回りして見ただけで、王の愉快な高笑いが消え失せる程である
──温泉は永らく使用不能、客室、宴会の間は閉鎖・・・天守閣を初めとした大きい施設や部屋すらも復旧の目処が立たないなんて・・・どのような理由かは分かりませんが、これでは女将が、従業員の皆様が、そして何より・・・この宿そのものが可哀想です・・・
たくさんの笑顔が、喜びが、想い出が生まれ出ずる良き場所である筈なのに。これは最早、宿という存在を否定され、殺されているようなものだ。働く喜びも、お客人をもてなす嬉しさも、そして想いを馳せて此処に至りし御客達の期待も。その全てが生まれる前に消え去ってしまう。その事に何よりも、エアは心を痛めたのだ。誰よりもこの場、この宿の全てを偲んだのだ
「ねぇねぇ!温泉から美少年~、美少女~って絶え間なく聞こえてくるんだけど!?スッゴい心当たりあるんだけど!武蔵ちゃん何処いったぁ!!」
「そそそ、そのような事があろうはずがございませんリッカさん!幻聴、他人のそら似でございましてよおほほほほ・・・!」
「どういうことだ!廊下を歩いて見かける部屋全てが閉じているとはどうなっているのだ!?ストライキにでもあったのかね!?」
「ひわわわわわぁ・・・!差し押さえ!差し押さえの御札がぁ・・・!私が嫌いなもの、それは破産に差し押さえ・・・!ロマン様!縁起が!縁起が悪いですぅ~!」
「うん知ってる!ボクも予想外だったよ。腰巻きで温泉に行ったら水が入ってなくてさ、もう風邪引いてどうしようかと・・・へっくし!」
「其処は把握しなさいよ・・・」
「せ、先輩と一緒に過ごす甘い枕投げの夜が・・・!一番好きなサーヴァントは誰なのかをしっぽり問いただす私の望みが・・・!」
「此処に招かれて分かったのだが!大人しい顔して君が一番脳内桃色だねキリエライト君!?」
阿鼻叫喚の地獄絵図。地獄の宿にて訪れた嘆きと困惑に遊びに来ていた者達、そして楽園のサーヴァントがごったがえす
「申し訳ありまちぇん・・・料理も、ブインと名乗る皆様の支援はあるのでちが、如何せんお金も人手も何もかも足りないという有り様・・・情けないにも程があるでち・・・」
しおりにかかれていた見処の全てが閉鎖、或いは閉じているのだから無理もなし。しゅんと小さくなる天下の女将の有り様を見ながら、ぐっちゃん・・・芥ヒナコが深く深く嘆息する
「・・・解ってもらえたかしら。この桃源郷がごとき宿、隠れ里の風前の灯の在り方を。これを危惧して、私はあんた達を招いたのよ」
「ヒナコ先輩!私藤丸リッカって言います!カルデアAチームの先輩として、リスペクトさせて貰っていいですか!」
「え、そ、そう?そうよ、私は先輩なん・・・じゃなくて!いやそうだけどそうじゃなくて!リッカ、私達に力を貸してもらいたいのよ!切実にね!」
最早此処は形振り構っている場合ではないのだ。この困難や苦難を乗りきるのはプライドや武力ではない。ましてや、体面や拘りや諍いでは断じてない。勇気、そして・・・縁を信じて、友達の為に行動する事だ
「恥知らずだとは解っているわ。今の今まで交流を避けていながら都合の良いことだということも解ってる・・・!でも、でもね。これだけは譲れないわ。譲ってはいけないことなのよ・・・!」
不死の存在たるヒナコに、頼れる存在や語り合える知己は殆ど存在しない。死の安寧を受け入れ、終わりの安らぎに満たされ自らを置いていってしまった。最愛の人も、自らを慕ってくれた美男子も、その全てが去っていってしまった。この場にいる閻魔亭、そして女将たる紅閻魔は昔ながらの交友を持つ知己なのだ。変わり行き、皆消え去ってしまう中、この現代にて存在し続けていた大切な場所を、失いたくないと考えるのは決して間違っていないはずなのだから
「だから頼むわ・・・!どうか、この子に・・・!」
「──それはよい。我としてもこの様な有り様の宿にて慰安をする趣味はない。初期のカルデアを思い出す棺桶ぶりだ。早急に対処が必要であることを認めよう」
「ほ、本当でちか!?」
王の声音は静かで、何より真剣である。──だが、それは決してこの宿の未来を憂える真剣さではない
──えぇ。でも、その前に・・・
静かに、そして何処までも真剣に──御機嫌王は激していたのだ。力を貸すことではない。宿が、女将が期待を裏切った事ではない
「精霊。一つ問おう。貴様はカルデアに所属しておらず、楽園に足を運んでいたわけでも無い。それでありながら──貴様は楽園の、我の財を頼りに、我が威光にすがらんとしたのか?」
「っ・・・──それは・・・」
「我は天下泰平の御機嫌王。あらゆる無礼は笑って流そう。至宝を簒奪する以外の不敬も赦そう。──だが、そんな我にも手放しで容認できぬ事象というものは存在するのだ」
──はい。ワタシにも、それは分かります。・・・ワタシに用意された、破滅と終焉の道筋なのですから。
エアはそれを正しく理解し、そっと目を閉じる。王は告げる。それは、王の愉快なれど絶対の取り決めであり、断じて認める事の無い狼藉だ。最早語るまでも無い、それは──
「それはな──『我が認めた者でなき有象無象が、我の財を頼り、威光を振りかざす事』に他ならん!!──たわけがッ!!誰の赦しを得て楽園の威光をこの場に示すことを認めた!!その無礼、刎頸にも値するぞッ!!」
御機嫌王の滅多に張り上げる事なき怒号に、閻魔亭全体が軋み、空間が歪むほどに衝撃が伝播する。生半可な存在では、即座に失神するほどの迫力と怒気が、ヒナコに叩きつけられる
「力を貸すことは容認しよう、倒壊寸前の宿を建て直す事も愉快と愉悦を産み出すゆえ笑顔で取り組んでやろう!だが──それは我等が決意を以て取り組むべき事柄であり、断じて貴様が空手形で交わしてよい契約ではない!!解っているのか、貴様は後一足で自らの財産を破滅させる所だったのだ!!『我等が協力をせぬ事を選んだのならば、貴様は朋友に如何なる虚言を以て取り繕うつもりだったのだ』!!」
「──!!」
そう、ヒナコの行った行動は妙手ではあったが、王の威光を都合よく、便利なだけのものにする愚行でもあった。王は、ギルガメッシュは困ったときにただすがるべき手軽な最適解ではない。奮起し、決意し、立ち向かい、決起し、その果てに示される輝きなのだ
それに何より、友の期待を・・・希望を、未来を。その軽はずみな約束に懸ける行為そのものが迂闊かつ愚かそのものである。何の保証もない虚飾と虚言で、友を絶望に叩き落とす所であったその迂闊さを、王は極めて厳しく諌め、糾弾した。何より大事な友情であるのなら、それを護りたいのであれば。王に謁見し、その胸中を正直に、偽りなく伝えること以外に成すべきことなど存在しない。それを事もあろうに、『カルデアと仲がいいから助けてくれる』等という王を侮辱する行為そのものを、王は何よりも激しく断罪したのだ
「困難にて、地獄の最中にてなお輝きを示す!この世の総てに価値と意味を見出だす!我等が旅路を見据え、賛美と礼賛を示す!そういった相応しき者のみに我が威光と財の輝きは示されるのだ!断じて軟弱な絆や交友などに応える我ではないわ!御機嫌王の大盤振る舞い、大盤振る舞いなれど一銭たりとも安売りはしておらぬわ!!」
「ギル・・・」
それは、共に在りし魂が紡ぎあげた旅路を、研鑽を、そして産み出されし尊さへの礼儀と矜持に他ならない。今もなお、軟弱なる財宝のみを簒奪せんとする輩を、雑種を容認などしない
そして、エアの敬愛と尊重に溢れた生き様へ報いる御機嫌王の裁定であるのだ。かの魂が示した王への敬愛と、惰弱かつ愚かな他力本願を比べることすら烏滸がましい。それを成すというのならば、例え賢者であろうが神であろうが処断する事を覆してなどいないのだ
「我等は甘えた馴れ合いにて示す慈悲も威光も在りはせぬ!我が威光を頼らんとするなら、完全無欠の結末を求むるというのなら!!──その魂!その意地と全霊を我に示してみせよ!!」
その言葉に、そのオーラに息を呑む一同。視線が総て、ヒナコに示され向けられる。それはまさしく、閻魔亭の命運と明日を決定する瞬間であるのだ──
ヒナコ「・・・・・・」
リッカ「先輩・・・」
その言葉を、王の断言を受けたぐっちゃんの反応、対応は・・・誠実にして、決して嘘偽りが有り得ぬ選択であった
「──伏して頼む。無礼を赦せ、王よ。そしてその輝けし財達よ。どうか、この身を、不死たるこの身の全てを以て願い奉ろう」
頭を下げ、友の為に願う。嘘や裏切りは介在せず、見栄や体面も取り繕う意義はなし
「──私の友達を、助けて・・・!お願い・・・!」
それでも、全ては友のため。友を裏切り、助けないかつてこの身を案じてくれた最愛の人に恥じるような無様を曝すわけにはいかないのだから
「あ、あちきからもお願いいたしまチュ!このまま皆様をがっかりさせてしまったままでは、情けなくて情けなくて・・・!どうか、どうか、お願いいするでち!」
紅閻魔もまた、友に倣い頭を下げる。こんなに沢山、閻魔亭を楽しみにしてくれた人達を、なにもせずに返してしまうのでは、これまでの全てを台無しにしてしまうような愚行に他ならない
「どうか、どうか・・・!皆様を、おもてなしさせてくだちゃい・・・!皆に、心からの笑顔でお帰りを願いたいのでち!また来たいな、来てよかったなと!そう思ってほしいのでち・・・!」
ギルガメッシュ「────」
──・・・
微動だにせず、静かに見下ろすギルガメッシュ。静かに目を閉じ、王の裁定を待つエア
長い、長い沈黙の後──王の裁定は、下った。
「──マスター!カルデアのサーヴァントどもに激を入れよ!建て直し、再建が叶うまで貴様らに休みは無いとな!!」
リッカ「がってんでぃ!!」
「マシュ!貴様はマスター、ヒナコと共に仲居を勤めよ!オルガマリー!貴様はシバと共に再建に必要な材料と費用を割り出せ!ゴルドルフ!貴様は人員、雀どもを把握しリストを作り我に寄越せ!ロマン!先程から張られている小賢しい結界を粉々に砕いておけ!!」
マシュ「はいっ!!任せてください!」
オルガマリー「了解!」
「わ、私もかね!?いや、これでは慰安どころではないのだ、勇気とカロリーの使いどころだ・・・!」
ロマン「解ったよ。妖怪殺しや神を弾く結界だね?」
紅閻魔「み、みなちゃま・・・!ごきげんおー・・・!」
ギルガメッシュ「何を呆けているか!我に番頭の服を寄越せ!貴様はこれより番頭王を補佐する地獄の女将となるのだ!腹話術が如く気合いを入れよ!」
「は──はいでち!!がんばるでち!!」
ヒナコ「──力を、貸してくれるの・・・?」
──あなたの嘘偽りない心。それだけで、全身全霊を注ぐには充分です!
「だ、誰・・・!?──何よ、それ・・・止めてよね。そんな、人間の良いところ、見せつけるの・・・」
《エア、漸く訪れた慰安ではあるが暫し我慢せよ。全てを終え、新生した天守閣にて共にゆるりと過ごす為に今暫く奮闘するぞ!》
──はい!そう仰有ると思い、建築と改築の財は整頓済みですよ!Zeroから始めるゴージャスな奮闘記を、此処から始めましょう!
フォウ(集まれ!悪友の魂達!ボクたちの結束を、見せつけてやろうじゃないか!)
《フッ──それでこそ我が至宝!それでこそ我がペットよ!御機嫌王に侍るのだ、困難にも笑顔で無くてはな!!》
(誰がペットだ!!)
黄金と雀色の番頭羽織に袖を通し、エアが造った『番頭王』と書かれたハチマキを占めた英雄王は高らかに謳う。──総ての苦難の粉砕を。完全無欠の結末の到来を
「往くぞ我が財どもよ!慰安のついでの愉悦と運動、感謝と徳を積むゴージャス旅館奮闘記の開幕と往こうではないか!!案ずるな、此を乗り越えた果ての宴に宿泊費は総て我が受け持つ!!天上の大饗宴を迎える為──御機嫌王の名の下に!!総員!全身全霊を以て挑むがいい!!」
「「「「「おぉおぉおーっっっっっ!!!」」」」」
ヒナコ「・・・成る程ね。こんな清々しいバカな連中なら、世界だって救っちゃう、か・・・──」
「ありがとうでち・・・!ありがとう、ありがとうでち・・・!」
心に区別も、差別もない。初めからこうすれば良かったのだ。当たり前の真理に、二人は泣きながら、心からの笑顔を浮かべるのだった──
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