人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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ロビー

ロビーにて、紅閻魔と一人の見慣れぬ仮面の老爺が話仕込んでいる。御丁寧に、『王が仮眠中の時刻を見計らった』かのように来訪してきたのだ

かの老爺は『竹取の翁』・・・──500年前の閻魔亭の失態にて被害を被り、紅閻魔らに大量の賠償金を請求している者である。この期日に、利息と借金の回収へとやって来るのだ

「こんにちは、今年も約束の時期となりましたな。返済の用意は出来ていらっしゃいますか?なにやら随分と羽振りが良いようですが」

紅閻魔「お、おまちくだちゃい!今、凄まじい支援者と共に再建と工面の最中でチュ!必ず、必ず返済させていただきチュ!」

「・・・・・・いいでしょう。それでは『二日後』、回収に参りましょう」

「ふ、二日後・・・!?そんな、利息分ですら1000億QPの借金を、二日で・・・」

「これ以上は待てませぬな。もう何百年も待ち続けているのです。──それまでに、全てを用意していただきましょう」

「・・・っ」

「もしや、『王』とやらにすがるおつもりですかな?いやはや、あの者は何を考えているのやら。お気をつけなさい。あれは閻魔亭を私物化し、乗っ取るおつもりなのやもしれませぬよ。くれぐれも『肩代わりをお願いする』などという恥知らずな真似はなさらぬように」

「・・・・・・」

「それでは、私はまた二日後に。その時こそ借金の返済、よろしくお願いしますよ」

紅閻魔「・・・そんなの無理でち。今からそんな客足も稼ぎも・・・いくらごきげんおーでも、二日では・・・」

(・・・身売りをし、閻魔様の簑を売れば・・・でも、ごきげんおーの財になれる程の価値があちきにある筈がありまちぇん。・・・──二日、二日ではどうにも・・・あちきが、利息を貯めすぎたから。・・・このままでは、ごきげんおーやぶいんさま、皆の気持ちが、建て直しの計画が台無しになってしまうでち・・・)

「・・・チュン・・・紅はどうすればいいでちか、お爺さん・・・?」



~物陰


覗き見クズキャスター「~おやおや。たまたま通りかかってたまたま耳と目に入っただけなのだが。これは大変だなぁ・・・」

『カルデアへの記録送信』

「あ、しまった。手が滑って会話記録を送ってしまった。いやぁ失敗失敗。よーし、失敗したからもう一風呂浴びてこようかな。混浴に誰かいないかな~──」


オルガマリー「・・・これは・・・」

『会話記録 帳簿詳細(無許可)』

「・・・一体、何ーリンの仕業なのかしら・・・」



紅と地獄の在り方

「リッカ、いるでちか?少し、お話をしたいでち。あちきに付き合ってはもらえまちぇんか?」

 

風呂から上がり、扇風機にあ~~としながら休憩を行っていたリッカの部屋に訪れし閻魔亭の女将、紅閻魔。お部屋にて浴衣を着込みのんびりしていたリッカの想定していなかった来客にぶったまげ、はだけていた浴衣を慌てて着直し背筋を正す 

 

「よ、ようこそおいでくださいました!その、私はですねギルから休憩時間であると申し付けられておりまして・・・」

 

「ふふっ、あちきも同じでち。でも、あちきは休み方が下手っぴで何をしていいか解らないのでちと伝えたら・・・『ならば我のマスターと縁でも紡いでおけ。何、言の葉の一つを交わす程度は行えよう?』と言われたもので。あ、それとこれを渡すでち」

 

そうしてリッカに渡せしは、紅閻魔が手作りの『ヘルズキッチン案内』チラシ。全ての片がついたならば開催するとの約束と告知を込め、女将が手掛け作り上げしもの。リッカの参加を推薦した、とあるJKセイバーの願いを汲んだ形として、彼女はこれを渡しに来たのだ

 

「わぁ・・・!ありがとうございます!私はもっと料理が上手くなりたい・・・!自分自身を磨き高めるために!」

 

「その心意気はとても立派でち。ですが、その様に肩肘を張り作る料理だけでなく、基礎と基本。軽めで楽しい料理を教えてあげまちゅ。リッカはもう少し、力の抜き方を学ぶでちよ」

 

リッカは頑張りすぎでち。いや、おまいうでちか?などと気軽に会話を行いながら、凄まじい手際にてあっという間に御茶と菓子を用意する紅閻魔。リッカの部屋だと言うのにリッカがもてなされるという匠の技を受け、リッカの口はぽかんと開くばかりである

 

「それでは、いただきますでち。リッカも遠慮はいけまちぇんよ」

 

「はーい、いただきまーす!紅ママー」

 

極上の御茶をすすり、山と空の景色を眺めお菓子をつまむ。宿は変わらず喧騒と高笑いで賑やかだというのに、その大騒ぎが遠く感じる。それくらい、二人にとって穏やかで安らかな時間であった。そんな──二人には得難い時間を、静かに穏やかに過ごしていく

 

「ごきげんおーの手腕は見事の一言でち。過去や今も含め、こんなに閻魔亭が大きかったのははじめてでちよ」

 

「え!ギルが手をかける前も大きかったの?」

 

「そうでちよ~。内装も鶴の間がありまちて、とても華やかだったのでち。お夕という腕のいい職員の機織り名人がいたのでちが、『月の光が呼んでいる』なんて呟いて、部屋もそのままに飛び去ってしまったのでち」

 

「鶴なんだから、作業風景誰かが覗いたんじゃないの~?」

 

それなら仕方ないでちね。ボーナスカットでち。そんな他愛のない職員致命傷案件の話を行い、のどかな昼下がりが過ぎていく。龍と雀の不思議な交流は、ぽつりぽつりと会話と対話にて縁が紡がれていくのだ

 

「こうして穏やかな時間を過ごせるのも、ごきげんおーやリッカ、皆が頑張って外の世界を救ってくれたからでちね。御礼を言わせてくださいでち。本当に、よく頑張ったでちね」

 

「皆がいてくれたから出来たことだよ~。私一人じゃ、たぶん滅ぼす側に回ってたと思うなぁ」

 

「・・・ぐっちゃんがあちきの部屋に半泣きで殴り込みリッカの宿泊代を肩代わりするための蓬莱の玉の枝を叩き付けたのは其処が関係しているでちか。ヘルズキッチンで、詳しく聞かせてもらうでちよ」

 

「はーい!あ、じゃあ紅ママの事も聞かせて!紅ママはどんな英霊なの?」

 

そう、紅閻魔は自分の事をあまり語らないと玉藻達は語っていた。彼女とは師弟の関係で、あまり込み入った話は出来ていなかったと。誰も知らない過去があるならば。それを知りたいと思うのは自然なことだ。それが共に宿を建て直す仲間であり働く仲間ならば尚更である。そう問われた紅閻魔、目をぱちくりさせチュンと鳴く。その切り返しが意外であったためだ

 

「あちきの事でちか・・・?あちきの事を語るには、ちょっとだけ地獄の成り立ちを教えなければなりまちぇんね。さ、其処に正座するでちよ」

 

話すのは初めてかもしれないので、気合いを入れて説明しようと張り切る紅が用意した座布団に、ほほいと正座を行うリッカ。ぺちぺちと杓文字を教鞭のように振るい、何処からか用意した黒板を用意し、彼女は語る。己の在りし場所、『地獄』・・・それが預かる道徳と意義を

 

「世界は一つのようで、多くの仕切りがありまチュ。人間の言う『地獄』もその一つでち。死後の世界をその社会での思想、道徳によって解析し、機構にしたものが地獄でち。人間は、いずれ来る死に対し、生きているうちになんとか理屈を、理解を得たいと考えまちた。細かな格式、法律は民族ごとに違うものでちが・・・」

 

 

共通しているもの、それは『悪人は死後、罰を受ける』。そして、『善人は死後、救われる』。それだけは、この二点だけは決して変わらない不文律である。生き方が決めることは、死後の応対であると人の認識は定めたのだ

 

「ですが、これらは生きている側の都合。『社会をよく回す為の教え』なので、地獄そのものを語るものではありまちぇん。これらは、真っ当に生きていれば死んだ後も幸せは約束される。だから清く正しく生きなさいといった・・・ごく当たり前の、そうあるべき道徳からきたお話でち。そういった人類の善悪の秤は、地獄には関係のない話でちが・・・あちきたちの地獄は流行に敏感なので、人間たちの宗教観を取り入れることも多いのでちよ」

 

人間は死を克服できないかわりに、死は特別なものではなく、死は恐れるものではないという教えに移り変わっていった。その瞬間から、地獄の在り方は変化していたのだと紅は語る。有り体に言って『人気の落ちた幻想』である

 

人間達は地獄を畏れなくなった。清く正しく生きているなら、地獄にいく必要は無いのだから。地獄という存在に救いを求める事も無くなった。死は特別なものではないのだから、地獄というものを恐ろしく思う必要はないのだと考えたがゆえだ。それはつまり認識と世界に取り残された時代遅れの世界。それが地獄であり、紅閻魔は其処で育った者であるというのだ

 

「地獄で修行をして、獄卒になって、閻魔大王様の名代として閻魔亭を任されまちた!」

 

「凄い!紅ママ有能!」

 

「嬉しいでち!紅も勿論、たくさん頑張りまちた!一度人里に下りてしまい、人間に捕まった事もあったのでちが・・・」

 

「えっ!」

 

「大丈夫でち、無事でちよ!今はこの通り、立派な閻魔亭の女将なのでち!──あぁいやいや、今はごきげんおーの補佐たる女将、でちね。本当に、感謝の気持ちに絶えまちぇん。心から、ありがとうでち!」

 

「いえいえ!困っている人を助けるのに理由は要らないでしょ?私達、笑ってる人を見るのが嬉しいからね!」

 

「・・・ふふっ。前はいつ、閻魔亭を畳むかなんて考えていまちたが、今はもうどんな風に経営プランを考案するかを考えているでち。我ながら現金でちね!」

 

そう、かつての紅閻魔はいつ、閻魔亭を畳むかを考えていた。人間の物理法則に移り変わった世界に、この宿は少しずつ取り残されていったのだ

 

人間が迷い込む事もなく、八百万の神も、訪れる事は無くなった。地獄も、宿も、現世では最早意味を成さない。近代になった時点で、この不思議な迷い宿は役目を終えているのだ。だが──

 

「──こんな形で、閻魔亭が息を吹き返すとは予想もしていなかったでちが!全部が終わったら、ここを料理教室の場にするのもいいでちね!なんだかおまえさまたちが来てから、なんでも出来る気がしているでちよ!」

 

寂れた宿は生まれ変わり、誰もが笑顔と感謝を抱き労働に勤しんでいる。三日足らずで、全盛期以上の輝きがこの閻魔亭に満ち溢れている。ぐっちゃんがやらかした事は不味くとも、起死回生となったのもまた事実。紅閻魔は笑顔を浮かべている。もう、何年ぶりかと言うほどの笑顔をだ

 

「うん!だって、なんでも出来るんだよ!ギルが、皆が、部員たちがいるから!楽園があるから!私達に、出来ない事なんて無いんだよ!」

 

・・・そして、リッカはふと思い至る。この閻魔亭をもり立て、経営してきた理由はなんなのか。必要はない、最早無用と分かっていながら、何故そこまでして経営を続けていたのか。それが気になったリッカは、試しに思いきって聞いてみたのだ。──そこまで、もてなす理由とはなんなのかと

 

「それは・・・。・・・──いいえ、今更隠すことなんてありまちぇんね。特別に・・・リッカには教えてあげまちゅ」

 

「わぁい!紅ママありがと!」

 

「いえいえ、世界を救い、ぐっちゃんと仲良くしてくれるお前さまには当然でち。ごきげんおーには宿を貸し切りにして報いるとちて・・・」

 

そのまま、すくっと立ち上がり刀を手に取る紅閻魔。ワッザ!?とリッカが驚愕に立ち上がらんとして脚が痺れ断末魔のうめきをあげ崩れ行き悶える状態が撒き餌となったのも功を奏し──

 

「壁に耳あり障子に目あり。──盗み聞きをする狐や竜に鬼を引きずり出してからでちね」

 

目にも止まらぬ、熟練度ならばリッカをも上回る閻魔仕込みの居合い術が、襖と床、天井を一閃し──

 

「みこんっ!?」

 

「きゃあ・・・!?」

 

「うぐふっ・・・!」

 

罪人を引きずり出すかの如くに、三人の仲良しキッチン受講組が紅閻魔により引っ立てられる──

 

 

 




紅「スズカはさりげなく優しい気遣いをしていたというのにおまえさまたちと来たら・・・龍の身体に巣食うノミなのでちか?何故一緒に御茶をしようの言葉が言えんのでちか?」

玉藻「め、面目ないですぅ・・・御主人様と紅閻魔さんの絡みと交流が予想以上にエモくてですねぇ・・・邪魔はしたくなかったといいますかぁ・・・」

きよひー「あぁますたぁ!こんなにぴくぴくして!大丈夫でしょうか、この清姫が傍におります!しっかりなさいませ!」

「さわらないでさわらないでおぁあぁあぁあおぉおぉ・・・!!!!」

巴「無礼はお詫び申し上げます。ですが、私たちも大恩ある貴女の事を知りたいと思いまして、でもマスターとの休息を邪魔するも忍びないと・・・」

「・・・はぁ。気遣いは結構でちが、後ろめたいことを隠すと正直に事を成すより手間と罪が重なると教えた筈でちが?そういう場合は、余計に気を回さず真正面から問うのでち!わかりまちたか!」

「「「はい!先生!」」」

スズカ「やほーリッカー。センセと仲良くしてる~?差し入れにアイスあるし、三人で食べ・・・なんで全員いるわけ?」

リッカ「あぉお・・・脚が、痺れもうした・・・」

紅「結局全員集合したでちか?よろしい、ごきげんおーに倣って上機嫌に話すでち。紅が働く理由、心して聞くでちよ!」

「「「「はーい!」」」」

リッカ「はぁい・・・ぐぬぬ、痺れに弱いとか飛竜じゃないんだから・・・」

紅「大丈夫でちか?ほぐしてあげるでちからしっかりするでち。安心するでち、すぐに終わりまちゅからね」


・・・──これは、昔々の、それほど昔ではないお話──
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