「どういう・・・どういう事だ・・・テメェ、テメェら・・・」
切り落とされた猿の面、胴体と分かたれた頭、地に落ちたお山の大将たる猿が呻く。切り裂かれた事よりも、断ち切られた事よりも・・・何よりも。虎と蛇・・・尾と胴体が自らの意思に反し動かずこの様な有り様となっていることそのものに、猿は憤り、また呻いていたのだ
「蛇面・・・虎面ァ!なんでテメェら、揃いも揃ってオレの脚を引っ張りやがった・・・!テメェらがもっとちゃんと動いてたら、オレがこんなザマにならなくて済んだだろうが、アァ!?」
『・・・』
「名前もねぇ、行き場もねぇ、やる気もねぇ!そんな三下を喰ってやったのは誰だと思ってやがる!!邪魔しやがって、逆らいやがって!!なんだってんだよこのアホどもがぁ!?」
自分の思い通りにならないものが許せない。自分に楯突くものが許せない。それ故に、この世の全てが・・・なにより目の前の存在がまずは許せなかった。何故楯突くのかと、邪魔をするのかと
『・・・解らないのか。何故負けたのか、何故お前が切り落とされたのか』
虎名主が、口を開く。その姿は頭の無い胴体なれど・・・頭がある時分よりも、はっきりと己の言葉を口にしていた
『・・・簡単で、単純な話だ。お前に従っていては・・・紅ちゃんを、哀しませるだけだ。あれを見て何も感じないお前に・・・付き合う理由はない』
「て、テメェ・・・!」
『・・・オレは能無しだ。頭が無ければ動けない胴体だ。・・・だが、お前は・・・ただの『無能』だったな』
それだけを言い残し、虎は沈黙する。消えるのも、生きるのも、裁きと沙汰を受け入れ決めてもらうが故だ。最早猿にかける言葉は、何一つ残っていなかった
「テメェ・・・野良猫ヤロウの分際で・・・!!あぁいいさ、テメェには何も求めてねぇ!ほだされていたのは知ってるからな!だが蛇面、テメェはどういうこった!?雀側に付く理由はねぇだろうが、おい!?」
虎には見切りをつけ、蛇を弾劾する猿。狡猾で、情に流されない蛇であるはずの彼が、何故自らに逆らうのか。雀とは距離を置き、一定の距離を保っていた蛇が何故今になって反抗するのか。猿には思いも寄らぬ、思い至らぬといった様子を隠そうともしない
『そうねぇ、紅閻魔ちゃんに付く理由はないわねぇ。でも──』
その視線の先にいるのは・・・自らを思いやり、そして分け隔てなく交流を図った一人の男。かつてのドライブにて、彼の言葉を聞いたときから。狡猾な蛇は己を定義できていなかったのだ
~
見た目が怖いだの、種族が違うだの。そんな計りには何の意味もない。他者を見下し、蔑み、僻んできた人生でここまできた結果がこれだ。今私は、最後のチャンス・・・自分の人生を切り拓く分岐点にいるのだ。今までの生き方がダメだったのなら、死に物狂いで変えるしかないのだよ!
『アナタ・・・』
いいから手伝ってくれたまえ!何より──怖い怖いとは言うが私はそうは思わん!その面、蛇を繊細かつ緻密に表した逸品ではないか!怖いというより見事、素晴らしいと言うべきではないかね──
~
『・・・虎名主の事は笑えないわぁ。結局アタシたちって、その場その場の出逢いや恩に、弱いのよねェ。・・・なーんで、アタシももう『悪巧み』はいいわ。例え消えるとしても、最後までアタシなりに償いをしていくわ。──自分を変えるって、そういうことよネ?』
「──あぁ、そうだとも!不死鳥は灰から甦る!蛇も脱皮し生まれ変わる!何の違いもありはすまい!」
そう。ゴルドルフは決して戦闘力は高くない。魔術師としても半端で、この楽園の精鋭たちには及ぶべくもないだろう。だが──
『これからは他者をほくそ笑むんじゃなく、頑張ってる人を応援しながら生きていくわ。──じゃあね。アンタの陰湿さにはついていけないわ、猿。そもそもアタシ、尻尾ってところも嫌だったの』
・・・確かに。逆転と勝利の布石は打っていたのだ。活路を、開いていたのである。正真正銘、胴体と尾に見捨てられた形となった猿の魔力が、存在が、みるみるうちに縮小していく
「ぐ、ぐぇえぇえぇえ・・・!!なんだそりゃあ・・・なんだそりゃあ・・・!!頭がいなけりゃ何もできねぇ三下のクセに、こぞって先にほだされやがって!オレをさっさと見捨てやがって!!」
「・・・所長として、最高の教師ね。反面、という意味だけど」
「くそ、畜生、戻ってこい、戻ってこい・・・!戻ってこいグズども!!」
叫ぶ声に応える声はなし。最早体も尻尾も戻っては来ない。自らが先に、全てに見切りをつけた故に。全てを蔑ろにしたが故にだ。この事象、この真理を──『因果応報』『自業自得』と読む
「オレは頭だぞ!?テメェらの親分だぞ!?あぁチクショウ、チクショウ!いくらオレが天才でも、『胴体と尾がなけりゃあ何もできやしねぇじゃねぇか』!!」
最早叫ぶことしか出来ない。最早喚くことしか出来ない。憐れなる有り様に成り果てやっと辿り着いた真理。──頭だけでは、動く体も尻尾も無ければ何もできないという真理に、ようやく辿り着いた猿。・・・最早裁きを待つばかりと言った様子の猿の前に、絶対的なる輝きを放つ存在が現れる
「ほう、末期の懺悔にてようやく柿一つ分は賢しくなったと見える。その救い様の無い生にて真理に至るとは、中々に見上げた猿ではないか。いや、当然我は見下ろす側だがな」
「!ギル!」
「・・・その格好は・・・」
黄金の英雄王、着用せしは浴衣のみ。湯上がりにて湯気を上げる上気した体が、見るものに感嘆と畏怖をもたらす至高の芸術を彩っている。──この時点で、理解するものはしたであろう。これより、王が何をするつもりであるのかを
「他者を害し、痛みと嘆きを悦とする。畜生風情にしては目の付け所はよい。我にもそういった類いの愉悦には心得がある。この我には舌に合わぬゆえ、毛ほども興味は湧かぬがな」
「な、何を言ってやがる・・・!」
──如何なる裁きにも、如何なる仕置きにも貴方という人格は変わらないのでしょう。反省も、自粛も、ただ他者の痛みを悦とする魂には備わっていないのでしょう。・・・人が思い描いた悪意とお伽噺の悪。それそのものは人の心が備えしもの。決して否定も、見なかった事にすることも出来ません
その悪意には理由はない。その愉悦には躊躇がない。腐りに腐った魂に、救いは最早有り得はしない。──誰もがそう答える魂に、猿に。王と姫だけは、真摯に、真っ直ぐに考えていたのだ。『猿の新生の為』に、何を為すべきか。そして──
「──貴様の魂、あまりに醜悪にて捻れ過ぎている。最早地獄ですら救うことは叶うまい。根本から腐り果てた大樹は伐採するしか無いように、貴様の魂には裁きや更生ではなく『新生』『漂白』が必要であると我は裁定を下した」
「あっ(察し)」
「せ、先輩!離脱しましょう!!後は王に、御機嫌王に任せましょう!!」
【えっ?何が始まるんです?】
「シシ、シバ!離脱!離脱して!せめて通信を切って!ゴルドルフ氏!ヒナコ君も!早く!本命が、嵐が来るぞぅ!!」
「え、今良いこと言ってる感じよね・・・?」
「何が始まるというのだ!『浴衣一枚の王が、猿の前に立っているだけではないか!』」
それが一番まず──それを言うが早いか。いや、最早うずうずしていると言わんばかりにギルは浴衣に手をかける。当然、猿はそれを見上げる形だ。『目を塞ぐ手』『耳を塞ぐ手』も、何も残っていない猿には、見ることしか出来ない
「貴様の醜悪なる生、それはそれで価値があると我は認めよう。だが、貴様のこれからにはその魂と人格は無用の長物──」
──それ故に。垣間見ていただきましょう。光を以て闇を消し去るように、己を生まれ変わらせ、新しい生を歩んでいただくために。その業から、完全に訣別するために・・・!
「故に!!我が威光、我が輝きを以て贖罪の第一歩とするがいい!!待たせたな、森羅万象よ!今この場に、至高の美が久方ぶりの顕現を果たすのだ!!では行くぞ──」
「待避!!総員待避──!!」
ロマンの聡明なるチキン発言、困惑し動けぬ新人たち、そして閻魔。その混沌、事情を知る者の阿鼻叫喚など何処吹く風とばかりに──
「A・U・O──!!!キャスト!オフ──!!!!!!!」
浴衣を脱ぎ捨て、一糸纏わず最高水準のダイヤに勝る裸身が、猿の前に、眼前に、それはもう真正面へと晒される──!!
猿「ギャアァアァアァアァアァアァアァアー!!!!!!」
ギル「ふふははははははははは!!温泉にて磨きあげ、上気し火照りを帯びた旅館仕様の我が裸体!存分に目の当たりにし更正の第一歩とするのだな!そら、目を閉じることは赦さん!貴様に下された恩赦、有り難く拝見せよ!ふははは!はははははははは!!!」
紅閻魔「へ──変態でちーーーーー!!!!」
ぐっちゃん「はぁ、ちょま、え、は、ぇ・・・!?なんっ、なんで脱い・・・は、えぇ・・・!?」
オルガマリー「深く考えてはいけないわ!ゴージャスはゴージャス、私達の想像の一歩先を行くのよ!」
ゴルドルフ「・・・負けた・・・同じ男として完全に負けた・・・体格からして完敗だ・・・ビューティフル・・・おぉ、ブラボー・・・」
「ゴルドルフ氏!しっかりなさってください!?ハッ!リッカちゃんは・・・!?」
リッカ【これが、これが──無駄のない男性のパーフェクトボディ・・・!エロいとかスケベとかいう前に、綺麗という感想しか出てこない・・・!わかった気がする、美術家や彫刻家が、何故あんなに裸体を遺そうとするのか・・・!】
マシュ「先輩!?先輩がなんだか自己啓発しています!?」
オルガマリー「直視できているのね・・・私なんて眩しくて何も見えな(シュワッ)」
ロマン「所長が聖杯に──!?カムバックしてください所長!オルガマリーー!!」
紅閻魔「お爺さん!何故でちか!?何故ごきげんおーは脱ぐでちか!?教えてくだちゃい!お爺さん──!?」
──これが、王が下せし改心と更正の裁定・・・!!端から見れば温泉で頭が湯だり酒で悪のりした宿泊客の無礼講と言う名の悪ふざけにしか見えませんが否全くそんな事はなく!
《冴えているなエア!無銘の頃のキレ、些かも衰えておらぬと見える!それでこそ我が至宝よ!》
「ギャアァアァアァア!!ウギャ、ギャアァアァアァアァアァア!!!」
──うぐふっ!・・・じ、地獄の底にも、天上にも居場所が無いような魂であっても、王は、ワタシは絶対に目を離さない・・・!この世の全てにて愉悦したい、全てを見定める!それがワタシ達の定めた道なのですから!(クラッ)で、ですから・・・!
「どうだ!!この輝きを前にして改心を決心する気概が湧いてきたであろう!!心を改めたくなったであろう!!真っ当に生きようと決意したくなってきたであろう!!」
「誰がなるかっ──ぐぎゃあぁあ目が焼ける!焼ける!!虎、蛇ぃ!戻ってきてくれぇ!!堪えられねぇ、こんなもん見せられて堪えられねぇ──!!」
「堪えられぬのは貴様の性根が腐っているからだ!今こそ新たな自分を見いだし新生せよ!つまり見よ!!凝視せよ!!!」
猿「うわぁあぁあぁ助けてくれぇ!!勘弁してくれ!!分かった反省する!真面目に心を入れ替えるからよぉ!!」
「よし──ならばもっと見よ!悪逆に堕ちた際に、この輝きを思い出すのだ!!さすれば貴様の生は薔薇色、ゴージャス色になるであろう──!!」
「同じことじゃねぇかよぉお!!チクショウ、チクショウ──こんな事なら悪いことなんかしなきゃ良かったぜぇ──!!助けてくれぇぇえぇえ!!」
──反省とは・・・そういうものです・・・あなたの新たな人生に、門出に・・・沢山の祝福が溢れておりますように・・・がくっ
フォウ(大丈夫かいエア!?プレシャス布団を用意したからエア──!!?)
「ゴージャス閻魔亭奮闘記!これにて閉幕、大団円である!!ふはははははははは!!我の魅力は慈悲深く、外道すらもたちどころに改心させる!エアめが尊重にて昇華ならば我は豪奢にて蒸発よ!!我が王たる由縁、今しばらく見つめるがいい──!!ふははははははは!!ははははははは!!」
エリザベート「女湯沸いたわよー!温泉野外ライブとかぎゃわぁあぁあぁあぁ!!まーたーぬーいーでーるー!!!」
・・・その裸体の露出は『湯冷めしてしまいます』といったエアの瀕死の助言により治められ、約30分もの更正キャストオフが執り行われた。ぐっちゃんは愛するものの温もりが恋しくなり、ゴルドルフはシェイプアップの目標を見出だし、リッカはより一層肉体美を追い求めるようになった
《ふはは、興が乗ったわ!久方ぶりのキャストオフ、堪能したか、エア?》
──はい・・・五感がすべて、お腹一杯です・・・
間近かつ同一存在なので、魂に直撃せざるを得ないエアの消耗と言うデメリットはあるものの、エア自身は王が愉快でいてくれるのならそれが一番なので実質ノーデメリットという英雄姫の献身を経て──
猿『虎くん、蛇くん、ごめんよ。これからは罪滅ぼしの為に、地獄に行ってやり直してくるよ』
『お、おう・・・』
『な、何があったの!?』
救い様のない人生と魂を王に奪われ、まっさらな人生を賜された猿は、憑き物が落ちたかのように漂白され、世のため人のために生きることを誓ったのでしたとさ──
紅閻魔「・・・・・・・・・────めでたしめでたしでち!!(思考放棄)」
エルキドゥ「ちゃん♪ちゃん♪」
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