「おお、ジャンヌ!なんとお痛ましいお姿に……!!」
扉を蹴破り、涙を流さんばかりに魔女に駆け寄るジル
「チッ、駄竜コンビめ。足止めをしくじるとは笑えん成果よ」
「聞こえてるわよゴージャス!なんか物凄い勢いで逃げたんだってば!」
「それはもう、脱兎の如く。終わりましたのね?」
「はい……なんとか」
よろけるジャンヌを、マスターとマシュが支える
……良かった。どんな結果であれ、彼女が無事で……
「ありがとう、二人とも……」
――本当に、お疲れさま……
「あちらもこちらも満身創痍ではないか。見世物としては上々であったがな。やはり贋作は真作には届かぬか」
「英雄王――!!」
睨み付けるジルを鼻で笑い、さらりとながす
「激するは肯定の証だぞ?やせ我慢する気概を見せぬか」
「……ジル」
「ジャンヌ!?」
ゆっくりと口を開くジャンヌ
「ごめんなさい、ジル……負けてしまって」
「……何を仰せか。貴女は本当に、貴女は本当によく健闘なされました……私の魂に誓って……!」
「でも……わたし」
「よろしいのです。よろしいのです、ジャンヌ。あとはこのジルめに、お任せを」
「……ジル……そうね……」
「眠られるがよろしい……目が覚めたなら、総てが終わっていましょうぞ。だから、少しだけ……」
「……うん。ありがとう、ジル……やっぱり、貴方はいつでも、私の味方……」
「一つ、貴様に助言をくれてやろう」
口を開く器。――うん。彼女に、もしも。次があるのなら……
「英雄王……!?」
「此度の敗因は唯一つ『器』の選別の過ちよ。貴様の無念、貴様の憎悪は――『調停者』などとは最もかけ離れたものだ。だから貴様は遅れをとったのだ」
「――なら……」
次が、あるのなら……
「座に貴様は存在せぬ。だが、もし次の機会があるならば。――その時は『復讐者』として喚ばれるが良かろうさ」
復讐者。総てを憎む、アヴェンジャーのクラス
――きっと、ジャンヌでなくともジャンヌである彼女に、相応しいクラスだろう
作ったものは、もう無かったことには出来ないから。せめてそれは、ありのままに
「……フッ、フフフ、アハハハハハハ……!」
けらけらと笑いだすジャンヌ
「えぇ、解ったわ。ありがとう、目障りな金ぴか」
その魂は、また
「次があるなら……いや、次のチャンスを掴んだら。私はアヴェンジャーとして貴方達の前にたつ」
黒き炎が、燃え上がる……!
「覚悟なさい、ジャンヌ。――その前に金ぴか」
「私を散々虚仮にしてくれたお礼に――真っ先に首をかききってやるから――!!!」
憎悪の誓いを残し
魔女ジャンヌは、消滅していった
「フン、王は逃げぬ。くだらぬ小火で我を焼けるか試してみるがいい。我のカルデアの歓待で正気を保っていられるのならば、な」
「……いつか、彼女も召喚できたらいいな」
ぽつり、とマスターが呟く
「あのジャンヌも、スゴく……カッコよかったから」
「……そうですね、先輩」
……そして
「――ようやく目当ての宝と御目見えか。待ちわびたぞ。それなりに愉しかったがな」
表れるは、聖杯……!
「……」
「大方の予想通りであったな。あのジャンヌは貴様が産み出していた。種明かしの時間だぞ、道化」
「勘の鋭いお方だ……」
「どゆこと?ねぇね、どゆこと?」
「お黙りなさい」
「ジル……貴方は……」
ゆっくりと立ち上がるジル。その目には、炎が揺らめいていた
「……私は聖杯に、『貴女』の復活を願ったのです。本当に、心から、そう願ったのですよ!」
――大切な人を、ただ蘇らせたかった。例え、何を犠牲にしても
「だがしかし、聖杯は我が願いを叶えなかった――!!万能の願望機でありながら、それだけは叶えられないと――!!」
――奪われたものは、それほど大きかった
「私の願いなど貴女しかない!ならば作る!私の願望の下!ジャンヌ・ダルクを作り上げる!!竜の魔女、復讐の魔女たるジャンヌを!!」
――それは、彼女への……『愛』なのだろう
奪われた『愛』を取り戻すために。彼はここまでの事業を成し遂げた……
「だ、そうだ。貴様が抱かなかった無念と怒り、憎悪はヤツがしっかりと抱えていたようだな?」
「……はい。そのようですね。……ですがジル」
ゆっくりと、顔をあげジャンヌが告げる
「例え、私を蘇らせる事ができたとしても……私はけして『竜の魔女』にはなりませんでしたよ」
「……うん。私も今ならわかるよ」
「はい、先輩。ジャンヌさんは、きっとフランスを赦したでしょう」
顔を見合い、頷く
「だって、フランスには……ジル。あなたや皆さんがいるのだから」
――ジャンヌが恨めるはずがないのだ
だって、総てを懸けて――愛するフランスを護り駆け抜けたのだから。
「……お優しい。本当にお優しい言葉です、ジャンヌ」
涙を流す、ジル。――だが
「――その優しさゆえ、一つ思い落としておりますぞ」
涙が――血の涙へと変わる
「貴女が憎まずとも……――私は憎んだのだ!!貴女を裏切ったフランスを!輝きを貶めた凡俗を――!!けして赦さぬ!人とて、国とて、王とて、神とて――!!」
右手に持つ、本に、手を叩きつける
「邪魔をするなら貴女とて!!――我が道を阻むな!ジャンヌ・ダルクゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
瞬間、城全体が鳴動し、辺り一帯から無数の魔物が、ジル目掛けて殺到する
「ぶわ――――!!なによこんなにまだいたの――!?」
それらは食い合い、増殖し、絡み合い、膨脹し
巨大に膨れ上がり、終には――
「まぁ!あれを見て、皆!」
「なんだありゃ……グロテスクにも程がある!エリザベートの歌を視覚化したらあぁなるのかな!?」
遠くにいるマリー達にも視覚に足る、天にも届かんばかりの超巨大の魔へと変生したのだ――!!
『主よ!我等を嘲りし傲岸なりし主よ!我が身が貴方を呪いし姿が此だ!貴方を憎みし姿が此だ!私は貴方を冒涜し、汚し尽くし、凌辱しつくして見せようぞ!かつて貴方が、私の輝きにそうしたように――!!アハハハハハハ!!ヒャハハハハハハハハハハ!!!』
天に届かん魔物の偉容。天に響かん闇の哄笑
「……だそうだが?周りを省みなかった故の貴様の生き方のツケをヤツに払わせた田舎娘に、言いたいことはないのか?」
「……そうですね、ジル。貴方が総てを恨むのは、これ以上ない道理だ。ならば――」
踏み出す一歩が揺らぐ
「ぐっ!」
「満身創痍といったであろうが。優雅の欠片もない泥臭い戦いを見せおって――だが、見事であった」
――あぁ、本当に。とても……見事だった
「――ヤツめに言いたいことはまだあるのであろう?――ならば、あの汚物めの掃除は我がやってやろう」
――ここからは、自分の番だ
「ギル!?」「英雄王!?」
「フッ。そう不思議そうな顔をするな。大将首は我がいただくと言った。貴様らは王手をかけよ、詰みは我がしてやる、とな。――マスター」
「へっ?」
「――此度の遠征、見事であった。初歩にしては上出来だ。マシュも、よく護った」
「……あ、ありがとうございます!」
「後は、我に任せよ。――ジャンヌ」
カルデアにて、ジャンヌを呼び出す
「はい!英雄王!」
「興が乗った故、少し本腰を入れる。――後ろを護れ。巻き込まれぬように。よいな」
「解りました!――『我が神はここにありて』――!!」
旗を展開し、マスター達を守護するジャンヌ
「英雄、王……?」
「貴様らもよく見ておくがいい。王の威光。真なる王がもたらす絶対真理の一撃と言うものをな。――言うまでもないが」
ゆっくりと、蠢く海魔に向き直る
「貴様らにだけ、特別にだぞ――?」
――財は、選ばない
選ぶ必要はない。この旅の裁定に、自分の意志は必要ない
ただ、思い返す
マスターの度胸を。マシュの堅さを。ロマンの気楽さを。オルガマリーの誠実さを。ジャンヌの真っ直ぐさを。マリーの華やかさを。アマデウスの哲学を。ジークフリートの偉容を。ゲオルギウスの洗礼を。清姫の狂気を。エリザベートの愉快さを
そして――愛するもののために、世界を狂わせた目の前の男の価値を。――己の魂総てを懸けて、それに報いる事ができる宝具を、掴みとる――!!
「――舞台としては三流だが。文句を言わず付き合うがいい」
――手にしたのは、黄金の柄と装飾を誇る剣
――否、それは剣に非ず
「これから先、長い旅路になるのだ。ここらで肩慣らししておくのも悪くはなかろう?」
――かつて星が原初の地獄であった姿の頃。星を砕き、回し、星を星たらしめた原初の力の具現
刀身に当たる部分には三つの円筒。ゆっくりと回転し、暴風を圧縮し、せめぎあわせ、回転を速め、荒れ狂い高まっていく
「本気を出すまでもない汚物ゆえ、未だ貴様の真価は伏せよう。――鈍ったその身を震わせるだけで今はよい」
――天地を切り裂き、世界を切り裂いた唯一にして絶対なる――王のみが持てし至高の剣――!
『英雄王ぉおおぉお!!!!』
押し潰さんと迫り来る肉塊――
――その剣の名、正しくは『無銘』――王が呼称し、名を冠させし原初の刃――!!
――英雄王……我が魂の総てを懸けて。
彼等の価値を認めます――その健闘に報いるための――
「それだけで、今は事足りよう――!!唸りをあげよ、『乖離剣』!」
高らかに、暴風荒れ狂う『無銘』の刃を掲げ――
――空前絶後の一撃を――!!
「一掃せよ――――『エア』――――!!!!」
放たれる、臨界寸前の暴風。星を砕かん暴力と圧力が、有象無象万物一切を砕き散らし吹き飛ばし荒れ狂い総てを呑み込んでいく――――!!!
「くぅうぅうぅうぅうぅうぅう!!」
「ジャンヌさん!!」
「令呪を、全部マシュとジャンヌに!全力ガード!!!」
「はい――!!宝具、展開します――!!」
マシュとジャンヌすらも消し飛ばさんと荒れ狂う、せめぎあう暴風の宴――!!
『か――ァアァアァアァアァアァアァアァ――!!!!!!!!????????』
回避することも、防ぐこともできぬ哀れな怪物を、エアが巻き起こせし暴風が瞬時に飲み喰らう
その威力は、塵一辺の存在すら許さず。そして、辺りに形どる存在を認めず
「嘘!?城が――!?」
――監獄たる城を――木っ端微塵に消し飛ばしたのだ――!!!
荒れ狂い、猛り狂う真紅の嵐が巻き起こり――やがて、収まる
「――真価を興さぬ至宝ではこんなものか」
カチャリ、と剣を下ろす英雄王
「ま、絶妙な力加減になったのは幸いであったな。まさか我にこんな細やかな気配りができようとはな――ふはははははは!!」
――そこには、更地となった城の跡地と
「う、ぐっ……ぐぬ……」
ボロ雑巾のように、倒れ伏す、ジルの姿が在り
陽に照らされ黄金の輝きを放つ、英雄王の、姿が在った――
「グッ、とウォーミングアップしただけで城が消し飛んだ」
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