ギルガメッシュ《ほう、長らく噂になっていたヘルズキッチンとやらが漸く再会か。英霊の座にて開催されたという料理教室・・・受けてみるか、エア?》
──はい!ネフェル達に教えてもらったエジプト料理や日本料理、ブリオッシュをマスターしたならば、是非とも受けようと思います!
《うむ、独学にしては張り切りすぎな気がしないでもないが・・・今更指導を受けずとも、学ぶべきものは見えていると言うことか》
玉藻「おや、物珍しい方が佇んでおりますねぇ?何々?ヘルズキッチン、受講再会・・・──げ!やっぱり・・・!やるんです!?やっちゃうんです!?」
「・・・?何を戦く。高々料理教室であろうが。貴様も参加し、古き知人と厨房で昔話に華でも咲かせたらどうだ?」
玉藻「そんな軽い気持ちで!参加していいもんじゃねーですよー!!」
──えっ・・・?
《・・・ほう?よもや、地獄の名は伊達や酔狂ではない、という事か──》
「よく来たでちね。厨房の右と左どころか杓文字と杓子の違いすらわからない雛鳥達。あちきはこのヘルズキッチンの教官、紅閻魔。あちきの事は『教官』と呼ぶでち。よくぞこの教室に集まりまちた。歓迎するでちよ」
広間にて、盟約通りに雀の料理教室『ヘルズキッチン』を開催しその指揮を取る紅閻魔。料理のいろは、言うなればもっと基本的な事を教える・・・否、叩き込む教室。参加したもの達から口を揃えて戦慄と恐怖の評判が堪えないというこの地獄にて行われる地獄の教室に集い、参加した者達に声をかけ、これより行われる難業に挑む者の顔触れを確かめる
「藤丸リッカ!己の女子力を高め、己を高めるために受講しました!自分をより高みに導く為に、大事な人達に送るものとして、未来の旦那さんに振る舞うものとして、料理を極めたいと思いました!どんな地獄だろうと、笑顔を忘れず乗りきります!!」
元気良く、全身に意思をみなぎらせたドラゴンガール、人類最悪のマスター、リッカが手をあげる。紅閻魔との約束通り、受けるためにやって来たのだ。どんな地獄だろうと乗りきる・・・その言葉に、微塵も嘘偽りはあり得ない。その金色の瞳には、揺るぎない気高さと決意が宿っている
「うんうん、よく来てくれたでちねリッカ。その気持ちに応えるよう、あちきも張り切って持てるすべてを叩き込むでちよ。さて、次は・・・」
「ジャンヌ・ダルクです!より美味しい麻婆、より素敵な御料理を身に付けるためにやって参りました!辛くすれば料理である・・・そんな認識から一歩先にすすみたくなったのです!」
楽園の問題児にして災厄、王の天敵。楽園における王の死因の大半を占めるとされる麻婆聖女。辛さを旨味と捉え、辛さを突き詰めることにより料理は美味しくなると心から信じているあーぱー聖女。よりよく、より強くという上昇思考と前進の覚悟を持っての料理教室の参加に、紅閻魔は深く息を吐く
「・・・辛くすれば料理である・・・そんな苦痛と激痛の誤解で何人葬ってきたのか・・・早急な対処が必要でちね。次は・・・」
「アイリスフィール・フォン・アインツベルンよ。やっぱりマスター業務だけじゃなくて、真っ当な女性として料理をこなせるようになりたいわ。生まれからしてそう言うの疎かったし・・・何より、皆で料理教室って楽しそうじゃない?」
カルデアにおける最美麗のマスター、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。セイバーライオンという珍妙なサーヴァントを完璧に使いこなす最上級のマスターである。この機会を逃さず、いつか出逢うかもしれない夫のために・・・それは奇しくも、リッカと似通った理由でもあった
「がおん!」
そしてその傍に在りしは件のセイバーライオン。マスターが参加するというのなら、それを百獣の王としてサーヴァントとして支えるのみと。料理教室に参加するマスターにくっついてきたのだ。手にせしお肉は剣であり、非常食でもある
「・・・皆で料理教室は楽しい、でちか・・・それにペット同伴・・・」
そんな意識に思うところがあるのか、静かに呟く女将。自己紹介は続いていく。この地獄の趣旨を、未だ理解しておらぬ者の自己紹介が
「エレナ・ブラヴァツキーよ!やっぱり簡易食だけじゃ物足りないじゃない?プレーンオムレツとか作れるようになりたいわ!ほら、料理教室って手軽に簡単に身に付けられるものでしょう?」
「そうでちか・・・手軽に、簡単に。でちか」
「フランシス・ドレイク。いや~、料理なんて縁遠いもんと思ってたけどこうしてやる機会があるってんなら参加しない手は無いだろ?いい加減『姉御が料理や家庭とか絶対あり得ないよなー』『もしできたら全財産懸けてもいい!そんな姉御はどんな宝よりすげぇもんだ!』なんていう野郎共を釣る縄が足りなくなってきたからねぇ」
「海賊としての与太話、マウントを取り返したいというやつでちね・・・総勢六名、いいえ、五名と一匹でちか」
なるほど、よくわかりまちたと数を数え、静かに広間の教壇に立ち、一同に声をかける
「お前さまたちの心意気、動機はよくわかりまちた。これからあちきの言う事には『了解』だけでいいでち。それ以外の返答は不要でち」
「「「「「了解!(がおん!)」」」」」
「各々、得意な武器を取るでち。そう、それを暫く使うことになりまちからね。準備と覚悟はいいでちか?」
「「「「「?まぁ・・・了解!」」」」」
料理なのに何故に武器・・・?そんな疑問が沸き起こるも、教官の言葉に素直に従う一同。鎧や旗、銃や肉を手に取り、これから行われる料理のレクチャーに備え・・・──
「──そもそもお前たち!料理が出来ると思ったでちか!!料理のさしすせそもわからない、知りもしない、数名を除きふわっとした動機ばかり!料理、素材、下拵えに触れるようになるのにはまだ致命的に経験も何もかもが不足しているお前様たちに託せる厨房はありまちぇん!!」
バッサリザックリと断じ、たらりと垂らされた紐を力強く引っ張る。すると、数瞬の間と共に──
【わ、ちょ・・・ほわぁあぁあぁあぁ!!?】
「こいつぁ──面白い趣向じゃないのさ!」
「きゃーー!?」
「わおーん!!?」
「いざ!より良き麻婆の為に!!」
「マハトマー!?」
真っ逆さまに落ちていき、長い長い時間の浮遊感を堪能する一同。紅閻魔の催す料理教室・・・その意味を、一同は正しく理解することとなる
催す舞台は地獄、行われるヘルズキッチンの名もまた地獄。そんな教室が、生温く生易しいはずはない。か
参加したのならば、何としてでも料理が上手くなる。──それは上達するのではなく、転げ落ちていくもの。地獄には落ちていくものであるからだ
料理とは才能やセンスではない。入念にして地道な積み重ね、その繰り返しによる試行錯誤。決して手早くさっさと作れるようなものではないことを
そして、その理念を──徹底的なまでに叩き込む場こそが。ヘルズキッチンという場なのである事を。一同は直ちに理解することになる
【・・・此処は・・・】
其処は、旅館の中に在りし空間ではない。未だ料理に関しては雛鳥、右も左も解らないひよっこたちの性根を叩き直す場である場所
「ガアァアァア!!」
「キシャアァアァ!!」
新鮮な怪鳥、骨太な猛獣・・・活きのいい食材達が闊歩する食うか食われるかの地獄『ヘルアイランド』に招かれしリッカ達。状況の把握が行われる前に──
「お前様達がまず意識すること・・・それは!『食われる側の気持ちになってみろ』でち!」
玉藻、巴、清姫・・・それらが震え上がる紅閻魔の手腕。生きるか死ぬかの恐ろしきスパルタ地獄教室。参加者全員が例外なくトラウマを刻み込まれるその試練に──
【──上等!こちとら一日や其処らで料理上手になれるなんて思っちゃいない・・・!私は遊びに来たんじゃない。──自分自身を高めに、変えるために此処に来たんだから・・・!】
今、リッカを含めた五人と一匹が果敢に挑む──!!
玉藻「説明しよう!ヘルズキッチンとは紅閻魔先生による『お料理教室』の事である!どんなに料理下手であろうと、御花畑な新妻だろうと例外なく地獄行き!地獄の裁判官の権限を極限まで活用した、まさに魂を燃やすブートキャンプ!どんな新兵でも『一人前の料理人』に鍛え上げるもう一つの八熱大地獄なのです!」
──あ、あわわわ・・・
「(無言でエアを庇い下げる)・・・参加時間、期間は如何程だ?二時間程度で終わるものか?」
「そんなあまっちょろい教室じゃねーですよー!『でも調理技術教えるだけでしょ』と知らない人は言いますが!紅閻魔先生の教室はそういう技術論ではないのです!美味しいレシピ!いい道具の見分け方!調味料の見分け方!役に立つマメ知識とか!そういう事を教えてもらえるのは一人前になってから!紅先生の場合、料理への理念がまず地獄なのです!参加者の命の保証は・・・──・・・御主人様、参加してしまったんです・・・?」
ギルガメッシュ「──うむ。我等がマスターが、自らを磨く研鑽の場に物怖じすると思うか?」
玉藻「あわわわわそうでした!こうしてはおられません、今すぐ迎えにいかなくては!御機嫌王様!どうか軽々しく参加したいなどというおバカさんを止めておいてくださいまし!死人が出ますから!」
ギルガメッシュ「──うむ。地獄の名は伊達ではない、ということか・・・」
──ま、マリーや皆に声をかけてきます!地獄巡りは覚悟を決めてからと!皆!早まらないでー!
~将門公自室
滝夜叉姫「私とウズメちゃんはなんとか合格できましたよ~。これで毒殺、源氏殺しは完璧です!」
『・・・毒殺、他者に振る舞うは控えるが良し』
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