人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『料理の腕は上がりまちたが、おまえはまだまだでち。愛情という調味料が過剰すぎで、一月で旦那様が肥えてしまうでち。自分から美味しそうな人間を育ててどうするでちか』

玉藻の前 B

『清姫の料理は豪快でちが、火と油を使えば大抵の料理は美味しくなるもの。家庭料理はそれだけで回るものではありまちぇん。もう一度、御寺で典座の教えを叩き込むしかないようでち』

清姫 C-

『鈴鹿御前はそのままでいいでちよ。世の中には細やかな料理に向かない者がいるのでち。本を読んだだけでは悟りは開けないのと同じでち。見た目が大雑把でも、味と愛情が籠っていればいいのでちよ。後は──相手を見つけるだけでちね!』

鈴鹿御前 B-


『滝夜叉姫は間違いなく優等生、優等生なのでちが・・・調理風景もまた最低限の見栄を飾ることを覚えるでち。源氏殺す呪いを呟き呪詛をまぶしておいて解呪の手間隙を作る度に増やすのは無駄の極みでちよ!・・・それでも出来映え、味は磐石。しかして祟りと恨みを忘れぬ様はやはり親御様の気性なのでちょうか・・・』

滝夜叉姫 A-


地獄のレッスン・ヘルズキッチン~中編~

「もー!なんなのよこれー!私は簡単な料理!プレーンオムレツとエッグベネディクトが作れればそれでいいんですけどー!?」

 

床が落ち、放り込まれた密林。獣と言う名の上等な食材が満ち溢れる謎の空間──否『ヘルアイランド』にて襲い来る猛獣、怪鳥、爬虫類・・・それらを必死に捌き、迎撃しながらエレナが叫ぶ。簡単気楽なレッスンと思っていたのに話が違う・・・。そんな疑問すら浮かべ口にするのも許されない。一瞬でも気を抜けば、サーヴァントといえど食料。誰かの糧だ。マスターとして、一つの生命として。喰うか食われるかのミッションにその場にいる一同が懸命に挑んでいる

 

「おやおや、随分手荒い歓迎と教育内容じゃないか。まぁ退屈で眠くなるよりは十分マシだけどさぁ?料理ってもっとこう、手軽でぱぱっとできるもんじゃないのかい?」

 

【姉御!背中任せて!】

 

背中合せに互いをフォローし、アルテミスの弓とカルヴァリン砲をぶっぱなしまくりながらドレイクがいぶかしむ。仮にも海賊、難解な手順と面倒なしがらみを振り切る為に海へと飛び出した彼女にはこういった研鑽や努力を課せられるのは物珍しいようだ。そんな疑問に──

 

甘味(たるみ)きった考えを鍛えるのがヘルズキッチンでち。おまえたちはそのヘルアイランドで一ヶ月のサバイバル生活を送りまち!』

 

残してきた仕事、時間軸のズレや時差ぼけ諸々は気にしなくてもよい、隠里効果で時間経過はノーカンでちと紅閻魔は付け加え、そして料理においての絶対的に不足している心意気、心構えを徹底的に叩き込み、思い知れと空へと浮かび上がった紅閻魔は言葉を響かせる。それらは料理、その認識を徹底的に改善し意識を改革させるための基本にして絶対的な真理を説くのだ。命を懸けて、自然の闘争に挑む者達を

 

「『一つ!料理とは政治である!』──例えばここに特上の松阪牛があるでち。こんなん誰でも使いたい。そうでちね?でちが、いい食材は限られているもの。それはお金では買えないものも含まれるでち。御家庭の食卓に最高の素材を並べるには、お金などという即物的なものだけでは足りまちぇん。必要でちが、不可欠ではないのでち!」

 

そう──いい米や作物が欲しければいい農家と付き合い(コネをつくり)、肉が欲しければ牧場に通い(コネをつくり)、いい八百屋とメル友になり、卸し市場と懇意になる──

 

「即ち政治でち!交渉力、コミュ力でちね!根回しを怠る者に、一流の素材は与えられまちぇん!」

 

【わかりみ!!情報、人脈は何より大事!意外なところで助けてくれるのはいつだって人の繋がり、出会いだもんね!】

 

「うーん・・・言ってることは分かるんだけどねぇ。しがらみとか肩書きとか制約とか、そういうめんどくさいのが嫌で海賊やってる身としちゃぁ身に摘まされる話さね・・・」

 

リッカは理解を示し、ドレイクは苦々しく呻く。繋がりを信じ、高校生全員と仲良くなった人脈があらゆる箇所に作用した経験がある。それを料理に転用、通ずるものであると元気よく手をあげる。それに対照的に、稀代の女海賊はそういうのにうんざりし奪い、侵す海賊になったわけで。早くも挫けそうな自分の変わり身の早さに、照れ臭そうに頬をかく

 

『二つ!『料理は物理である!』言うまでもなく料理は現実の産物。夢物語ではありまちぇん。うまくいったらいいな。おいしくできたらいいな。なんとなくだけどとりあえず始めちゃおっかな・・・そんな考えで出来上がる料理はふわふわした妄想料理!ぼんやりした味なのでち!

 

しっかりした計画を考え、しっかりした計量をし、しっかりした作業を行う。それを行い、それを完遂して初めてそれは料理と言えるのである

 

『おまえたちは料理人が『毎日、同じような料理を同じようなルーチンワークでさらっと作っている』などと思っているようでちが、料理人は毎回一つの作品を作っているのでち!毎日ちょっと違う物語を、ちょっと違う小説を書き上げているようなものなのでち!めっちゃ体力と頭を使うでちからね!言っておきまちが、剣の修行より辛いでちよ。閻雀裁縫術の門下になったからには、イージーな料理は許されまちぇん!一食の献立設計を乗り越えるごとに霊基体積が一キロは減ることをかくごしておくでち!』

 

「は、ハードね・・・!?アハト翁はいつも『美味しいものと美味しいものを重ね合わせれば更に美味しくなる』と言っていたのに・・・!?」

 

「がおん・・・(あぁ、そんなだからヘラクレスに狂化やキリツグに私を・・・)」

 

 

思っていたものと全然違う。それどころかあまりにもハード・・・魔術師の鍛練の方が楽と言っていい程の教室に戦慄を覚える二人。最後の1つを、紅閻魔は高らかに主張する

 

『三つ!『料理とは努力である』!『あたし料理の才能がないのよね』『レシピ通りに作っているのに美味しくないのよね』『栄養バランスとか気にしないのよね』『辛ければ料理です!』あぁあぁあぁあぁあぁー!!どれも唾棄すべき迷い事でち~~!!!

 

美味しい料理ほど面倒くさい。大がかりな料理ほど手間がかかる。難解な料理ほど暇がない。それは絶対に変わらない、不変の鉄則であり、けっして揺るがない世界の真理である。其処を履き違えた者に、料理上手の道は開けないのだ

 

『レシピは最後まで読み込んで、じっくりとその意味を考えるでち。その上で手持ちの食材で何ができるのか。食べてもらう者をどんな風に喜ばせたいか。そういったストーリーを想像するのでち!『料理がうまくいったらいいな』『辛さこそが美味しさ!私が美味しいなら皆様にも!』そんな甘ったるいありがた迷惑では一生料理上手にはなれないのでちーーーー!!!!』

 

「な、なんと・・・!?私は、辛味の探求は・・・最初から、間違えていた・・・・・・!?」

 

『いいでちか!特に其処の辛味聖女!料理に才能は必要ありまちぇん!必要なのはただただ根気と努力だけでち!いつもやってる下ごしらえだからといって手は抜かない。はしょらない。コツコツ進める!それを毎日成し遂げる気概があれば!誰だって料理は上手くなるのでち!』

 

 

「「「「「死ぬまで」」」」」

 

『死ぬまででち。生きるという事は死ぬまでものを食べる、という事でちからね。おまえたちはそこで、その基本原則を魂に刻むでち。──なに、授業前のホームルームのようなものでち。この程度、この後の初級コースに比べればチュートリアルにすぎまちぇん!』

 

同時に、更なる食材の増援に囲まれ、逃げ場を断たれる。どうやら本格的に戦わなくてはならないようだ。キメラ、ソウルイーター、バイコーン・・・美味しそうかつ新鮮な食材がずらりと立ち並ぶ。食物連鎖の最下層に放り込まれ、裸一貫で戦い抜くしかないという状況がホームルーム・・・初級はもっと想像を絶し、最低でもそれが上級まで三つ待ち構え、それが八セットある。そんな果てなき地獄巡りの開催に、一同は確信する。地獄の名に、何一つ偽りは無いと──

 

「なぁんだ、要するにいつもの海賊稼業と大して変わらないってことじゃないか。切った張った、命の取り合いなんて海上じゃ日常茶飯事さ、笑顔で鼻唄歌いながらやってやれない事はないね!」

 

「地底探検はなんだかニアミスしてしまった気がするけれど、とにかくお料理の勉強になるのよね!未知の探求はいつだって危険なもの・・・徹底して付き合ってあげるわ!アイリスフィール!セイバーライオンから離れちゃダメ!ジャンヌ、前線の護りよろしくね!」

 

「がおん!!」

 

「・・・辛くすればいいものではない・・・どうやら私は新たな岐路へと立たされているようです!ならば美味しい、笑顔にできる麻婆の為!私に出来ることをやりましょう!よろしいですね、マスター!」

 

【おうっ!!地獄なら一生分味わった──今更怖じ気づく程恐ろしいものでも無いよ!皆の料理上手への道は──私が切り拓く!!】

 

飛び掛かってくる食材を、大雪山下ろしで叩きつけ、ダブルニークラッシャー、スピンアームソルトで吹き飛ばし、入念な下ごしらえを完遂する。リッカにとって地獄であろうと極楽であろうと、甘美な安寧であろうと阿鼻叫喚な地獄であろうと──

 

【行くよ皆──どうせなら!!地獄を楽しもう!!】

 

「「「了解!!」」」「がおん!!」「あいよ!」

 

四肢を振るい、翼を羽ばたかせ、喉を震わせ・・・踏み潰し乗り越えるものでしかないのだから。自分だけではなく、全員で辿り着くため。今、邪龍が力の限り吼える──!!




『巴はなんでちか? 首をねじ切ることしかできない悲しいモンスターなのでちか? おにぎりの中におにぎりが入っているとか、おかずの概念はないのでちか? 桂剥きもせず大根をかじらせるとか、義仲様の口を血まみれにしたいのでちか?』

巴御前 D

『刑部姫に料理を教える、ということは雛鳥を一度卵に戻してからもう一度やり直させる、ということに等しいでち。……チュチュン。やはり一度斬り殺して、異世界に転生させるしかないでちかね』

刑部姫 E----

~以上、紅閻魔ヘルズキッチン帳簿より評価抜粋

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