人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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オルガマリー「まずは始まりの記録ね。──ごめんなさいリッカ、余裕が無さすぎたとはいえいきなり平手打ちなんて・・・」

リッカ「私気持ち悪っ!何をヘラヘラしてるのか!もっとシャキッとしなさいシャキッと!あ、ロマン・・・変わらないなぁホント」

マシュ「先輩!大人しい頃の私です!大人しい頃の私ですよ!庇護欲が湧いてきませんか!護ってあげたくなりませんか!」

リッカ「もー、誰なのこんな純朴なすびに水と日射しをドバドバ与えてこんなイキりなすびにしたのー」

ぐっちゃん「あんたよ!あんた!・・・そっか。此処では私達なんてモブもモブじゃない・・・」

オルガマリー「それにしても・・・此処はボクのサボリ場、ね・・・ロマン、居直りにも程があるのではないかしら?」

ロマン「ヒエッ・・・ご、ごめんなさい!今じゃちゃんと御仕事をしています!大丈夫ですよーサボってないです!ロマン嘘つかない!」

オルガマリー「知ってるわ。・・・」

リッカ「ぐっちゃん先輩格好がなんだかだぼっとしてない?いつもの際どい服じゃないの?」

「着れる訳じゃないでしょ!?あんなの着てたらやべー奴じゃない!」

マシュ「つまり今のぐっちゃんさんはやべー方なのでは!」

「あっ・・・い、今はいいのよ今は!ここじゃ誰も見た目で判断なんかしないでしょ!」

リッカ「楽園への信頼・・・ぐっちゃん先輩・・・とうとみ(シュワァ)」

「あんた雑魚なのか最強なのか評価が変動しすぎなんだけど!?」

オルガマリー「・・・まさか、親友や仲間がこんなに出来るなんて思わなかったわ。後にも先にも、ね」

ロマン「・・・そうですね。本当にお疲れさまでした、マリー」

「えぇ、いまから沢山苦労するあなたに比べたら全然よ。子供、野球チームくらいは作りなさい」

「あは、あはははは・・・頑張ります・・・」


『始まりの記録』

「キャウ!フォウ!ガルルル・・・」

 

「──ん?なに、このちっちゃい変なの」

 

 

──それが、自分を導き、そして背中を押してくれた唯一の親友、グドーシが遺言を残した星の天文台にて『藤丸立香』が漏らした最初の言葉だった。多種多様な移動手段・・・陸路や空路、海路を駆使されようやく辿り着いた場所にて、旅路の疲れのせいか壁にもたれかかり眠っていたらしい自分を起こしてくれた小さいケモノに、立香は笑顔で手を伸ばす

 

「よしよし、怖くないよ~。大丈夫だよ、おいで~」

 

「キャウ!ファウ!フォァウ、フォーウ!」

 

にこやかに対応する立香とは対照的に、全身で警戒を示し、差し伸べた手をべしりと払いのけ駆けていってしまう謎のケモノ。コミュニケーションを拒絶されたのに思うところはあるが、まぁ向こうにも事情があったのだろうと予測し、気持ちを切り替え身体を伸ばす

 

「寝てたのか~。私ぐっすり寝てたんだね。旅行とか学校以外の場所に脚を運ぶの初めてだったし、まぁ慣れてなかったのかなぁ、体」

 

それにしてもこんな無防備な姿を晒すのは想定外だった。自分は罷り間違ってものんきやのんびりなどできる人種ではない。何かをしていなければ、何かをしなければ自分が自分である必要はない。そうだ、何かをしないと。誰かと仲良くなって、自分が自分であるが故に行動を起こさないと、グドーシに顔向けが出来ない

 

とはいえ右も左もわからないカルデアとかいう施設の中、無闇に歩き回るのもどうかと思うし・・・誰か都合よく通り掛からないかなぁ、意思疏通が出来るならどうとでもなる。自分の話術は伊達ではないと息巻いていた立香の前に、望み通りの展開が巻き起こる

 

「あ、お目覚めですか。先輩。おはようございます。フォウさんがあんなに威嚇をするのは珍しいのです、どうか御許しください。誰かを嫌う、なんて本当に初めてで・・・」

 

「誰あなた?私は藤丸立香!好きなことはコミュニケーション、サブカル全般!嫌いなものは裏切りと先入観!座右の銘は、『意思があるなら、神様とだって仲良くなる』高校生!よろしく、デザベビ系パープル後輩!」

 

先輩と呼ばれたことも、誰であるかもとりあえず受け入れ後回し。自分の事を知ってもらうにはまずは対話、自己紹介である。手を掴みぶんぶんと笑いながら紹介する目の前の人間の積極性に圧倒されながら、自分も自己紹介をしようとする少女。自分もそうするべきだと考えたのだ。ごく自然に。そんな事、今まで一度たりとも思わず考えもしなかったと言うのに

 

「で、では私も・・・私の個体名は、マシュ・・・」

 

「あぁ、そこにいたのかマシュ。ダメだぞ。断りもなしで移動するのは・・・おや」

 

そんな彼女を労る声が、廊下の向こうの足音よりやってくる。緑色の服装に身を包んだ、人当たりの良さそうな青年。笑顔を浮かべた優しげなマシュの身を案じる者が、その立香の前に現れる

 

「────君は・・・確か特別枠で招かれた新人さんか。私はレフ・ライノール。ここで働いている技師の一人だ。宜しく頼む。君の名前は・・・」

 

「藤丸立香!好きなことはコミュニケーション以下略!マスター番号48番です!宜しくお願いします!頑張ります!」

 

「ははは、元気がいいな。──君には特訓も訓練も不要だな。君は君のままで、思うままにカルデアを渡り歩けばいい。私の方から、外出許可は出しておくよ」

 

その顔を見れば大丈夫。そう告げたレフの言葉は信頼と確信に満ちていた。ここに君がいることには大きな意味がある。心から歓迎しようと握手を求めるほどに彼は立香に友好的だった。握手を交わしながら、はじめから立香を知っているように

世話と助言を行っている

 

「今回のミッションは全員が必要でね。魔術の名門から38人、才能ある一般人から9人、そして君という我々が選んだ一人。なんとか48人のマスター候補者を集められた。これは喜ばしい事だ。今の時代において、霊子ダイブが可能な適性者すべてをカルデアに集められたのだから。・・・そういえば立香君、君はいまマシュと話していたね?何か彼女から感じるものがあったとか?」

 

「初対面です!おっぱいおっきくて可愛いなと思いました!」

 

「身体的特徴は、気にしたことがありません。脂肪の集合体には個人差があるとは知っていますが・・・」

 

「ははは、随分と積極的な子になったんだな君は。まぁ、マシュを宜しく頼むよ。マシュだけじゃない。此処に集められたメンバーととりあえず全員話しておくといい。君のその対話術が、気難しいマスター達の潤滑剤になってくれる筈さ」

 

「はーい!じゃあ私、説明会に行ってきまーす!」

 

言われるまでもない。自分の成すべき事のため、一秒たりとも休んでなんていられない。何かを成さなくては生きている意味がない。何かをしないと、動かないと、行動しないと。立香はそんな思いを胸に、二人に背を向け駆け抜けていく

 

「・・・不思議な方でした。でも、何故でしょう。あの方と話していると気分が高揚すると言いますか、安心感を懐くといいますか・・・」

 

「それはそうだろうね。彼女は色々と手間がかかっているある意味での劇薬だ。きっと、我等の大きな力になってくれる筈さ。いやはや、間に合ってくれたようで何よりだ」

 

「先輩・・・あの、私。あの方と一緒に説明会へ行きたいと思います。なんというか、もっとあの方とお話ししたいのですが・・・」

 

それを聞いたレフの顔はますますもって確信を得た表情、そして同時に僅かな懸念を懐く色を見せたが・・・

 

「・・・構わないか。いいだろう、好きにしなさい。ただし、くれぐれも大人しくしているんだよ。隅にて立っているだけで構わない。退出する場合は、立香君と一緒にするように」

 

「分かりました。では、行って参ります」

 

後を追い、駆けていくマシュの後ろ姿を見ながらレフは笑う。全ては順調。これから起こりうる最大の出来事に、揺るぎない確信を懐きながら、彼は歩き出すのであった・・・

 

 

「おはようございまーす!!」

 

所長の説明会が開催される管制室にて、高らかに声をあげ最前列にどっかりと座る立香。挨拶は基本であり大事。第一印象は極めて大事なコミュニケーションのファクターであるからだ

 

一同は驚きと嘲笑、楽観的な彼女への侮蔑など様々な感情を露にしたが、即座にそれを自然なものと受け入れ正常を取り戻した。・・・ただ一人を除いては

 

「・・・盛大に遅刻しておいて謝罪があると思えば・・・何よ、そのふざけた態度と顔は!あなた、自分の置かれた状況が分かっているの!?」

 

カルデア所長、オルガマリー・アニムスフィア。これから行われる説明会に遅刻していた最前列の特別枠のマスター。レフから聞いていたマスターがこんな楽観的な能天気さを誇る輩である事に、怒りと苛立ちを隠さずに詰め寄る

 

「すみません!転た寝してました!あなたが所長?宜しくね!私は藤丸立香!好きなことは」

 

「聞いていないわ!あなた、なんなの!?レフが言っていたマスターがどんなものと思えば!一般枠とも違うと言うのにその無自覚差はどういうことなの!?どういう人間なのあなたは!?」

 

「どういう人間?コミュニケーションとサブカル大好き人間です!所長、アニメとか見ますか?素晴らしいですよサブカル!オススメ!【責任感や重責でいっぱいいっぱいになってるあなたにも、是非!】」

 

「なっ──」

 

立香からしてみればなんとなくそうなのかなぁ、そんなイメージあるなぁと思って口にした言葉であるのだが・・・それは的確に、目の前の存在の、一人の人間の本質を衝いていた。そして変わらず、言葉は紡がれていく

 

「所長には人を信じる絆や勇気で困難を乗り越える的なものがいいと思いますよ!ほら、助けてほしい、なんとかしてほしいとずっと思っているだけじゃなくて、手を伸ばしたり声をあげた方が、必ずそれを聞いてくれる誰かがいてくれて──」

 

「──!!」

 

瞬間、言葉を遮るように。自分を隠すように。オルガマリーの右手により、立香の頬に平手打ちが飛んでいた。それ以上言葉にされていたら、それ以上何かを紡がれていたら、取り返しのつかない事になるような戦慄ゆえの防衛反応だった

 

「あいたっ!?」

 

「お喋りや戯言ばかり!いい加減にしなさい!!あなたに何が分かるの!あなたに何が・・・私の何が分かるの!」

 

「えー?何もわかりませんよー。だから知りたいんです!もし良かったら色々教えてください!」

 

「────いいわ!あなたなんていらない!必要ありません!自覚も、教養も、素質も何もかも足りないあなたなんていてもいなくても同じ!あなたをファーストミッションのメンバーから外します!──出ていきなさい!私の前にもう現れないで!」

 

「しょ、所長。待ってください。先輩は挨拶をしたつもりで所長を貶めるつもりは・・・」

 

「はーい!じゃあカルデアの探索に行ってきまーす!じゃあ皆さん!頑張ってくださーい!」

 

即座に頷き、管制室を後にする立香。そのあまりの奔放さと自由さに、管制室がにわかにざわつく程の衝撃がもたらされる。極めて不合理な数合わせの人間が、誰よりも物怖じせず言葉を紡ぐ事実に

 

「なんだアイツ?カルデアは妙なやつを連れてきたなぁ。カドック的にはどうよ、アレ」

 

「僕に振るなベリル。・・・どうでもいい、それどころじゃないんだ」

 

「・・・・・・」

 

「マシュと一緒にいた・・・どういうことなのかしら、彼女・・・」

 

「案外シンパシー感じてたのかもね?目と目が合うってやつ?キャ、ロマンじゃない!♥」

 

「オフェリア、惑わされるな。・・・どう見る、デイビッド」

 

「そうだな。アレは・・・汚濁だ」

 

「汚濁・・・?」

 

 

「静かになさい!!──それではこれより、ファーストミッションを行います。レイシフトの為のコフィンに入りなさい、Aチームから順に準備を始めるように!」

 

管制室に動乱をもたらした彼女への評価と話題は、責任感と覚悟に掻き消される。これより行われしは、人理を保証するための崇高なる試み。過去に跳び、困難に挑むための偉大なる歴史への挑戦

 

 

レイシフト──運命の瞬間は、すぐそこにまで迫っていた。一同の命運も、また同じように・・・

 

「~♪~♪」

 

「先輩、何処に・・・ああっ、もう時間です・・・!すみません先輩、ご武運を・・・!」

 

そんな事は露ともしらず。立香は悠々と、寂しげなカルデアの施設をきままにぶらつくのであった・・・




リッカ「おや?ここはなんだろ」

『個室』

「──誰かいる。サボリかな?あー、多分所長に怒られて所在なさげにのんびりしてたって線かな。なんだ同類じゃん!挨拶しよ。こんにちはー!おはこんばんちはー!」

~藤丸立香・私室

「はーい、入ってまー──って、うぇえええええ!?誰だ君は!?ここは空き部屋だぞ、ボクのサボリ場だぞ!?誰の断りがあって入ってくるんだい!?」

「はじめまして!私は藤丸立香!好きなことはコミュニケーションとサブカル全般、嫌いなものは裏切りと先入観!座右の銘は、『意思があれば、神様とだって仲良くなってみせる』です!」

「あ、あぁ・・・あー、御丁寧にどうもありがとう。そしてはじめまして。丁寧に挨拶されたなら、挨拶し返さなきゃね。ボクは医療部門のトップ、ロマニ・アーキマン。何故か皆からドクター・ロマンと略されていてね──」

・・・これが後の魔術王、そして人類最悪のマスターの初邂逅。ゆるふわっとした、運命の勝利者達の出逢いの始まりの記録である──

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