人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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全能『──何をしている。使命を果たせ、比較の獣』

フォウ(うるさい!なんなんだアイツは、あんなのがいるなんて聞いてない!孵化一歩手前じゃないか!きっかけ一つで全てが終わる!あぁして人間なのが奇跡なくらいだ!)

『そのようだ。君と同じだ。カルデアに満ちる人の悪性を餌として現在進行形で覚醒が進んでいる。今のままだと、孵化まであと数分か数日だろう』

(詰みじゃないか!あんなのの傍にいたらボクだって引き摺られて獣行きだ!もう嫌だ、あんなバケモノになりたくない!返してくれ、ボクを放っておいてくれ!こんな詰みきった世界になんでボクを呼んだんだ!)

『君が破滅、終焉の引き金だからだ。そう焦らなくていい。『もう止めたい』と魂が告げればすぐに終わる。僕が君と彼女を目覚めさせてあげよう』

(な・・・)

『だが、諦めずに足掻き進めば道は開ける。人間の可能性、力は全て其処に集う。ともすれば君は、『誰も見たことのないような結末』の当事者になれる。──未練だったんだろ?かつてのハッピーエンドを前に脱落した自分が』

(・・・!)

『本当は、助けたかったんだろう?一度死んだ相手をじゃなく、誰も欠けることない結末を見たかったんだろう?』

(・・・──)

『誰もが笑顔でいられるような最高の結末。──そんな、夢物語が結実することを少しでも望んだから、今君は此処にいるんだろう?』

(・・・ボクは・・・)

『急げ。計算ではゲーティアに敗北するで一つ、君が覚醒して滅ぶで一つ、彼女にゲーティアもろとも食い潰されるの系三つの結末があるが・・・一つだけ『目映く見えない結末がある』』

(・・・!)

『掴み取れるかは、君達次第だ。特典として、魂の導き手の使命を全うしろ。僕に出来ることは、ここまでだ』

「・・・フォウ・・・」

(──くそっ。言いたいことを言うだけ言って。何がハッピーエンドだ。詰みの要因の方が多いハードモードの間違いだろう。あぁ、でも──)

「──フォウ・・・!キュー!!」

(其処に、可能性があるのなら・・・今度こそ、誰も欠けない未来があるのなら──!!)


【死ぬって、どんな感じ?】

「これは酷い」

 

悪意、それが充満している大本に歩き、そして辿り着いたリッカが漏らした感慨は、なんとなしの呟きであるその一言に他ならなかった。目の前に広がっている惨状は、まさしく凄惨極まる地獄絵図と形容するに相応しいものであり、それをもたらした原因の悪意を嫌が応にも感じざるを得なかったのだ

 

まず、コフィンとかいうコクピット、棺桶のような空間に入った時分を狙われたのだろう。どんな一流の実力者も丸腰で爆風を受けてしまえば一たまりもない。爆発とは破片や飛来物で害するものだ、そんな無防備で食らってしまえば即死も即死。生還なぞ万が一にも望めないだろう事は一目瞭然だ

 

そしてそれら、工作の予兆を微塵も感じさせない内部の活動もまた見事。微塵も警戒、レイシフトとかいう実験の前に爆弾などの調査を挟まなかったと言うことは、そんな事態は想定すらさせなかったということだ。それは逆説的に、『人当たりがよく』、かつ『それなり以上の地位にいる』者の犯行であることは、なんとなく察することが出来た。多分ではあるが、この施設が動き出したらまずい存在の介入だと感じる。話が出来すぎているとは思うけれど

 

そして、優秀なチームが入っていたコフィン程入念に爆破したんだろう。Aチームが入っていたとされる七つのコフィンはそれこそ跡形もない。入念に警戒し、丹念に排除してやろうとする意志を感じ取るのはそう難しい事ではなかった

 

足許に転がっている破片を拾い上げる。それは所長の教壇、席の欠片であった。──足許に仕掛けられていたのだと何となく察することが出来る。即死だろう。惜しいことをした。もっと仲よくなれると思ったのに。でもまぁ、死んでしまったのなら仕方がないと、破片に手を合わせそっと床に置く

 

・・・カルデアに来てから、何故か物凄く勘が冴えている代わりに、考え方が刹那的になっているような気がする。いつもの時以上に、誰かがどんな事を考えているか、どんな存在かを見抜けるような感覚がある。高校生で培ったコミュ力と、中学生以前の自分の精神が混ざり合っているような奇妙な感覚。真っ当な人間なんて誰もいないような環境で、自分もおかしくなっているのだろうか。グドーシと出会う前の自分が、今の状況を冷めた目で見ているような。そんな感覚がぼんやりと沸き上がっている

 

「所長ー、皆ー、生きてますかー。生きていたら返事してくださーい」

 

火焔と異臭が立ち込め、一秒先に瓦礫が落下してくれば即死である地獄の直中を、立香は悠々と声を上げながら進んでいく。足許に転がる命だったもの。もう物言わぬ亡骸を見付けた時は無感情に見下ろし、そっと手を合わせ立ち去る事を繰り返しながら

 

・・・浮かんだ思い、感じた事といえば、ただひたすらに残念だ。死んでしまった人にはこれから生き甲斐に溢れた人生があり、未来があり、明日があった。待っている人や使命に燃える生きざま、誰かと愛し合うような人生があったのだろう。それが一瞬で消えてしまった事に、無念と偲ぶ想いが沸き上がってくる

 

──同時にこうも思うのだ。自分ではもう珍しくもない。あと一食ご飯を食べられなかったら、あと一回強く殴られたら、あと一回罵倒されたら。そんなかつてすぐそこに転がっていたものに辿り着いた人に、聞きたくてたまらない事がある。グドーシが、最後に懐いてくれた気持ちや想いと、迎えたものと一緒であったものか、物言わぬ屍になる前に聞いておきたかったことがあるのに。・・・だが、それはきっと、あの後輩が教えてくれる筈だ。そう信じて、悪意に満ちた空間を、紅蓮と漆黒の地獄をひょいひょいと歩き続ける

 

「こっちかな?あぁ、いたいた」

 

悪意の中に、かきけされそうな薄く小さな生命の気配がある。カルデアに来てから冴え渡る自分の勘と、何処かこの環境における知らないことの連続、未知への好奇心のままに脚を進めれば、其処にかつての後輩がいた

 

・・・瓦礫に、下半身を潰され。身動きが取れなくなっている変わり果てた姿で

 

「・・・──あ」

 

先輩・・・立香を見付け、無感情の瞳で見上げてくるマシュ。誰が見ても致命傷だ。最早助かる見込みは無いだろう。ためしに瓦礫をどかしてみようと試みたが、女の子の腕力ではどうしようもない。両手の掌が火傷で真っ赤になっていることに気付いて、どうしようもないかと這いつくばる後輩の前へとしゃがみこむ

 

「やほー!また会えたね!大丈夫?生きてるよね?まぁ多分もう助からないと思うけど」

 

「・・・はい。ご理解が早くて、助かります。藤丸先輩。早く、逃げてください・・・」

 

勿論そうするつもりだ。残らず消し飛んだ生命、吹き飛んだ明日に未来。もう此処にいたってしょうがないだろう。隔壁がしまったら全てがお仕舞いだ。・・・でもまぁ、人生の終わりなんてこんなものだろう。グドーシに会いにいけて、またお話が出来るのなら。死ぬのもそんなに悪くない。どうせ、もうこの世界に私を喪って困る人は誰もいない。高校の皆には両親が、自分にはない繋がりがある。──大事にしたいたった一つの絆は、自分の手の届かない場所に行っちゃったから

 

「まー私の事はいいよ。ホントならもっと早く死んでたんだから。まぁそんな事より、今にもくたばりそうな後輩に一つ聞きたいんだけど!死にかけながら聞いてね!」

 

まるでアトラクションや、映画を見終わった後のように。爛々と目を輝かせながら今にも掴めそうな感覚に対する所感を訪ねる立香。その姿は、周りの炎や煙の彩りも合間って・・・とても人間の様には思えない程に歪みきっていた。生きていくという願い、目的が潰え、やり場を喪った快活さと明朗さが、一層立香という人間に刻み込まれた【なにか】を際立たせている

 

「【死ぬ】ってさ、どんな感じ?今死にそうだから解るよね?教えてくれない?」

 

「──死ぬ、ですか」

 

「だって死ぬじゃん。マシュ。自分で解るでしょ?助かるわけないって」

 

にっこりと笑い、瓦礫を指差す。下半身が丸々潰れている。どう足掻こうと真っ当な生活は送れないだろうし、正直生きていくのは無理だろう。だからこそ、此処でしか聞けないことを聞く。死ぬという事への感覚。グドーシは自分に何かを遺してくれた。だったら・・・マシュは自分に、何を遺してくれるのだろうか。期待しながら、逃げることもせずにニコニコと返答を待つ

 

「痛いの?辛いの?嫌なの?どんな感じ?参考までに聞かせてよ。大丈夫、最後まで聴いてあげるから」

 

どうせ皆、最後には死ぬのだから。そんなに特別扱いするものじゃない。グドーシとの出逢いで、私は生きていて良かったと思うことが出来た。ならつまり──もう、どこで死のうと納得できる。なら、せめて自分の知らない事を知りたいのだ。もっと、もっともっと

 

「・・・死ぬ、ですか。・・・これ、が。・・・」

 

・・・皮肉にも。その未知への好奇心から産み出された質問は。マシュへと投げ掛けられた対話と言葉は呼び水となり、産声・・・福音や萌芽への目覚めとなった。その強烈な言葉の投げ掛けが、マシュの稀薄だった自我を覚醒させ、叩き起こしたのだ

 

「・・・怖い、です」

 

下半身の感覚が無いことが怖い、迫り来る絶望が怖い、もう逃げられない事が怖い。そして何より・・・

 

「一人で、死ぬのは。怖い、です・・・」

 

「──────・・・ふーん・・・」

 

そうか。一人で、死ぬのは怖いんだ。そうなんだ、一人はやっぱり怖いのか・・・うんうんと頷き、ふむふむと納得を示す立香。それが末期で、死ぬときに浮かべる言葉・・・

 

そうか。目の前にいる子は今怖いのか。一人で死ぬのは怖いんだ。なら──それなら、しょうがない

 

「ん、解った!【じゃあ、一緒に死んであげる!】」

 

「・・・えっ・・・?」

 

そう告げ、どっかりと隣に座り込み。そっと手を握り天井を見上げる立香。その行動の意味が微塵も分からないと見上げるマシュに、リッカは告げる

 

「寂しいんでしょ?傍にいてあげる。大丈夫。傍にいるから安心して?」

 

親友に助けられた生命、一緒に生きる筈だった親友。真理を求める旅に、先に行っちゃったグドーシ。彼と一緒に使うはずで、中ぶらりんになっちゃった自分。使い時がきた生命なら、此処で躊躇いなく使うことにしよう。せめて、一人の人間の救いになるのなら。グドーシが、自分にしてくれたように

 

「貴女の命が尽きるまで、傍にいてあげる。大丈夫、寂しくないよ。人は皆、死ぬんだから」

 

そうして、すぐ先に見える死を前にしても立香は笑っていた。同時に、遠くで隔壁が閉まる音もする。もうどうしようもない。此処で死を迎える他には、もう、どうしようもない

 

まぁ、だけど。だけど、そんなに悲観する事はない。死ぬことは怖いことらしい。一人で死ぬのは怖いことらしい。・・・でも、自分は今一人じゃないし、マシュも自分がいるから一人じゃない

 

 

「・・・せんぱい・・・あなたは・・・」

 

握ってもらえている手は、傷だらけで。どう見ても彼女は無理や誤魔化しをしているようには見えなくて。もう覚悟を決めたのか、言葉もなく、無感情で。空虚に天井を眺めている自分に寄り添う先輩の姿を見て・・・

 

「・・・だめ・・・いきて、いきてください・・・せん、ぱい・・・」

 

・・・更に皮肉にも。そんな破綻寸前な先輩を目の当たりにして。マシュの中で再び変化が起きたのだ。対話の獣がごとき彼女の在り方が、無菌室で封じられていた彼女の人間性を叩き起こした

 

「・・・しなせたく、ない・・・だれか、だれか・・・せんぱいを・・・たすけて・・・」

 

「?何ぶつぶつ言ってるの?」

 

・・・──その祈りを聞き届けたのは何者か。彼女の中に眠っていた清廉の騎士か。それとも、親友の余りの捨て鉢な行為に、そんなCG回収みたいなノリで死んではいけませんぞと言った叱咤か。それとも、全能の意志か、これより始まる運命の助力か

 

『システム レイシフト 最終段階に移行します。座標 西暦2004年 1月30日 日本 冬木 ラプラスによる転移保護 成立 特異点への因子追加枠 確保』

 

「?」

 

『アンサモンプログラム セット マスターは最終調整に入ってください』

 

──彼女らを包み込む運命は止まらず、待たない。絶望と汚濁を蹴散らす黄金と無垢なる輝きへ、二人を導く言葉が鳴り響く──




リッカ「真っ赤じゃん。カルデアス」

マシュ「・・・・・・だれか、たすけて・・・せんぱいを・・・この、やさしい、ひとを・・・」


『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます。近未来百年までの地球において、人類の痕跡は発見できません。人類の生存は確認できません。人類の未来は保証できません』

「え、滅ぶんだ人類。ちょっとー。いつも滅んでるよ人類。もっと根性見せてよー」

フォウ「──フォウ!!!(何を馬鹿なこと言ってるんだ!)」

「あたっ!?」

「フォウ!キュー!フォウ!!(君がやるしかないんだ、シャキッとしろ!ああもう、絶対途中で終わる旅なんかに付き合わされるなんて!)」

「・・・フォウ、さん?」

『レイシフト、定員に達していません。該当マスターを検索中、発見しました。適応番号48 藤丸⬛⬛を、マスターとして再設定します』

「フォウ!キュー!!(とりあえずこんなとこで死ぬな!死ぬのは全部終わってからにしてくれ!多分、ボクと君の殺しあいで終わるんだろうけどね!)」

リッカ「あいたたた!噛まないで噛まないで!」

『アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します。レイシフト開始まで、あと3』

「どうして・・・二人とも、ここに・・・」

『2』

「キュゥウ(くっそう、ボクはなんてバカなんだ!関わりもない、一人はバケモノなのに・・・見捨てることが、出来ないなんて・・・!)」

『1』

「──そっかぁ。滅ぶのかぁ、世界」

──全工程、完了 ファーストオーダー 実証を開始 します──

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