人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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レフ「統括局へと報告。我等の実験の成果である獣の覚醒は間近である。カルデアの命運は最早万に一つも有り得ないと断言する」

ゲーティア『我等の実験の産み出した産物、それが最後に残るとは幸運である。最早最後の可能性すら潰えた。人類の未来は、我等の偉業の燃料となる事以外に有り得ぬ』

「賛同を示す。・・・進言を行う」

『容認する』

「──しぶとくも生き延びたデミ・サーヴァント。それを目の前で喪えば覚醒は即座に起きるものと思考する。故にこそ、レイシフトにて逃れた者共を敵の最中に送り込む事は可能であるか?」

『・・・──可能である。では、そのように対処を。マシュ・キリエライト、ビーストifを共に特異点にて敵性反応が最も集う場所に転移させる』

「感謝を。──思い知れ、人類ども。貴様らには万に一つの希望も与えなどはしない──!」


『君臨』

「──ぱい、・・・ぱい!先輩・・・!」

 

・・・呼んでいる。誰かが、自分を呼んでいる。何が自分を招いているのだろう。誰が自分を呼んでいるのだろう

 

「・・・んー・・・?」

 

もう死んだのだろうか。死んだ者は誰かに呼び止められるものなのだろうか。意識はまだ、ぼんやりしている。なんだか身体が気だるい。どうにも頭に霞や靄がかかっているようで、どうにも釈然とせず状況の把握が出来ない

 

「先輩、起きてください!でないと──」

 

そもそも自分を呼ぶこの声は何者なのだろう。今になって自分を求めるものなど唯の一人だっていないはずだ。本当の意味で自分を求める人間なんて、もうこの世にいる筈が・・・

 

「でないと殺しますよ、先輩!どうか、目覚めてください、藤丸先輩・・・!」

 

「──!」

 

矢も盾もたまらずに飛び起きる。殺すという単語を聞き及んだ瞬間に、尋常じゃない速度で身体が動いた。その単語が持つ意味。それを得心するために考えるより早く身体が動いたというやつだ。自分を殺すと言うような悪意あるものがいるのならば、今すぐにでも・・・

 

「・・・あれ?」

 

・・・見ると、其処はカルデアの管制室では無かった。瓦礫が詰まれ、燃え盛ってはいるものの。其処は屋内ですらない。紅蓮の空に燃え焼ける地表。生命の気配ない地獄。そんな所に、自分は寝ていたのである

 

「何処ここ?私達、何が・・・」

 

そう口にしようとした立香。口をついて出た二の句は、目の前で繰り広げられる光景に奪われかきけされる事となる。其処には、本当の意味で『ゲームか漫画のような』光景が繰り広げられていたのだから

 

「マスター、覚醒を確認・・・!すみません、先輩!今のは殺されますよ、を言い間違えました、訂正させてください・・・!」

 

──先程まで死にかけていた後輩、マシュとか言うのが、骸骨の兵士と命を懸けて戦い合っていたのだ。紫の鎧・・・というよりインナーみたいな薄い格好と、身の丈より大きい盾みたいなのを振り回しながら、懸命に。

 

「先輩、いえ・・・マスター!どうか力を貸してください・・・!一緒に此処を乗りきりましょう・・・!はぁ、っ!」

 

唸りを上げ、盾が骸骨に叩き込まれる。粉々に砕ける兵士、返される攻撃を受け止め、押し込み、一進一退の攻防を繰り広げている光景を、ぼんやりと眺めている

 

なんだか、先程とはうって変わって全てが曇りのかかったように不明瞭だ。冴え渡るような他者への所感も、かぎ分けられるような人の想いも、まるで掴みとれずピンと来ない。研ぎ澄まされていた自分が、何処かへと消えていってしまったような感覚。或いは、自分の中へ潜み何処かへと見えなくなってしまったような。目の前のコスプレしたような後輩から、何か加護のようなものを受け取っているからだろうか。翼をもがれたような、卵の殻を被せられたような。

 

 

・・・これはマシュに能力を譲り渡した騎士の力が契約を通じ立香に流れ込み覚醒と顕現が抑え込まれているが故に、先程までの悪意を喰らい続けて孵化を進めていた獣の権能が失われているが故の違和感である。マシュと契約を結ぶ限り、致命的な破滅は食い止められている。あくまで『阻止』であり、討伐は果たせぬのだが・・・そんな事実に至る暇も、不思議な感覚に頭を悩ませている猶予も──残念ながら、残されてはいなかったのだ

 

「はぁ!やっ、はぁあ!」

 

「──」

 

・・・目の前の戦う後輩から感じる痛々しさと必死さが胸を打った。彼女の、戦いへと向かい合う感情を察し、自分の事などどうでもよくなったからだ

 

彼女は今震えている、怯えている。怖がりながら、懸命に自分を奮い立たせている。誰かのために、勇気を振り絞って足掻いて、もがいている。誰のためにかは知らないけれど、少なくとも今、マシュは戦っているのだ。勇気で恐怖を押し殺して

 

先程の言っていた世界が終わるというアナウンス。──正直、世界が滅ぼうと滅ぶまいともうどうでもよかったのだが。今の非現実的な光景は、今までの不思議な非日常、そして滅亡の未来の信憑性を高めるには十分すぎるものだったのだ

 

「・・・──」

 

世界が滅びる。皆が死ぬ。全てが終わり、そして消える。皆が生きている今日が、皆が生きようとしている明日が、皆が夢見る未来が、全て消え去ってしまうと言うことだ。滅び去るとは、つまるところそういう事なんだろう。

 

・・・自分だけならどうでもいい。もう余生、老後の迎えを待つような自分は死のうが滅びようとどうでもいい。だが──

 

「・・・皆は、きっとそうじゃないのかな」

 

自分以外の誰もは、死にたくなんてないだろう。滅びたくなんてないだろう。明日が無くなるなんて、消えてしまうなんて嫌だろう。訳も分からず、死んでしまうなんて嫌だろう。そんな考えに、霞がかかった頭で唯一思い至る

 

それに何より・・・『滅びて無くなる明日』は、それはきっと、いや・・・絶対に。『グドーシが死ぬほど生きたかった』明日なんだ。明日に生まれる文化を夢見て、明日に見られるアニメやゲームを心待にして、希望に満ちた未来を信じて、残り少ない生命を笑顔で全うした。短すぎる生命を、希望に満ちて。明日はきっと、今日より良い日であると心待にしていた筈だ

 

それが、滅ぶ。誰かの手によって、誰かの悪意によって消え去ってしまう。希望も、未来も、明日も。全てが燃やされ焼き払われる。誰かの都合で、グドーシがいない世界を、グドーシが生きたかった世界を。高校の皆の進路を、未来を。焼き捨てられようとしている。──そんな結論に至った時。自分の中に・・・とある答えが浮かび上がったのだ。それは初めて、己が選んだ感情。笑顔しか知らなかった自分が、初めて選び掴んだ選択であった

 

「うん!腹立ってきた!よし、世界を救おう!」

 

それは嫌だ。それは許せない。自分が死ぬのはいい、自分が滅びるのは構わない。でも──『皆の生きる明日や未来』が奪われるのは、誰かの手で消えてしまうのは絶対に認めない。そんなものは認めてはいけない。自分にとって何の価値を見出だせない明日や未来にも、其処に生きる人達はきっと夢見ている。輝かしい未来を。きっと信じている。今よりいい明日を

 

なら──自分はそれを護ろう。滅びが誰かの手によるものだとしたら、それを自分は覆そう。奪われた未来を取り戻そう。自分しかいない、自分にしか出来ないことだ。それは何のことはなく、単純な話──『懸ける命は、確かに救ってもらって此処にあるのだから』。余った命、躊躇いなく懸けよう。己の人生は、どうせなら皆の明日の為に使おう。喪って哀しむ者などいないなら、いつでも死んでもいいのなら。世界と未来をまるごと救ってから死のう。それに、世界を救った暁にはきっと土産話がたくさん増えているはずだ。・・・雲の向こう、行けるかどうか分からない空の向こうにいる親友へ聞かせる、土産話が

 

「──!」

 

そう決意し、己の在り方を定義した瞬間、燃え上がるような熱さと痛みが右手の甲より沸き上がった。心臓の鼓動の様に、沸騰するマグマのように。胎動する炉心の様に、世界を救う資格が右手に宿ったのだ

 

三画にて構成された紋様。翼を広げる龍の様な紋様に、カルデアのマークである紋様が書き換えられる。自分にとってこれはなんなのか。目の前で戦う後輩に何が起こったのか。そんな疑問は、これから巻き起こる怒濤の波乱に押し流された

 

「くぅっ、あぁっ──!」

 

いつのまにか増援を呼んでいた兵士。大量の雑魚に押し込まれ、撥ね飛ばされるマシュ。多勢に無勢、戦いは数だと力説される通りに劣勢に陥る。数は十体程。戦力差としては絶望的だ

 

「フォウ!キュー!(何をぼさっとしている!)」

 

「あいたっ!?」

 

ガブリと指を噛まれ思わず声を上げる。其処には自分を見て一目散に逃げ出した獣、フォウとか言うのが唸りをあげて自分を見て叱咤していた。ニュアンスはよくわからなくとも、自分にはなんとなくそう思えたのだ

 

「フォウ!フォフォウ!キュー!(君がやるしかないんだ、覚悟は決まったんだろう!喚ぶんだ、この糞みたいに詰んでしまった物語を覆すことが出来る、デタラメなヤツを!出来るだろ、君だってデタラメなんだから!)」

 

「・・・私に、何かをしろって事?」

 

「フォウ!フォウ!(霊脈のど真ん中に飛ばされたのはラッキーだった!その分ザコどももウジャウジャやって来てるけどまぁそんな事はいい!出来るはずなんだ!マスターなんだから!)」

 

そう。可能性は残されている。絶望の底に、輝く希望は確かに此処にある。後は手を伸ばすだけだ、掴み取るだけだ。世界を救うために、戦う決意を示すだけだ

 

世界を、人類を滅ぼす癌細胞である獣。そんな存在に世界の未来を託す。破綻しきった旅路に抑止の輪ですら頭を抱える『規格外』な運命なれど。──そんなとびきりの反則と『規格外』には、相応しい剣が用意されている

 

「フォーウ!!(始めるんだ、この旅路を!歩き出せ、前を向け!覚悟を決めて──掴み取れ!)」

 

「──!」

 

高らかに右手を掲げる。どうか、誰でもいい。この熱い昂りを聞いているのなら。この世界を救い、『未来と明日』を切り拓く為の力を貸してくれる誰かがいるのなら

 

「──私は許せない。必ず世界を救う!未来を奪ったヤツを倒せる力が欲しい!」

 

手の甲に刻まれた一画が消え失せる。霊脈が起爆剤にて吹き飛ばされた洞窟の如く、震動を始める

 

「世界を救えるのが私しかいないなら、私は絶対に逃げ出さない!全てを救う日が来るまで、絶対に諦めないし、挫けない!」

 

もう一画、計らずともその証が消え失せる。──空打ちにしか過ぎない行為であれど、その振る舞いは確かに、資格を持つものであることを示す

 

「私は──グドーシが死ぬほど生きたかった明日を、世界を、必ず取り戻す!!」

 

澱みきっていた魂を拭き晴らす決意の叫び。群がる骸骨がその輝きを認め、火に入る虫のように群がっていく

 

二画を失い、最後の一画。──マスターたる証が強く輝きを増す。最後の一つが消え去らなかったのは、これより招かれる英霊が正規の者で無い故か。それとも充分すぎる程に愚かで、愉快であったが故への恩赦か

 

《──フッ。無味乾燥な魂に頭を悩ませていれば、誰もが投げ出すであろう袋小路に我を喚ぶ阿呆がいるとはな。・・・良かろう。この様な無味無臭な魂を研き上げる砥石、鍛練場にはこれくらいの難題が相応しかろうさ》

 

目覚める事の無かった魂。本来ならば有り得ぬ存在。肉体の奥底に宿る、絶対なる『王』。それが、断末魔のような決意を聞き逃す筈もなく

 

《戯れだ。暫くは鑑賞と暇潰しに我を使わせてやる。下らぬ結末、下らぬ研鑽を我に見せるな・・・といっても聞こえぬか。だがまぁ──》

 

冷酷なる裁定者。無慈悲なる者。全てを見定める者。──不純物ですらない無垢なる魂を有した『ソレ』に・・・

 

《──我を招くのだ。滅ぶにしろ勝つにしろ・・・生半可な結末で我を満足させられると思うなよ?》

 

──祈りは、誓いは。確かに届いていたのだ。




マシュ「っ、ぁ──!?」

瞬間、猛烈な暴風と破壊の蹂躙が巻き起こる。顕現の際に赦し無く表をあげ蠢いていた有象無象を、豪華絢爛な財宝が撃ち貫き余すことなく吹き飛ばしたのだ

「これは・・・!?」

そしてそれは、立香やマシュにも例外ではない。数本、短剣や棍棒などの武器が一直線に飛来する

「先輩!危ないっ!」

懸命にマシュが防ぎ、マスターを、フォウを護った。この程度で死ぬのならば、この先など有り得ぬといった軽いテストのような一撃である。──自我は、その結果を以て肉体の深奥へと微睡んでいった。此処からの主導を、右も左もわからぬ魂へと投げ渡して

「──・・・っ、く・・・っ!」

召喚により、巻き起こる風。まともに立つことすら出来ないほどの輝きのなか、懸命に踏ん張る立香。そしてマシュ。いつ収まるとも知れぬ暴威はやがて──





蒼に満たされる空間、白い稲光に目を閉じる。
 

 やがて光は収まり、そこには一人の男が立っていた。
 
 
 黄金のフルプレートアーマーに身を包み、逆立つ金色の髪。そして、冷然と総てを見下ろす真紅の瞳。
 
「あ、なたは……」
 
 
 あまりの威容、あまりの威圧に立っていることが精一杯だった。
 
 けれど、震える喉から懸命に声を絞り出す。
 
 
 彼こそは、この人類史を救う旅を助ける無比なる刃。
 
 剣となり、盾となる戦闘の代行者。
 
 
 人類史に刻まれし。英霊の写し身。
 
 
 その名を――
 
 
「や、我が知りたい」


・・・──その日。全てを覆す運命に出逢う──

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