クロ「んぐむ、んー!ん!んー!」
『ハイエース転移宝具』
ギルくん「心が痛みます。まさか友達をハイエースで特異点に出荷する日が来るなんて・・・まぁでも、最終的には楽園への内定が決まると思って堪え忍び、頑張ってくださいね?それでは、お達者で~」
「「んー!!」」
ブロロロロ・・・
「ドナドナは流しておきますね~。・・・さて、こっちは僕が直々に監視しておかなくちゃ。景品は大切に。御褒美は慎重に、ですからね」
美遊「あな、たは・・・何を・・・」
ギルくん「知れたことです。僕を支えてくれた恩人へ捧げる感謝と労い、パーティーの場を作る・・・君はその景品として、其処にいてもらいますね?」
「・・・!」
「さて、と。それじゃあ・・・」
『クラスカード』
「これをばら蒔いて・・・ふふっ。英霊の人格を無視した傲慢な発明だけど、見た目が変わるところだけは素敵だな。どうか、たくさん着飾ってくださいね。エアさん、皆さん──」
「最早突然の強制転移にも全く動じなくなった自分がいる・・・」
突然の拉致、突然の転移。日常的に起きるソレは最早非日常では無いのでは無いだろうか。広がる青空と草原にポツンと立たされながら、リッカはぼんやりとそんな事を一人呟いた
これはまさにアレだろう。助けを求めている人か世界が自分を呼んだという事に相違無いだろう。私の人格や存在の基準はともかく、楽園のマスターというセールスポイントが受けてご使命を受けたに違いない。メチルアルコール並の殺菌仕様な劇薬なのだが自分で大丈夫なのだろうか。今やカルデアはマスターの層も厚い。自分だけしかいない、という状況ではないのだ。アイリさん、アルトリア、先輩という選り取りみどりな環境にてわざわざ自分を選んだ理由とはなんなのだろうか?
「とりあえず、呼ばれた期待には応えたいけど・・・まずは何処なんだろ、ここ」
ほわっとして、ふわふわっとした空間であること以外掴めることはない謎の空間。穏やかな空、うららかな原っぱ。ムジュラの仮面の月の内部のような静かな草原にぽつりと立つ女性見習いマスター。そんな場所に世界救済が趣味な邪龍系の自分は場違いな様な気もするけれど。なんだか瞼が重くなる。敵意がない穏やかな場所にて、一休みをしたくなる。なんなのだろう。なんでもいい。皆と一緒に来たかったな。どうして一人だけ?
「──キャー!!退いてくださーい!或いは熱烈に受け止めてくださーい!!其処のあなた!なんだか女の子にモテそうな其処のあなたー!!」
「──ん~?」
上から騒がしい声が響く。いったい何事かと見上げると、青く輝く空とミスマッチな・・・『喋るステッキ』が自分めがけて落っこちているのだ。・・・此処で鈍感或いはあざとい、もしくは普通の少女であるなら出合い頭にごっつんこ☆いったーい、運命に出会っちゃったー♪なんといった素敵な邂逅が始まるのやも知れなかった。知れなかったのだが・・・
「ぶぎゅるっ!?げぅうぅう!?い、痛い痛い痛いです!?キャッチしてくださったのはありがたいのですが!オチます!頸動脈辺りを絞められてオチます!ステッキだから無いのですが!頸動脈!」
ラスボスが主人公やっている系少女にそんな甘ったれた運命は許されない。猛烈なスピードでやってくるステッキを片手でばしりと掴み取り、ミシミシと軋むレベルでジョイント部分を警戒がてら締め上げるリッカにギブアップのタップを行わざるを得なかったステッキであった。少し見れば可愛らしく首をかしげ、『力の差に絶望したか』とルビが振られるような見事なネックハンギングの全く可愛くないギャップを即座に披露するいつも通りのリッカである
「あ、ごめんね!不意討ち対処法で体が動いちゃった」
「い、いえ・・・異質で不気味で絶望的な魔力濃度と反応を持つ其処の御方、御礼を言わせてくださいね!あ、無礼を働いて首スッパーンは勘弁なので!この可愛い愛と正義のステッキちゃんに自己紹介させてくださーい!あ、台詞見にくいので次から囲いを変えますね!」
ピョインと跳ね、こほんと咳払うステッキ。メルヘンが其処に満ちそんな光景に腕を組ながら見守るリッカ。自分も巻き込まれたので得意な事は言えないので成り行きに任せる。焦ることはない、五分や十分あれば楽園は見つけてくれるだろう。要するにエンジョイ&エキサイティングでいいのだ
『何を隠そうこのわたし!愛と正義のマジカルステッキ!マジカルルビーちゃんなのです!宜しくお願い致します立ち姿からしてイケメンなあなた!イリヤさんが見たらソレは憧れるかもしれないおっぱいついたイケメンさん、宜しくです!』
最近のステッキって社交辞令が上手いなぁと感心しながら、リッカもまた名乗ろうと喉を鳴らす。アイサツをされたならアイサツを返さなくてはならない。アイサツを無視、アイサツ中のアンブッシュはサンシタでありスゴイ・シツレイなのだ。ナムサン
「御丁寧にどうも!それでは私も!私は藤丸リッ──」
何時ものように、自分の存在を告げようとした時。何時ものようにいかないとばかりに、そのほわっとした空間は号砲にて終わりを告げた。敵意と悪意をもって放たれた一撃に、ステッキが気付くより速くリッカが飛び退いたのだ
「攻撃魔術!だけど問題ない、アイサツ前のアンブッシュは一回まで有効!」
『当たり前のように攻撃魔術を肉体で回避!なんというコマンドー!ルビーちゃん感激です!もしや山育ちの御方でしたか!』
会話と言葉は山のように紡がれど、状況の進展には繋がらないぐだぐだ的なマシンガントークを披露するルビーはとりあえず後回しにし、リッカは空を見上げる。──いや、睨んでいた。其処にいる、見知りはすれど初対面。空を飛び見下ろす彼女を
「あら、なんだか活きの良さそうなのがいるじゃない?目障りなステッキを始末しようと思ったら、私の魔術をバック転宙返りでかわすなんて。随分とケルティックな女の子がいたのね?そんな骨太な子を見ていたら忘れるはずないわ。初対面でしょ、あなた?」
「始めまして!リッカです!──メイヴちゃん?」
そう、其処にいたのは女王メイヴ。リッカの大切な女子友であるメイヴであった。楽園で常に最先端のコーデや香水、ハチミツなどを教え伝えてくれるスズカと一緒の女子力アップ仲間。そんな彼女と同じなら、見間違える筈もない
「あら、私の事を御存じ?脳味噌はお利口さんなのね?名乗るところも文化的。逸材の匂いがしてきたわ。なら──私も前振りは無しで名乗っちゃおうかしら!」
気分を良くしたのか、手にした鞭をピンっとしならせぴしりと指差し──リッカが渇望(求道)しているもの。世界観が世界観なら神座に至れるかも知れないほど、でも性質的に世界は塗り替えられない追い求めし理想を振り撒きながら名乗りを上げる
「
「なん・・・だと・・・」
「人呼んで!
あざとい3カメ、見えそうで見えないローアングル。テレビの前の奴隷への愛らしいウィンク。覇者の風格を持ち、お約束を披露せしコナハト☆メイヴ。リッカは衝撃を受けた。神話の生物や怪物が目の前に現れたような感覚を、その衝撃を魂に叩き込まれた。まさか、よりによって、そんな──
「──魔法大学生・・・!メイヴちゃん・・・!!!」
「少女よ!少女!!なんなのその具体的な指摘は!自分でもギリギリだと思ってるんだから其処は合わせなさいよね!?颯爽と戦車に乗ってやってきた、『雪華とハチミツの国』を統べる女王!それが私!」
「自分でも少女はキツいと思いながら貫く気高さ!メイヴちゃんだ!私の憧れる女子のメイヴちゃんだ!」
なんだか砕けて仲良しな雰囲気を見せる二人であるが、それは性根が似通っており、女子を磨くことに余念がない気高さ故のシンパシーであり。其処に介在する親近感は一瞬だけ。女王は孤高であるがゆえに、その使命を忘れはしない
「ふぅ・・・熱烈なアンサーは嬉しいけれど。私、私以外の魔法少女は生かしておくつもりは無いの。ステッキを庇うなら貴女も同罪。・・・魔法少女力たったの5。ゴミには勿体無い処置だけど、あなたは個人的に好きになれそうだから特別に・・・」
懐から、『三枚』のカードを引き抜く。金色が一枚、銀色が二枚・・・『ランサー』『セイバー』、そして『バーサーカー』のクラスイラストが書かれたカードを見せ付け、告げる
「選ばせてあげる。三枚あるわよ、どれが好み?串刺しか、抉られるか、引き裂かれるか・・・私の愛しい男たちを選ばせてあげちゃうから♥」
「──!」
『あれは『クラスカード』!?まさかあの金ショタさん此処まで手の込んだ・・・!てやややや・・・ピンチ!ピンチですよ!リッカさん!この状況、どう乗りきりますかー!?』
一難去ってなんとやら。休暇直ぐに楽園とは預かり知らず働かされる運命のリッカ。此より、何時ものように邪龍の奮闘が始まる──
──・・・が・・・今回の騒動は、大幅に趣向が異なるもの。ある意味で、リッカにとっては最悪の特異点であるのだ──
リッカ「どう乗りきるかなんて決まってるじゃん。そんなの、真正面から蹴散らして、切り拓いて、ブッ飛ばす!!」
魔法大学生「──へぇ・・・?」
『おぉお・・・!ルビーちゃんの周りには存在しないタイプの頼もしい系女子!なんともカッコいい御方!チャンネル変えたら戦隊ものやライダーのクライマックスめいた感覚がありますねぇ!』
何処だろうと自分はブレない。困難は蹴散らし、吹き飛ばし、乗り越えるものだ。道というのは自分で切り拓くものだからだ
「──よぉし!行くぞぉっ!!」
決意を込め、全身に力を入れ、オルガマリーより譲り受けた魔術回路を通して全身に鎧を纏い──
「・・・・・・・・・あれ?」
『はへ?』
・・・出ない。纏えない。うんともすんとも言わない。自分を自分たらしめる物騒なトレードマーク。邪龍の鎧が出てこない
魔力は練れる、身体に不調はない。だが【かっこよさ】【禍々しさ】【おぞましさ】という概念が世界に拒絶されているかのように・・・リッカの力が、鎧が・・・封じ込まれているのだ・・・!
「あれ?アンリマユ!?どしたの!?あれぇ!?」
「あー、アレよあなた。『しかしMS力が 足りない』ってヤツ?チャンネル違いなのよ、アナタ」
「MS!?まさかそれは──!」
「そう!『魔法少女力』!あなたに足りないもの、それは何よりも!あざとさいじらしさめんどくささ愛くるしさ気品風格細やかさ我が儘さそして何よりも──!!魔法少女に必要な可愛さが圧倒的に足りていないのよッ!!」
「ぐはぁあぁあぁ!!ぐうの音も出ない正論と課題を一気に突き付けられた──!!む、無念ッ!!オタッシャデー!!」
『リッカさーん!?目を覚ましてください!死んでしまうとは何事ですか!?リッカさん!リッカさーん!!』
魔法少女力推定53万のコナハト☆メイヴ、そして対するは魔法少女5のリッカ。フリーザVSショットガン持ったおっさんがごとき戦力差に、リッカは戦わずして完全敗北を喫するのだった──
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