人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ナーサリー『大丈夫かしら、皆・・・無事だといいけれど・・・』

ギルガメくん『案ずるな。我が財が志し半ばで腐りなどするものか。如何なる者が相手であろうと乗り越える人間力を備えた我が精鋭、大船に乗ったつもりで待っていろ』

『えぇ、信じるわ!私とお茶会をしてくれたあなただもの!・・・もう、行ってしまうのね?』

『次の場所が場所だ、船を手配せねばならんのでな。──だが不安を感じる必要は無いぞ?申し付けた通り、勝利を信じて待っていろ。我等が唄いし歌は、直ぐ様この国を轟かせよう。即ち──』

『すなわち・・・?』

『──勝利の凱歌、というヤツよ!ふはははは──!!』


魔力障壁

アイリ「みんな、離れていて!クラスカード『セイバー』!アイリ☆ムラマサ☆スラッシュ!」

一刀轟断。異世界と世界を分ける壁が、アイリの手により真っ二つに寸断される。村正の剣技にて、結界を断ち切ったのだ

イリヤ「す、すごいパワフル・・・!」

アイリ「この手に限るわ!さぁ、行きましょうか!」

クロ「・・・衞宮家で一番はっちゃけてるの、この人よね・・・」


魔法紳士──白面紳士──

座標、お菓子の国がありし空間の裏側にて──其処に広がりしは、壮麗かつ荘厳なるオペラ座。楽器に歌声響き渡る厳かな空間が広がっていた。暗雲立ち込める夜空、蝋燭の火しか灯りが存在せぬ質素で清貧なる魔法紳士の固有結界。そこに侵入、否。殴り込みをかけた魔法少女となりしリッカ達が見たものは・・・

 

「囁きこそ原初たる呪文。胸震わせる頻枷の声こそ魅了の詠唱。歌こそは魔法、歌こそは魔法──」

 

そこには骨を組み上げて作られしパイプオルガンを掻き鳴らし、浮遊する魂を、躍り狂うコロラトゥーラを牽引するサーヴァント・・・『魔法紳士』ファントムが一心不乱に歌声を皆に上げさせていた。絞り出される歌声、掻き鳴らされる音楽は聴くものにその存在を鮮烈に訴えかけ、嘆きと哀しみを。そして同時にもう一度立ち上がる事を諦めない希望を感じさせるものを表現している

 

だが、その判定かつ査定はとてつもなく厳しく難題であった。このオペラ座に囚われた魂は150余り。だが今浮遊している魂は10や其処らしかない。漂っている魂はその輝きが認められ、新なる魔法少女として新生する資格を持つものと判断されたのである

 

ならば、それ以外の魂は何処へ行ったのか?無論いなくなりなどしない、解放などされていない。見込みなし、真なる歌姫の資格無しと烙印を押された魂は押し込まれた。マネキン──コロラトゥーラの内部へと

 

歌えぬ魂などは無用、揺さぶられし歌声なき魂など不要。出来の悪い小鳥の囀ずり、聴くに堪えないハミングバードなど生きるに値しない。歌えぬのなら歌える様になる日まで永遠にバックダンサーでいればいい。その方針の果てに、魔法少女の大半は無機質なマネキンへと押し込まれたのだ

 

真なる歌姫はただ一人、真なる魔法少女はただ一人。それを産み出す事こそ、自分の手で最高の歌う魔法少女を産み出す事こそ魔法紳士たる彼の本懐。そして崇高なる使命──

 

「歌え、歌え、我が天使。その歌声が至高の福音となる日まで。歌こそは魔法、歌こそは魔法──麗しき歌声こそは少女の魔法を最大限に高揚させる。故に私はただ捧げ、指揮を行い囁きかけよう。それが私の願い、それが私の夢なのだ、歌姫よ──」

 

演奏者、そして魂、コロラトゥーラ。誰もが逃げられず誰もが縛られし狂気のオペラ座に現れし者に、ファントムは鍵盤を叩き付け問い掛ける

 

「・・・新たなる魔法少女の来訪を歓迎しよう。君達の喉に眠る声を、歌を、聞かせておくれ。其処に真なる歌姫の輝きが眠っているのなら私は──」

 

「完全に自分の世界に入りきっている倒錯殺人者ね。精神汚染を有しているから意思疏通は不可能よ。迅速に排除しましょう」

 

「えぇ!いたいけな子供たちを騙して塾通いだなんて最低の教育方針よ!徹底的に抗議しなくちゃ!」

 

アイリ、オルガマリーは即座に戦闘準備に入った。前者は迅速な処理による致命的状況の防止、後者は少女であろう魂たちへの慈悲へと義憤である。ぐっちゃんは語るに及ばずと肩を竦め魂の数を把握し、マスターアルトリアは防衛機構を破壊して回っている

 

「あぁ何故、何故理解に及ばない。私は戦いなど望んでいない。我が使命は至高の歌姫の創造。至福の歌声を響かせし真なる魔法少女の誕生。我等が戦う理由など無いと言うのに」

 

「・・・本当にそうでしょうか?魔法少女達を浚い、おぞましい機械に縛り付け、そして自我を通すだなんて、戦わない理由が無いと私は思うのですが」

 

マシュの言葉と疑問に、リッカがそれを問い質す形で質問を投げ掛ける。その答えの在り方は、その方針の在り方はどのようなものなのかをつまびらかに解き明かすために対話を行うのだ

 

【じゃあお尋ねします。鳴かなくなった小鳥はどうする?十分見込みありな小鳥だった場合は?】

 

「鳴くまで待ち、鳴く手立てを囁きかけ、最終的には殺します」

 

あっさりと言い切った。見込みがあろうと、美声であろうと。歌わなくなった者に価値はなく、歌わないものに意味はないと。待てども待てども鳴かないのならば殺すまで。歌わんとする君こそが美しいただそれだけ。その喉が振るわぬならば名残惜しさと共に引き裂くのだと告げたのだ

 

【・・・生まれつき澱声なハミングバードとかだったら?】

 

「自分で舌を切り落としたのち暖炉に飛び込み焼き鳥にでもなるが良いでしょう。爆殺も已む無し」

 

そんなものは生きるに値しない。そんなものは囁きかけるに値しない。天に賜りし、天に愛されし者こそ天上の扉の前に立つ資格あり。生まれながら喉が御粗末など話にもならない。そんなものは只の塵や屑に等しい。才があり、能があり、そして声があってこそ魔法少女は生きるに値する。そのような罪深き存在など、地獄に自ら堕ちるがよいと吐き捨てた

 

【・・・天下に二つとない美声のヒタキなら?】

 

「おお、それはまさに歌姫、クリスティーヌ!是非とも我がもとに留めねば・・・!日の光など思い出さぬほど深く、固く閉ざされた石と鎖と皮の部屋に!命果て、彼女の愛が憎しみ、殺意の炎に満たされるその瞬間まで!」

 

選ばれし歌姫。それこそが我がクリスティーヌ。ならば誰の目にも止まらず、誰の声も届かぬ場所へ。輝く愛が憎しみに、憎悪に変わりし時本当に麗しい歌声は生まれるのだ。憎悪にて歌い、船を沈めるセイレーンのように。そのような素質を逃がしはしない。必ずや留め捕らえて囚えようと声高に言い放つ。──即ち、其処に歌姫の意思など無用であると

 

「なにそれ、酷い身勝手!歌わせるだけ歌わせて監禁幽閉とかリスペクトの欠片も無いじゃない!」

 

「歌って、誰かに聞いてもらったり聞かせあったりするのがいいんだと思う!皆の歌は、あなただけのものじゃない!」

 

イリヤ、クロが糾弾、反発したようにその理論は受け入れがたきものである。美声であるなら監禁し、美声でないならただ殺す。すべて個人の判断や裁定で行うには、その物差しと処遇は破綻しきっているのだから

 

【──個人的に自分はカッコいい歌しか歌えない側だし、クリスやビッキーに喧嘩を売るその理念には頷くわけにはいかないよ。それに、それじゃあもう一度歌いたいと思った魂達が浮かばれないじゃん】

 

もう一度誰かの助けになりたい。もう一度誰かの希望を護りたい。そう信じ流れ着いた数多の世界の魔法少女達の祈りを踏みにじるような真似は、此処で終わらせなくてはならない。歌を信じ、戦う友達の人生を否定させないためにも、リッカは深く構え、戦線を布告する

 

【例えニワトリにだって誰にも真似できない歌声はある──教えてあげるよ魔法紳士!『皆違って皆いい』っていう概念をさ!】

 

「笑止。しかし面白い。その声が我が耳に叶うか、聞かせていただきましょう!」

 

始まる戦い、荘厳なるコーラスは誰に向けられたものか。魔法少女、魔法紳士の正面切った意地のぶつかり合い・・・リッカに言わせれば喧嘩の始まりである。負けられない戦いの火蓋は、既に切って落とされているのだから──!!




イリヤ「戦う前に──あなた、ナーサリーさんのお友達を奪ったでしょ!そのお友達を返して!」

クロ「そうね。どれが、誰がナーサリーのお友達なのかしら?まずは無事かどうかも確認しておかないとね」

ファントム「・・・あの者を求むるか。あれは歌わず、ただ魔法少女に寄り添うばかりの黒羊。求めると言うならば呼びだそう──」

ロマン『え?呼び出す、だって・・・?』

そうしてファントムは告げる。お菓子の国を守護していたナーサリーの友達、言わば黒羊・・・衝撃のその正体を

「【──グラシャラボラス・ハブユー・エニィブラッド・ワノブダセブンティ・トゥ・デモンズトゥ・プレジデント・オブ・ヘル】」

ロマン『え、ちょ──えぇ!?』

「【グラシャラボラス・イアルムナルウガ・ナグルトナロロ・ヨラナクシラリ・グラシャラボラス】」

其処に現れたのは──其処にいるはずのない魔神。レメゲトンに命題と答えを託し、一柱残らず昇華されし72の魔神の姿──

『ぐ、グラシャラボラスだって!?まぁ恐らく別世界の残留思念かなにかなんだろうけど!こんな魔法少女の世界で何をやっているんだ君は──!?』

イリヤ「き、き、聞いてなーい!!?」

至尊の命題に出会わず漂流せし魔神の欠片。魔法少女の傍に寄り添いし魔神の意思が、奪われし自由の下に牙を剥く──!

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