人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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「・・・(モグモグ)←パンケーキ食べてる」

「はじめまふ」




パールヴァティー。いますよね?アレ、口にするのも嫌なんでおざなりにしますけど、最初からパールヴァティーというわけではないんです。最初は、別の存在だったんですよ


サティー、って言うんです。シヴァ神の最初の妻とされる女神であり、彼女はブラフマーの息子の一人ダクシャの娘だったんです (モグモグ)

彼女が年頃になったので盛大な婿取りが行われる事となりましたが、サティーは日頃から想いを寄せるシヴァを夫にしたいと願っていました(モグモグ)

しかし、父親のダクシャは鬼神を引き連れて墓場を彷徨歩くシヴァを嫌っており、シヴァを宴には招待しなかった。それはそうですよね。私も嫌いです。パンケーキは好きです(モグモグ)

宴は進み、遂に婿取りを選ぶ時間となった時に、サティーは夫に選んだ相手の首にかける筈の花環をシヴァを心に描きつつ投げました(ゴクリ)

すると、それまで全く姿が見えなかったシヴァが姿を現し、花環はシヴァの首にかかったのです(ジャムを探す音)

こうして、二人は結婚することになったのですが・・・父親のダクシャはこれを気に入らず、事あるごとにシヴァに辛くあたりました(ジャムをかける音)

そして、決定的となったのがダクシャが多くの神々や神仙を招き盛大な宴を催した時の事です(パンケーキを切る音)

ダクシャはここにシヴァ憎しから娘夫婦を呼ばずに、挙げ句に夫への仕打ちの抗議に現れたサティーを侮辱しました(モグモグ)

この恥辱に耐えきれなくなったサティーは、自らを火の中に投じて自殺したんです。もうなんていうか、悲劇のヒロインムーブにしても極端すぎるんですよね(モグモグ)

それを知ったシヴァは嘆きとそれまでの鬱憤からか散々にダクシャの宴を破壊し尽くしたといいます。傍迷惑です(モグモグ)

この説話には、恐らくは後から付け足された余談として妻を喪い嘆き悲しんだシヴァが無惨なサティーの遺骸を抱えて、彼方此方を歩いたという話が残っています。まぁ、悲恋は心を打つんですね。わかりません

歩くばかりか、哀しみの余りに目につくものを破壊して回ったので。見かねたヴィシュヌ神がチャクラムを投げてサティーの遺体を切り刻み漸くシヴァは正気を取り戻したといいます。・・・何故遺体を切り刻むんでしょうか。何故八つ当たりで破壊するんでしょうか。意味不明です(モグモグ)

この時に数百に散らばったサティーの遺体は、その土地土地に芽吹き新たな女神になりました。そしてサティー自身の魂も、女神パールヴァティーとして転生したのでシヴァには数百の妃がいて、それらはパールヴァティーの化身や異名なんですって。



「モグモグ・・・ごくっ」

「ご馳走さまでした」


トリニティ・マインド・サルベージ

「アアァアァアァアァア──!!!」

 

【──】

 

理性を縛られ、ただ全てを破壊する事を課せられたアルターエゴ、パッションリップ。喉を枯らせるような咆哮を上げ、暴虐と粉砕そのものの両腕を乱雑に、嵐のように振るい目前の一切を砕き潰さんと猛り狂い続け暴風の様相を呈しリッカを呑み込まんとする

 

『礼装効果転送、発動。『オシリスの砂』。これでキューブになることはない。安心してほしい』

 

対するリッカは極めて静かに、かつ冷静に事の対処に、パッションリップに向かい合っていた。破壊そのものの機構に成り果てている彼女を救う。その為に自らの出来ることを全て行い成し遂げる。覚悟を決めたリッカに、最早迷いなど介在する余地はない。その行動は徹頭徹尾合理的で、彼女にしか出来ない戦法であった

 

「アァア、アァアアァア──、・・・!?」

 

【──ふっ!】

 

振りかぶり、振り下ろされる腕に、掌に向かって拳を合わせるように叩き付ける。インパクトの瞬間、オシリスの砂にて発生した力場を押し付けるように発生させ、女神そのものである掌に向けて『パイルバンカー』を起動し勢いを放ち叩き付ける。はくのんがムーンセルにて計算し、レガリアにて強化した鎧の強度を加えることで行う離れ業、強力や怪力には怪力をぶつけるというハチャメチャな相殺方法にてパッションリップの力を無効化し、無力化しているのだ

 

上段から押し潰さんと振り下ろすならば、アッパーにてパイルバンカーを起動し叩き跳ね上げる。横から握り潰さんとするならばストレートを叩き込み吹き飛ばす。乱雑に振るうならば姿勢を屈めフックやジャブにて衝撃をゼロにする。徹底的なカウンター、そして無駄に辺りを、そして彼女を傷付けないための、何より・・・『時間を稼ぐ』為の戦法である

 

無論、いくら鎧があるからといって。単独顕現やオシリスの砂による即死対策が成されているからといって、この戦法が死と隣り合わせであること、常人には到底選択しえない常軌を逸した戦法であることは揺らがない。一つ間違えれば吹き飛ばされ甚大な被害を負う刹那の死の交錯。荒れ狂う象や獅子の前に防護服を着ている状態で放られ冷静でいられる人間などいないように、常人では到底備えることなど叶わない胆力が要求されているのだ。施設も彼女も、無用に破壊させず救うという選択肢はそれほどの困難なのである

 

しかし、リッカはそれを実行している。寸分の狂いなく振るわれた暴虐と攻撃を万全以上に相殺し無力化している。其処にあるものは蛮勇や恐れを知らぬ類いのものではない。あるのは信頼、そして勇気であり・・・揺るがぬ決意であった

 

必ず助けると誓ったのなら、それを絶対に成し遂げる。自分の出来ることを、万全にやってみせる。その為に自分はここにいる、迷いや躊躇いがあるのなら最初からこんな場所には来ていない。要するに、腹を括っているというヤツだ。とっくに覚悟を決めて命を懸けると決めている。ならどんな死地であろうと自分は揺らがない。自分にしか出来ない事をやるだけ。これはそれだけの話なのだ

 

『もう少し。もう少しでKP・・・要するにセンチネルにしてるシステムの解析とスパイラルコースターへのダイブが出来る。リッカ、もう少しだけ耐えて』

 

それに自分は、最初から自分だけで解決しようなんて考えていない。頼れる仲間、友達も突破口を見つけて戦っている。一人じゃない戦いなのだ、先行きの見えない孤独な戦闘でないのなら気持ちの入り方が段違いであり、土壇場における力の込め方の精度が違う。自分の成すことが勝利に、救うことに繋がるのならば。この身は喜んで勝利の為の先駆けとなってみせるとリッカは誓っているのだ

 

「アァア、アァア──!」

 

それに、少女の意志を封じ込めるなどという愚策に自分は決して遅れを取るつもりなどない。自分という人類悪を倒し、滅ぼすことが出来るのは決して暴力や単純な戦闘能力ではなく、人が持つ心の機微、当たり前の美徳であるのだ

 

感謝や信頼、友情や絆といったものにこの鎧は無力となり、あらゆる悪意や敵意に対してこの鎧は無敵となる。自分を倒すことが叶うのは人として誰もが備える、些細でも素敵な人としての心であるが故に──心を封じられた彼女では、この鎧を砕く事は決して出来ないのだ。いくら力を、怪力を振るおうと。心という概念を壊すことが出来ないように、人の想いが形作ったこの邪龍の鎧を力押しで砕くのは不可能である。どれ程叩き付けようとも、どれ程殴り付けようとも。心無い暴力に、鎧を纏うリッカの芯を揺らがす一撃などただの一撃もありはしないのだから。

 

「アアァアァアァアァア、アアァアァアァアァア──!!」

 

排除出来ず、食らい付く何者かに業を煮やしたパッションリップ。とうとう全身全霊を込め障害の排除へと乗り出し『両腕』を振り上げる。片手で事足りぬならば両腕で圧殺する。至極単純な物量による圧壊を選択したパッションリップに対し──

 

【──!!】

 

リッカは見据える。此処が勝敗の分かれ目であると。此処こそが、彼女を救うために踏ん張るべき場所であると。それを認めたリッカは、両斜めから迫り来る両腕を、『刀』と『槍』にて受け止めたのだ。最も敬愛する自分の母上の託してくれた護り刀、そして自ら生まれた槍をもって

 

「アアァアァアァアァア・・・!」

 

【・・・!!】

 

オシリスの砂の力場を展開しているため、直接触れ得ぬが故の気迫比べ。計らずも女神を受け止めるなどというインドスケールめいた戦闘を行うは名前がもたらした皮肉であるのか

 

【──突破口は、見えた!】

 

自慢の両腕は、こうして自分が受け止めている。歯を食い縛り、床を踏み抜きギリギリまで踏ん張っている。となれば当然・・・

 

【『心と身体は無防備』・・・!今だよはくのん!】

 

『解析完了。精神霊子ダイブ準備完了。もうちょっとだけ我慢してリッカ、リップ。今からその道のプロの私が彼女の心を取り戻す』

 

そう、力尽くでの解決など、一人だけの解決などリッカは考えていなかった。仲間がいるならば、心を通わせられる誰かがいるならば自分が身に付けたどんな力よりも頼りにし、アテにするべきものであると彼女は信じているのだから

 

リッカは特性、性質として誰かの心にダイブは危険すぎて推奨されない。本人の意志に関わらず悪意の塊・・・いや、人間の悪性そのものたるリッカが他者の心に入れば即座に浸食、汚染を始めてしまう可能性が懸念されるのだ。絆を紡ぎ、受け入れると判断した相手ならともかく、他者であり囚われた心に触れるには彼女は漆黒に穢れ過ぎているのである。だからこそ、自分はこうして補佐に回り、リップの心に触れる一瞬を作るために全てを懸けたのだ。はくのんを、友達を信じて

 

『よし・・・では早速。──え、心の鍵が必要?』

 

『なんだか騒がしいので来てみれば!せせせ先輩!?リッカさんも何をしてるんです!?リップはキアラが制御して放置しているセンチネル、あのセンパイのお邪魔キャラなので別に二人が助けるというか戦う必要は・・・!?』

 

『BB、鍵』

 

『うわぁん聞いてないですー!どうしてそう、王様だったりマスターだったりするのにサーヴァントより身体を張っちゃうんですかー!?』

 

『鍵』

 

『は、はいっ!こちらとなります!勿論サクラメントは無料で結構ですー!』

 

様子を見に来たBBを端的に説得(迫真)したはくのん。後は彼女がリップの心を起こすだけ・・・

 

『で、でも!鍵はプログラムじゃなくて直接触れて差し込まなくちゃダメなんです!リッカさんに転送して差し込んでもらうしか・・・!』

 

『なんでそんな設定に』

 

『うわあぁあんごめんなさい先輩ー!?あのセンパイをたくさん困らせておもちゃにしたかったんですー!!だってほら、ドキドキしません?いたいけな思春期男子が鍵を持って、乙女の心と身体に触れる背徳・・・』

 

『し な い』

 

『マジギレ先輩怖すぎですー!!りり、リッカさん!なんとか、なんとかしてください今鍵を送りますからー!!』

 

【ここに来てBBの面倒くさい凝り性が・・・!やはりイキりたわわ紫なすびこそが最高の後輩・・・!っぐ・・・!!】

 

ビキリ、と床下が悲鳴をあげる。二つの超スケールのせめぎ合いに空間そのものが堪えられないのだ。──まずい、このままでは落下する・・・キアラと逢う前に理想に溺死する・・・!

 

【えぇい、こうなったらフェイスオフして歯で銜えて鍵を差し込む!転送して──】

 

覚悟を決め、兜を解除しようとした──その時であった。助け船は、神の気紛れ・・・否。神の愛は、彼女を見捨てなかったのだ

 

「──右に避けてください、マスター」

 

【ッ、ッ──!】

 

言われるまま、弾かれる様に首を右にずらす。──自分の頭があった場所を、弓矢がごとき速さで何かが透過していったのを、リッカは見定め・・・

 

「──、ア」

 

リップの額に突き刺さったもの。それは──BBが転送した『リップの鍵』。ただ見ていた筈のカーマが、リッカを援護する形で転送された鍵を弓で放ったのだ。愛の神としての弓を

 

「矢ではないのでセーフです。・・・ほら、はくのんさん。ダイブするなら今の内ですよ」

 

『──ありがと、カーマ、リッカ。・・・行ってくる』

 

『えぇえ先輩がダイブするんですか!?そ、そんな無茶ばっかり先輩!?えぇっととりあえず隠蔽だけはしておきますねー!!』

 

ダイブするはくのん。硬直するリップ。一瞬であるか、永遠であるかの静寂が一瞬だけ、辺りを包む。生唾を飲み込み女神の重量を堪えるリッカ。ちゃっかり援護の準備を整えるカーマ。そして──

 

「・・・ァ、ア・・・あれ・・・?わた、し・・・」

 

 

──パッションリップが口にしたもの。それは暴走の咆哮ではなく。確かな理性と意志を感じさせる呟きであった。──最早其処に暴走の兆しはない。月の新王は、正しく彼女の心を目覚めさせたのだ──




パッションリップ「え、えっ!?ご、ごめんなさい!誰だかわからないけど、大丈夫ですか!?」

リッカ【ん、だいじょーぶ・・・良かった、元に戻って・・・】

パッションリップの巨大な爪が、優しい意思にて退けられる。先程までとは違う柔らかな対応に、ほっとリッカは胸を撫で下ろす

はくのん『ふぅ、なんとかなった』

BB『あ、お帰りなさい先輩!お疲れ様でしきゃー!?アイアンクロー!?』

『誰が疲れさせたと思っているのか。対応が遅い』

『ごめんなさいー!?だって、いきなりリップに挑むなんて予測できないですー!!』

如何なるやり取りがあったかは、乙女のプライバシーということで聞かないでおく。パッションリップが救えたならそれでよし。そして、自分的には・・・

【──ありがとカーマ!!好き!!】

「は、ちょ、やめっ、やめてください。ぎゅーってしないでください。鎧がジャリジャリして痛いです、痛いですから・・・」

カーマの助力なければ、今ごろ床をぶち抜いて真っ逆さまであった。自分を見捨てず助けてくれた神に、心からの感謝をリッカは行動にて贈るのである

パッションリップ「あなたが、私を・・・?」

カーマ「別に助けたかった訳じゃないです・・・愛の神として、マスターの意志を尊重しただけですから」

【尊重・・・!姫様の言葉は間違ってなかった・・・!カーマ!!好き!!】

『私からもお礼を。ありがとうカーマ。気に入ったからBBを泣かせていい』

『私はハッピーセットのオモチャですかぁ!?』

「・・・わ、分かりましたから。分かりましたから・・・離れてください・・・」

名残惜しげに離れ、パッションリップを助け起こすリッカ。顔が真っ赤になっていることを誤魔化すが如く、カーマは更なる知恵を授ける

「・・・この先は、中央管制室なんですけど。いますよ、其処に。あなたたちが保護すべき人が」

リッカ【──!】

「はい、御明察。『アーノルド・ベックマン』です」

・・・リッカが藤丸たちに合流する前に、もう一手間かける事を決断した瞬間であった
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