人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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カーマ「それでは行きましょう。カーマの、アバウトインド神話ー」


「パールヴァティー。巻きで行きます」



サティーとしての前身があるのはお話しした通りですが、彼女はまぁ普通にパールヴァティーとして転生します。生まれ変わりはよくある事ですからね。輪廻という概念からして明らかです

妻を喪った後、哀しみとそれにより迷った己の行為を恥じたシヴァはヒマラヤで苦行に明け暮れていました。とりあえず困ったら苦行です。金、暴力、セックスなギリシャとは一緒にされたくありません

それをまずはヒマラヤ山の娘として転生していたパールヴァティーが見初め、シヴァの側に寄って彼の修行の為に身の回りの世話をして甲斐甲斐しく尽くしたのです。勿論、立場は隠して、ですよ

パールヴァティーの気持ちに気付いていたシヴァも、相手が妻の生まれ変わりとは知らなかったとはいえ、二度と妻を娶ることはないだろうと思っていた己の漠然とした誓いを破ろうと思い詰める程にほだされていきました。はいはい熱愛熱愛すごいですねー

そして、決意したシヴァはパールヴァティーを試すことにします。

ある日、シヴァの不在時に一人で修行していたパールヴァティーの下を汚い身なりの老いたバラモン僧が訪れ、食事を願いました。

これを受け入れたパールヴァティーは食事の前に身を浄めるように言い、食事の準備に取りかかっていたんですけど、沐浴に向かった僧の悲鳴が川から聞こえてきたのです。

駆けつけると老僧はワニに食われそうだと訴え、パールヴァティーに助けを求めたが、シヴァ以外の男性に体を触れさせないとの誓いを立てていたパールヴァティーは躊躇しました。誓いは破るとそれはもう大変です。

……しかし、意を決して老僧を川から引き上げた。
すると、老僧はシヴァの姿に変わり、彼女の行いを讃えました。彼女の全てで最も美しいものは、『心』であると

パールヴァティーもまた、自らの誓いを破った汚名をまぬがれた事を感謝してシヴァに身を委ねたといいます。めでたしめでたし



(歯磨きと殺菌消毒と蕁麻疹対策の為退室。紙がおいてある)

『また明日お会いしましょう』



オープン・パンドラ・ボックス

~~最早名すらない、なんとかさんの記録~~

 

 

 

『七十二柱』の魔神であることを放棄し、私は『魔神ゼパル』として独立した。バアル、フェニクス、ラウム・・・他の三柱がどの座標を選んだかは知る由もなく、また興味もない

 

 

私は人間に憎しみを抱かなかった。むしろ彼らに可能性を感じ、期待した。

 

『人間を情報として管理する』。それが私が得た新たな命題だった

 

 

『『命題と議題』は崇高だったのに。人類ガチャで大失敗したのが全ての敗因』

 

記録を皆で拝見している一行。臨場感をもたらすため、手近にあったボイスサンプル、レフの声をあてて拝聴している形となる

 

「そもそも使い魔であった魔神が人類を管理とか、おこがましい命題だと思いません?せめて導くとか、共に歩む・・・とかなら結果的に自分も救われたのに」

 

【自分ならうまくやれる。自分は他とは違う。・・・うん、立派に人間出来てたよゼパル君。・・・逢うか逢わないかって、本当に大事だなぁ・・・】

 

『あ!こんなところでおサボりですか先輩たち!困ります!時間はあんまり残されていな』

 

『BB、プレロー(プレミアムロールケーキの略)』

 

『はいっ!』

 

 

私はセラフィックスを活動拠点に定めた。以前からこの施設が不可侵領域の原因の一つではないかと、フラウロスが報告していたからだ。

 

私は教会で一人の人間に寄生した。時間神殿で受けた傷を癒すまでの緊急措置として。

 

我が命題を解くには何十年という時間が必要となる。その間、カルデアの目を逃れるためにも、人間に寄生するのは良策と言えた。

 

 

・・・その筈だった。

 

私が取り憑いた人間の名は殺生院キアラ。教会で人々の悩みを聞き、解決するセラピストだ。

 

 

『やらかしその一。よりにもよって運命の出逢いがキアラとか笑えないジョーク。不幸とダンスっちまった』

 

『異なるものを受け入れたのはゴージャスさんも同じなのに、どうしてここまで差がついたんでしょうか・・・』

 

『共存、寄生の違い』

 

「やっぱり、魔神ごときが人間管理なんて破綻していたんですね♪」

 

「でも、怖いです。自分が自分で無くなるなんて・・・」

 

【・・・・・・】

 

 

キアラは偽りなく聖女だった。・・・救世主の器。その資格を持ってさえいただろう。

 

彼女が世間から迫害されたのは、その善性が人の世では『都合の悪いもの』とされたからだ。

 

今でも断言できる。私という外部の因子が無ければ、キアラは慎ましやかだが幸福な人生を送り、小さなコミュニティにおいて、最後まで人々に敬われるに足る人物だった、と。

 

だが、その善性は私には不要だ。なので私の手で意識の外に落とし込んだ

 

 

『やらかしその二。ゼパル、自業自得の謗りを逃れられない』

 

「・・・酷い人と思ってばかりでしたが、こちらのキアラさんが可哀想です・・・」

 

【・・・魔神に乗っ取られて、キアラさんは・・・私の知ってるキアラさんと同じ道筋のあの人は消えちゃったんだ・・・】

 

 

『素晴らしい。感情を数値化し、争いに悩む人々の心を均等化する。ゼパル様のお考えは善いものです。それでしたらどうか遠慮なく、私の体をお使いください』

 

キアラは抵抗せず、私に体の使用権を差し出した。彼女の献身と感動、そして私に向けられた尊敬は本物だ。

 

私は(魔神でありながら!)気を良くし、キアラの知識と立場を使い、効率よく油田基地を支配していった。

 

 

『魔神でありながら!(感嘆)』

 

『魔神でありながらっ!(後悔)』

 

「・・・魔神でありながら・・・(侮蔑)」

 

「魔神でありながら・・・?(疑問)」

 

【魔神でありながら・・・!(憤懣)】

 

 

キアラの肉体は異性にとって格好の交渉材料になった。どのような立場、役職の人間も、キアラが寄りかかれば容易く落ちた。

 

この時、私は人間たちの様々な快楽を学習した。

 

知らなければ良かった。知らなければ良かった。快楽など、魔神には不要だったのに。

 

精神体である私にとって、肉のある快楽はすさまじい刺激であり、堕落だった。

 

人間の機微、関係性が生む刺激、精神性を利用する快楽。いつの間にか、私はキアラに教えを請う立場になっていた。

 

そう。絶対服従だったキアラは、いつしか私の行動を管理していたのだ。どうすれば効率よく研究員たちを陥落できるのか。どうすればより強い権能を得られるのか。

 

その意欲、行動力は私ですら舌を巻く程だった。眠っていた内面の醜悪さは、魔神と呼ぶに相応しいものだった。

 

 

『人間嘗めすぎですよねー。ちっぽけですが、ちっぽけだからこそ読めないものなのに。BBちゃん、そういうのどうかと思いまーす』

 

「くすくす・・・魔神とか真面目な人が堕落していくの、最高にたまらないです♪」

 

【暗黒ロリ・・・ッ】

 

 

確かにセラフィックスをSE.RA.PHに変えたのは私だ。だがその後の変化は、私の予想を越えたものだった。

 

キアラは狂乱状態になったセラフィックスの職員たちを救い、癒し、彼女がいなければ誰一人として生きていけない依存体制を作り上げた。

 

その後で、ひとりひとり、そのグループから落ちこぼれさせていったのだ。

 

特に理由もなく、くじで決めるような気楽さで。

 

グループから落とされる危機感、恐怖は職員達の人格を崩壊、堕落させ、人間性を剥奪していった。

 

キアラに捨てられたくなくて妻を殺す男がいた、キアラを殺すために立ち上がり、周りに殺された女がいた。

 

キアラの悲しむ顔を見て人を殺す女がいた。キアラから逃げようとして逃げ切れなかった男がいた。

 

・・・私は隠れ家が欲しかっただけだ。地獄を見たいとも、必要ともしていなかった。

 

『ふふ、何を言われるのでしょうゼパル様。これからもっと面白くなりますよ?』

 

そうしてキアラは職員を誘導し、天体室を開けさせ、彼等の手で自発的に地獄の蓋を開けさせた。128体のサーヴァントと、BBがセラフに現れた。

 

 

『あ、ちなみにこのBBはキアラさんがサルベージしたBBで、私と今入れ替わってセラフの裏側にいるBBちゃんでーす』

 

『サクラ顔多すぎ問題』

 

 

キアラは私の目的を果たすためと言いながら、セラフを影で操る支配者になっていた。

 

私自身、もうキアラの体を動かせない。キアラの行いを止められなくなっている。

 

 

──私は取り憑かれた。

 

取り憑いたつもりが、そこは私よりおぞましい何かの土壌だったのだ。

 

『そうだったのですか。逃れた四柱の方々は特異点を作ろうと・・・』

 

魔神たちの命題は違えど、その達成には特異点の作成が必須条件となる。私がそれを教えると、キアラは心の底から憐れむように微笑んで否定した

 

なぜだ、と私が問うと。

 

『だって──特異点を作るより、『自分が特異点になった方が気持ちがいいでしょう』?』

 

 

「────(絶句)」

 

「・・・うわぁ・・・」

 

【これが、キアラさんの成の果て・・・】

 

『相変わらずネジ吹っ飛んでて最高にロックしてる。安心感すら覚える』

 

『やっちゃいましたねゼパルさん・・・』

 

 

人間の欲望を私は侮っていた。手に負えない、とようやく理解した。

 

だが全ては後の祭りだ。キアラから分離しようと試みたが、体の主導権はおろか、私には一切の自由がなかった。

 

すぐに出ていってほしい。私はそう懇願した。

 

みっともなく、何でもする、代わりの生け贄を用意するとさえ言った。

 

『何を仰るのです、ゼパル様。私たちは運命共同体、共に理想を抱いたもの。それとも──もしや、私に不満がおありなのですか?』

 

そう語りかけてきた時の恐怖が今も離れない。

 

・・・許してほしい、もう解放してほしい。

 

私は日々乗っ取られていく。取り返しのつかない悪魔を産み出そうとしている。

 

 

もう礼拝堂に隠した日記にさえ触れない。私に与えられた権利──私という生命が住まう場所は、キアラの小指の先だけになっていた。

 

私はあのときの恐怖を振り払い、もう一度懇願した。『解放してほしい』『もう見逃してほしい』と。

 

『──もう。ゼパル様にも困ったものですわ。小指の先だけがゼパル様の管轄だと勘違いなさっていたのですね。あなた様の管轄など、もう残ってはいないのです。小指の先はあなた様への恩情で与えていたもの。ゼパル様はもう意識しかないのです。それも、私が許しているからのものですが』

 

 

私は発狂した。

 

発狂しながら、最後の思考を走らせた。

 

私だった全てはとっくにこの女に奪われていた。キアラから離れれば私は消滅するだろう。

 

人間(キアラ)に隷属するか、魔神として誇りを示して消滅するか。

 

私は悩んだ末、隷属を選ぼうとし、

 

『ですが、私とゼパル様の仲ですもの』

 

にっこりと笑う。私ですら吐き気を催す、慈愛に満ちた美しい笑顔。

 

『ゼパル様がそう仰るのであれば。心を鬼にして、解放させていただきますね?』

 

いやだ──

 

いやだいやだいやだ!もういい、小指の先だけでいい!

 

助けて、見捨てないで、捨てないで。

 

私を、私の目的も、意思も、理由も奪わないで──

 

『いいではないですかゼパル様。気持ちよければそれでいいのでしょう?貴方の目的は人類の救済。私の目的も、どうやら人類の救済のようなのです。ですから──後は私に任せて、どうぞ原始にお帰りなさい』

 

 

あぁ、きえる、きえる、うすれていく

 

たもてない、 じぶん を たもてない

 

なんでこんな、こんなことに、わるいことなんかなにもしてこなかったのに、なんで──

 

 

やだ・・・いやだよぅ・・・こんなのひどい・・・あんまりだ・・・ころさないで・・・すてないで・・・すてないで・・・

 

 

わたしを みすてないで キアラさま──

 

 

 

 

『羽化まで待つのも退屈でしょう?私も、アレを体験できるだなんて!えぇと、ゼパ、なんでしたっけ?とにかく、魔神柱さんには感謝しなければいけませんね──?』




カーマ「最後の最期で選んだのが管理すると息巻いていた人間への懇願と隷属ですか・・・なんというか、救いようもない節穴なのは魔神共通なんでしょうか。悪いことしかしてない癖にその責任も取れないとか、一から十まで無様ですね」

BB『この件はゼパルさんの自業自得とファイリングし、虚数事象編纂から彼を外しています。・・・本当なら、キアラさんも除外するつもりでしたが・・・』

リッカ【・・・・・・】

『・・・安心してください、リッカさん。ゼパなんとかさんに取り憑かれる前のキアラさんは、きちんと確保しますから』

【──ありがと。それだけでも、ここに来た甲斐はあった】

カーマ「その為には、編纂の邪魔なビーストを倒さなくてはダメですよ。大丈夫ですか?ちゃんと前に進めますか?」

【勿論。──同じ獣として、きっちり藤丸くんの勝利の道を切り拓く】

「・・・もう、何を言っているんですか。貴女はもう獣じゃありませんよ、マスター」

【?】

「誰かのために此処に来て、誰かのために命を懸ける。それは獣には出来ない決断と勇気です。・・・そんな貴女を表す言葉、きっと他にあるはずです。そういうところ、治しましょうね?」

【・・・はいっ、ごめんなさい!カーマ!】

カーマ「はい、良くできました。じゃあ戻りましょうか。教会で、少し御休みしましょう?」

はくのん『意義なし。リップ、そのキューブこっちに。キアラに寄生していたゼパル、それを成分に使えばキアラの獣の権能を封じるKPを更に強化できる。せめてものの供養として、使い倒す』

リップ「うーん、うーん・・・はっ!はい!←励ます言葉を考えていた」

BB『・・・あんまり人間の負を見てるとアレなので、そのうち私が見たセラフ唯一の人間の記録をご紹介しますね。だから今は、目的の為に頑張りましょう?』

【ん!・・・・・・待っていて、キアラさん。あなたがあなただった25年間、必ず取り戻してみせるから・・・!】

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