人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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カーマ「あいたたた・・・す、すみませんお見苦しいところを。痛いですが止めません。頑張ります」

「では、どうぞ。カルナさんと敵になる兄弟たちとの確執です」



ともあれ、拾われた夫婦から十分な愛情を受けて育ったカルナさんは成長するにつれ、家職である戦車の操縦よりも武芸に興味を持ちました。男の子ですね。その時代随一の武芸者ドローナの弟子となったみたいです。

カルナ「武芸の方が人目を引く。オレを育ててくれた方々への恩返しにはこちらがいいだろう」

長じて弓の名手となったカルナさんはクル族の王家が主催する競技大会に飛び入り参加し、ドローナのもっとも優れた弟子のアルジュナさんが演武で披露した技を全て再現してみせ脚光を浴びました。

カルナ「アルジュナ・・・お前に出来るならばオレにも出来る筈だ。何故かその様な予感がある」

でも、この競技大会は元々アルジュナを始めとするパーンダヴァ(クル族先代の王・パーンドゥの息子と言う意味ですね)五兄弟の武芸のお披露目として、 開催されたものであったんです。

要するに、パーンダヴァ達の優秀さを見せびらかす為に公平ぶって誰でも参加できる競技大会を開いてみたところ、本当にパーンダヴァ達と同等以上の参加者が出てきてしまったと言う何とも情けない話なのです。悪いことは出来ませんね。太陽はちゃーんと見ているんですよ?

面子をつぶされた形となったアルジュナさん・・・は、自分の隠している覚めた悪心を暴かれる事に脅えそれどころではありませんでしたが、他の兄弟は怒り、カルナと一騎討ちをする事となったんです。

カルナ「致し方ない。避けられないならお前達の怒りに応えよう」

しかし、そこで王家直属の武芸師範であるクリパから待ったがかかります

「王族の者と一騎討ちが出来るのは、王族以上の身分を持った者だけである。 アルジュナ王子に挑もうとする者よ、汝の身分を明かすがいい」

当然、御者の身分であるカルナさんは答える事が出来ずに身の程知らずの無礼者として辱められつつありました。インドにおけるカーストは絶対不変。覆すなど有り得ないんです

この時パーンダヴァ達の従兄弟に当たるドゥルヨーダナがカルナを王位につけます。敵対関係にあるパーンダヴァ達に対抗する為にカルナさんに恩を売り、自陣営に引き込もうとしたのです

ドゥルーヨダナ「おい!言い過ぎだぞ!立場がなんだ、無いなら俺の傍につき王位を授かれ!お前にはその資格がある!」

衆人環視の場で恥ずかしめを受けることを免れたカルナは感激し、ドゥルヨーダナに永遠の友情と忠誠を誓います。

「オレは幸運だ。こうして、太陽に等しき暖かさを知ることができた」

「や、止めろ照れ臭い!勘違いするな!お前に運を売りたいだけだ!」

と、ここで終われば美談で済むのでしょうががそうは問屋がおろしませんでした

カルナ父「カルナ!カルナや!立派な姿を、輝く姿を見せておくれ!おぉ、王族に劣らぬ太陽のような輝きを・・・!」

カルナ母「あぁ、良かった・・・立場に翳らず、あなたが輝けて本当に良かった・・・」

なんと、大出世を果たしたカルナさんの晴れ姿を見ようと義理の父親と母親が競技場に表れてしまい、そのまま、カルナさんの身分がばれてしまうんです。
カルナさんが御者の身分である事を知ったパーンダヴァの次男ビーマセーマは大いにカルナを罵ります。

「卑しい御者の身分でありながら我が弟アルジュナに挑もうとは何事か!お前ごときは、アルジュナに殺される価値すらないのだ!御者の子よ、弓など捨てて、貴様にお似合いの鞭でも手に持っていろ!」

カルナ「・・・・・・・・・」

言い返す事が出来ないカルナはただじっとビーマセーマの暴言に耐えるしか無かったんです。何かを言えば、それは父と母に無礼討ちをさせる口実になってしまうのですから。
そこで、激怒したのがドゥルヨーダナなんですよら。

「たった今からカルナは我が友となったのだ!その友を侮辱するなど、死にも勝る失言と知れ!」

そもそも、王族の条件とは血筋、勇敢さ、他の王を倒すこと、の三つのうち何れかを満たしておれば良く、ビーマセーマの暴言は不当であると主張したんです。一触即発の雰囲気となった競技大会であるが、日が暮れた事により争いは一旦持ち越される事となったんです。

この時は、パーンダヴァもカルナも知りえませんでしたが、実はパーンダヴァの上の三人ユディシュティラ、ビーマーセ―マ、アルジュナとカルナは同じ母親クンティーから生まれた異父兄弟なのです。クンティーはカルナを捨てた後、クル族の王・パーンドゥに嫁入りしていました。諸事情により、子作りをすると死ぬ呪いをかけられていたパーンドゥは自身が子供を作れずに、死後正しく祀られ無い事を恐れクンティーに頼み込み神を呼び、子供を三人儲けていたのです。

それこそがユディシュティラ、ビーマーセ―マ、アルジュナなのでした。要するにカルナさんは兄弟と確執し、バカにされ、殺し合うという運命を背負わされたのです



「・・・カルナさんはインドで大人気の英雄です。どんな不幸にも泣き言を言わない、高潔な姿が大好評なんですって」

「ちなみにこれもまだ序の口です。ちょっと長いので休みつつ、またお会いしましょう。ご心配お掛けしました~ノシ」


ロストマン・レスキュー

【・・・──弾丸は人間には反応できない速度な筈だが。やはり話に聞いていた通り、尋常ではない存在な様だな】

 

暗闇にて響き渡る、抑揚の無い男の声。銃を構え、──全身に亀裂が走った異様な姿を現し、ゆっくりと歩み寄ってくる

 

「く、クリシュナ・・・!?」

 

【──・・・、・・・下がってて】

 

最早取り繕う余地は無く、しかして正体を口にする場合でもない。弁明はカーマに任せ、自らの手に握られた血染めの日本刀を構え、藤丸の前に庇い立つ。それほどに、目の前にいる存在は異質であり、異常であり・・・──『空虚』であった

 

【だが、問題ない。除去する対象が増えただけの事だ。──ここで藤丸立香もろともに死ね。黒き龍】

 

その言葉と同時に、辺りに明かり・・・光が満たされる。暗闇にて落ちていた周囲が照らされる。

 

──其処に広がっていた光景は、かつての男の揺るぎ無い人類愛の産物。揺るぎ無い存続の意志の下に、積み上げられた犠牲の光景であった

 

「こ・・・コフィン・・・!?カルデアの・・・!?」

 

そう、それは存在証明の装置。カルデアにてレイシフトに使用される棺。『生きているか死んでいるかを曖昧のまま証明するもの』。・・・其処には、良質な回路さえあればいいのだ。故に、其処に入っているのは・・・

 

「・・・幼い、子供・・・」

 

「────そう。そういう事だったワケ。セラフの動力って」

 

全てを察し、全てを理解した鈴鹿。怒りを越えた怒り・・・絶対零度の殺気をもって刃をその男に突き付ける。この、悪鬼も青ざめる所業そのものを糾弾する

 

「私は私のマスターを知らなかった。誰に喚ばれたのか、いまどうしているのか知らなかった。──その答えがこれなのか!何も知らぬ幼児を、部品の様に使い倒す事が!申し開きがあるなら申してみよ!アーチャー!!」

 

【・・・そうだ。ここがセラフィックスの心臓部。天球シミュレーター室、システム・アニムスフィア。そして魔神柱によって、128のサーヴァントを喚ぶ為に使用された『マスター候補』たちの夢の跡だ】

 

魔術回路、適性は有していたが、肉体強度やレイシフトの証明に堪えきれなかったがゆえ『破損』した生体部品にして材料。人間としての生を与えられなかった者達の。──それらに与えられた意義と意味。それこそがこの光景である

 

【魔神柱はセラフィックスに根付いたあと、この放棄された天体室の存在を知った。──その上でほくそ笑んだのだろう。【ここは使える、と】】

 

『──コフィンの中は総てが不確定の世界。例え、何年も前に死んでいた魔術師だとしても、コフィンに押し込んで起動させれば『生きているか死んでいるか』を曖昧にできる。・・・そうすれば、生体回路(マスター)として使用できる。・・・何度でも。死んでいるか解らないから』

 

即ち、元々マスターに人格や適性は考慮されていなかったのだ。そこにあればいい『資材』として活用される消耗品なのだから。

 

【128騎のサーヴァント、それはこの天体室の亡骸が喚んだもの。それも幾度となく、何十回と。カルデアからの助けが来るまで飽きもせず、な。だが──】

 

再び火を噴く男の双銃が噴く。天体室の全てを総括する装置めがけて放たれた弾丸は、過たずこの非道の惨劇の幕を下ろした。名も無き守護者の手によって

 

【だがそれも終わりだ。『生きているか死んでいるか』不明だったマスターたちは、これで完全に死亡した。もうサーヴァントが喚ばれる事はない。──そして、お前も死ね。藤丸】

 

「──!」

 

【セラフにマスターは不要だ。この天体室の存在を知った、者、は──】

 

瞬間。【その男であったもの】が全て崩れ去る。何者かに腐らされ、そして朽ち果てた【生きる死体】と成り果て、シルエット・・・それすらも認識できない程にぼやけ、かすみ、朽ち果て。その個人を認識が叶わない程に変質する。──刻み込まれたのは、ただ遂行せねばならぬという使命と、嗤う鉄心

 

【一人も、例外なく、生かしてはおかない。二度と、同じケースは起こさせない。あらゆる悪の痕跡を消す。その為に、その為に──】

 

『その為に、多くの命を踏みにじった。であれば今回も例外は許されません。どうぞ思うままに、無銘の執行者。最後の責務、存分に果たされますよう』

 

響く、女の声。誰のものでもない、しかして魂を蕩けさせる女の声。それが無銘の死骸を突き動かし、悲劇を起こすとされる要因をただ排除せんと駆動させる。──最早其処に意志は介在していない。ただ、傀儡として。歯車として。定められた役割を全うするために

 

【・・・──】

 

その有り様に眼を静かに細め、リッカは構える。狂い果てた執行者。──その後ろにいる存在に、ようやく手と息がかかった事を確信しながら、静かに刀を構える

 

『リッカ、あのエミヤをどうする?』

 

【決まってる。──向こうにいる獣から取り戻す】

 

それは自分の中で決意した事だ。ずっと行ってきた戦いだ。彼の意志で立ち上がり、立ち向かい、排除してきたなら全力で叩き潰す。──だが、今の彼は違う。意志を奪われ、自由を奪われ、ただ傀儡として操られているだけに過ぎない

 

【意志も自由も与えられてない存在を一方的に倒す。──それは、フェアとは言えないよね。エミヤ】

 

仕方ない、しょうがない、運が悪かった、どうしようもなかった。──たった一度でもソレを自分に許してしまえば、それから先の旅路に『妥協』という逃げ道を認めてしまうことになる

 

それは、なんの価値も意味もない勝利だ。無意味な成果だ。完全無欠の結末、叙事詩に泥を塗る選択だ。異なる世界と言えど、決して譲れぬ一線がある。・・・──自分は、楽園のマスターだ。どんな姿であろうと、名乗ることすらしていなくても。それでも、自分を認めて必要としてくれた楽園への感謝と恩義、そこで生きていられるという誇りを手放し忘れた事は一度もない。

 

『──なら、その選択を尊重する。私としても・・・あのエミヤは見ていられない』

 

ムーンセルの観測した未来の一つには、彼と共に駆け抜けた岸波の記録も存在していた。皮肉屋だが世話焼きで、どこまでも剣であり力であってくれた彼。──その生涯にただの一度も敗北なく、誇りを以て未来へ彼女を送り出した『正義の味方』を、あんな末路のまま放置するわけにはいかない。・・・いや、したくない。

 

【──決まりだね。じゃあ・・・闇堕ちした正義の味方を助けよっか!】

 

『ん、・・・お願い。助けてあげよう。せめて、自分を取り戻させてあげなきゃ、あんまりにも報われない』

 

元々、この施設にケリをつける事も目的だったのだ。その障害が人助けに繋がるものであるのならば、全身全霊で挑むのみ

 

【──その魂、再び熱を入れるため。さぁ、歯を食いしばれ悪の敵。腐った鉄を徹底的に打ち直す!】

 

【・・・・・・──】

 

『協力と献身は惜しまない。──負けないで、リッカ』

 

今、獣に操られし悪の敵を救うために。──インドの黒き英雄の名を借りしリッカが困難なりし無理難題に挑む

 

「・・・クリシュナ・・・」

 

──獣と龍、そして女神の決着は。もうすぐそこまで迫っていた。

 




BB『はい!やっぱりその選択をすると信じていました!さすがは楽園最高、最悪のマスター!その人間力に脱帽かつ乾杯です!』

はくのん『BB、生きとったんかワレ』

『生きてますー!先輩、今ばかりはおちゃらけている場合じゃないですよ!今こそ先輩の患う『病』をボブミヤさんの為に振るうときです!』

『病気?・・・なんか病気してたっけ私』

『リッカさん!聞こえますか!エミヤさんを治療・・・いえ!『再起動』させる手段をお教え致します!』

【──あるの!?】

『はい!彼は魔術髄液、要するにアンプルを使って自らを駆動させ強化しています!『そのアンプルに細工さえ出来れば、蘇生は可能です!』』

【アンプル、細工・・・──すり替え・・・】

『いいですか、他のサーヴァントでは倒すだけが精一杯!そのボブミヤさんを【救える】のはリッカさんと先輩だけなんです!細工は私がやりますから、『なんとかアンプルを抜き取ってから殺してください!』後はボブミヤさんの精神・・・再起動するかどうかです!』

『細工・・・蘇生・・・』

【『──そういう事か!』】

BB『はい!キアラの監視も外れた今、有能後輩が全力でサポートします!二人とも、どうかお気を付けて──!』

藤丸「クリシュナ、俺達も──!」

カーマ「いいえ、下がっていてください」

「カーマ!?」

「あの人の邪魔をしないでください。愛の女神として、あの人を阻むことだけは許しません。・・・ただ、信じて待っていてください」

メルト「・・・何を考えているの?それにあのサーヴァントは何者なの?」

「全て分かります。・・・だから、今は待っていてください」

(──リッカさん。どうか、負けないで。もっともっと愛してあげたいんですから、死んじゃ嫌ですからね──)

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