人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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『カーマの部屋に何か置いてある・・・』


『中学生くらいの男女一組が、楽しげに笑っている写真が立て掛けてある・・・』


ビースト

『うふふ・・・さぁ、慈悲です。戯れと致しましょう。己の矮小さ、慎んで思い知りくださいませ?』

 

──最早、その光景。その状態は戦う、などといったものでは無かった。同じ土俵に存在する行為では断じてなく、刃向かう、といった状況ですら無い。

 

孫悟空はあまりにも強く乱暴であったため、釈迦自らが懲らしめんと掌を世界に見立てかの猿を存分に走らせ翻弄したとされる。何処まで行こうと、何をしようと決して逃れられないスケールの違いを見せつけ、そのまま懲らしめとして封印したとされるが、藤丸らが置かれた状況はそれらより遥かに一方的で、慈愛にまみれたおぞましき救いの形であったのだ

 

藤丸の指示にて懸命に戦い、宝具すらも開帳し、悪辣にして毒なる菩薩を叩き潰さんと足掻くサーヴァント達。刀を、矢を、音を。持てる力の総てを振り絞り微笑む女に叩き込んだ。あらんかぎりの、全身全霊で。一切の容赦なく

 

『まぁ、なんと可愛らしい。針の刀を構え鬼に挑む一寸法師の様。応援したくなりますわ。頑張れ、頑張れ♪』

 

だが、そんなものはかの女、獣にして菩薩へとなりしキアラには拙い児戯以下の代物であり、息一つで弾き飛ばせる程度のものでしかない。──誰もが気付いていないが、最早総てはキアラの掌の上に堕ちている。藤丸らが戦いだと感じているそれは、まさに掌の上で蠢く虫の這いずりに過ぎない。それがキアラにはいとおしくて堪らなかった。懸命な様は胸を打つ。例えそれが畜生以下の虫の生命でも

 

そう、虫。虫なのだ。彼女にとって人とは己一人。人間とはおのれ一つ。他は総て矮小雑多の有象無象。同じ存在など一人しておらぬ、情欲湛えたおぞましきけだもの。使い潰すになんら躊躇いない塵芥の集まり。それが、キアラの得た悟りなのだ

 

──ここに、仮に。人類悪・・・悪を食らう悪がいたならばキアラは遊びになど耽らず、全霊を込めてソレを排除しただろう。己とは違うカタチに目覚めた獣の完全体。異なる時空にてゲーティアを叩き殺した龍がごとき人間。欲を知らぬこの世でもっとも理解不能な怪物。自らを殺すためだけに襲い来る快楽の天敵。愛を滅ぼす女。

 

それを、キアラは隙をついて弾き飛ばした。セラフより吹き飛ばした。殺したかったのが本音だが、蛹であり幼体である自分では完全覚醒した獣を殺すことは叶わない。何より『欲を知らぬなど、気持ち悪くて仕方がない』。理屈をおいてでも消えてほしかったし、何をおいても退去させると躍起になった。形振り構わず妨害していた。──その傍にいた『知らない何者か』もろとも、表舞台から消し飛ばした

 

ならば問題ない、ならば安心だ。龍など戦うものではない、さっさと何処へと飛び立てばいい。己の邪魔をしなければ、それがなんであろうと構わないことだ。気持ちよくない殺し合いなど真っ平御免である。──そう、愉しいのは・・・

 

『あら、終わりでございましょうか?それでは、こちらの番にてございます』

 

とうとう魔力が尽き果てた藤丸一行を見て、殺生院が舌なめずりを行い、無造作に虫の一匹を掴む。──藤丸以外の存在の区別はつかないので、誰がかは頓着しなかったが、誰でもいいことだ

 

『──それでは。天上解脱、なさいませ?』

 

そこからは、キアラの戯れ──子供が残酷に虫を殺す類いの──始まりであった。一人ずつ、一匹ずつ。藤丸の前で趣向を凝らして始末していった

 

つまんだ虫を、口に放り込み歯で粉々に砕いた。肉が千切れる音と骨が砕ける音。そして染み入る血の味を存分に藤丸に伝えて差し上げた。ぷっ、と吐いた首の部分を見た藤丸の表情は、たまらなく体の奥が熱くなる甘露であった

 

ぺしぺしとうるさい虫をつまみあげ、手を、足を、一本ずつ引き抜いて差し上げた。不格好な達磨のようになりながらも睨み付けてくる様が余りにも意地らしかったので、千切れるか千切れないかのギリギリで首を引き抜いて差し上げた。肉が引き裂ける音、滴る血、だらりと垂れた体とお別れした首。藤丸はもう、忘れることは出来ないだろう

 

二匹、仲良く協力してこちらを叩いてくる方がいたので。指の腹で二人まとめてつまみ上げ、仲良しなようなのでぷちり、と。指と指の間で合一させて差し上げた。ねっとりと糸を引く肉塊まじりの血の有り様を、せっかくなので見せつけて差し上げた。

 

懸命に藤丸を護る二人がいた。──それでも折れずに立ち向かってくるその様に免じて恩赦を捧げたくなったので。ふう、と息を吹き掛けた。それだけで全身がズタズタになり、立ち上がることも出来なくなった様なので、念入りに腕、そして脚を串刺しにして標本にして差し上げた

 

・・・気が付いたら、藤丸の回りの虫は皆いなくなってしまっていた。こうまで呆気ないとは拍子抜けである。抵抗らしい抵抗はしていたようだが・・・所詮は虫の悪足掻き。髪の毛一つ傷付ける事が出来なかったようで

 

「──こんな、事が・・・」

 

『ほら、だからいったでしょう?総ては掌の上だった、と。あなたが倒した・・・いいえ、『たまたま倒せた場所にいた』ゲーティアさん・・・でしたか?あぁ、いえ・・・『お医者さんを犠牲にして倒せるようにしてもらった』ゲーティアさんですね?』

 

「──!!」

 

『くすくす・・・確かに彼は力ある獣でしょう。ですがそれは『強い』だけ。かの未知の獣や私と違い、ただ壊すだけの獣に過ぎません。私の力は弱く、ビーストとして未だ蛹ですが。人の認識とは脆く儚いもの。知恵あるものはどのようなものであれ『欲』があり、この指はその魂を積み上げる。──欲望あるものは、私には敵いません』

 

そう、だからこそあの存在こそが最悪の天敵だった。最大の誤算であった。別の次元であれば問題ないと高を括った存在が、何故かこちらに顕現してしまった。いつぞやの正義の味方のつまらぬ使命感などではなく、純粋無垢な『生きるために殺す』と向かってくる単純明快な殺意。何の欲望も知らぬ超越的な決意。それが自分の楽しみを破綻させる唯一無二の障害であったが・・・今や、どの場にも龍などの気配は無いのだ。こちらを殺せるものなど、誰一人いない。なればこそ──

 

『──それでは。藤丸さんを戴きますね?あぁ、なんて瑞々しい魂。絶望と、それでも諦めまいと睨む誇り高さ。それら総てを、丸々と・・・』

 

この瞬間にて総てが終わる。虫を使い、最高に愉しい遊戯を行う。最早仲間は総て削ぎ落ち、虚勢を張るしかできない憐れで矮小な魂。怒りも哀しみも無力への憎悪も、余すことなく味わおうと舌を伸ばす

 

『あぁ、それでは。私の中にお帰りなさい。──うふふ。大丈夫。気持ちよければ、なんでも宜しいのですから──』

 

藤丸の魂を、つまみ上げんとした、その瞬間──

 

『──お食事をしながら自慰に耽る。さっさと食べれば勝ちを拾えたのに、自分を愛で甘やかす。──だから、あなたは月で負けたんじゃないんですか?おばさん?』

 

『──!!?な、あッ──!!?』

 

──天上楽土に、気だるげな幼女の声と。

 

【【【【【【⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!】】】】】】

 

耳をつんざく咆哮と共に、数多かつ多種多様な『竜』。ファヴニール、ケツァル・コアトル、エキドナ、ニーズヘグ、そしてミラボレアス。それらが菩薩の身体に食らい付いたのは全く同時であり。そして──

 

「──無事ですか?そうですか。それは良かった。ヘドが出る程誉めてあげたいです。それでは、えい」

 

「はうっ!?──ぁ・・・」

 

先程吹き飛ばされた筈のカーマが、藤丸に──『愛の矢』を突き刺したのは、全くの同時であった──




キアラ『な、なんだと言うのです・・・!?これは、これはまさかあの【獣】の権能・・・!?何故!?確かに私は退去をさせたはず!』

カーマ「ビーストの癖に分からないんですか?あの人──あなたが獣と呼ぶあの人は、『助けを求められれば何処へだってやってくるんですよ』。今は私が、力を借りて持ってきただけですけど」

『──単独、顕現・・・!』

「そういう事です。安心してください。必ずあの人はやって来ますから。あなたの愛を叩き潰しに」

『──!』

「今は別件なので、それらと戯れていてください。完全体の獣──いえ、龍の権能の一端、思い知ればいいです。そして──」

同時に、愛の矢で射られた藤丸は──

「──マシュ!!好きだぁあ!!大好きなんだ!マシュぅうっ!!!」

「・・・・・・(死ぬほどどうでもよさそうな顔)」

キアラの香の香りを払拭する為に、そしてサルベージを誤魔化すために、囮となってもらう為の告白をしてもらうことを決断したのだ。邪な愛を蹴散らす『恋愛』の青く甘酸っぱい叫びを、自らの理性を吹き飛ばされた藤丸は叫びまくる

「人理を修復する前から好きだったんだ!好きなんてもんじゃない!マシュのことはもっと知りたいんだ!マシュとずっと、ずーっと一緒にいたい!!マシュと一緒に生きたいんだ!!取り戻した未来で、色んな世界を見たぁあい!!マシュ!好きだ!!マシュウゥウ!!君に夢中なんだ!オレのこの心の内の叫びを聞いてくれ!マシュぅうっ!!』

キアラ『な、なにを恥ずかしげもなくそのような、なんなのですこれは!?』

カーマ「愛、ですよ」

キアラ『何故、ここで愛・・・!?』

「一緒に戦いに挑んでから、マシュを知ってから、オレは君の事が好きになっちゃったんだ!恋してるってこと! 好きだってこと!オレに傍にいさせてほしい!マシュがオレのそばにいてさえくれれば、オレはどんなに苦しくっても前に進めるんだ!優しくて、怖くても頑張れる君と一緒ななら、どんな困難だって乗り越えられるんだ!!
オレは君と生きたいんだ!!その美しい心と、えっちで無自覚なマシュマロボディな君と!!誰が邪魔をしようとも気持ちを違えるものか!アバズレビーストがいるなら、今すぐ出てこい! 相手になってやる!!」

BB『ブフッ、ブフッ──い、いえ笑っていません!センパイの気持ち、確かに受けとブフッ、受けとりました!その気持ちに答えましょう!』

はくのん『録音しておこう』

「でもマシュがオレに『先輩最低です』と言ってくれれば戦いません(ヘタレ)オレはマシュとデートしたいだけです!マシュの人生に色彩をプレゼントしたいんです!!世界中どこにもここにも連れていきます!心から君に尽くします!!それがオレの喜びなんだから!!」

【【【【【──!!!!!】】】】】

『くぅっ、このような汚濁を・・・!何故です!?何故、あなたのような廃棄品が私を邪魔するのです!?』

「喜びを分かち合えるのなら、どんな困難でも、どこまでも、どこまでも、乗り越えます!!! マシュ!君がオレに溶岩で泳いでこいというならやってもみせる!オレを見てくれ!オレを支えてくれ!君が好きだ!大好きなんだぁあぁあ!!!」

カーマ「あの、割と苦痛なんで早くしてくれません?」

『貴女は、一体──!?』

「あぁ──そういえば名乗っていませんでしたね。私は──」

『録音してイキリなすびちゃんに聞かせてあげちゃいましょう!それでは行きますよー!BB、シフトー!!』

BB、そしてはくのん。リッカが切り開いた道を、カーマが駆け抜け藤丸を回収する。そして──

「──私は、『あの人』だけの愛の女神、カーマ。──ソレ以外に名乗るのなら此方の名を。・・・【マーラ・パーピーヤス】」

『──!』

「あなたの愛を、あなたの悟りを。全力で台無しにしちゃう女神です♥それでは、また逢う日までごきげんよう──」

追おうにも、手を伸ばそうにも。竜が、藤丸の叫びが、カーマの行く手や転移の妨害を阻む。カーマらは何処かへ消え失せ、そのまま──

『──!!』

虫をいたぶっていた獣は一転。龍より産み出した竜と、殺し合いをせざるを得なくなったのである──

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