人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

714 / 2536
外の世界


『・・・そうでござったか。あの夢枕に見ていた、現れた女神はそういう事でござったか・・・』

邪竜『グドっち、思い当たるフシがある的な?感じだろうか』

『いやはや、拙者を迎えに来たものと思い塩対応をしてしまったものでござるが・・・律儀な神でござるな。あぁしてリッカ殿を愛してくださるとは・・・』

『・・・そろそろグドっちも、カルデア殴り込みしてマジパリすべきではないだろうか』

グドーシ『さて、拙者は最早生命を使い果たした身。そもそも拙者に参ずる霊基など無いでござるよ』

邪竜『御機嫌王がなんとか出来ない筈は無い』

『・・・もしそうなったら、覚悟を決めるしかないのでござろうか。いやはや、ですが当分はここにいるとしましょうぞ。友の話し相手がおらぬのは辛いでしょうからな』

『マジサンクスだ、グドーシ』

『良いのでござる。さて、待ち人はいつ来るのでしょうなぁ・・・』


ラヴ

・・・その人は、製作された存在の生命で。当たり前のように失敗作の烙印を押されて、当たり前のように監視つきで廃棄、放逐処分をされたホムンクルスでした

 

彼を製作した魔術師の家柄は日も浅く、歴史も僅かで。ホムンクルス製作も聞きかじりで試したようなもので。彼はそんな家柄に興味半分で作られた存在で。醜悪そのもの、と言わざるを得ないほどの見た目で。人と関わることすら困難である程の外見をしていたんです。あなたなら、知っているとは思いますが

 

専用の魔術や薬品を使わないと身体を保てないし、認識阻害を駆使しないと外すら歩けないぐらいの・・・。そんな彼を、製作側の魔術師は当然のように黙殺しました

 

そんなの、怒って当たり前です。憎んで当たり前です。実際に彼は怒り、憎みました。絶対に許さない、復讐してやると決意して、何かをしようとしたんです

 

ですが彼は・・・そう決意してから数日で、怒りも、憎しみも、あっさり捨ててしまったんです。そんな理不尽な生を受けていながら。そんなあんまりな仕打ちを受けていながら

 

『そう望まれて自分は作られた訳じゃないのだから、誰かを憎み、怒る道理など何処にもない。たまたま失敗作が自分で、たまたまそう産まれてしまっただけなのだ。だから・・・それを自分が受け入れれば全ては丸く収まる』

 

そんなとんでもない答えを、彼は導いたんです。自分は失敗作であろうと生きている。ここには生命がある。ならそれだけでいいと。それだけで充分だと。生まれた理不尽など、作った人間にすら報えない業だ。ならばそれをぶつけたところで、新たな哀しみと憎しみが生まれるだけだと。なら、こんな哀しみは自分が懐いてもろともに滅ぼうと。そう彼は考えたんです

 

・・・ここで、『愛してやる』『愛することができる』なんて被害者ぶっていた私が情けなくなりました。『ただそうなったから別にいい』なんて・・・私にはどうしても選べなかった答えを、彼は選んだんです。本当に、信じられませんでした

 

『でも、失敗作を理由に何もしないまま死ぬのは嫌だ。せめて、自分の生命が存在した証くらいは残したい』

 

そう考え、ボランティア活動でも始めようかと自宅で情報収集していた彼の目に、近場の学校の生徒があげた画像が目に留まりました。彼はまず、学校に通って社会的地位を確保しようとしていたので

 

・・・トイレで弁当箱をぐちゃぐちゃにされ、死んだ目でそれを片付けている一人の女の子を。面白がって見世物にしている画像を見て、彼は立ち上がりました

 

『彼女は理不尽に貶められている。彼女はなんの理由もなく害されている。そんな彼女がそのままでいる事を自分は見過ごせない』

 

このままでは、彼女は彼女ではいられなくなってしまうと。彼女は何も与えられず、人生の喜びを何も知らない存在となると。そんな事実は、そんな結末は絶対に見過ごせないと

 

『失敗作の自分より理不尽な境遇など、絶対に放っておけるものか』。そこで感じた憎しみと恨みや怒りをそのまま世に出せば、絶対に恐ろしいことになる

 

何より──くすみにくすみ、翳りに翳ってしまっているその女の子の秘めた魅力や美しさが、貶められたまま消えてしまうなどどうしても赦せないと。そんな義憤と決意を以て、彼はあなたの生を変える『きっかけ』となる事を決めたんです

 

・・・その先は解りますよね?あなたは彼と出逢い、彼なりの救済であなたを救い、助け、導いて。人類悪の覚醒から、世の理不尽の受け皿だったあなたを引っ張り上げたんです。あなたの笑顔を、取り戻したんです。

 

自分だって、助けてほしい側の癖に。崩れていく自分の生を、明日終わるかもしれない生命な癖に

 

迫る死期や、寿命の限界を気にせず・・・、いえ『寿命や死期』を意識しているからこそ、一分一秒に全霊を込めて、あなたを導いて、あなたに向き合ったんです。彼は自分の全てであなたを助けたい、あなたにただ笑っていてほしいと。あなたに残りの人生の総てを託したんです

 

・・・私は、そこに本当の、素晴らしい愛の姿を見ました。私が倦み、私が忌避した美しい愛の形。素晴らしい、愛の意味。ただひたすらに相手を案じ、それでいて、一切の見返りを求めない、綺麗な愛

 

『彼女にはきっと素晴らしい人生が待っている。素敵な相手と添い遂げ、幸せになれる未来が待っている。そんな未来を、彼女の当たり前の幸せを奪わせはしない』

 

彼はあなたに振りかかる理不尽から、あなたに課せられた運命から、あなたの自由と人生を取り戻すために総てを使っていて。そこにあるのは・・・なんの、雑じり気もない。『相手の幸せと未来』を願う心。

 

──あぁ。これが、愛なんだと。それが、私が忌避して、絶望していた『愛』の素晴らしさなんだと。私は、彼とあなたの触れ合いで。存分に教え込まれたんです

 

そこから、私はただずっと見ていました。あなたと彼が過ごす時間を。あなたが、笑顔を取り戻していく過程を、人類悪から、朗らかな人間性を取り戻していく姿を

 

こんな時間が、ずっと続けばいい・・・。二人を見て、愛の女神が時間を忘れるくらいに。そう感じて、二人の中にある確かな『愛』を。見ていたんです。当たり前ですが、愛の矢なんて使う余地は何処にもありませんでした。当然ですよね

 

そんな二人が、迎えた卒業の朝。あなたは見違えるほどに明るくなって。彼も、自分の総てを彼女に与えることが出来たと、悔いがなく満足げで

 

あぁ、ここで二人が終わってしまうのかと・・・私はとても残念で。でもまた、きっと必ず逢うことができると。愛は、二人を巡り会わせてくれると。そう信じていたんです

 

・・・──そこが、私の愚かなところでした。愛の女神が愛を思い出し、愛を感じて使命を忘れたツケは、やって来たんです

 

別れた一ヶ月ほどに、彼は最早生命を喪おうとしていました。彼は、大人になれる程の寿命を持っていなくて。あなたが心配であると言う、なんとしても導き、道を示すと言う決意で生命を燃え上がらせていたから、本当はもっと前に倒れても不思議では無かった筈なのに

 

私は大慌てで愛の矢を使おうと考えました。アインツベルンとか、人形師とか、それらが彼を保護し延命すれば彼女に逢える。死なないで、どうか死なないでと。愛の矢を『使わせてほしい』とまで、夢枕に出てまで言ったんです

 

ですが・・・彼は首を振りました。自分はこの生でいいと。この命でいいのだと。静かに私の提案を取り下げたんです

 

だって、死んでしまう。二度と会えなくなってしまうんです。もう一緒にアニメを見ることも、徹夜で好きなものを語ることも出来なくなる。これから先に生まれるたくさんのものが、あなたと彼女が紡いだ『愛』が無くなってしまうと。私は必死に告げたんです。だから生きて、死なないでと

 

『いやはや、気遣い恐縮の至り。・・・ですが、良いのです。拙者は別にリッカ殿の人生を独り占めしたかったのではなく、『リッカ殿の人生を、リッカ殿に取り返したかった』だけなのですから』

 

笑い、泣いて、楽しみ、怒って。そんな当たり前を彼女に取り戻せたなら、自分はそれでいいと。

 

これ以上人生を貰ったら、今度は彼女が欲しくなってしまう。彼女の人生を欲してしまう。彼女に寄り添いたくなってしまう。それはよくない、自分が彼女の傍らにいるなど烏滸がましい。自分は失敗作であり、死に絶えるだけだったホムンクルス。・・・そんな自分に生きる意味をくれた。そんな彼女からこれ以上のものを欲する恥は晒せないと

 

『最早現実の拙者は言葉すら話せぬ。つるぺた幼女の神よ、どうか拙者を憐れむならば、些かの助力を御願いしたい』

 

それは、彼女に我が最後の手紙を届けて欲しいと。そして復讐するつもりの一環で、製作元が一般枠を確保していた『カルデア』へ彼女を導く手助けをしてほしいと

 

『それだけが拙者の望みでござる。彼女には、もっともっと色んなものを見て欲しいが故に』

 

違う、違うんです。私がしてあげたいのは、愛してあげたいのは、あなたと、彼女で

 

『拙者はもう、充分に生きたので。御気持ちだけを、大事に逝くでござるよ。いやはや末期に女神が現れるとは!最早拙者に悔いはなし!些か幼女みが深くあるのが意外でしたなぁ』

 

違うんです。その笑顔を、見せて欲しいのは私じゃ無くて・・・

 

『──そろそろ、目覚めねば。あぁ、愛の女神よ。よろしければ、リッカ殿から目を離さず見つめることをお勧めするでござるよ』

 

あなたと、彼女に・・・愛が、満ちていてほしかったのに──

 

『彼女こそは、大成し世界に大きく名を轟かす逸材!いやはや、その様を我が目で見られぬのは無念なれど、我が生に悔いなし!──善き、人生でござったなぁ!デュフフフッwww』

 

──あなたたちこそ、私が愛して愛して、愛してあげるべきだったのに──

 

・・・その後、彼は最期の手紙を書き、腐り果てて死にました。最後まで、笑顔を浮かべ安らかに笑いながら

 

私に頼んでいた癖に、粗方の準備はとっくに終わっていて。総ては、全部。愛の女神も、魔王も、後の祭りで

 

・・・夢に出ます。忘れられません。最期の手紙を読んだ、あなたの慟哭が、嘆きが、絶叫が。愛する人に二度と出逢えない哀しみの叫びが、忘れられないんです

 

ごめんなさい。わたしがあなたに、両親への愛を授けるように仕向けられたら。こんな事にはならなかったのに

 

ごめんなさい。愛情をもって彼を造らせる事ができたなら、グドーシさんはもっともっと長生き出来る筈だったのに

 

ごめんなさい。ゲーティアの実験場にいる全ての人間を、あなたを愛するようにさせれば。あなたが人類悪になんかならなくてすんだのに

 

ごめんなさい。愛がもっと世界に満ちていれば・・・あなたも、グドーシさんも幸せでいられたのに

 

ごめんなさい。全部、私が悪いんです。女神(わたし)が、魔王(わたし)が、悪いんです

 

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい・・・そんな酷い目に逢わせて、辛い目に逢わせて、ごめんなさい──

 

──わたしはあなたに、わたしは彼に、何もしてあげられなかった──

 

 




カーマ「ぐすっ、ひっく。ぐすっ・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・リッカさん。私が、もっと、もっとちゃんとしていれば・・・グドーシさんも、リッカさんも。こんな事にはならなかったのに・・・」

リッカ【・・・】

「だから、私。愛の女神として。今度こそ・・・ひっく。今度こそ、リッカさんを愛そうと決めたんです。好きなだけ、好きなだけ甘やかして、愛して・・・信じて、もらえないかもですけど・・・えぐっ・・・だって、そうしないと・・・グドーシさんも、リッカさんも・・・愛が、全然・・・」

【・・・カーマ】

カーマ「──ぁ・・・」

【ありがとう。カーマ。グドーシを、私を。たくさん愛してくれて。私の過去を、グドーシの過去を見てくれたのがあなたで良かった】

「・・・リッカさん・・・わ、私は全然・・・」

【愛してくれてるよ~。神様って基本自我が強いのに、無理矢理でも矢を使わなかったってことは。『私達のありのままを愛してくれた』って事でしょ?】

「・・・!!」

【矢を撃てば、私はグドーシに惚れたかもしれない。グドーシはもっと素敵な姿になれたかもしれない。それをしなかったのは・・・ありのままの私を、私達を好きになってくれたって事だと私は思うな】

「・・・それは・・・それは・・・」

【うん。だから、泣かないで。私、カーマの事。大好きだから!】

「・・・好きで、いてくれるんですか・・・?何もできなかった、情けない私を・・・愛してくれるんですか・・・?」

【愛することに、理由はいらない!私はあなたが好きだから愛してる!愛してるから、好き!理屈で説明できないのが、きっと・・・愛だと思うから!】

カーマ「・・・~そんなの、そんなのずるいです・・・!私まで愛してくれるなんて・・・!リッカさんの節操なし・・・!ばかぁ~・・・!」

【アッ・・・ナキガオスゴクカワイイ・・・アッ・・・】

「・・・でも・・・頑張ります・・・リッカさんの為に、グドーシさんの為に・・・一杯頑張りますから・・・」

【うん、うん】

「・・・私を、信じてください。今度こそ、今度こそ・・・愛の女神として。全身全霊で、あなたを愛してみせますから・・・!」

【うん!信じてるよカーマ!──好き!】

「・・・好き、っていきなり言わないでください・・・心臓、止まっちゃいますから・・・」

【大好き!】

「わ、わかりましたからぁ~!」


ザビ『・・・恋の藤丸、メルトリリス。そして、愛のリッカ、カーマ。渇愛のアルターエゴ、プロテアたん。鍵は総て揃った』

BB『やるんですね、先輩!コスト汎用性度外視の、マルドゥークさん専用兵器を!解禁しちゃうんですね!?』

『あくまで勝負が決したら。藤丸が負けたら御蔵入り。・・・総ては藤丸にかかっている』

ゴージャス『ふはは、ならば我は青臭き恋愛を陰ながら支えてやるとしよう。あの貧相でみすぼらしきアルターエゴ、少しは着飾らせてやらねばな』

ザビ『・・・これはっ』

ゴージャス『我が至宝が探り当てた逸品よ。ヤツの切り札に合わせて纏わせておけ。治癒と補強には最適であろうさ』

『月女神の神鎧』

──ギリシャの神格はロボだとは驚きです・・・ですがそのお陰で!月そのものの鎧を見つけられました!

BB『これは・・・!確かにこれなら行けるかも!です!』

『さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・藤丸めがどう転ぶか見物よな?』





そして、決戦の時刻。藤丸らは、天上楽土へ──


どのキャラのイラストを見たい?

  • コンラ
  • 桃太郎(髀)
  • 温羅(異聞帯)
  • 坂上田村麻呂
  • オーディン
  • アマノザコ
  • ビリィ・ヘリント
  • ルゥ・アンセス
  • アイリーン・アドラー
  • 崇徳上皇(和御魂)
  • 平将門公
  • シモ・ヘイヘ
  • ロジェロ
  • パパポポ
  • リリス(汎人類史)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。