人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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シバ「バレンタイン!素晴らしいですねぇ!」

ロマン「うわぁビックリしたぁ!?」

「対象は食品ですから貯蓄されずに消費されますしぃ、毎年ラインナップも変わって新鮮!そして!ホワイトデーの御返しは三倍、三倍返し・・・!知っていますか!マスターのふるさとの日本国だけでも!一千億円を越える莫大な経済学効果が!」

ロマン「ムニエル換算でも相当の血の涙がね・・・」

幻影ムニエル「クソァ(幻聴)」

シバ「はっ!?・・・いけませんいけません!まだ私、受けとる準備が・・・!ろ、ロマン様!」

「あぁ、御返しだろ?大丈夫、しっかり用意を・・・」

「ひわわわわわ待ってください待ってください!心の準備のためにぃ~・・・」

ロマン「え?え?」

「──少しだけ!謎なぞに!時間稼ぎにお付き合いくださーい!!」

『シミュレーター起動』


平凡な指輪

「うーん・・・なんでこんな事になってるんだったっけ・・・」

 

 

ロマニ・アーキマン・・・否、今の姿は魔術王ソロモンの姿であり。彼は今歩いていた。──晴天の空であり、遥か広がる砂漠の道なき道を、である。一歩一歩の足取りが、普段と異なる感触にて足を取られ思うように進みづらい

 

勿論これは本物の砂漠ではない。シバにゃんにチョコを・・・ホワイトデーのチョコを渡そうとしたら一面が砂漠だったというだけの話である。決してだけ、などという話ではないが、そう納得するしか無いんだなぁとロマンは歩き始めたのである。心の準備がいるのだろう。その気になれば指一本でシミュレーターダウンなど容易いが、そこはシバの想いを汲んだのである。彼は最早、効率のみの王ではないのだから

 

『智恵の覇者、我等が愛多き王ソロモン・・・あなたは今、砂漠を歩いております。熱風吹きすさび、日差しが照り付け嵐激しき砂漠を、黙々と歩いております』

 

響き渡るシバの声。それを聞いただけでこれがトラブル、アクシデントではないことを確認したロマンは胸を撫で下ろし、歩を進め続ける。またみょうちきりんな事を考えついたのかなぁ、と

 

「ちなみに、どこら辺の砂漠かは考えているのかい?割りと鳥取砂丘とかも侮れないらしいよ?いつか行ってみない?皆と一緒にさ」

 

『はい!♥・・・はっ!ひわわ、そうではなくてぇ・・・!どこか!どこかの砂漠です!溢れる智恵で補完なさっていただければ~・・・』

 

あぁ、考えては無かったんだなぁとそんなふわふわな目論見にも挫けずロマンは歩き続ける。彼には、こんな些細な歩みすらも許されなかった生前を思い返しながら歩を進め砂漠を歩んでいく

 

彼は王として、神の代弁者として王の椅子に捧げられ、その様に生きる他無かった王という部品であり、装置である。思うまま、自由意思というものは認められておらず、日がな玉座に座り千里眼にて人間の営みをぼんやりと眺めていた人でなしであるのだ。だからこんな風に、行く宛の無い放浪すらも『思い描く』事すら許されなかったのである

 

「たまには運動もしなきゃなぁ・・・人間なんだし、健康診断判定は気にかかるところだぞぅ・・・」

 

そんな彼が選んだ人間という自由。聖杯に願った人間になりたいという渇望、自由の謳歌は今もまだ続いている。悲鳴をあげて駆け抜けた自由は終わり、彼は彼だけの人生を生きている。・・・そして今気安く語りかける女性こそが、後世にて謎と神秘と共に語られる『シバの女王』であるのだ

 

そんな彼女が、お返しを渡しに来た自分を試している。そういうことなら真面目に取り組もうかなと彼女のなすがままに行動を選択している。そんな自由と選択こそが、彼が願った生き方だから

 

「それで、大丈夫?次の展開考えてる?このままソロモンは行き倒れました、なんて間抜けな展開は割と怖いから避けたいところだけど・・・」

 

『ひわわ、大丈夫です~。とにかくロマン様は今、砂漠にいらっしゃり。そこへ・・・』

 

同時に、ロマンの目の前に巨大な影が現れる。亀のような、竜のような──否。正しく『竜』たる存在であるものの・・・シミュレーターにて再現された偉容が道なき道に立ち塞がるのだ

 

タラスクが現れます

 

「もうちょっと導入と人選煮詰められなかったかな!?」

 

タラスク。マルタに調伏されし悪竜にて、未だにマルタの守護を担う愛知らぬ哀しき竜。そして聖人同盟のスパーリングパートナー兼サンドバッグ。マルタに(いのり)にて改心したタラスクが、砂漠のど真ん中に現れたのだという。彼は思う。幻のポケモンか何かなのかなと

 

『タラスクがいる理由は何でも構いません。大事なのは、タラスクが目の前にいらっしゃると言うことです』

 

「まぁ・・・マルタに吹っ飛ばされたか破門されたか贖罪か・・・理由は色々考えればいいかぁ。それで、タラスクを相手に僕は何をするべきなのかな?」

 

『はい、ひっくり返します♥』

 

嘘ぉ!?突っ込むと同時に盛大に吹き飛び、きりもみ回転し砂漠の熱き砂原に叩き付けられるタラスク。どうやらロマンがやった、行った事象であるとして話を進めるようだ。どう創作を盛っても、魔術王が竜を一人でひっくり返したなんて新観点は生まれないはずと確信を持っているロマンが

 

「ソロモンに何があったんだ・・・!魔神連中!こういう時にこそなんとかするべきじゃないかな!いや放浪の旅に誰もついてこなかったとか割とリアルだから考えるのを止めよう!きっと呼ばなかったんだ!うんそうシミュレートだ、ぼっちじゃない!」

 

『タラスクは足と尻尾を激しくバタつかせますが全く起き上がれません!そしてソロモン王!貴方は彼を助けません!!』

 

ロマン「──」

 

何で、と聴こうとしたが。そんなものは考えるまでも・・・──否、それは違う。『きっとソロモンはそんな事を考えはしないからだ』。

 

『何故、ソロモン王はタラスクを助けないのです?──ロマン様、お答えください?』

 

「・・・それは、まぁ。『別に大した事じゃないから』、かな」

 

そうだ。助けを求めていても、なんとかできる力があっても自分はなにもしない。なにもやろうとしない。ソロモン王とはそういうものだ。誰かを助ける喜びも、自らを危機に晒した怒りも、起き上がれぬ彼を悼む哀しみも、旅をする楽しさもかの王には感じることを許されなかった。それならばきっと、ソロモン王は静かに結論付けるだろう。

 

『自らに実害が及ばないならば、それは手を下す様な事ではない』と。冷たく一瞥をした後、頑張ってくれと声をかけ静かに旅を始めるだろう

 

『──はい。正解です。それでは・・・問題を変えますね?』

 

残酷で無機質な王の在り方を浮き彫りにするシバの問い掛け。・・・しかしそれには、確かな続きがあって。

 

『ソロモン王、ではなく・・・『ロマニ・アーキマン』であったなら、あなたはどうなさいますか?』

 

「・・・あぁ、それなら──」

 

それなら。それならわかる。それなら、次は、自分ならどうするか。王ではなく、人間である自分自身なら。『考える』自由があり、『選びとる』判断があり、『共感する』心がある

 

「──手を差し伸べるさ。リッカ君や皆が、そうしてきたように」

 

タラスクに駆け寄り、砂漠の砂を掘り進み木片を拾い、タラスクを救おうとする。重くて動きはしないし、一人では無理な難題だろう。

 

だが──そこには道具を使うという知恵があり、何かをしようとする意志があり、何とかしてあげたいという心がある。そこに、暖かな人間の善性がある

 

それが人間の美徳にして奇跡。この星が産み出した人間という自然の姿。『誰かのために、無理無謀に挑み未来を掴む』という輝きし誇りこそが、人間の歴史を紡いできたものであり──

 

「参ったな、僕一人じゃどうにも・・・シバ、申し訳無いけどダメだったら指輪を使用してもいいかな?あ、勿論ギリギリまで自分の力でやるけどさ!」

 

『神には頼らず、自分の力のみで?』

 

「そりゃあ、楽園にいる時は僕の力は皆のものだけど。こういうときには、頼るのは自分の知恵と勇気だろう?それが『人間』というものなんだからさ」

 

『──はい。大正解です、ロマニ・アーキマン。あなたは確かに、楽園に招かれし善き人であることを示してくださいました──』

 

女王の、ささやかな問い掛け。ホワイトデーの突然の謎かけに、ロマンはその在り方を示した。そして半日かけ『タラスクと呼吸を合わせひっくり返す』という技を行いひっくり返したと同時に──




管制室

シバ「流石はロマン様~♥御立派なお考え!私、惚れ直しちゃいました~♥」

ロマン「そ、そうかい?ちょっと嵐呼んで招いたりしちゃったけどセーフでいい?」

「勿論セーフでーす♥・・・忘れないでくださいね、ロマン様。これはあくまで謎かけ、一夜の戯れの一つ。きっとあなたが、一人で頑張らなくてはならない戦いなど起こり得ません」

「シバ・・・」

「王も、マスターも、楽園の皆様も部員の皆様も・・・皆、あなたというゆるふわな人間を支えてくださいます。ですからどうか、私達がお側にいることを、お忘れなきよーに♥最愛の、頑張り屋なあなた♪」

ロマン「・・・あぁ、勿論だとも。そして、一ついいかな?」

シバ「はい、如何様にも♥」

「さっきの問題、僕以外に出せるかい?」

「ひわっ!?」

「問題なら、僕以外にも答えはあるよね?まさか、正解はアドリブでそれっぽく考えましたとか・・・じゃ、ないよね?」

「そ、それは・・・それはぁ・・・」

ロマン「──よし!お返しはオルガマリーにあげちゃおう!いきなり砂漠に拉致とか大分アレなシバにはお預け!」

「ひわぁあぁー!?殺生です、ご無体です!ろ、ロマン様!御待ちください!ロマン様ぁ~!?」

女王と王であった人間。それらは仲良く管制室を後にし・・・

──シバの席には、ロマンが手掛け・・・自分の意志で作り上げた特注の指環が。静かに光っていましたとさ──

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