人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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大図書室


式部「はい、お任せください。その時になれば、必ずや・・・それまで、この便箋はお預かりさせていただきます」

?『・・・』

「えぇ、お任せください。必ずや、あなたの想いは叶いましょう──」




式部「責任重大です・・・なんとしても・・・」

「・・・?」

『謎のエネルギー』

「・・・あれは・・・一体・・・?」


親愛雀像菓子

「あぁ、いたいた。リッカ、今時間いい?無くても駄目よ、先輩が声をかけて話したいと言うの。無理にでも作りなさ・・・」

 

「よーしよしよし、よーしよーしよしよし太陽の、太陽のフレンズ・・・ありがたや、ありがたや・・・」

 

「ワフ、ワッフ、ワフゥ(ペト)」

 

「ホワァ──」

 

楽園のリラックスルームにてリッカを見つけた芥ヒナコ・・・中国の謎多き美人、虞美人にしてカルデアのマスターとして迎えられし通称ぐっちゃんはドン引きしながらも、アマテラスと戯れ骨抜きになり昇華されている人間としてスペックがバグっている後輩に、包装された包みを持ちながら訪ねてきた。絶賛消失しかけている後輩を、アマテラスは察してくれたのかペロペロと顔を舐め覚醒させ、一声鳴いて部屋を後にする

 

「ワフッ」

 

「・・・正真正銘の神霊にセラピーさせるとか凄いことしてるわね・・・お邪魔だったかしら」

 

「ホワァ・・・え?あ、全然そんな事ないよぉ。ぐっちゃんパイセンどったのぉ」

 

言葉とは裏腹にふにゃふにゃしている後輩の醜態・・・まぁ癒されている時間に訪ねた自分が悪いので、迅速に用件を終わらせることを決意するぐっちゃんが、後輩にそれをそっと突き出す

 

「ほら。いつも頑張ってるんだから、これくらいは施してあげるわ。先輩らしいでしょう。敬いなさい。1.2倍くらい」

 

そうして渡されたのは、チョコであった。雀の細工が施された、手製のもの。精緻な雀の意匠は紛れもない、手間のかかった贈り物であることはすぐに見てとれた。人間を厭い、嫌うぐっちゃんが。えんまちゃんと協力して作った品である

 

「ほら、旅館の件で色々世話になったから。御返しを渡す日なんでしょ?だからあげるわ。後輩を労れる先輩を、いっぱい敬いなさい」

 

「あしゃっすパイセン!チョコサンクスしゃすあざっすぐっちゃんしゃっす!」

 

「体育会系な敬い方はちょっと毛色が違うから止めてほしいわ。なんかこう、シュッと・・・親愛と尊敬を込めた・・・」

 

「ぐっさん!」

 

「芸能人と被るじゃない!もう、いいわよ。自然体の貴女にいきなり敬え、崇めろとか無理な話よね」

 

いいからほら、受けとる!そう言ったぐっちゃんに怒りや敵意はない。リッカに対して、楽園に対しては彼女自身も驚く程に心穏やかで世話焼きである。ここを終生の終わりたる場所と定めており・・・彼女はリッカに共感を示している。虐げられた者の痛みを知るものとして

 

「ありがとー!大事に食べるー!ぐっちゃんパイセン優しい・・・やさしみ・・・」

 

「これくらい普通よ、普通!ラッピングはまぁ、下手だけど!喜んでもらえたなら作った甲斐があったわ!えんまちゃんとじゃんぬに協力仰いで!味見や毒味はアルクに任せたしね!あと、流石に本命は項羽様だからそこは諦めて!」

 

不老不死の身空、多少の無茶はいくらでも利く。・・・だが、苦痛でしか無かった時間の流れはここに来る前と後では大いに違う。穏やかで、幸せで、賑やかで、騒がしく。あっという間だ

 

「あーなんか慣れないことをやったら凝ったわ。色々疲れたわ(チラ)どこかに気の利く後輩が先輩を敬わないかしら(チラ)」

 

「肩揉みさせていただきますパイセン!」

 

「よろしい。・・・優しくね」

 

すっと寝転がり、あ。ポテチとお茶とリッカをナチュラルにパシるぐっちゃん。リッカは慌てて、購買に走るのでありましたとさ。

 


 

「私もそれなりに修羅場は経験したけど、あんたも相当ね。私がマッサージしてあげましょうか?」

 

「またまたそういう事言うー。ぐっちゃん先輩、滲み出る世話焼きいい人感隠せてないよねー」

 

「あんたには、というかここの連中は特別よ特別。その中でもあんたが人一倍図抜けてるって話よ」

 

ポテチを頬張りながら御茶をのみ、リッカに整体をさせているぐっちゃん先輩。リッカをこきつかえるのは私だけよフフン、と軽めな雑用を先輩権限でマウント取って任せているのだ。でもそれは見栄を張る先輩の個性と受け取り、リッカはニコニコと気安く対応しているのだ。実る稲穂は頭を下げるのである。

 

「先輩って吸血鬼なの?アルクやカーミラ、ヴラ、こほん。とどう違うの?真祖なの?」

 

「あー・・・まぁ、アルクと同じなのはホント。あんたに分かりやすく言うなら地球環境の擬人化。地球ちゃんよ、私もアルクも。で。生命力を動物や環境から吸い上げて生きるから、それを指して吸血鬼と呼ばれる事もある、みたいな感じかしら。・・・止めてよ。こういう踏み込んだ話で適当言うと、魔術師や考察班は怒るんでしょう?」

 

ふわっと、ざっとした説明。しかしリッカは静かに頷いている。この先輩は・・・

 

「大丈夫大丈夫。パイセンが割とポンコツで面倒くさがりでアバウツだって事は知ってるから。先輩の言葉はそういうものって納得する」

 

「心外よ、それはそれで。私をマシュみたいなイロモノと同列に語る悪い口はこれかしら(ムニー)」

 

「やめへぇ」

 

「ごめんなさいぐっさん。はい復唱」

 

「ごめんなふぁいぐっふぁん」

 

はい、よろしい。気を付けなさいとじゃれるぐっちゃんが、なんとなしに、彼女は口を滑らせる。この場には、不老不死に興味を持ち言い寄るものなどいないが故に

 

「・・・私には、吸血衝動や欲望はないの。アルクもそうよ。そこに拘りがあるかないかで分かれてはいるけど、ね」

 

「そうなの?」

 

「そうなのよ。はい、今から身の上話。柿ピー開けて」

 

へいパイセン!と皿に入れる間、ぐっちゃんは誰にも話さなかった、話す機会も無かった身の上を、ぽつりぽつりと語りだす。心地好さに、目を細めながら

 

「生き物と言う形態になっている以上、お腹も減るし食べなきゃいけない。そういった生命力の補充は必要だけど・・・ちょっと動物や植物にエネルギーを共有させてもらうだけで充分なのよ」

 

「すっごーい」

 

「エコロジーよ、エコロジー。まぁ砂漠の真ん中に放られたらまずいけど、早々にあんな極限環境には行かないわ。かしこいのよ。カメなんかより何倍も長生きだもの」

 

血の味など、楽しむものではない。アルクも似たような見解だが・・・血を吸う行為には、個体ごとに感傷がある。ぐっちゃんが懐くものは、嫌悪であるのだ。

 

「・・・リッカには解るでしょう。人間は自分と違うもの、自分より弱いものにはいくらでも残酷になれる。・・・人間は、理解を越えた存在を許さない。そして、貶められた者へ慈悲を示す者は余りに少ない。あなたは私と、同じ視点で人を見れる筈よ」

 

「あー、まぁね・・・」

 

捧げられた生け贄の生など省みない。そんな地獄に捧げられた側として、リッカはぐっちゃんの言葉に共感を示す事を許された人間の一人だ。彼女にだけは、ぐっちゃんは同意を求めるのだ

 

「海の底、山の頂。人は知らない事を、未知を、神秘を暴き征服せずにはいられない。それが人の獣性だと私は思っているわ」

 

人は増え、数を増やし、その過程で知らぬものを暴き物理法則を定着させていく。その過程でどれだけの種が滅んだか、追いやられたか。未知を暴き、繁栄するために暴く。それが人の業だとぐっちゃんは語る

 

「・・・まぁ、人間は発明の化身だから。暴いて消したものより、或いは消えそうなものを保護したり再生できたりするから、今となっては一様に蔑んだりはしないけど。・・・えっと、何の話してたかしら」

 

「ぐっちゃんは吸血鬼?ノット吸血鬼?」

 

「ノット吸血鬼よ。まぁ、余程急に魔力ほしくなったら血を飲んですぐに糧にしたりも出来なくはないわ。・・・それをして、死んでしまった命もあった。・・・でも、私は単独。世界を救うために世界を敵に回すお前も単独。対する人間は70億。・・・戦いは数でしょう。どちらが脅威かなんて分かりきっているわ」

 

だから人とは相容れない。お互いがお互いの天敵であり、仲良くなんてなれない。なれない・・・そう考えているのが、もう無駄だとは分かっている。だって──

 

「まぁそんな小難しい理屈はほっぽいて!不老不死とか関係無いよ!もっと言えば、種族とかもどうでもいい!」

 

「・・・」

 

「笑い合えればフレンズだから!私、ぐっちゃんと仲良くなりたい!小賢しい理屈なんていらないよ!」

 

「・・・そう言うわよね。分かっているわよ、あんたなら」

 

そう。この後輩は単純で、ある意味強引で簡潔でシンプルだ。人間であるかどうかなんて気にしていないなど、嫌と言う程知っている

 

・・・彼女の決めた生き方を、楽園に来てから色んな記録で覗いたから。だから彼女は、こうして不老不死の化け物にも笑顔を向ける

 

あぁ、なんて──

 

「・・・リッカ」

 

「ん~?」

 

「・・・馬鹿すぎて、目が離せないわよ。あんた。少しは賢くなりなさい」

 

「ふふん!パイセン見てくれるならバカでいいかな~」

 

「はいバカ~。龍に失礼よ。謝りなさい。あの白い龍娘に謝罪しなさい」

 

「本当に申し訳ない!ぐっちゃんがなんでもしますから許してください!」

 

「ちょっと!なんでそこで私なのよ!はったお・・・」

 

「?」

 

「・・・呪うわよ!口内炎五つ出来なさい!」

 

「やだー!地味にやだー!」

 

 

──なんて、気楽な存在なのだろう。人間として、彼女が初めて。最期を看取ってやってもいいと心に懐く程度に、リッカを認めていることを・・・

 

「はい!止め止め!この話終わり!はいリッカ!支度しなさい!ここから行くわよ!」

 

「行く?どこに?」

 

「決まってるじゃない。地下の!大図書室によ!はい、40秒で支度する!先輩を待たせない!」

 

「はい!パイセン!」

 

ぐっちゃんは、まだ気付いていないのであったとさ。




ぐっちゃん「なんだか珍しい本があるみたいだし、冷やかしに行くわよ。項羽様の伝記が無かったら自爆するわ」

リッカ「だ、大丈夫じゃないかな・・・あ、あとパイセン」

「?」

「チョコ、・・・もっと言えば、気遣ってくれてありがとう!」

「・・・当然よ。御礼を言うなら敬いなさい。二倍くらい」

「二倍」

「凄くリスペクトしなさいよ。いいわね」

「はい!パイセンマジリスペクト!あ、パイセン!」

「何よもう。用件は纏めて・・・」

「ホワイトデーって一般的には、男性が女性に渡すものじゃない?」

ぐっちゃん「えっ?」

リッカ「えっ?」

・・・・・・・・・

ぐっちゃん「・・・友チョコ、ってことにしなさい。しなさい!いいわね!別に、間違えて!ないから!」

リッカ「はい!」

ぐっちゃん「あぁもう、慣れないことをするんじゃなかったわ・・・!」

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