人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アンデルセン「まさかそんな武術をこちらのお前が修めているとは驚きだ。何処で学んだ?それは何故だ?」

キアラ「はい。尊び重んじるとは、決して非武装や寛容ばかりではありません。何より・・・」

アンデルセン「何より?」

「この世界を脅かさんとする脅威に立ち向かう事を信じ、己を磨き高めておりましたのです。えぇ、ガトー様に組手を毎日御相手してもらっておりましたのです。・・・でも、一番は・・・」

「なんだ、まだ何かあるというのか?」

「はい。あのお医者様が暴力や理不尽に見舞われないよう。そして・・・あなたのお陰で、こんなに元気になりましたという事を。御伝えしたいという気持ちなのです。・・・な、内緒にしてくださいね?」

「・・・ふん。心配しなくても、伝わっているだろうさ」

「?」

(おそらく、お前が探す存在は近くにいるだろう。気付くかどうかは、別の話だがな)



──くしゅっ!・・・ん~、風邪を引くような不衛生な事はしてない、よね・・・便乗とはいえ、キアラちゃんに医者の不養生を見せるわけにもいかないし・・・王、フォウ?今日は早めに眠りませんか──?


少女達の憂鬱~読書感想文~

「どくしょ、かんそうぶん・・・夏休みに立ちふさがる最大のかべ・・・」

 

「・・・作文のセンスは、財力ではどうにもならない・・・人の感性によるから・・・」

 

『ほらほらイリヤさん、つっぷしている場合じゃないですよ?宿題はきっちりやることと、契約書に書いていましたよねー?』

 

『ミユ様。検索履歴で感想サンプルを見るのはいけません。きっちり己の文を示さなくては』

 

図書館の席にて、ぐったりと椅子に座りもたれこむ少女が二人にその傍を浮遊するステッキが一つ。本にまつわる最大最悪の試練に晒され瀕死の二人に、優雅な姿勢でアイスを頬張る褐色の少女が余裕を示しながら笑う

 

「なのはさんに渡した感想文、友人の書記官さんに添削してもらったら『これじゃただの粗筋。もっと感性を乗せなきゃダメ』ってバッサリだったもんね~。アインツベルンもエーデルフェルトも、作家センスは付けてくれなかったかー」

 

「もー!なんでクロはそんなに余裕なの!まさか、全部もう終わらせたとか・・・!」

 

「カンニングや盗作は犯罪」

 

「人聞きの悪いこと言わないでくれる?これだけ題材が揃いに揃った場所で書けない方がおかしいんじゃないかしら。そーゆうあんなことやこんな事も目白押しなワケ。いやー、育ったわー。私の情緒が高みに上ったわー」

 

「はっ!?まさかなのはさんがクロの作文を見てなんとも言えない顔をしてたのって・・・!」

 

「やはり色欲の悪魔・・・リッカさんが言っていた。あなたは・・・アナザーイリヤ」

 

「フフン、無駄話をしている暇はあるのかしら?なのはさんや御機嫌王様が、『遊び呆けて宿題を落としました』なんて言い訳を赦してくれたらいいわね~♪」

 

「うわーん!絶対死に物狂いで頭冷やされる~!誰か助けてー!ミユ!宿題という概念をこの世から消し去ってー!」

 

「解った。星に願いを・・・!」

 

『おーっと今世紀最大の願望の無駄遣いがやって来ましたー!エゴで世界を変えるとか実に運命的なサムシングですねぇ!』

 

『ミユ様、どうかお止めください』

 

「はいはい、仲良くやってなさい。私は借りた本を返してくるから。宿題終わらせた者の余裕として──」

 

そうして本を返そうと席を立ったその矢先に──

 

「待ってぇ!その返却の本を返すの待ってー!」

 

カルデア最強最悪のマスターがクロに声をかける。図書館では静かにするのがマナーではあるものの、どうしても確認したいことがあったのだ

 

「あ、リッカさん!やほー!」

 

「こんにちは。皆さんも・・・、不思議な組み合わせですね」

 

手を振るイリヤ、ペコリと頭を下げる礼儀正しいミユに、投げキッスを返すクロ。仲良しトリオと邂逅した一同、何をしているかを問う前に──

 

「マスター。この子達を手伝ってくれないかしら。読書感想文に殺されそうなのよ。情けない事に」

 

「情けないとか言わないでー!だって、だって・・・感想とあらすじの違いなんてわかんないんだもん!助けてリッカおねーさん!」

 

「しょうがないにゃあ・・・私が書いたげるよー」

 

「ダメよ後輩、甘やかさない!横着を覚えたダメな大人になるでしょう!」

 

「すまんな、毎度のごとく人当たりがよすぎてノーと言えないマスターの事はその御子様の御守りに回るとしよう。で、だ。大人びた褐色の少女。見たところお前は本を返しに来た様だが?」

 

アンデルセンがすかさず本題へと話題を持っていく。クロはたくさんの本を持っている。それを返却するようだと彼は睨んだのだ

 

「あ、解っちゃう?そうなのよ。読書感想文で題材にしてた本を返しに来たわけ。年相応の『イソップ一家物語』とか・・・後は、まぁ・・・」

 

「ひゃぁ!クロってば『若草物語』とか『嵐が丘』とか借りてるぅ!おませなんだから!リッカルチャーショック!」

 

「ほう?そいつはなかなか趣味がいい。燃えるような情愛の物語、大人向けのチョイスだな。では次は『源氏物語』を読むといい。これも実に情熱的でな今なら音読するのもいいぞ?」

 

「あ、アンデルセン様・・・」

 

「ちょっとアンデルセンとかいうの!あんたは鬼畜なの!あんな赤裸々に好みと感性ぶちまけた見ているだけで情愛で胸焼けがするような超絶大長編の物語を朗読!?ここで!?鬼よ!あんたは鬼よ!」

 

「あわわわ、ごめんなさいすみません・・・」

 

「大長編!あ、それいいかも!感想リレー三人でやってみない?それでどんな物語なの?ドラえもんみたいな感じ?」

 

「イリヤがやるというなら私もやる。全力で、全力で」

 

「ま、待ってください!その、児童なる方々が読むにはあまりにも・・・!」

 

下手をすれば日本の法に触れてしまう。そんな非道徳に触れさせる訳にはいかないと慌てて制止する紫式部。だが、そんなほんわかな空気のままでは決して終わらせないのが、今の騒動なのである。

 

「?あれ、ちょっと・・・私の借りてた本が・・・!?」

 

浮かび上がる、クロが借り受けていた本の数々。無言と沈黙を貫いていた本が、仕込まれた魔力を起爆剤として起動する

 

『呪本反応・・・ですが、これもまた先程の魔力量と同じな様です。最初の呪本とは異なる末端でしょう。ところでミユさん、耳よりのお話があるのですが』

 

『天草さん!事案は許されませんよ!いけませんよ!』

 

残念、と笑う天草の行為は最早いつもの事であるので突っ込みなど無い。粛々と王に報告書を纏めあげるのみである

 

「あくまで本能、害意は無いのですね?ならば望まぬ咎を負う前に速やかに鎮めることにいたしましょう。ね、アンデルセン様?」

 

「別に本になど思い入れは無いが、一度本格的に焚き焼く事には憧れがあるな。散々苦しめられたのだ、後腐れなく焼き払いたいと思うのは作家の性と言うものだ!」

 

「あ!アンデルセン先生!つかぬ事をお訊ねしますが人魚姫の続きとかは・・・!」

 

「お前は蛇足と言う言葉を知らんのかイリヤスフィールとやら。始まりを汚す続編は何より罪深いという事を覚えておけ!」

 

『(しょんぼり)』

 

「ちょっとアンデルセン先生!マシュをしょんぼりさせるのはダメー!しなりなすびは見ていて辛いんだからね!」

 

「イリヤの希望を打ち砕きましたね。法廷で会いましょう」

 

「迎撃!迎撃するわよ!リッカ、しゃんとする!」

 

「そだね!じゃあ、行くよ皆!!」

 

行くところに困難あり。行く先々を巻き込んで──彼女らの戦いは続く!




イリヤ「・・・・・・」

クロ「ちょっとイリヤ、何をぼさっとしてるの?エネミーになった本は目の前にいるのよ?」

イリヤ「・・・と」

クロ「と?」

「図書館では静かにしなきゃいけないんじゃないかな・・・」

クロ「今更!?」

ミユ「大丈夫、イリヤ。これはトラブルが向こうから来た。つまるところ・・・正当防衛」

イリヤ「そ、それならいいんだけど!マハトマ☆エレナさんに怒られそうじゃない・・・?図書館で戦ったりするの・・・」

天草『ははは、天下泰平にて培われた真っ当な感性には安心します。ですが問題はありませんよ、ほら──』

キアラ「アンデルセン様はお下がりください。傷ひとつつけさせませんわ」

アンデルセン「全く、マスターがサーヴァントを護るとは愉快な主従もあったものだ!いいぞ、思うままに振る舞え!サポートをくれてやる!」

ぐっちゃん「蘭!頑張りなさい!ダメなら私が自爆して逆転を狙うわ!」

蘭「完膚なきまでに勝利しています!御安心ください!!完膚!なきまでに!!」

リッカ「リッカブリーカー!!死ねェ!!!」

紫式部「お見事です、リッカ様・・・!」

一同「「「・・・・・・・・・」」」

シェヘラザード「・・・真っ当な人類は真似をしないでください・・・死んでしまいます・・・」

当然のように呪本を撃破し、流れるように回収し終えイリヤらに告げる

リッカ「お騒がせしてごめんね!勉強、頑張ってね!」

イリヤ「が、頑張ります!リッカさんたちも、気を付けて・・・!」

ぐっちゃん「・・・(クイ、クイ)」

(?どったのパイセン)

(・・・なんか、宿題とかに困ってるわ。さっさと済ませた訳だしちょっとくらい)

リッカ「パイセンの指示に従い!宿題を付き合ってあげるね!」

「先輩は主張しなくていいのよ!?」

ミユ「助かります・・・」

イリヤ「わーい!やったー!ありがとう、皆~!」

紫式部「・・・ふふ。はい。作文ですね?お任せください」

そうして、皆の協力により読書感想文が作られ・・・

イリヤ「・・・二十枚分に膨れ上がったよぉ・・・」

ミユ「達筆・・・」

少女達の常識と限界を越えた出来の感想文に、英雄の規格外さを痛感するのであった・・・


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