人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ラーマ「渡してきたぞ!バナナをだ!」


カーマ「あ、良かった軽めのヤツです!趣旨を理解しているようで何よりです・・・カルナさんはともかくラーマさんまで重かったらどうしようかと。・・・あれ?アルジュナさんはどこに?」

カルナ「ああ、アルジュナならリッカに御返しを渡しにいった。あの決心に満ちた表情・・・最後の戦いを思い出す」

「・・・なんで、チョコレートの御返しを渡すのに・・・決心が必要なんですか・・・?」

(なんだか無性に、嫌な予感がします・・・正しい御返しの体を成しているんでしょうか・・・)



一矢

「藤丸リッカ、我がマスター。先月はこのアルジュナにチョコレートを下さり、本当にありがとうございました。誠心誠意、心よりの感謝を込めて召し上がらせていただきました。一つ残らず」

 

「は、はい。味わっていただけたなら何よりです」

 

アルジュナの神妙極まりない物言いに、先程までのバナナの余韻が消し飛び思わず姿勢を正すことになるリッカ。今のアルジュナから感じられる感情と決意は半端ではない。誠実に、実直であったカルナさん、朗らかで明るいラーマとも違うそれは──覚悟と信念の現れであった。その褐色で端整な顔立ちに一片の遊びも見られない。次の瞬間には射抜かれてしまっているような剥き出しの決心を感じ取る。これから死地に向かう特攻兵ですらこれ程の決意は醸し出せはしないだろうと言うほどにだ

 

「・・・初めてだったのです。神や師からの授かりではなく。マスター、リッカ殿からの実直な好意と親愛・・・その純粋さに、私は心底打ちのめされました。──どうか聞いてください、我がマスター」

 

「は、はい」

 

懺悔や告解を行う迷える信者が如くに、アルジュナは語り出す。今まで数多無数の授かりを受けたこの身が、果たして本当に──

 

「私は・・・・・・そのような好意を戴ける程の存在なのでしょうか?」

 

「ワッザ・・・!?」

 

チョコレートを受け取るのに資格とかは要らないと思うんですが・・・と口を開く、挟むことすら許されない迫真さに、アルジュナの言葉を待つがままとなるリッカ。アルジュナに語るに任せ、自分は静かに彼の言葉に耳を傾ける。茶化せる雰囲気はどこにも存在しないのである

 

「確かに私は出典からして並ではなく、大半のサーヴァントより優れているとの自負はあります。・・・しかしその一方、ただ、サーヴァントとしてしかあなたと接していない」

 

頼光のような母ではなく、ヘラクレスやケイローンのような師ではなく、ジャンヌ・オルタのような半身ではなく、黒ひげのような友でもない。有用な兵器、或いは同僚としてしか接点が無い。──距離は、遠いものだと思っていたと。アルジュナは考えていた。このような催しに、忘れられていても仕方ないと諦めてすらいたという

 

「真なるサーヴァントであれば、あなたのパートナーとして、より良い道へと引き上げるべきだというのに・・・そんな至らない私にも関わらず、親愛も込めてチョコレートを戴けたこと。──私は、本当に嬉しかった」

 

心から吐露する本音であり、嘘偽り無い真実であった。受け取った際には思わず釣り上がる口角を抑えることが出来なかったと告白するアルジュナ

 

彼は数多無数のものを授かった。弓を、武具を、奥義を、栄光を。だが、その中には唯一つとして『アルジュナ』という個人に渡されたものはない。完全無欠の英雄という存在を磐石にする部品、或いは拡張品でしか無かったのである。彼が欲しいと望んだものは、何一つとして存在しなかったと。

 

「──ならば、私も覚悟を決めねばなりますまい。マスターの贈り物に相応しい、私が差し上げられる精一杯のものを」

 

「は、はい。いやあのアルジュナさん。そのですね、そんな深刻に受け取らずとも・・・」

 

「こちらを、お受け取りください。貴女に、私の全霊を託しましょう」

 

そうして手渡されたものは、白銀に金の包装が施された細長い箱であった。アルジュナに促され開けてみると、そこには一本の矢が納められている。──アルジュナが駆る炎神の弓にて放たれる、水色と黒のドリルめいた矢が一本

 

「こ、これ・・・?アルジュナの弓矢の・・・」

 

「私の生涯の宿敵。憎み、妬み、そして・・・」

 

そして、何よりも。ただあるがままに振るまい、そしてそれが何よりの輝きを放つ自由なる太陽の化身、英雄カルナ。──この矢は、そのカルナを・・・

 

「私が、羨ましいと感じた英雄カルナ。『そのカルナを討った矢』です」

 

「!!!」

 

最後の戦いにて、カルナを討ち果たした矢。図らずも謀殺し、何一つとして思うままにすることが出来なかったままに、諭されるままに放った、悔恨と後悔の矢。今渡されたものはまさにそれだという。つまり、カルナの首を跳ねた矢であると言う

 

「あわわわわ・・・」

 

「あなたの信頼を、敬愛を受け止めた以上、私が差し出すは、私の全て。・・・そう、この矢は私にとって羞恥たる過去、怨念。・・・そして」

 

そして・・・決して目を逸らさず、向き合わなければならないものだ。この弓矢を放ったのは誰でもない自分であり、決して高潔なる使命の下に放った弓矢ではない事を、自らの暗澹なる感情を誇示するもの

 

「この矢を、あなたに預かってもらう事で・・・私の全てを知ってもらう事ができる。──同時に、誓いましょう。二度と、このように卑怯な矢は射ちますまい」

 

二度と、このような矢は射たない。楽園のサーヴァントとして、楽園に招かれた資格を持つものとして・・・

 

「ですのでマスター。どうかこれからも、よろしくお願いいたします。チョコレートに込められた親愛の分だけ、私は全霊を込めて戦いましょう」

 

「う、うん・・・!よ、よろしくね。アルジュナ。これからも、一緒に頑張って行こうね・・・!」

 

チョコレートの返礼としてはあまりにも、あまりにも重くそして揺るぎ無い決意が込められた矢を、確かに受け取ったリッカ。そしてまざまざと実感する。歴史に名を刻まれた英雄の全身全霊とは如何なるものか。そしてそれが、どの様なものか

 

(・・・大切に、しまっておこう・・・)

 

放つわけには、失うわけにはいかない絆と親愛の証を、滲む手汗を懸命に拭い、大切に保管する事を決意するリッカであった──




リッカ「・・・・・・」

『落陽のピアス』

『バナナ』

『カルナへの一矢』


「インド組の温度差が激しすぎる・・・」

(・・・よし!決めた!)

これからは重い御返しに気後れしない、もっともっと凄いチョコレートを毎年贈ろう!と、目には目、歯には歯理論に目覚めるリッカであった──

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