人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

753 / 2530
『むむ、こんな時に』

『どうした、グドーシ』

『いや、大聖杯の中にて聖杯戦争が繰り広げられているらしく。・・・記録の再現にてござるか』

『マジか。早速対処を・・・、・・・あ、そうだ』

『如何なされた?』

『いいことを思い付いたんだ。ここは俺に任せてほしい。それはだな、ごにょごにょ』

『・・・なるほど、ホワイトデーにかこつけたサプライズと。了解にござる。いやはや、テンション上がってきましたなぁ!』

『だろう?仲人ドラゴンとしてオレは名を馳せよう。それでは──始めるとしようか』



外典聖杯大戦トゥリファス~龍魂済度~
もう渡せないチョコレート


「ふぅ・・・皆、こんなに御返し用意してくれてたんだ・・・」

 

ホワイトデーの一日、来る人会う人、会うサーヴァント達に声をかけられ様々な御返しを受け取り、それらを抱えて一旦部屋へと帰ってきたリッカが一息ついて自室の白きソファにて休息を取る。

 

本当に色々な御返しを貰った。ケーナだったりマシュマロ焼きだったり象に乗ったり、釣りをしたりジルくん人形を受け取ったり色々なものを受け取った。しかしまだまだ受け取っていない相手はいる。もう少しだけど、まだまだ気の抜いていい時間ではないのである。それでも、貰ったものの整理の為にどうしても一旦帰還せねばならなかったのだ。貰ったものを、蔑ろにはできない。してはいけないのだから

 

「本当に、色んなものを貰ったなぁ・・・」

 

楽園に来てからというもの、自分の所持品と言うものが沢山増えたと意識している。中学校以前の事はまぁともかくとして、グドーシと遊んでいた頃は小さな二人だけの空間で、自分だけの持ち物というのはあんまり無かったのだ。資金の大体、遊ぶお金は大体グドーシが持っていたものを躊躇わず、惜しまず振る舞ってくれていたことを思い返す

 

「あの頃は、こんなに皆によくしてもらえるなんて思ってもみなかった。母上も兄も出来て、先輩と後輩も出来て、沢山の仲間も出来て・・・」

 

この楽園にて、貰えたものや宝物を数え出すと本当にきりがない。もっと言えば形には残らないものですら受け取っており、自分自身のものとして大切にしたいものがうんとたくさん増えたのだ

 

くろひーはいつの間にか自分をアクションフィギュアにして自分にくれた。鎧装着や各オプションパーツも充実した凄い逸品であり、下着とかも作り込まれていて三万くらいはしそうな出来のモノをポンとくれたのである

 

ヘラクレスは、自分の人生を書き記した著をくれた。自分の栄光と狂乱を余さず書かれており、渾身の一作であるとの太鼓判を押していた。その際に託された言葉・・・『如何なる武勲も栄光も、細やかな平穏を喪った傷を癒すことはできない』という重き教訓と親愛を込めて自分に託してくれたのだ

 

兄貴は重すぎず、軽すぎないお洒落なイヤリング型チョコレートをくれた。見た目ではお洒落で、食べればしっかり無くなるもの。御祝いという席のみに映えるモノをくれたのだ。その心遣いが、とても嬉しくて、食べるのが勿体無いと思うほどに

 

その他にも、沢山の御返しと返礼がたくさんあり、返礼の品の特設棚を作らなくてはならないほどに色んなモノを受け取った。どれもこれもが特別、最高の品で。全てを語り尽くそうとしたら数日あっても足りないだろう

 

「皆、ありがとう」

 

感謝の、本質の言葉。これを伝えるためだけにチョコレートとして形を作り、皆に託し渡して受け取ってもらった。御返しという形は貰ったけれど、自分は本当に、心からの感謝を受け取ってもらいたかったのだ。皆には、自分をこんなにも自分らしくしてくれた恩と感謝を、どうしても伝えたかったのである。笑ったり泣いたりできるのは、楽園の皆が自分をこんなに愛してくれたから、気にかけてくれたからだとリッカは心の底から信じている。だから、自分的にはチョコレート以外のものもなんとか用意したかった程に伝えたい気持ちはあるのだから

 

・・・でも、もう伝えられない想いも自分にはあって。それは仕方ないし、やり直したいとは思わないけれど。それでも、忘れてしまうには重すぎて

 

「・・・・・・」

 

そっと、引き出しの棚を開く。そこにはしっかり作りはしたけれど、もう受けとる相手がいないチョコレートが納められている。初めて見せて貰ったアニメのキャラクター、ワンちゃんとニャンちゃんを再現したチョコレートがそこに秘められていたのである。渡そうと考えていた相手は、一人だ

 

「ありがとう、なら。真っ先に貴方に伝えないとね。──忘れてないから安心してよ。グドーシ」

 

どんなに楽園の騒動が愉快であっても、どんなに非日常であっても、グドーシと初めてあった頃の出来事、過ごした一年ばかりの時間。見たもの、聞いたもの、感じたものは決して色褪せていない。カーマが護り、見守っていてくれたあの日々は、今もこうして彼女の中で息づいている。この自室も、グドーシの家を再現したものであることからもそれは明らかだ

 

彼には本当に、沢山の恩と感謝がある。返しても返しきれない想いがある。好きとか嫌いとかじゃない、人間が人間であるために必要な感情の全てを告げて、自分が彼に貰った感謝を伝えたいと願ったが故に、ここにこうしてチョコレートがあるのだ。受けとる相手が、もう何処にもいないチョコレートを

 

「・・・・・」

 

生き返ってほしいのか?と聞かれれば・・・自分はハッキリと『NO』と応えるだろう。彼は悔い無き、後悔の無い人生を送ったとあの手紙にて書いてあった。そして、彼は自分にこう言った

 

『どうか、善き旅路を』

 

その旅路を、今も自分は進んでいる。彼が導いてくれた楽園の旅路を、今も自分は突き進んでいる。そんな彼に、示してくれた地点までもどってやり直したいと告げるのは、きっと間違っていると思うから

 

自分に出来ること、それは藤丸リッカという自分から逃げないことだ。誰かを生き返らせたい、過去をやり直したいといった弱音に耳を傾けないことだ。だってそんな風に想う出来事は、今の自分を形作っている大切な要素なんだから。どれかを欠いても、今の自分は存在しないから

 

「だから、心配しないで。次にグドーシに会った時、土産話を沢山用意しておくから」

 

そう、グドーシには必ずいつか逢える。焦らなくてもいつでも逢いにいける。いつか世界が平和になって、その平和の世界を味わい尽くしたら、きっとグドーシに会いに行こう。沢山の、思い出話をお土産にして

 

だから──今は部屋に一人きりだから。今だけは、こうして。貴方を思い返そう。あなたに渡すことの出来ない、もう受けとる相手が存在しない、この感謝の気持ちを

 

「ありがとう、グドーシ。・・・必ず会いに行くから・・・待っていて・・・」

 

一人で、片方のチョコレートを食べながら、リッカは静かに一人の時間を過ごす。この部屋から出たら、また楽園の日々に飛び込むから。過去は胸の中にしまっておくから

 

・・・そんな風に一人でいるうち、リッカは自然と意識を手放し眠りに落ちた。細やかな休息の一幕として──

 

──その少女の頬には、一筋の涙が流れていたという。




・・・だが、この話には続きがあって。リッカの休息は、やっぱり休息では済まないのであって


『──ウェイクアップ。スイヤッセン、今オジカンイイッスカ。』

「──?」

『目覚めよ、そのスピリット。聞こえるだろうか、俺、じゃない我の声が。運命の鎖を解き放ってほしい。伝われ、この想い』

みょうちきりんな声に、リッカがごしごしと目をこすると・・・

邪竜「チャオ」

「・・・どちら様ですか?」

・・・──ホワイトデーの御返しは、地球の裏から唐突に──

どのキャラのイラストを見たい?

  • コンラ
  • 桃太郎(髀)
  • 温羅(異聞帯)
  • 坂上田村麻呂
  • オーディン
  • アマノザコ
  • ビリィ・ヘリント
  • ルゥ・アンセス
  • アイリーン・アドラー
  • 崇徳上皇(和御魂)
  • 平将門公
  • シモ・ヘイヘ
  • ロジェロ
  • パパポポ
  • リリス(汎人類史)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。