人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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七対七。ようやく、ついに、どうにか、出揃った


裁定者は存在しない。この聖杯大戦が世界に影響を与えることはない。

異分子も存在しない。そも、彼は既に死亡した。

新たなルーラーとして派遣される事はない

ならば、この小さな世界は、奇跡のような残滓は。私のもの、私の世界であり、他の誰のものでもない

繰り返し、繰り返し、繰り返し。奇跡を再現せよ、此度こそ栄光に至れ。私は所詮、前に進むしか無いのだから



彼は悩んだ。これが一段落したら、今度こそ、と

だが、彼には資格がなく誰かの器になる他無かった

こんな頼り無い自分に力を貸すような物好きはいないだろうと、ダメもとで募集をかけてみたら。

誰もが仰天するような者が、彼に慈悲を示した。


アンブッシュはアイサツ前の一回のみ有効

【あ!ここってルーマニアのトゥリファスってところだよね!嘘、なんで空にセミラミスの空中庭園があるの!?いくらなんでもガス会社の乱心じゃ誤魔化しきれないよ!?本当にこんな規模の聖杯戦争なんて起きたの!?】

 

空中より、眼下と頭上に広がる景色に瞠目するリッカ。ダイブした聖杯の中には──都市、城塞、広き草原といった極めて緻密なスケールの世界が組み上がっていた。息づく生命の息吹すら感じられるほど精緻で、ある意味ではおぞましいと感じるほどだ。この世界をここまで構築した術者の、狂気にも等しき執念を感じ取れるが故に

 

『ガス爆発によるガス漏洩の集団幻覚と銘打っておけば大抵どうにかなるだろう。ただしこの場合、ガス会社に勤める社員の未来は知らない。俺の管轄外だ。それにしても詳しいなリッカ。まるでサーヴァント博士だ』

 

【ふふん。私の所属しているカルデアはサーヴァントがたくさん集まる素敵な場所だからね!一人一人とガッツリ対話して、色んな事を聞いたんだよ!】

 

ルーマニアの地理や名称はヴラドおじさまから語り聞かされ、セミラミスからは毒の一気のみパフォーマンスと引き換えに宝具の秘密を教えてもらったり・・・サーヴァント一人一人との交流を決して忘れないリッカだからこそ、サーヴァント・・・ひいては世界の英雄には博識なのだ。ある意味で、彼女ほどサーヴァントを・・・英雄を熟知しているマスターは世界に存在しないと断言してもいい程には、だ

 

【・・・あれ!アヴィ先生のゴーレムがいる!竜牙兵とかもいるよ!もしかして現在進行形で戦ってる最中なのかな?】

 

眼下の景色に蠢く影、それこそはサーヴァントなりし者の尖兵たる反応であった。屈強なゴーレムに、竜の牙なる兵が小競り合いを続けている様子を目の当たりにし──邪竜は鼻を鳴らす

 

『よし、では早速だが消毒と行こう。挨拶前のアンブッシュは一度だけなら有効だ。そしてリッカには同時に、かの有名な大佐の台詞を御願いしたい』

 

「大佐・・・上空から下へ・・・。あ!オッケー理解した!よーし、いけーファヴニール!」

 

通じあった二人は頷き合い、邪竜は大きく息を吸い込み口をもたげる。異界化された肺に溜め込まれた空気を、魔力を掛け合わせ喉から猛烈に吹き出す。己の体力や魔力数値の数十倍のダメージを辺りに撒き散らす──

 

「見たまえ!ファヴニールの爆焔を!」

 

『ストライクベントだ、食らえ!流石に一兆度ではないが・・・!』

 

竜化ブレスである。超絶な温度より放たれる炎の暴虐は、触れた先から炎上させ、融解させ、形あるもの悉くを灰に還していく。生物の、幻想種の頂点たる竜の吐息を受け、立っていられる者など英雄でしかあり得はしない。有象無象たるゴーレムや兵は、最早炭すら残さずに消滅を余儀無くされるのだ

 

【はっはー!見ろ!ゴーレムや兵が炭のようだ!!いや実際炭なんだけどね!ファヴニールすっごーい!たーのもしー!】

 

『それほどでもある。ドラゴンは謙虚だが卑屈ではない。誉められるのは嬉しいし光栄だ。インドラの矢に対抗して、アグニの剣などとは呼べないだろうか』

 

フフン、と得意気に胸を張るファヴニール。大佐と言うだけで意を汲み取ってくれたリッカに感謝しながら翼をはためかせ、優雅にかつ雄々しく大地に着地せんと姿勢を安定させんとする

 

『それでは着地しよう。大丈夫だ、まさかサーヴァントとはいえこんな真ん中にていきなり攻撃などと。いつまでも飛来してはいけない、すぐに拠点に入らせてもら──、ッ!?』

 

【おおっ!?──これ、弓矢!?】

 

瞬間、その隙を待っていたとばかりに鋭利なる歓待がリッカとジークを襲う。暗闇にて黒塗り処理のされた無駄のない狩人なる弓矢、そしてそれを射る至高の腕前──

 

【──アタランテの撃ち方だね、これ!ファヴニール、旋回してあの森に!貴方の姿を隠そう!殿と護衛は私がやる!!】

 

『すまない、頼む・・・!いきなりルール無用のサーヴァントアンブッシュとは、どうやらハードなラックとダンスってしまったらしい・・・!すまない、幸運はあまり期待できなかったようだ・・・!』

 

リッカの指示に素早く転身し、夜の闇をファヴニールは駆ける。尚も撃ち落とさんと放たれる無数の弓矢を、リッカはアルテミス・・・そして、母上たる源頼光の力を借りて迎撃し撃ち放つ

 

【そことそことそこと──そこッ!!】

 

ケイローンが提唱した『弾道と軌跡さえ計算すれば弓矢を弓矢で迎撃することは不可能ではない』という戦術・・・と呼ぶにはあまりにも難題なる神業を、リッカは正確にこなす。正確には内に潜む丑御前が披露する源氏の武練にてアルテミスの弓矢を構え、夜にのみ宿る月女神の祝福にて必中を実現しているのである。人間を超越した鬼、魔性の膂力にて数秒に数十の弓矢を放ち、月の輝きと月そのものによる照準補整にて飛来する弓矢にて放つ。同時に害するものを悪意認定することによりリッカの反応を間に合わせる歩く聖遺物戦法による規格外の対処。楽園の最強最悪のマスターにしか行えぬ業にて、懸命に邪竜を弓矢から護り保護する

 

【このまま一気に──ッ!】

 

──瞬間、『夜闇に太陽が上った』。遥か彼方より、太陽が上ったと錯覚する程の、神々しく雄々しき輝きが世界を照らし尽くす。放たれる光と熱量に、目視できる範囲の万物が消し飛ぶ程の威圧。見間違う筈もない。違えるなど有り得ない。耳のピアスに懸けて過たない、この輝きは・・・!

 

【カルナさんの神殺しの槍──ッ!ダメ、避けて!当たったら絶対ダメ!!】

 

堪えるや護るなどと考えるなどは愚かとすら言えない。あんなものを直撃すれば鎧など一瞬で融解する──否、鎧は残るだろう。中身の身体が半壊か融解し消滅を免れないというレベルの問題だ。楽園でもトップクラスの実力を持つカルナさんの奥義がこちらに向けられている。信頼の数だけ、リッカが切迫するのは当然であった

 

『勿論理解している・・・!だがセットアップが早い、このままでは致命的な致命傷になってしまう・・・!』

 

被弾箇所を避けようときりもみを行うファヴニールであったが、それでも苦し紛れでしかない。弓矢と、神殺しの槍。最悪の板挟みに逢ったリッカは躊躇いなく、鎧の左腕にマウントしていた精緻なる盾を取り出し、世界の守護を授からんと叫ぶ。

 

【アキレウス!コスモ──!!】

 

オルガマリーの師匠より譲り受けた宝具の楯を一息に解放しようと刹那、急転直下の出来事が二人を更に混乱と困惑へと導いた。

 

『!?新たな宝具、これは・・・!?』

 

──それは、黄金の雨だった。夜闇を切り裂く星空の流星雨。二人の龍と竜を護り、保護するかのように降り注ぐ豪華絢爛な宝具の嵐。一つ一つが、凄まじいまでの神秘を秘めた武具の数々

 

更に驚くべきは、そのおぞましいまでの正確さだった。ダガー、ナイフ、極め付きは小さい鏃などといった宝具が飛来し、撃ち放たれた弓矢を正確に相殺し無力化していていく。突き刺され空中で制止した弓矢の位置、入射角と反射角を計算し尽くした上で、光学レーザーが放たれ弓矢を全て蒸発させる軌道を描く。スーパーコンピューター総掛かりでも数時間はかかる演算の産物が、二人の活路を拓いて見せたのだ

 

『当たるわけにはいかない。すまない、下に落ちるぞ・・・!上には落ちない、トゥリファス城ファヴニールではないからな・・・!』

 

【今の・・・!】

 

間違える筈もない、見間違える筈もない。鎧の下の表情が、焦りと困惑から希望の笑顔に変わる

 

 

【ありがとう!大丈夫、絶対退屈させないから──!】

 

襲撃を無傷で乗りきりし二人は、森林地帯へと雪崩れ込むように落下し、待避を行う。黄金の流星に背中を押され、星と太陽が輝く夜のトゥリファスの開戦の兆しを見つめながら──






ファヴニール『あれだけの攻撃を受けて怪我が無いのはまさにミラクルだ。守矢神社にありったけの賽銭を貢がなければ』

リッカ【早苗ちゃんの事?そういえば元気にしてるかなぁ・・・いやいやそんな事より!何あれ!カルナさんが問答無用で襲ってくるとかぜーったいあり得ないから!】

『あぁ、あれはサーヴァントのコピペだ。仏作って魂入れずなアレだ。宝具、サーヴァントの力は再現されてもそこに感情や意思はない。ゾンビやメカに近い。だから、カルナさんの聖人メンタルは再現されていないんだろう』

リッカ【・・・アタランテ、アヴィ先生。それに、カルナさんも今回は敵なんだ。・・・】

『・・・だが、悪い事ばかりではない。あの黄金の輝きは・・・』

空を見上げれば、翡翠色の軌跡を描く戦闘機が、地表の雑魚を焼き払いながらサーヴァントらしき影と戦闘を繰り広げている光景が見える。──いかなる好奇心の発露か、今回は最初から来てくれたらしい

【──ギル、姫様、多分フォウも・・・!ありがとう!】

『──英雄王に、英雄姫。至尊の守護獣か。ありがたい、56億人力だな・・・!』

空をぽややんと見上げる二人。そしてそんな彼等に、更なる味方が現れる

?「──城塞に行きたいのですな?ならば、道案内はお任せあれ」

【!】

ケイローン「──えぇ。私達は、あなた方の味方ですよ。カルデアのマスター、そして管理者よ」

二人の前に現れしは、リッカの教師たるケイローンの姿と・・・

シッダールタ「あ、こちら自己紹介を。私はかの城塞にて再現されたホムンクルス、シッダールタと申す者。道案内と家事とか、任されよ」

【シッダールタ・・・】

黒髪に白肌、濃紺の瞳に黒き執事服の美男子なるホムンクルスが、彼等を歓待するのであった──

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