・・・──捕捉。霧夜の殺人、女殺し、連続殺人鬼、少女、悪霊郡体、アサシン、高ランク気配遮断、拷問に長ける。
ジャック・ザ・リッパー。
『任せたぞ、『叡知の光』!お前ならばこの大地に・・・必ず、必ずや楽園を創造できる!世界を、人を、我等が民を救いたまえ!』
・・・──捕捉。
カバリスト、ゴーレムマスター、基盤創成者、哲学者、石の巨人を統べる詩人
アヴィケブロン。
『ええま、実は吾輩の戦いだの魔術だのは滅法苦手でして。『しかし神々は我々を人間にするために、適当な欠点を与えてくるものです』』
・・・──捕捉。世界一の文豪、芸術家、劇役者、物語の帝王、不戦にして不屈の作家
ウィリアム・シェイクスピア。以上三騎の霊基情報を確立。⬛⬛⬛に登録
~
ギル《・・・成る程、どうやら戦えば戦うほどに場が整う仕組みのようだ。何処の残骸かは知れぬが飽きぬ事を》
フォウ(またネタバレ見たのかオマエ。で、なんだったんだい?)
《さてな。我が言えることは一つだ。エアも覚えておくがいい。『砕けた残骸を拾い集め重ねた処で、それは決して元に戻らず価値が甦る事はない』。これは財にも、悲願や夢にも言えることだ。大抵は徒労であり滑稽ゆえ、努傾倒せぬようにな》
──はいっ。大切なものは奪われるな、壊させるな!ですね!
《ふはは、然り!解っているならばよい!さて、他愛なきとはいえ徹夜の行だ、疲労は取れまい。挨拶を交わし眠るとするか》
(──ランサーめに入念な隠蔽が施されていたな。もしくはそれが活路になるのであろうが・・・さて邪竜よ、貴様は其処に辿り着けるかな?)
「ジャックちゃんだー!!よーしよしよし!よーしよしよし!ここにいるなら貴女は私のサーヴァント保護!はい決定!!」
「えへへ、くすぐったいよおかーさん。シッダールタのおにーさんが、色々教えてくれたよ」
部屋に帰ってきたリッカとジークを待ち受けていたもの、それはシッダールタの穏やかな朝食だけではなかった。先程まで戦い、殺し合っていた筈のサーヴァントの再現体が一人・・・黒のアサシン、ジャック・ザ・リッパーが彼女の部屋にて現れていたのである。あまりにも急な、あまりにも突然な戦力の増強なれど、リッカは全くブレずにジャックを受け入れた。楽園におけるジャックとは違い、記憶は受け継がれてはいなくとも。ジャックはジャックであるのだから
「・・・これは、どういう事なんだろう。シッダールタ」
「まぁ誤解を恐れず弁明いたしますれば、私は朝御飯の精進料理を作りベッドシーツを変えようと布団を捲ったら幼女が寝ていたということになります。それはまぁ確かに鬼子母神を懲らしめるため子を隠した事はありますがいくらなんでも今はやらんでござるよ」
「・・・そうか。予想外の出来事、か。うん、そうだな、そうだな・・・」
何故か、ジークがジャックを見る眼差しは暗い。何かやりきれない、過去の過ちや悔恨が姿形を持ちやって来たような、そんな苦節な表情を浮かべているように、リッカは見えた。シッダールタは静かに肩に手を置き、変わらぬアルカイック・スマイルにて朝食を用意する。彼にとって、世の大抵の出来事はありのままに受け止めるもの。心に僅かな波も立ちはしないのである
「おかあさん、あれも味方なんだよね?キレのいーやつ、みせよっか?」
「シッダールタくぅん!ハリスラ布教したでしょもー!」
「ははは、ジャック繋がりですからな。あ、そう言えば来客は彼女だけではござらぬ。ご飯を食べたら庭園に行くでござるよ」
「・・・まだいるのか。もしや、昨日倒した二人か・・・?」
何が起こっているのかを把握するためにも、まずは腹ごしらえ。ジャックが来たことにより急遽シッダールタはオムライスを作り、ジャックも含めた四人で朝御飯をいただくのであった──
・・・そして、庭園にて──
~
「いやいやなんという!噂に名高き英雄王、楽園カルデアとそのマスターが飛び込む聖杯大戦!素晴らしい!凡庸平凡とは無縁の旅路とは是非是非私も脚を運びたいのですが!」
「ははは、諦めよ。貴様が貴様である限り楽園には来れぬ。恨むならばそのような気質にした神を恨むのだな」
「わーい、ショックー!おやこんにちは!ほほう、貴方が大聖杯の管理者!そして貴方が招いた人類最強最悪のマスター!火中の栗を鷲掴み!さすがですな素晴らしいですな凡庸とは無縁ですな!では吾輩の著作より、何か引用を──」
「超イイ声でめっちゃ捲し立ててくる・・・!おシェイに、先生・・・!?」
玉座に頬杖をつきシェイクスピアと談笑せし王、リッカらの到着を確認し目を閉じる。説明は要らぬ、察せよといった様子だ。彼にはエアに休息を取らせるために全霊基を停止させるレベルの仮眠を一時間程時空カプセル宝具で取るのである。10時間睡眠を一時間でとれる優れものを既に選別してあるのだ
庭園にいたのは、文豪家シェイクスピア、そして先程戦ったカバリスト、アヴィケブロン。つまるところ、先程戦った相手が味方としてここにいる状態なのである
「愉快な話であるところ、失礼。甦ったのは昨夜君たちと交戦した我々だけ、という事だろうか?」
アヴィケブロンの言に、ジークが頷く。そして問い返すのだ。召喚された理由とその是非を
「いいえさっぱり」
「同じく」
「全然わかんない」
「わっかんないや!」
「リッカ殿、サーバルの真似にて混ざるはチャーミングですがややこしいですぞー」
「王が言うには、撃破したことにより霊基情報が特定、捕捉されサーヴァントに至ったのだと仰有っていましたが・・・驚きましたね。幸先が良いとも言い換えることができますが」
「こりゃあいい!貰えるもんは貰っとけ!呪いと病以外は何かしら役に立つってもんだ!・・・しかし・・・」
数名・・・英雄らの視線がジャック・ザ・リッパーに注がれる。まぁそれはそうだろう。稀代の切り裂きジャックがまさか、幼女であり怨念の集合体であったなど。実際に見ても半信半疑と言うものである。リッカはもう、ジャック・ザ・リッパーといったらかわいいとしか思えないのだが
「おかあさん、おにいさん。恥ずかしいよ・・・みんながじっと見てくる・・・」
「よーしよしこっちにおいでー。あんまり不躾な人には私がサンダーブレスター風に体術しちゃうから大事だからねー」
「私にも懐いてくださるとは恐縮にござる。いつか君達も済度の日取りに救われん事を。具体的には二億か四億年程の先ですが」
「簡潔ながら説明いたしましょう。それではギリシャ流説明術・・・かくかくしかじか」
ケイローン先生、再三の説明。この置かれた状況を分かりやすく講義の形で教授する。三騎のサーヴァントはそれらを素早く把握し──
「なる」
「ほど」
「なー」
「リッカ殿、そしてジーク殿。我等が打倒したサーヴァントはこちらの手元に『戻る』ようです。敵を倒せば味方が増える。王の負担も減り一石二鳥と言うものですね」
「傷の一つも負ってねぇけどな、この王様。ちっと信じられねぇ話だ・・・戦士ならざる王の身で、どうやってジークフリートやカルナ、モードレッドと他多数に完勝できる・・・?」
ともかく、これで希望は見えた。戦い、勝てば勝つほど有利となる。王ら楽園の戦いの敗北とは総てを投げ出すこと、理不尽に屈する事。それらをしない限り負けないのならば、必ず勝ち味方が増える。光明は明るく旅路を照らしているのだ
「はい先生!しかし我等どう考えても戦闘向きではありませんが!」
「大丈夫です、おシェイ君。あなたがたの特性を理解している二人が、必ず適切な指示を出してくれるでしょう」
「OK!じゃあこんな時に天草くんから貰った・・・『聖杯大戦・陣営別サーヴァント対処マニュアル』をぺららとめくって・・・はい!おシェイ!」
「はいはいなんでしょうマスター殿!」
「今からサボらないように見張りをつけます!24時間!必要ならば悲劇を書かないよう令呪を使います!一画!活躍させたいならば自著の運用を封印させます!令呪二画!!」
「えー!?(大ショック)」
「マジ卍だな、リッカ。大賛成だ。次に聖女にやれば訴えられるだろう。法と暴力に」
「お口にチャック、という奴ですな。ははは、強く頑張るでござるよ」
「皆様の信頼が胸に痛いですなー!」
「君、一体どれ程やらかしたのかね?」
・・・赤のバーサーカーを諭し突撃させたり、敗者にその都度感想を尋ねたりひたすら自著を引用したり。天草のメモ帳にも『大分手を焼きます、面倒くさいなら令呪を切りましょう』と書いてある程に喧しいトリックスターなシェイクスピアであるか故に。その言動を警戒されてしまうのであった──
シッダールタ「また新たな仲間が増えたでござるな、ジーク殿。気後れすることなく、勝利のために前進をするでござるよ。そして迷いや悩みは、早い内に吐き出しておくのも大事でござる」
ジーク「・・・解るんだな、やっぱり」
シッダールタ「それはもう。・・・生前戦ったりしたのですかな?」
ジャック「おかあさーん」
リッカ「よーしよしよし・・・ジャックちゃんは可愛いなぁ!」
ジーク「・・・あぁ。俺は彼女らの過去を見た。望まれず、命を断たれた子達の想いを」
シッダールタ「成る程、無垢な心には辛かったでしょう。・・・その心は?」
ジーク「・・・辛かった。救いたいと願った。救えなかったから、ああして彼女はいるわけだが」
シッダールタ「ふむ、ならばそれでよろしい。救いたいと願ったその心を、大事にしなされ。それこそが、真如への一歩でありまする」
ジーク「・・・そうだな。迷いながらも、傷付きながらも進めるのが人、人間の強さであり美徳。俺は、そうだと説かれたのだから」
シッダールタ「然り。ま、人間には大いなる悟りはまだ早いと仰有られておりますからな。迷い苦しみ、大いに良し。それこそが生きるという事なれば」
ジーク「・・・そう言えば、君のクラスは・・・」
シッダールタ「?ははは、ホムンクルスの再現体にクラスとはまた異な事を。・・・そうですな。私も『彼』も今の衆生に悟りと救いをもたらす為でなく、見守るために顕れたもの。セイヴァーは重すぎます故・・・」
ジーク「・・・見守り、先導するもの・・・『リーダー』というところか」
シッダールタ「それですな、まさにそれ。まぁ、告白しますと。私は世界の行く末に興味は無いのですが・・・」
リッカ「おーい!晩御飯食べよー!」
ジャック「食べよー!」
シッダールタ「たった一人の少女の行く末には興味津々なのです。故にこそ『⬛⬛⬛』ではなく、シッダールタと名乗っているのですから。セイヴァーになるには、その執着を捨てねばならぬわけで」
「ふふっ・・・なれそうに、無いな」
シッダールタ「えぇ、永遠に。我が身に宿る彼には申し訳ありませぬが、私が世にいる理由などそれしか無いのですからなぁ──」
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