人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

771 / 2508
セミラミス「いたか。・・・言わずともよい。把握している」

スパルタクス「おぉ!!圧制者よ!!」

リッカ「味方!スパさん味方だよ!」

セミラミス「貴様の怠慢が招いた事情であろう、管理者。・・・しかし神罰とは。あの光が降り注いだ箇所は破棄せざるを得ん。疫病を撒き散らされてはな・・・」

ジーク「あぁ。だが──取り戻さなくてはならない、理由がある」

カルナ「・・・申し訳ない。手間をかけた」

リッカ「カルナさん!良かった・・・!」

セミラミス「・・・全員、来い。十三騎が復活した以上、最早朝も夜もない。あの男は大聖杯の前で我等を待っている」

リッカ【あの男?】

「あぁ。この世界でただ一人、貴様以外のマスターさ」


『生憎とお前に与えてやれるものは、オレの敗北以外には無くてな』

カルナ。

『だが、我はもう疲れた。・・・それに、我も敗北した』

セミラミス。

都合十三騎、再現体データ入手。聖杯大戦、再起動可能。

大聖杯の願望を強制停止させ、願望介入の為に必要な戦闘回数試算──

あぁ、間もなくだとも。


千界樹

「──十三騎を再現し、影を作り。可能な限り環境を整えた。残るは私一人。私が、最後の一騎となる。基幹部分は87%占拠。私の願いを叶えるには十分なリソースだ」

 

巨大な球体、とある女性のホムンクルスにして自然の寵児の最高傑作の魔術回路を基幹とした奇跡の産物、大聖杯。庭園の中央、最深部に安置された『それ』を前にし、虚ろに呟く人物がいる。それは見た目は二十代の若々しさを保っているが、声には何十年も生きてきた故の疲弊と凄み、そして途方もなく強烈な執念と情念を感じさせる。眼光は鋭く、そして冷徹に輝くも、泥やタールがうごめきへばりつくような黒き澱みに濁りきった瞳が、真っ直ぐに大聖杯を睨んでいる

 

「だが・・・。だが、だが、だが!『その願いを口に出す事が叶わない!』」

 

・・・──彼の名はダーニック。ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。外典なる世界において卓越した魔術と政治的手腕を発揮し、魔術師最高の位『冠位(といっても、魔術師の減衰から正しい意味ではないが)』へと至った魔術師であり、ユグドミレニア家の頭領でもある男だ

 

「おの、れ・・・まだ、抵抗するか・・・!」

 

彼はかつて、『八枚舌』とまで呼ばれ、信じるものは勿論信じぬ者すら利用し尽くす政治手腕を振るい、家督の地位を磐石のものとした。その勢いは破竹のものであり貴族の縁談すら持ちかけられる程であったが、とある魔術師の残した予言が破滅をもたらした。自分だけではない。ユグドミレニアの根幹全ての破滅をだ

 

『ユグドミレニアの血は濁っている。その血が保つのは精々五代。その後は零落していくのみであろう』

 

・・・人の噂は千里を走る。それを聞いた人々は一転しユグドミレニアを冷遇し貶めた。それにより、家柄や次代の継承や維持が困難となるほどに。彼には、それが許せなかったのだ

 

自分の破滅ならいい。だが次代の可能性や根源への道が閉ざされるのだけは我慢がならない、と。その馬鹿げた破滅の予言を、なんとしても覆す。彼はその執念と決意を以て、冬木より奇跡の産物たる大聖杯を強奪。聖杯大戦を開催し、そして──

 

「当たり前だ。本来は貴様が拝謁すら許される者ではない。いくら何十年と所有していたからと言ってな。所詮それは、貴様とは格が違う魔術師の御業。・・・もう良かろうて。ヴラド三世・・・『の、紛い物』」

 

【紛い物?】

 

「デビルマソみたいなものだ、リッカ」

 

あぁ、とリッカがジークに言われ納得する。・・・そう、彼はヴラド三世に寄生して生まれた『無銘の吸血鬼』。聖杯大戦にて、追い込まれた彼はヴラド三世・・・自らのサーヴァントに令呪をもって命令を下した

 

ヴラド三世が忌避し、例え死そうとも発動を固辞した、一般に流布され広まったイメージ、ドラキュラと化す宝具『鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)』の発動を強行。

 

重ねて、魂を食らう魔術を駆使し自分自身の存在と魂をサーヴァントに寄生させる『我が存在を魂に刻み付けろ』という強制

 

そして──悲願を叶えるまで死す事叶わず。『大聖杯を手にするまで生き続けろ』という、ヴラド三世の誇りと人格、尊厳を破壊し蹂躙し尽くす怪物としての生存。

 

「それが彼だ。ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。彼が唯一、大聖杯に王手をかけたマスターといっていい」

 

「・・・・・・はは、ははははは!人類史の澱みにして癌細胞、『汎人類史の王』のマスターにすがり、あのときの英雄たちを束ね!ここに現れたか!私から、人類から大聖杯を簒奪したホムンクルス!!」

 

憎しみと、苦難と、警戒と・・・それらを向けたダーニックがよろめく。・・・他人の魂に寄生する、あるいは力とする魔術は限りなき禁忌。共生、共存を可能とする強度を持つ魂を持つ者などサーヴァントですら極めて稀少だろう。異なる魂の完璧な共存の事例は、比類なき奇跡といっていい程に。ダーニック程の魔術師ですら、生前三回の魂の交換により肉体の適合率は六割を切っており、自分ではない自分に自分を乗っ取られかけていたのだ

 

「く、ぅ──自我が、薄れているが問題はない。再現は、完璧なのだから・・・」

 

「自分が壊れていくのに、叶えたい願いがあるのでござるか?狂おしい我執、いやはや天晴れでござるな」

 

「・・・貴様か、大聖杯の占有を阻んでいたホムンクルスは。何もせぬ代わりに、己を・・・フン、まあいい。貴様らには理解できんさ。英雄面したものには永遠に。貴様らの人格など、所詮は力に裏打ちされたもの。──私は努力した。死ぬほどな。死ぬほど魔術をし死ぬほど思考したとも!」

 

恐怖に震えながら寿命を伸ばし。聖杯戦争に身を投じ、軍を動かし、裏切りに手を染めて。──私は怠惰に溺れた三家とは違うと叫ぶ。私こそが。

 

「この大聖杯を誰より欲し!誰より望んだのは!この私だ!」

 

「それでも、貴方は既に死んでいる。今此処にいるのは残骸、残留した願望だ。ピッピ人形を投げつけて成仏させるゴーストと同じ存在だ」

 

無銘の吸血鬼となった彼はとある神父、『シロウ・コトミネ』により洗礼浄化にて倒された。本来ならサーヴァントは無色の魔力となり大聖杯に取り込まれる。しかし彼は赤子の魂を取り込み生き延びていたため・・・人間でも、サーヴァントでもない。聖杯を勝ち取るために動く生命体へと変貌を果たしたのだ。故に、此処にいるのは『砕け散った残骸を懸命に拾い集め、それが大聖堂のステンドグラスに戻る瞬間を待っている』といった存在でしかないのだ

 

「・・・もう良いでしょう。涅槃に横たわり、入滅を迎えなされ。輪廻の輪より外れてしまっては、いずれ来る悟りと救いに立ち合えませぬ」

 

「・・・それに。大聖杯は壊れかけだ。第三魔法どころか根源にすらたどり着けない。──もう、コンティニューはできないんだ。神のようには」

 

「いいやまだだ!先に告げただろう、大聖杯、基幹システムの8割は私が占拠している!貴様のようにただぼんやりと『来るはずのない迎え』を待ち!『見続け』るよりは余程有効に活用できる!」

 

「そうかもしれないな。だが・・・かつてのように今の俺には、その大聖杯を取り返さなくちゃいけない理由がある」

 

【有効に活用って・・・もう貴方は死んでるん、だよね?どうやって?】

 

「死んでいようが、生きていようが・・・私は大聖杯を求め、大聖杯を支配する・・・!それが叶えば本望だ・・・!」

 

それは最早怨霊と呼んでいい執念だった。何のために、誰のために、どんな願いであったかすら忘れひたすらに足掻く。その狂気は、此処で絶やさねばならない妄念の類いであるのだ

 

「これは貴様らにとっても有益な提案だ。私が大聖杯を支配する限り、貴様たちは死なず、消えない。第二の生ならぬ第三の生だ。この聖杯大戦が終われば、そこの人類悪に私が倒されれば。『貴様らも消滅する』」

 

再現されたサーヴァント達。自意識が芽生えた時点で『生』を獲得したサーヴァント達。それらが──消える。ダーニックを倒すことによって。再現された駒である以上、覆らぬ道理として

 

「選べ。管理者として相応しいのはどちらかを。いや、単刀直入に訪ねよう。第三の生を望むか、其処の人類悪に呑み込まれるか!約束しよう。『黄金千界樹(ユグドミレニア)』の名に誓おう。必ずこの大聖杯から抜け出し、貴様らを受肉させると。後は勝手にすればいい。願いを叶えればいい、気儘に放浪するがいい。サーヴァントとして従わせる気もない。関与する気は無いのだから」

 

提示された、ユグドミレニアからの条件。それにジークは答えない。保有した人格がある以上、それは生命体だ。管理者として・・・死ね、とは言えないのだろう

 

放り投げられた生と死の選択。その返答は──

 

 




リッカ【──】

当然の様に、リッカは一歩を踏み出した。静かに戦いの体勢を取り、意思を示したのだ

ダーニック「・・・全てを終わらせると言うのか、人類悪。この世界を、サーヴァント達を。第三の生を打ち砕くというのか?」

リッカ【勿論。誰もが目を背けたくなるような選択を選ぶために私がいて、誰もがやりたくない・・・『でも、やらなきゃいけない』事をするために生きている。だから私は楽園のマスターとして、ギルのマスターとして彼処にいる】

世界を救うと決めた時点で、どんな選択からも逃げない。どれだけ犠牲を出そうとも、例え世界を滅ぼそうとも。『必ず、皆が生きる世界を救ってみせる』──生きるために、誰かを蹴落とす悪から目を背けない。ずっと背負って、自分と大切な人が生きる未来を掴んでみせる

【私は、人類悪(わたし)である事から逃げない。──皆、恨むなら、私だけを。『全てを終わらせて、死んでくれる?』】

誰かが下さなければならない決断を、誰かが悩み苦しむ前に自分が下す。例えそれが、仲間を殺すことでも。──だけど

【その代わりに・・・──【殺した】皆の事、絶対忘れないから】

決意を込めて、ダーニックに【村正】を向けるリッカ。・・・──だが

「・・・お前があのメチャクチャな王様のマスターなの、納得がいったぜ」

過去を生きた英雄は、その決意を決して攻めはしなかった。

「ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。悪いが断る」

「ほう、何故だ」

「簡単だ。テメェに従うのは英雄らしくねぇからだよ。人生は駆け抜けるもの。途中で転ぼうが駆けた事に変わりはねぇ。再現体、サーヴァント。関係ねぇ。俺が俺である限り、英雄らしからぬ真似は御免だ」

モードレッド「・・・ケッ。こんなニンジンみてぇな奴と気が合うとはな」

アキレウス「ニンジン!?」

モードレッド「ま、そっちにはつかねぇ。流石にやり口が気持ち悪い」

セミラミス「・・・藤丸リッカと言ったな?先の返答、実に愉快だった。枯れ果てた大樹と女帝の気質溢れる龍ならば、どちらに付くかなど問うも愚かであろう」

リッカ【女帝!?】

ジークフリート「あぁ。我等がマスターに命を背負わせる真似はしない。我等の末路は、我等が選ぶ。今を生きる者の悪路を、少しでも拓く為に捧げよう」

カルナ「死ねと乞われた。ならばそうしよう。──ただし、やるべき事があり懸命に生きる者に命を捧げると言う意味だが」

「同じく。楽園には彼女をマスターとして認めた僕がいるという。彼が作るであろうアダムを彼女が見るまで、殺させるわけにはいかない」

アタランテ「アルテミス様の寵愛を受けしマスターに従うは当然。あの神罰は神託と受け取った。かのマスターこそ、アルテミス様の名代であると」

リッカ(絶対違う!絶対違うよ!)

アストルフォ「しっびれたぁ!すっごくかっこよかったよリッカちゃん!英雄として、応援するならこっち側!」

「アストルフォ・・・!」

シェイクスピア「『人の価値を知るには、その末路を見るべきである』とあります。吾輩、そちらにつくのは御免ですな!吾輩が闇落ちしたところで引用が減るだけでしょう!」

すごく嬉しい。

「ゥ(ふるふる)・・・リッカに、つく」

リッカ「フランちゃん!!」

スパルタクス「王へ続く道の礎となるべし」

ジャック「ん、やだな。だってあなた、わたしたちをなでなでしたりぎゅーってしてくれないもん。わたしたち、おかあさんは大切にしてくれるもん。だから、おかあさんのためにしぬよ!愛してくれたって、笑いながらしぬよ!」

リッカ「ジャックちゃあぁあぁん!!」

シッダールタ「ケイローン殿、如何に?」

ケイローン「愚問ですね。あなたと一緒ですよ。・・・我等が懐く無二の『矜持』。それを裏切る訳にはいかないのです」

ダーニック「・・・・・・まぁ、そうなるだろうとは思っていた。ならば──『そちらがそう願うまで戦い続けるだけだ!』大聖杯接続。発動──『鮮血の伝承』──!」

ダーニックの身体が、かつてのように変化する。無銘の吸血鬼へと、そして──

シッダールタ「おや、ジーク殿。下界に変化が。・・・『死徒』なる存在が大量発生しておられますな」

ジーク「何・・・!?」

下界を埋め尽くす吸血鬼。そう、大聖杯にて再現されたこの世の地獄。『死都』の顕現が、大聖杯にて果たされたのである──!


下界

ギルガメッシュ「予想通りの選択を選んだか。再現されただけとはいえ、英雄の矜持は本物であったというだけの事よな。さて──」

真紅の空に、蠢く無数の吸血鬼。決戦の舞台にて、黄金の王は──

「──我等のみの蹂躙も飽きた。ならば此方も、貴様らのルールに則り蹴散らしてくれよう!」

──高らかに、指を鳴らした。

「さぁ来るがいい!蹂躙の時だ!今こそ集え、我等と肩を並べるに相応しき真の英霊!金の陣営よ──!!!

どのキャラのイラストを見たい?

  • コンラ
  • 桃太郎(髀)
  • 温羅(異聞帯)
  • 坂上田村麻呂
  • オーディン
  • アマノザコ
  • ビリィ・ヘリント
  • ルゥ・アンセス
  • アイリーン・アドラー
  • 崇徳上皇(和御魂)
  • 平将門公
  • シモ・ヘイヘ
  • ロジェロ
  • パパポポ
  • リリス(汎人類史)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。