人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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・・・──総ての人間はブラフマーの転生であり、総ての人類は同一の個人である。

この思想に立った場合、人間は、全人類は必ず成仏する。何故なら、総ての人間は究極的には、覚者に転生するが故に。

あらゆる衆生の苦しみを救う。それ即ち──


──人間はみんな私になるのだ輪廻転生──


活路

『ォオォオォオォオ!!大聖杯はァ、私のぉ、ものだぁあぁあぁ!!』

 

無銘の吸血鬼・・・ひたすらに繁栄と増殖を願ったもの。ダーニックであったものでありヴラド三世であったもの。形と心すら不定形なそれが、庭園に無数の杭を突き立てながら暴れ狂う。その執念と意志を宿らせた攻撃は、集いしサーヴァントらを存分に苦戦させ翻弄し、そして押し潰さんと猛り狂っていた

 

【アキレウス、気を付けて!吸血行為は吸血鬼にとってフレンド作りの一環だから、貴方の不死性を貫いてくるよ!】

 

「マジかよ・・・!チッ、ただの一発も当たったら仲間入りって事か、ゾッとしねぇなァ!」

 

指示を受けながら、サーヴァント達が奮戦する。アタランテ、ケイローン、そしてキャスターの援護を受けながら、三騎士の全員が怒濤の猛攻を叩き込んでいく。モードレッドは雷を、ジークフリートは黄昏の斬撃の連射を、カルナは猛炎を。その怪物を滅却せんと反撃を掻い潜りながらアキレウスは突撃を何度も繰り返し怪物を叩き伏せていく

 

「やーい!こっちだこっちー!」

 

「ウゥウァアァアァア!!!」

 

「おぉ蠢く圧制者よ!!我が愛にて解放されるが良し!!」

 

アストルフォが撹乱し、ひたすらに突撃するスパ、フランを援護する。庭園の防備を総て迎撃に回し、セミラミスも攻撃に加わる波状攻撃。シェイクスピアも即興で物語を書き上げ、エンチャント効果を発揮させんと奮闘している。だが・・・

 

『私の、私の、私の!大聖杯・・・!我が悲願、我が一族の繁栄と支配を・・・!ォオォオォオ・・・!!!』

 

しかし、その攻撃を余さず身体に打ち込まれても無銘の怪物は怯みすらしない。身体を霧に変え、猛犬に変え、蝙蝠に霧散させ回避と反撃を行い、その強烈な魔力を杭に生成して貫かんと差し向けてくる。彼の強さ、知名度は世界的に有名な『ドラキュラ』という存在に依存する。世界に流布された、ヴラド三世にとって屈辱と無知の風評の具現が、ダーニックである怪物に力を与えているのは皮肉と言う他ない。

 

『大聖杯、我が一族の悲願・・・!無限に生き、血族を増やし!我が子を!我が同胞を!増やし、増やし、増やし、増やし次代に続く才能努力環境を!私の後に続く者の為に、増やさねばならないのだァア・・・!!』

 

ダーニックの執念、吸血鬼の本能が混じりあった怪物を再現したことにより、其処に意志はない。ただ本能のまま、執念のままに暴れ狂うのみ。これに楔を打ち込むべき意志たる英雄は、彼により念入りに封殺されているが故に

 

「おかあさん、普通じゃないよ!この強さ、絶対に何かが在ると思う!わたしたち全員で傷もつかないなんて、ずるいもん!」

 

【・・・もしかして、おじさまの『護国の鬼将』スキルまで無理矢理併用してる・・・!?】

 

ヴラド三世の持つスキル、『護国の鬼将』。土地の霊脈を確保することにより、その地一帯を自らの領土とする守護と反抗に特化したヴラドの所持スキルを発動できたのだとしたら。この通常より遥かに強力な状態の説明がつく。再現された死都、そして掌握された大聖杯。吸血鬼の栄華を謳うに、十分すぎる条件が整っていると言わざるを得ない

 

「となると、大聖杯を掌握されている限りあの強化は剥がれないと言うことですか・・・」

 

「俺がせめて4割さえ取り戻せれば、あのスキルを剥がせるのだろうか。少なくとも今のままでは無尽蔵の強靭さを持つ吸血鬼に押し込まれるやも・・・──」

 

「二人とも、油断めされるな」

 

思案していたケイローン・・・否、管理者たるジークに手を伸ばしてきた吸血鬼を、5メートルはある巨体をカラリパヤットの組技にて放り投げるシッダールタ。彼はただ防性に回り、要たるジークとリッカを護っていた。そうすることが役目と言うように。

 

「全員で宝具ブチ込みゃ死ぬんじゃねぇかな!」

 

「たわけ、再生されるが関の山よ。我が庭園が崩壊し、地上にヤツが降りれば更に状況は悪化する。無数の下僕に囲まれたヤツに攻撃が届かなくなろう」

 

「全力で放った反動は必ず来る。その隙に再び誰かがヤツの支配下におかれれば戦線は瓦解するだろう。我ら全員で拮抗しているのならば、導かれる結果は明白だ」

 

カルナ、セミラミスの言う通り今は窮地でありチャンスでもある。彼と言う存在『だけ』に全力を注ぎ込める今こそが好機なのだ。辺りに邪魔が入り、或いは無限に精製されては討伐どころでは無いのだから

 

『ァアァアァア!!!』

「ははははははは!!我が愛は!爆発するッ───!!!!」

 

ダメージの溜まりに溜まったスパルタクス、一度目の爆発。ダメージを魔力に変換した反逆の一撃にて、半身が消し飛ぶ吸血鬼。すかさず治癒を行いスパルタクスを呼び戻す。──が、そのスパルタクスの治癒よりも、吸血鬼の半身が癒える方が早いのだ。

 

「これはまさに尽きぬ圧制!自由と尊厳を奪いし卑劣なる勧誘!おぉ圧制者よ、愛知らぬ吸血鬼よ!我が愛にて鎮まるがいい!ファイト!!!」

 

「スパルタクス殿の広範囲爆発でもダメとは!しかも治るとは!絶望の拮抗、そして活路見えぬ攻防!強制されし戦力の浪費!・・・んー、これ負けませんフツーに?」

 

「負けを口にするな!狩りであろうと戦いであろうと屈した者が先に果てるのだ!カリュドーン、吼えろ!薄汚い怪物に我等が劣ってはアルテミス様に申し訳が立たん!」

 

シェイクスピアの言葉を掻き消し、アタランテが突撃する。無数の杭の直撃を掻い潜り、爪にて引き裂いていくも最早焼け石に水。回復する方が圧倒的に早いのだ

 

「これは戦術や戦略ではなく必須条件だろう。かの吸血鬼の聖杯占有率を下げなくては此方に勝ち目はない。何とかして彼の領土スキルを無力化せねばならないと僕は思う」

 

アヴィケブロンもゴーレムを作り奮戦してはいるが、片端から杭と相殺され数の利が活かせられないのだ。押し留めるだけで精一杯、更に一撃も攻撃を受けてはならないという神業を要求される戦況は、リッカ達から魔力や集中力を存分に奪っていく。

 

【──こうなったら、再生を上回る全力でぶっ飛ばすしか無い・・・!後先考えず全力で・・・!!】

 

聖杯を奪い返す手段しかない以上、それが唯一の対抗手段だ。防がれれば、チリ一つ残ればこちらの敗北が決まるが、最早それしか打つ手はない

 

【皆!覚悟を決めて!ここで一気に──、!?】

 

右手を掲げ、号令を掛けんとしたリッカを・・・そっと何者かが制する。そっと手に、手を重ねたのだ

 

「それしかない、一か八か・・・それは楽園の取る戦法ではござらぬではないか、リッカ殿」

 

「シッダールタくん・・・!?」

 

「そうですな、破れかぶれと言うなら・・・いっそ私に懸けてみてはくれませぬか?『逆に、私を護ってくだされ』。さすれば・・・そうですな。一人くらいは救えるでしょうかな」

 

シッダールタは窮地とは思えない程に静かで、穏やかで、優しげだった。死地や破滅に身を委ねる者を説き伏せるように、死の恐怖など、意に介していないように

 

「シッダールタ。・・・やるのか?」

 

「なぁに、ちょっと瞑想した後に特技をするだけにござる。自己犠牲ならぬ自己啓発でござるよ。・・・どうですかな、リッカ殿。私を信じてはもらえぬでしょうか?」

 

【・・・──】

 

シッダールタの瞳は澄み切っていた。恐れも迷いも、苦難もないあらゆる苦しみから解き放たれた優しい笑み。・・・不思議なことに、この笑みを自分は知っているような気がして。心に消えぬまま、在るような気がして─!

 

【──任せた!シッダールタくん!貴方を信じる!いいよね、ジーク!】

 

「あぁ。モーマンタイだ!頼むぞ、シッダールタ!全人類は、みんな君だ!」

 

「任された。ではちょっと世の中を憂い瞑想するので護ってくだされば・・・──リッカ殿!」

 

【!!】

 

瞬間、猛進してきた吸血鬼。サーヴァントとしての楔と弱点。マスターを排除せんと突撃してきたのだ。その力の全てを込めて、肉体を自爆させサーヴァント達を吹き飛ばし、再生させながら牙を剥き出しにして

 

「おかあさん!にげて──!」

 

『貴様が、人類が此処にいなければ私はァアァアァア!!』

 

【──!!】

 

リッカが吸血されれば、最悪の吸血鬼が誕生する事となる。そうなるくらいなら自分が成り果てた方が望みがあると、ジークがリッカの前に立ち庇い、同時にリッカも雷位の奥義を開帳せんと刀を引き抜く。全ては刹那の一瞬の交錯。華が散る間の出来事

 

「────・・・」

 

禅を組み、瞑想に至り目を閉じるシッダールタの瞼が降りきる瞬間に──

 

・・・──転機は、訪れた。




吸血鬼『ガアァアァッ!?な、に────!?』

噛みつかんとしていた吸血鬼が、逆に吹き飛ばされ大きく仰け反った。リッカが、ジークが予想していなかった反応に、一同は硬直する。

ジーク「なっ──」

リッカ【へ──?】

「──大丈夫ですか?リッカ」

・・・──その瞬間、ジークの思考は停止した。忘れもしない、忘れることはできない。いつか再び、その声を聞くために長い長い時を待っていた。

自分を導き、そしてあらゆる全てをくれた、自らの運命。その声音は、まさしく。しかし何故、此処に──

「・・・ジャンヌ・・・?」

呆然と呟いたジーク。そうとしか有り得ない、聞き間違える筈がない親愛と信頼に満ちた聖女の声。・・・──だが

「──ハァ?何うっとりしながら私の名前呼んでるんです?キモいです。解釈違いよ死んでくれる?あぁもう、リッカのついでに助けてるじゃない!なにやってんの私!」

ジーク「え」

そう──彼女は、ジークの運命ではない。傍らに在る、龍たる少女に総てを捧げ、託し、その業火と想いを掲げるもの

「まぁ良いです。・・・無事で良かった、リッカ。では改めて、名乗りましょうか。私はジャ」

リッカ【じゃんぬぅうぅうぅ!!ほぁっ、じゃんぬ!!じゃんぬ!!ほわぁあぁあぁあぁ!!】

じゃんぬ「わわわ待って!待ってリッカ!今名乗ろうとしてるの、カッコよく決める場所なの!抱き付いてもいいけどもう少し後で・・・!ま、まぁとりあえず!じゃんぬな!!オルタよ!!言っておくけど!」

コントの後、鍛えに鍛え上げられた業火の焔が吸血鬼を焼き尽くす。その焔は、トップサーヴァントにすら匹敵する猛烈な業火であった

「──あそこにいるヤツと似ているとかいったら、焼いて殺すから。リッカのベストサーヴァントよ、ヨロシク!」

ジーク「あそこに・・・──?」

クイ、と首をやった其処に在りしは、修復が完了し浮遊するヴィマーナ、そして──

ジーク「────」

ジャンヌ「──ルーラー、ジャンヌ・ダルクの名の下に、御機嫌王とその財たるサーヴァントに祝福を」

白き衣装に身を包み、凛とした表情にて艦首に立ち。高らかに、『らくえんのみなちん』フラッグを掲げし彼女こそ──

「各自一クラスにサーヴァントは二騎から三騎!今こそ!ルールとかを踏み潰して進軍しましょう!迷うことはありません、私と王が裁定者(ルール)です!!

ジーク「ジャン、ヌ・・・?」

なんか変な号令と共に、『無数に展開されるサーヴァント達』。死都の吸血鬼は蹴散らされ、そして──

ソロモン『やぁ、リッカ君!助けに来たよ!あ、聖杯の支配率が不味いんだっけ?任せてほしい、四割くらい奪い取るとしよう!』

吸血鬼『グァアァアァア──!?!?』

リッカ【え!?ロマン──!?ぇえぇ!?】

介入が果たされた瞬間──勝利への道が、ゴージャスに舗装される──!!

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