人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ロマン「ギルが倒れてるし、楽園の皆はフリーだってさ。オルガマリー、報告書を纏めておいたから読んでくれるかい?」

オルガマリー「えぇ、解ったわ。・・・スゴいわね、本当に」

ロマン「えぇ、かつての友がまた再会!アニメみたいな展開だけどアニメじゃない!いやぁリッカ君波乱だなぁ・・・」

オルガマリー「・・・友達、かぁ」

「?どうかしましたか?」

「いえ、ちょっと思い出していただけ。・・・昔の、彼等の事をね──」


懐古の蜘蛛と狼の奮闘~ロシア皇女がこんなに自由な筈がない~
成すべき事を、成す為に


「本当ならもう二度と会えない筈だった友達との再会・・・良かったわね、リッカ。あなたの頑張りを、文字通り御天道様は見ていてくれたのね」

 

提出された報告書、リッカの夢にて体験した一連の騒動のあらましを拝見し、オルガマリーは静かに呟く。ブラックチョコや珈琲も甘くなるような、奇跡と呼ぶに相応しき戦いと出逢いが確かに此処にあったのだと認識するほど、カルデアに持ち帰られた戦果と出逢いは鮮烈であり微笑ましくあり、同時に凄まじいものであったが故に。こうしてわざわざ報告書を提出して貰ったのだ。ロマンも協力した世界の裏側での戦い、その果てに巡りあったリッカの親友、セイヴァーにしてリーダー、疑似サーヴァントであるグドーシの存在。そして、大聖杯というかつての父が追い求めたものすらも、この楽園に運びこまれたのである。

 

「今にして思えば、リッカがギルを召喚できたのは当然にして妥当だったのかも知れないわね。友との出逢い、価値観の変革、そして別離・・・境遇の差はあれ、とても似ているもの」

 

エルキドゥと出逢い、孤高の暴君であったギルガメッシュは無二の価値たる友を手に入れ、人類悪顕現寸前であったリッカは、グドーシの導きと救いによりこの楽園に招かれた。共に永遠の別離を経験した上で自分の道を選び、見つけ、そして進んだ。その人生の一幕はあまりにも似ていて、類似性がある。まさに運命といっていいのかも知れない。

 

「・・・魔術師では、どう足掻いても体験できない。紡げない縁ね」

 

魔術師というものは総てを探求に捧げるもの。骨の髄まで教えを体現する魔術師の倫理と思考は一般の人間とは大いに異なると言っていい。魔術師にとって、有用であるかどうか。自らの命題や研鑽に役立つかどうかが全てであり其処に情など存在しない。術式、あるいは家系、根源への道へと必要ならば、速やかに犠牲にすることを躊躇わないだろう。心など痛む筈がない。魔術師にとっては情や心の機微にて最適な行動を取れない事こそが愚かであり、異端であるのだから

 

「・・・私も少し前まではそうだったのね。ゾッとしないわ」

 

今の自分は、リッカやマシュ・・・楽園のお陰でまともな、一般的な論理や思考を取り戻すことが出来ている。二人は友達、親友だと信じている。害意や理不尽な目に彼女らが遭わされたなら、断固として異を唱え理不尽に抗う覚悟と決意は出来ている。アキレウスの教えや、生きざまも大いに自分の性根を叩き直してくれた。むしろ、モリアーティや数多の策略を得意とするもの達に教えを乞いながら、致命的な部分で歪まなかったのは彼女と彼の真っ直ぐさ、英雄としての矜持が大きい。

 

・・・だけど、それでも。自分が友と呼ぶ資格が無い者達は確かにいる。魔術師として自由意思を奪い、術をかけ放逐した者達を自分は知っている。その彼等を、自分は人間的な関係を築くことはしてはならないと割り切っている。覚悟の上でそうしたのだ

 

「キリシュタリア、それにAチームの皆。・・・私とあなたたちは、友達なんて暖かい関係では無いものね」

 

ヒナコ、ぐっさんは論外として・・・治療し送り返した世界を救う筈だった六人。マリスビリーが集め、カルデアが選抜した六人。認識を改変させ、楽園より送り出した六人の、かつてのチーム達。

 

本来なら、こんな風に想いを巡らせる必要はない。彼等は世界を救う為に集められた者であり、カルデアのスタッフでしかなかった。自分も彼等にとっては無能な所長でしか無かっただろう。近くにいて、遠かったスタンドプレーが得意なエースチーム。それがAチームなのだから

 

「・・・・・・」

 

でも、もし。もし、自分がリッカや皆に変えてもらった自分で、レフに依存しきっていなかった自分なら。王を補佐するために全力を尽くす自分であったなら。もし、自分が今の自分で、彼等と向き合う事が出来たなら、リッカみたいに出来たなら

 

「・・・きっと、友達・・・くらいに、自分は思えていたかしら。リッカやマシュのように」

 

今でもマシュと交流が行われているオフェリア、そして楽園を頼りにし、参加することを決意したぐっちゃん。閻魔亭にてスッキリした顔持ちになったカドック、そして自分より遥かに偉大で君主に相応しい逸材だったキリシュタリア、ムードメーカーであったペペロンチーノ。・・・デイビッド、ベリルはよく分からなかったけれど・・・

 

「もしかしたら、リッカやあなたたちが力を合わせて戦うなんて未来もあったのかも知れないのね。・・・現実は、そうはならなかったんだけれど」

 

自分は死に、Aチームは壊滅し、人類悪であった存在であった者が世界を救った。波瀾万丈な運命のうねりで、倒されるものと救うものが大いに変化した。・・・その結果に、今の旅路に後悔や不安は微塵も無いけれど。けれども、夢想し、思い描くのはどうしても止められなかった。人間らしさに目覚めれば目覚める程、その未来があったら、自分がもっと上手く出来たなら、と。あの二人の再会を見て、思う頻度が少しだけ増えたのだ

 

「・・・詮無き事よね」

 

自分が下した責任はどうあれ、彼等の排斥であり楽園の秘匿、カルデアの守護を決断したのだ。リッカを選び、マシュを選び、Aチームを切り捨てた。認識を改変し、カルデアより送り出した。・・・その判断に後悔はない。今更彼等にすり寄る事は、彼等にとっても侮辱だろう

 

「私は所長として、彼等を切り捨てた魔術師。悪として糾弾されるべき非人間なのだから」

 

『あら、そうかしら? 私はそうは思わないわ、オルガマリー』

 

アイリーン、相棒にして半身たる英霊が静かに語りかける。彼女の思考を、客観的に判断し思考して、観察した後に所感を告げる

 

『本当に悪い人は悩まないわ。筋金入りの悪は自分を悪だと言ったりしないのよ。だってそれが当たり前なのだから。自分を悪い人と思える人は、善い部分がちゃんとある人なのよ。ジェームズはそんな貴女だから、とっても可愛がっているのだと思うもの』

 

「アイリーン・・・」

 

『悩み、後悔は心に刺さるトゲ。抜かないと痛くて苦しいわ。・・・オルガマリー、あなたがしたいことは諦める事では無いんじゃないかしら?』

 

・・・どうやら、お見通しらしい。そうだ、自分が諦めては本当に其処で終わりだ。リッカはAチームの事は知らないし、マシュは彼等を思いやるには無垢すぎた。もし彼等とリッカの旅路を、少しでも交わらせる事が出来るとしたら・・・

 

「・・・そうよね。オフェリアもいるし、カドックもきっと。ぐっちゃんも来てくれたのだもの。『証明』さえ出来れば、きっと」

 

『えぇ、そうよ。世界を救う大役はもうリッカちゃんのものだけど。『隣人』になるくらいの事は許されるのではないかしら?』

 

・・・もし自分が動かなくては、彼等がいつかリッカらの敵になるかもしれない。それは自らのミスや失態と考えるにはあまりにも迂闊で大きすぎる。『最善』ではあったが『最適』では無かった自分の決断と、向き合う事が出来るのは・・・

 

「きっと、私だけよね」

 

楽園の人々はもう、自分がなんとかする必要はない。自分が成すべき事は、きっと・・・

 

「・・・優秀なマスターを遊ばせているなんて落ち度を、見逃すのが間違いというものよね、アイリーン?」

 

『そうそう。ジェームズにまた知恵を借りましょう?あの人、騒動や混乱を起こす手段が沢山だもの』

 

世界はギルに、リッカに救われた。──だが、彼等にだってきっと出来るはずだ。その証明を、少しずつでもしてみせるのだ。

 

「──一人でも多く、楽園のマスターとして、もう一度・・・」

 

身勝手で、自分勝手でも。これは自分にしか出来ない事だ。『完全無欠』を謳うのならば・・・

 

見て見ぬふりは、きっと出来ないのだから。

 

 

 




ラィン♪

オルガマリー(ビクッ)

デイビッド『何となく気になった為に連絡した。元気か?』

「デイビッド・・・」

『もし、何か知恵を借りたいのならば妙蓮寺を頼るといい。人生経験が豊富だ、きっとアドバイスしてくれるだろう』

「・・・」

オルガマリー『・・・私を恨んでいるかしら?カルデアから、送り返した事を』

「・・・」

ラィン♪

デイビッド『英断だ。お前は俺達の生命を救った』

「!」

『お前なら上手くやるだろう。自信を持て。所感だが、それが唯一お前に足りないものだった』

「・・・ペペロンチーノがお熱な理由が解ったわ。カッコいいもの・・・」

(・・・そうね。私もやれることは、あるはずよね)



キリシュタリア「おや、珍しい」

オルガマリー『お茶でもしないかしら、キリシュタリア。近況報告も兼ねて』

『望むところだ。よい茶葉を用意しておくよ』



ペペロンチーノ『あら嬉しいわ!連絡してくれたのねオルガマリーちゃん!・・・いい女になったのね?』

「通話越しに解るものなのかしら・・・」

『分かるわよぉ。声の艶とか全然違うもの!珍しいわね、どうかした?』

「・・・実はですね、女子会を開きたいのですが・・・」

『まぁ──!オフェリアにも連絡していいかしら!?』



カドック「・・・」

『近々証明してもらいます』

「・・・何をだよ、オルガマリー・・・」



モリアーティ「ベリル・ガットだけは止めておくといい。百害あって一理も無さそうだしネ。さて、カドック君におあつらえ向きな難題、かぁ・・・」

「何かありますか?」

「・・・あるヨ、一つ。私の『計算違い』の一件が彼には丁度いいスケールじゃないかナー・・・」

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