人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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人には誰しも、未練がある。

だが、未練を無かった事にするのも問題だ。未練は次の時代の軛となり、また託されるものとなる

だが、今回未練に挑むのはちょっと違う

万全と安心の楽園のマスター、マイガールではない、かつてのマスター・・・候補だった彼だ

護身はできるが快進撃は出来ない。完全無欠の結末には遠い、君達にも馴染みがある凡庸さを持つマスターであり、楽園にはいない人材である

さて、彼はどう立ち向かって行くのか。一番近くで見守らせてもらうとしよう

そう!一番近くでネ!


バーテンダー見習いカドック君の奮闘~馴れ初め~

「起きなさい。目覚めなさいカドック。起きないのならその灰色の服を剥ぎ取って貴方を店の飾りにするのも止む無しなのだけれど」

 

「っ、ぅ・・・え、あ・・・?うわっ!?」

 

小銭を握り殴られしカドック。夢と現、生死の境をゆっくりとさ迷っていた彼を強引に引き寄せしアナスタシアの言葉。カドックはそれに導かれ意識を覚醒させる。辺りを見回してみると先の喫茶店では無く・・・薄暗く青白いインテリアにて立ち揃えられた・・・

 

「・・・バー、カウンター?」

 

「グッモーニン!!カドックくん!日本語で御早う!!」

 

「うるさっ!?」

 

その突然における喧しすぎる声に敏感に反応し反射的に声をあげる。ダンディげな声ではあるがおどけてふざけた調子にて威厳はない。誰だよもうと視線を送ると、それを遮る声がまた店内に響く

 

「ジェームズ、大声を出すと彼が驚くでしょう。腰にも店にも響く無茶はなさらないでくださる?」

 

「いやアイリーン、申し訳無い!いやいやまた出番だと思うと逸る心が抑えきれないのだヨ、いや本当。美男美女のバーを構えるのはアラフィフの夢、だからネ?」

 

モリアーティをすがめるその声に、カドックは覚えがあった。スタイリッシュかつ整った、格式高いオレンジと白のバーテンダー服に身を包む女性。──見た目と、名前に心当たりがある。それは・・・まさしく

 

「オルガマリー!?君は此処で何を・・・!?」

 

「あら、私はアイリーンよゼムルプス。初対面だと思うのだけれど、何処かでお逢いしたかしら?」

 

「な、なんだって!?何を言ってるんだ、君はオルガマリーじゃないのか・・・!?」

 

「ごめんなさい、アイリーン。彼は現実を受け入れないと心にもないことを言って逃避する悪癖があるの。これからの修行とレッスンで存分に叩き直すから待っていて。そして今は床を身体で拭く勉強中だったのよ」

 

「だれがそんな勉強をするか!というかなんだこの状況・・・!バーか、バーだよなここ・・・!何故僕は此処にいる!?何をする気なんだ、僕をどうする気だ!?」

 

状況を把握できず困惑と混乱のままに叫ぶカドック。まぁこれが普通の反応なんだろう。人間、平凡らしいリアクションと言える。

 

「マスターなら二秒で状況を受け入れるというのに。そこも課題ね、カドック。その生えきった心臓の毛を全て引っこ抜くから覚悟しておきなさい」

 

「君もなんでそんなすんなりなんだ!拉致か、また拉致なのか!?もう少し優しく扱ってくれないか!?」

 

「───(ウキウキ)」

 

「『どうやって弄ろうかな』なんて心を踊らせるのは止めなさい、ジェームズ。・・・そうね、最低限の説明はしないと不十分よね。それではレクチャーと行きましょうか」

 

パチン、と指を鳴らすアイリーンに、ジェームズと名乗る初老の男が慣れた手つきでカクテルを用意する。その熟練の動きは、まさしくプロにしてベテランの妙技である。カドックも息を飲む最中、アイリーンと名乗る少女が言葉を告げる

 

「ここはバー『ライヘンバッハ』。私達がいるのはヨーロッパのとある街に居を構えし屋敷、年代は19世紀後半。新聞は無いので具体的な日付は分からない。私達はこの屋敷で雇われている使用人、バーテンダーといった所ね。理解しましたか?」

 

「何故此処に僕がいるのか、という疑問以外は解ったよ・・・アナスタシア、もしかして君も・・・」

 

「ラーメン一つ」

 

(僕にはもう興味すら示していない・・・!)

 

「解らないだろう、混乱しているだろう。何故なら私達もそうなのだから。俗に言うレイシフト迷子、というヤツかな?ゾッとしないねェ」

 

レイシフト。その言葉に反応するカドック。忘れもしない、発生した特異点を解決する手段、マスターとして、適性のあった自分の為すべき・・・

 

「通信も支援もない、完全に孤立無援。私達に丸投げされたこの状況・・・でも安心、・・・安心?していいわ。其処のマスター、ジェームズは知っているの。この世界と、この時代を」

 

「・・・じゃあなんだ、あんたは現地のサーヴァントなのか。あんたみたいな初老のおじさんも英霊だっ、いったぁっ!?」

 

「【初対面の相手に無礼を図る】。マスターポイント-1よ。駄目ね、カドック」

 

「容赦のないミドルキックを人形がかましてきた、だって・・・!?何故だ!?」

 

「こちらはヴィイよ。可愛いでしょう?貴方を罰する教官よ、コマンダー・ヴィイと呼びなさい」

 

「いや可愛いかどうかなんて聞いてない・・・!僕は何故呼ばれた!?何をすればいいんだ!?」

 

「ホワイダニット・・・そうね、ライネスがよく言っていたわね・・・。まぁやることは色々あるけれど、あなたがやるべき事はただ一つよ、ゼムルプス」

 

ヴィイにお尻をしばかれるカドックに、ラーメンの替え玉を頼むアナスタシア。シャカシャカとなんかバーによくあるアレを振ってるジェームズ。アイリーンはワイン(ノンアルコール)を飲みながら、カドックに告げる

 

「研鑽、キャリアと実力を磨いてもらうわ。しばらくバーテンダー、そしてこのバーのロックシンガーとして歌唱とカクテル作りに勤しんでもらいます」

 

「なんだそのアルバイト業務・・・!?世界を救うんじゃ無かったのか!?世界を救うのと歌を歌うのとカクテル作りになんの関係がある・・・!?」

 

「質問が盛んで宜しいわね、カドック。まずあなたには『常識』を投げ捨ててもらう事よ」

 

 

「常識だって・・・!?」

 

「『できるわけない』『ありえない』『そんな筈がない』。まずは否定から入る常識、性根、性格を徹底的に矯正するわ。例え目の前に城とピラミッドが合体した建造物があっても南極に神殿があってもノブノブ喋る謎の存在がいても受け入れられるようになりなさい」

 

「どういう状況だそれは!?そんなこと有り得、いったぁっ!?」

 

「世界を救うのでしょう?その為に頑張るのでしょう?証明したいのでしょう?──全て私を騙す嘘なのかしら?」

 

嘘。それを聞いてスパンキングされた尻と太股の痛みすら感じなくなる程に、カドックの目に炎が灯る

 

「──舐めるなよ、アナスタシア。この気持ちだけには嘘なんか・・・!」

 

世界を救える。きっとやれる。そう信じ、そう感じて曲がりなりにもやってきた。自分は凡人も凡人の存在だが、それだけは、自分やその気持ちにだけは──

 

「そう、それは素晴らしいわね。多弁で雄弁なお口の次は、手足を動かす事から始めたらどうかしら」

 

「嘘じゃな、え?うわっ!?」

 

アナスタシアに渡されるモップにバケツ。決意を示したカドックに任されしミッション、それは誰にもできて、とても大切なもの

 

 

「掃除から始めなさい。使用人はそれが出来て初めて一人前。世界を救うのなら汚れくらいは倒せなくては示しがつかないと言うものよ」

 

「~~っ・・・」

 

「あら?世界を救うというのに掃除も出来ないのかしら?やはり口だけの弱虫カドッ・・・」

 

「あぁもう!その可愛い見た目を態度に反映できないのか!わかったやるよ、やってやるよ!やればいいんだろ!世界を救ったマスターに、掃除だけはお前より上だとマウント取ってやる!」

 

「──ふふっ、その意気よ。誰にでも夢を見、星に手を伸ばす自由はあるわ。頑張りなさい、食後の運動がてら、私も手伝ってあげるわ」

 

「いらないよ!汚れるから見てるだけでいい!」

 

バケツとモップをやけくそ気味に担ぎ立ち上がるカドック、それを楽しげにからかい、寄り添うアナスタシア。此処に、カドック、アナスタシアの新人バー研修が幕を開ける

 

(いいわ、カドック。育ちなさい。楽園に足りない要素に因子、存分に磨くのよ)

 

そう、アイリーンとジェームズは彼に期待している。彼が持つ、状況対処にして判断の発露・・・

 

「見なさい、あのシミ。顔に見えないかしら?ねぇヴィイ、怖いわね」

 

「僕の背中に座るのは止めてくれないか!?邪魔しろとは一言も言ってないだろう!?」

 

そう──『ツッコミ属性』の開花を、大いに期待しているのだ・・・──




アナスタシア「ところでカドック、あなたロックが好きなのよね?」

カドック「あぁ好きだよ、それがどうかしたかい?」

「なら曲も作れるわよね?」

「は?」

「実は私、曲を作ってほしいの。ラーメンの曲として、このバーに流す為に」

「いや君は何を」

「歌詞はあるの。ロックにお願い」

ラーメン ラーメン とっても美味しい

ラーメン ラーメン ロシアに欲しい

湯麺 冷麺 湯麺 ソーメン

とっても美味しい ラーメン ラーメン

ずるるとすすってツァーリはニッコリ

アチチと跳ねてツァーリはビックリ

四千年の 歴史の綴り

想いを馳せて、ラーメンずるり

替え玉頼むの 勇気を出して

スープの全部を ごくりとのんで

箸を置いたらさぁ御一緒に

『ありやとやした!会計おなしゃす!』

ヴィイ・ヴィイ・ヴィイ♪とっても大好き、ラ~~メ~ン♪

アナスタシア「歌って欲しいわ」

カドック「ロックというジャンルに喧嘩を売ってるのか君は!?」

アイリーン「バーとは」

ジェームズ「んー、そもそも日本のラーメンってラーメンと認識してもらえるかナ・・・」
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