人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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カドック「・・・三人の魔術師のバックに、それぞれギャングがついた。亜種聖杯戦争は街を巡る争いになった、か・・・」

アナスタシア「それはとても大変ね。やるべきことは見えたかしら」

カドック「・・・とりあえず、街の被害をどうにかしろって事じゃないのかな。巻き込まれる側は迷惑だろ、そんなの」

アナスタシア「そうね。沢山人が死ぬわね。放っておけば」

カドック「・・・・・・」

アナスタシア「浮かない顔ね。どうしたの?」

「・・・街に住む人間は少なくない。僕らが、いや僕が判断を誤れば皆、死ぬんだ」

「そうね」

「・・・失敗は、許されない」

「そうね」

「・・・犠牲にするのは簡単だ。だけど、救うために戦うのは・・・初めてだ」

「そうでしょう」

「・・・出来るのか、僕に?」

「やりなさい」

「!」

アナスタシア「立ち向かいなさい。吹雪や自然の強さを知りながら、何もしなければ死ぬのよ」

「・・・厳しいな」

「証明するのでしょう?あなたにも出来るって」

「・・・あぁ、そうだよ。その為にまずやることは、多分・・・」

アナスタシア「・・・」

「逃げないことだ。・・・世界を救った、カルデアのマスターみたいに」

アナスタシア「えぇ。その通りよ。逃げないのなら、私は傍にいてあげるわ」

翌日──



同時刻・楽園

リッカ「はっくしゅっ!!はぁっくしゅ!!くしゃみが止まんないんだけどなんでかなぁ!?」

カーマ「風邪ですか?ダメですよ不養生は。ちゃんと暖めて寝てくださいね?」

グドーシ「風邪は万病のもと、侮らず寝るでござるよ、リッカ殿」

リッカ「ふぁーい。・・・おかしいなぁ。風邪なんて引いたのいつぶりかなぁ・・・」

ナイチンゲール「風邪?」

カーマ「ヒェ」

リッカ「あ、ふちょー!診察してー!」

「えぇ。Mr.ロマンとMr.トキに連絡を取りましょう」

グドーシ(うむうむ。今日も何処かでそなたは誰かに影響を与えているのでしょうなぁ・・・)

カーマ「なんで、バーサーカーと意思疏通出来てるんでしょうか・・・」



すまないの葉

「さぁ、控えめに言って無駄に人生を浪費しているいけすかない魔術師達が到着する頃合いよ、カドック。私達は主の名誉に傷をつけない、礼節を弁えた態度を取るのよ」

 

「あぁ、大丈夫さ。君より無礼なんて狙ったって出来ないさ」

 

朝、太陽が昇り朝焼けが空に満ちる中、ツララスピアがごとき毒舌を受け止めバーテンダーの襟を正すカドック。ジークお抱えのバー勤めとして、やって来る三人の魔術師のお出迎えを仰せつかったため、わざわざ早起きして整列しているのである。地道な情報収集もバカに出来ないアドバンテージ。探偵ではないが情報は脚で稼ぐものなのである。ジェームズは探偵大嫌いらしく、鹿打ち帽を見ると吹き飛ばしたくなるとかなんとか。

 

アナスタシアは当然のようにシャツに短パンの御忍び貴族スタイルである。カドックからしてみれば礼のれの字も無いようにしか見えないが、彼女の溢れ出る気品がその追求を捩じ伏せているのだ。オフでプライベートよ、何か文句があって?とばかりに振る舞われては、道理というものが引っ込むのである。見た目的にも白い肌が多分に見られるので、カドック的にも悪くはないのである。男の子だもの。

 

「来たわよ」

 

対照的に何処に出しても完璧な風貌のアイリーンが姿勢を正す。彼女が何故オルガマリーにそっくりなのかは明かされる時期を待つとして、その所作は一人の人間として尊敬できるほどに完璧なものである。聞いた話ではジェームズの大切な養子であり弟子であるというじゃないか。養子なら納得だ。あまりにも似ていない。と、そんな所感を浮かべているカドック達の前に、姿を現す者がいる

 

「うん、いい立地だ。この屋敷ごと接収できたら嬉しいし、話は楽でいいんだけどな」

 

「戦う前に余分な事を考えるのだな、あなたは」

 

「大いに考えるがいい。いずれにせよそれはただの妄想。あと数日、掌中の珠を慈しむがいい」

 

見た目は小さき、しかし王の風格を宿す赤髪の少年。仮面に顔を隠させた、中国風の衣装の青年。そしてその場にいるだけで膝を折らせるような重圧を醸し出す、闇より暗き衣装に身を包んだ眼光鋭き壮年・・・魔術師特有の『非日常』さを示す三人が屋敷に脚を踏み入れる。カドックは理解した。彼等こそが自分の同類、魔術師の三人であると

 

(振る舞いからして・・・赤いのはまだ魔術師の代が浅いな。まだ人当たりが良さそうな辺りが。仮面のは熟練はしてる、中くらいより上・・・あの渋いのは間違いなく一流だ。キリシュタリアと似たような風格がある)

 

カドックの審美は大まかに的を射ていた。紅き少年の家系は三百年、仮面の青年は五百年、壮年は七百年の歴史を持つ魔術師の家督である。此処で皮肉なのは、代が浅いと断じた相手とゼムルプス家の研鑽は全く同じというところだろうか。争いは同じレベルのなんとやらである

 

「それぞれアレク、ラン、ヴラドと仮称しましょう。・・・しかしジェームズ、これは・・・」

 

「うん、リッカ君タイプなんだろうね彼等。自分からバリバリ殴りに行くヤツ。リッカ系魔術師と呼称しておこうか」

 

「ふぁ~ぁ・・・眠いわね、ヴィイ。楽園のリクライニングチェアが恋しいわ・・・」

 

一人楽園に思いを馳せるラーメン皇女は置いておき、屋敷の主たるジークが顔を出し、社交辞令に等しき挨拶を交わす。親睦を深めに来たものなど、誰一人いないとしても。これは上に立つもののマナーなのだ

 

「改めてようこそ、皆様。心から歓迎します。・・・といっても、打ち解ける意味など無いか。あなた方が求めているものは分かっている。・・・ならば、それが本物であるという確証が欲しいのだろう」

 

「まぁそうだね。ここまで来て贋作だなんて言われたら、余裕ぶってはいられない」

 

「あぁ、催促するようで悪いが実物を見せてほしい。この場で殺し合うような真似はしない。ヴラド公もそれには同意だろう?」

 

「無論。正当なる魔術師として獣じみた真似などせん。所有者が礼儀を尽くすならば、返礼は当然の義務である」

 

(カドック、チャンスよ。かっぱらってしまいなさい。みそっかす魔術師のあなたならやれるわ)

 

(下浅だと言いたいのか!僕だって礼儀ぐらいは知ってるよ!)

 

「ありがとう。それでは見てくれ。これが我が一族に代々伝わってきた聖遺物──」

 

伝統と歴史を感じる箱を、ジークが開いた瞬間──中身の存在に、この場の空気が支配された。

 

「『竜殺しの英雄が身に付けた菩提樹の葉』だ」

 

「──!!」

 

カドックが息を呑んだ。いや、カドックだけではない。それの価値を理解した総ての魔術師が息を呑み、それに釘付けにされたのだ。

 

菩提樹の葉・・・とある英雄の完全なる不死身を阻んだ血塗れの葉。それに根差す英雄などただ一人しか有り得ない。地域の伝承の差異を除けば、それにて招かれるは大英雄たるセイバー・・・

 

(ジークフリートの、触媒・・・!そんな馬鹿な、協会が接収して然るべき最高クラスの触媒じゃないか・・・!)

 

(ジークフリート・・・あぁ、あの謙虚なセイバーの事ね。凄いの?いつも謝っているイメージなのだけど)

 

アナスタシアの言葉すら、今のカドックの耳には届かない。それほどまでに強力で、絶対的で、普遍にして最高の価値を持つ聖遺物なのだ。『大戦でも無いかぎり、手にしたものが覇権を握る事を確約する』程の、魔術的至宝と呼ぶに相応しい逸品。カドック程度では、目の当たりにすら出来ないほどに。いや・・・『アイリーン』を除くこの場にいる総ての魔術師にすら、本来資格は無いものですらある

 

「これは、本物だ!紛れもなく!僕は魔術師として歴史は浅いけど、見間違うほど未熟じゃない!」

 

「これがあれば、間違いなく亜種聖杯戦争は勝利できる・・・!」

 

「英雄王を召喚するためのあの『蛇の皮』、征服王を召喚するためのあの『結び目』。それらほとんどが協会の手に渡っていることを考えると、これは世にある最後の一つかも知れんな」

 

(イースターエッグより凄いのかしら・・・)

 

「どうやら皆様、本物だと理解してもらえたようだ。それなりの対価は払ってもらうが、これにはそれだけの価値がある。と思う。これは大英雄、ジークフリートが召喚される強力な触媒、彼以外は有り得ないだろう。同時に分割するわけにもいかない。破壊した時点で触媒の効果は低下する。──つまり、これを手に入られるのはただ一人だ」

 

だが、その為に血が流れるのは本意ではない。理性があるならば、理性にて託されるべきものなのだ。人で、あるならば

 

「だからオークションだ。あなたたちがこれに見合うだけの金銭を払ってくれると信じている。以上だ」

 

──だが、ここにいるのは魔術師にギャング。真っ当な人など何処にもいない。ならば、取られる行動、理念は一つに集束する。

 

「「「・・・・・・」」」

 

即ち・・・『どのように出し抜き、己が手にするか』である。思慮と思惑が渦巻く波瀾の幕開けを──

 

「アイリーン、バーに帰らない?私、こってりラーメンが食べたいわ」

 

「手配しましょう」

 

二人だけが、特に動じることもなく。のんびりと会話に興じていた。




ジーク「オークションは明日だ。三名以外の参加は認めない。他の魔術師が聞き付け、高値を出したとしても、我々は仁義を護りたい」

アナスタシア「残念ね、カドック」

カドック「・・・どの道僕にそんな資金は無いさ。力づくでも死ぬのがオチだ。それに・・・」

ヴラド「以蔵。貴様の全財産を寄越せ。あれにはそれだけの価値がある」

以蔵「め、メチャクチャ言うなや!こんな葉一枚にか!?」


「黙れ。表の権力は貴様にくれてやる。だがこれを取り逃せば貴様は一生かけて余に償え」

「う、ぐ・・・!」

アレキサンダー(こりゃあ、僕にもチャンスはあるな)

蘭(まぁ、所詮は地方のギャング。資金は限界まで搾り取らなくてはどうにもならないか)

カドック「・・・君の前で、あんな醜態を晒したくもないしな」

アナスタシア「そう。やはりイースターエッグ最高よね」

カドック「なんの話だ!?」

ジーク「アナスタシア、カドック、アイリーン。バーにいるジェームズともどもよろしく頼むよ。明日が、本番だ」

アイリーン「承りました。万全を期しましょう」

アナスタシア「ジーク、あなたイースターエッグはお好き?」

ジーク「?」

カドック「やめないか!ほら行くぞ、作戦会議だ!」

アナスタシア「い~すた~」

アイリーン「それでは、失礼いたします」


ジーク「・・・君は驚かなかったな、アイリーン」

「財は見慣れておりますので。それでは」

ジーク(・・・参加者は三人、といったのは英断だったのかもしれないな・・・)

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