人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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カドック「・・・おはよう、アナスタシア」

アナスタシア「おはよう・・・何をしていたのかしら?」

「あぁ、カルデアのマスターの事だ。・・・もしもの話だが」

アナスタシア「?」

「この局面を、カルデアの・・・いや、カルデアならどう切り抜けた?」

アナスタシア「・・・そうね。まず菩提樹を誰よりも高値で買い取るわ。そして奪いに来た魔術師、文句がある魔術師を正々堂々真正面から叩き潰すわね。或いは一人一人に聖遺物を配り、ギャングの組織を総て買い取り争う理由すらも無くしたりするでしょう」

カドック「・・・痛快だな。絶対に真似できない」

「真似、したいのかしら?」

「いいや。・・・ありがとう。お陰で見えたよ」

「?」

「『カルデアが絶対に取らない手段』ってやつがさ。多分出来るのは、僕だけだ」

「・・・?」

「直ぐに解る。・・・何事もなければいいが・・・」

ジーク「──大変だ!『聖遺物』が盗まれた・・・!!」

「・・・そんな、甘い話にはならない、か」


ダブルトライアングル・ギャング・メイガス

「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」

 

「ふぁーぁ・・・・・・」

 

(待てアナスタシア、頼むから今は空気を読んでくれ。飛び火する、絶対矛先がこっちを向く)

 

麗らかな朝、小鳥の囀りが響く朝の屋敷に殺意と撃鉄を下ろす音が静かに響く。佳境にして当日たるオークション。その目玉たる聖遺物が──

 

「・・・御覧の通り、竜殺しの英雄を召喚するに最適の触媒、菩提樹の葉が盗まれた」

 

喪われていたのでは無理もない。ジークが空の宝箱を一同に開示する。其処にあるべき血塗れの葉が、影も形も無くなっている。紛失など有り得ない。盗難されたのだ。何者かに

 

「セキュリティはどうなっていたのかな?」

 

「昨日皆に確認してもらった通り、一般人に盗めるような状態で置いていたりはしない。」

 

「そうだね。ヴラドみたいに腕のいい魔術師なら別だけど」

 

「ほう、アレク。それは己の拙さを告白しているのだな?・・・とは言え、余が確認したところ触媒の防備は警報に特化していた」

 

「迎撃、排除のリソースを削いだ事により、探知された対象の情報が屋敷全員の脳に送られる魔術でした。確認したところ、ですが」

 

アイリーンとヴラドが探索し解析した術式の防備は問題は見られなかった。ならば何故、それを掻い潜られ盗まれたのかと言う疑問は残るのだが・・・

 

「魔術は万能ではあるが完璧ではない。鳴らさずに盗むには、そうだな・・・優れた魔術師が二人は必要だ。余も含めて、な」

 

「僕たちが手を結んだと?それより可能性が高いのは、家宝を惜しんだ人間が盗難を装った、だと思うけど?」

 

「・・・俺からはそんなことはしない。何故なら意味はない。この家宝は俺にとって重荷だ。誰もが、魔術師が狙うこれを、家宝だから惜しいなどと庇護はできない」

 

「しかし、ならば誰が盗んだというのです?」

 

ジーク、ラン、アレク、ヴラドの四人が疑心暗鬼に巻き込まれていく。その疑惑と疑念は、次々と一同を招き入れ嵌め落としていく。

 

「いずれにせよ盗難はジーク家の責任。我々は・・・」

 

「なるほど、アンタか」

 

「・・・・・・ほう。燕青、今なんと?」

 

「いやいや隠さなくていいって。テメェとジーク家は古い付き合いだろ?予め談合してたって不思議じゃねぇ」

 

「──無礼な」

 

「無礼やち言うたところで、おまんが一番怪しいがは変わらんき」

 

刀を見せる以蔵。──それは裏を生きる者にとって、死のやり取りの合図。管を巻くチンピラが遊ばせるナイフとは重味が違う、生命のやり取りの合図だ。

 

「・・・海の男、ということで多少の無礼は容赦していたが・・・そこまで挑発するからには、我々と戦う覚悟があるという事か」

 

ギャングが火花を散らし、魔術師も水面下にて刃を突き付け合う。この場に、ただの一つも仁義や仁徳は介在しない。あるのはただ、冷ややかな疑惑の念のみだ。

 

「・・・一応言っておくよ。僕は盗んでない。そもそもオークションなら僕が有利だしね。わざわざ盗む動機がない」

 

「同じく、私も盗んでいません。盗んだというならば、実力がありながら資金不足の魔術師が一番怪しいのでは?」

 

「・・・・・・ほう?」

 

「貴方の家は歴史は古いが時代の変革に乗り遅れた。亜種聖杯戦争に参加したのは純粋に資金の為だろう。僕もランも、資金的には余裕があってね。盗む危険性を取る理由が無いのさ」

 

「──家柄を口に出したのだ。今の言葉、挑戦と受け取って良いな?」

 

「──!」

 

銃を取り出すギャング達、静かに魔力を練り始めるヴラド。まさに一触即発の只中に屋敷が支配される。恐らくこの場の争いは屋敷を飲み込み、街の全てを破滅させる最終戦争となるだろう。

 

(──なぁ、アナスタシア)

 

そんな、決定的な瞬間に。カドックは意外にも冷静だった。冷静なまま、アナスタシアに問い掛けた。

 

(こんなピンチも、カルデアのマスターは乗り越えたのか?)

 

(当たり前でしょう。言った筈よ、こんなものは一番マシなものだと)

 

アナスタシアの言葉に頷くカドック。・・・やり方は聞かなかった。きっとそれは、カルデアのマスターにしかできない方法だと思うから。ならば──

 

(・・・なら、僕もやってやる。『僕なりのやり方で』な)

 

そう決意し、息を吐いたカドックが、一同の前に歩み出し声を上げる。・・・それは、まさに『彼女』の反転。陰がごとき選択だった

 

「みっともないな、あんたたちは。面子だ気品だ血統だと言っておきながら、想定外の事が起きたら右往左往だ。見かけ倒しって言うんだよな、こういうの」

 

「・・・何?」

 

殺気と視線が、総てカドックに向けられる。泡吹き気絶しそうな重圧をなんとか受け止め、真っ直ぐに睨み返す。

 

「あんたらが此処で争って、この屋敷が灰にでもなったらどうなる?盗んだ奴が聖遺物を持ち出したと言い切れるのか?あんたら自身が、あんたら自身の戦いを終わらせると考えもつかないのか?」

 

まずは魔術師に罵声を投げ掛ける。その視線と殺意はカドックに向いた・・・同時に、互いに満ちていた欺瞞と疑惑は、消え失せたのだ。

 

「ギャングのあんたらもだ。此処で街の中核のジーク、ディルムッド。トップの燕青や以蔵が倒れたら街を巻き込んだ抗争に誰が幕を引く?頭を失った組織を誰が取りまとめるんだ?」

 

「・・・・・・」

 

「確かに、そりゃあそうだな」

 

「偉そうに面子や立場に拘るなら、何を倒すべきか何を成すべきかを見失うなよ。あんたらが死ぬのは勝手だが、心中や巻き添えで街や人が死ぬのをあんたらは見過ごすのか?」

 

あまりに無礼で、あまりに挑発的。しかし、理に叶った正論でこの場を黙らせる。そう、そして総ての欺瞞を、打ち晴らすと告げる。

 

「ここにいる連中、全員が怪しい灰色だ。──なら、僕たちがあんたらの中から犯人を見つけてやる。黙って待っていれば、たかが葉っぱ一枚を巡る争いなんて終わらせてやるよ」

 

「へぇ。未熟な君が聖遺物を取り返すって言うのかい?」

 

勿論だ、とカドックは告げた。誰が怪しいのかではなく、『誰が怪しくないか』を突き止め、犯人を見つけてやると彼は大見得を切ったのだ

 

「発言には責任が伴う。もしそれが虚言や妄言の類いだった場合・・・楽には死なさぬぞ、下郎」

 

「酒でも飲んで待ってろよ、魔術師連中。公平な立場で僕らが話を聞いてやる。精々自分の無実を僕らに必死こいて伝えに来い」

 

挑発に次ぐ挑発、侮蔑につぐ侮蔑で、この場の争いを一手に担うカドック。・・・自らの生命と尊厳を賭け、この場を抑えたのだ。

 

「では、1つだけ条件を。我々が買収されたなどと言われてはたまらない。質問の際に対抗する組織の魔術師を一人立ち合わせてもらいたい」

 

「アレク氏と話し合うならヴラド氏かラン氏を、という具合に。もちろん立ち合いの際には無言を通してもらいます」

 

そうする事で証明するのだ。総てが怪しい者達の『誰が怪しく無いか』を。その提案に、反対するものはいない。カドックらの陣営は、この場で最も公平であるが故にだ

 

「・・・良かろう。最初は余が話そう。どちらか、ついてくるがいい」

 

「・・・じゃあ、僕が行こう。」

 

血と殺戮の争いは、動機と疑念をぶつける会談に収まる。カドックの卑屈ながら、豪胆な対話によって。この場総ての殺気と意志を、自分に集める事によって。

 

カルデアのマスターと同じ手段を取り、『カルデアのマスターが取らない方法を取る』。絆を結ぶ対話ではく、敵意と決裂を呈しながらも正論で黙らせるトラッシュトーク

 

(悪いな、カルデアのマスター。君とは違う道を・・・後味が悪くても、僕は僕の道を行かせてもらう)

 

卑屈で自虐的な、得るものは拒絶しかない対話。・・・だが、いまこの瞬間。確かに──

 

「カドック、と言ったな」

 

「・・・すまないな、ジーク。僕より上の連中に話を聞かせるには、顔に唾を吐くしか無かったんだ」

 

「いや。・・・この街そのものが、今君に助けられたよ。ありがとう」

 

「・・・大袈裟な事を」

 

──彼は、総ての勢力の殺し合いを回避し。街の崩壊と消滅の未来を乗り越えたのだ。




アナスタシア「・・・」

カドック「・・・これが僕のやり方だ。所詮身のほど知らずの道化は、身のほど知らずじゃなきゃ誰も見てすらくれないって──」

「ぷっ、ふふっ。──あはははは!」

カドック「・・・?何がおかしい?」

「いいえ、おかしくは無いわ。楽しいの、面白いのよ。相手を侮り、蔑み、挑発し、でも証明で命を繋ぐ。そんな綱渡りで野蛮な手段、私のマスターは絶対に取らないわ」

「・・・そうだろうな。聞く限り、カルデアのマスターは誰にも慕われる人気者で、こんな風にわざわざ嫌われるなんて・・・」

「『だから、その戦いはあなただけ』のものなのよ。・・・──素敵よ、カドック。勝利に餓えた狼のようで、ね」

カドック「・・・悪趣味な皇女だな、全く」

アナスタシア「ジェームズとアイリーンが向かっているわ。立ち会いにいきなさい。あなたの戦いはこれからよ」

「分かってる。煽った手前、犯人を見つけなくちゃならないからな・・・!」

(・・・ふふっ。誰もが貴方を見なくなっても、私だけは貴方を見ていてあげるわ、カドック。だから・・・これからが踏ん張りどころよ──)

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