人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アナスタシア「ファイトよ、カドック。これからがあなたにかかっているわ。近くで見ていてあげるから頑張りなさい」

カドック「あぁ。挑発と諫言のギリギリを見極めないとな。怒らせたら元も子もない」

アナスタシア「そうね。あなただけなら為す術なく死んじゃうわね」

カドック「・・・でも、そうならないように君がいてくれるんだろ?気紛れだけど、君は絶対に嘘はつかな」

アナスタシア「すー、くー・・・」

「寝てる・・・だと・・・!そういえば眠いとか言ってたな君!寝るな、起きてくれ!何しにここにいるんだ君は──!?」


それぞれの疑念と動機

「犯人はランであろう」

 

開口一番、ヴラドが告げた名前はそれだった。アレクが立ち合いの下、それを口にし、怪しい存在を突きつける。カドック、アイリーン、ジェームズがその言葉に耳を傾ける。アナスタシアはぼーっとしながらヴィイと戯れていた。寝起きでいまいちしまらないという彼女を当てに出来ず、今回の聞き込みにて、確かな犯人の目星をつけねばならないカドックが怖じ気づく事なく問う

 

「何故そう思った?根拠はなんなのか教えてもらいたいな」

 

「消去法だ。余は盗んでおらずアレクは盗む必要が薄い。故の消去法。ランのみ魔術師としての力が聖杯戦争に不向きだ。転売を目的とするなら、オークションで金を浪費するわけにはいかぬ」

 

「ふーむ、なるほど」

 

「理には叶う理論ですね」

 

メモを取るアイリーン、そしてグラスを拭くジェームズ。その意見と言葉に穴が無いかを念入りに吟味している。魔術の痕跡が紛れないかの確認も同時に行っているのだ

 

「更に言うなら、ランの魔術は窃盗に向いている。ヤツの美に堕落させられいつのまにか協力者となっている者がいるやも・・・」

 

「資金辺りの動機の面で言うなら、あんただって十分にやらかす理由はあるんじゃないのか、ヴラドさん。資金難なんだろ、あんたの家柄」

 

資金を苦に行動を起こすと言うなら、ヴラドにもまたその疑いはかかる。自分の懐もまた非常に寒い。カドックは更に思い出していた。以蔵に全財産を差し出すように詰め寄っていたヴラドの姿を。あそこだけ、彼にはなんの余裕も見られなかった

 

「・・・・・・・・・そうだな。しかし余には勝算があった。このような盗難は余の望むものではない」

 

どうせ力づくだろうな、とカドックは口に浮かんできた疑惑を呑み込む。これ以上はたいても、きっと何も出てこないだろう。勝算があるというなら、そこは実力に起因するもの。そこだけは決して嘘じゃない。『盗まない理由』が見えたのなら十分だ

 

「従って犯人はランであり、それを前提として話を進めてもらいたい。・・・余の見解は以上である」

 

「あぁ、解ったよ。犯人はきっちり見つけてみせるから、その勝算を使わないよう祈っていてくれ」

 

カドックがジェームズにサインを送る。このまま続けて聞き込みを続けるのだ。アレクが退出し、アレクがいた場所にヴラドが鎮座する。次に招かれたのは・・・

 

「ほう、ヴラドが私の監視役か」

 

仮面の魔術師、ランである。彼もまた無罪と無実を提言するもの。その弁明には聞く価値がある

 

「あんたが盗んだ、なんて言うつもりはない。魔術が戦闘に不向きなあんたが怪しいと思うのは誰だ?」

 

「・・・アレクだ」

 

「それは何故だ?資金が潤沢で盗む理由なんて薄い筈だろう?」

 

資金があるのなら、真っ当な手段で挑めばいい。わざわざリスクを犯して盗むような真似を何故行う?カドックの問いに、ランは静かに所感を述べる。冷たく、事務的で友好は望めずとも、カドックの言葉は牙の如くに真実を、告げるべき答えを炙り出すのだ。

 

「確かに表社会に潜り込み財を成した彼は一見すると動機が薄い。だが逆に言えば彼には財しかない。魔術協会とのコネもなく、亜種聖杯戦争に臨んで更なる飛躍を図るしかない。もしこのオークションに競り負ければ残るのは破滅だけだ」

 

「オークションに競り負ければプラスマイナスゼロなんじゃないのか?」

 

「何だ、知らなかったのか。このオークションは参加料が莫大だ。競り負けてもそれは返却されない。だから敗北してしまえば三流魔術師が残るだけだ」

 

「・・・なるほど。あんたら二人は財を失っても伝統があるって訳だな」

 

「その通り。再起できるかできないか・・・これは大きいと思うが、君には解るかな?バーテンダー」

 

「・・・ふん」

 

理解しているとも。アレクと自分は同じ浅さを持っているのだから。そう顔に浮かべ、最後の取り調べに移る。件の魔術師、最後の容疑者。アレクだ。ランの立ち合いの下、カドックが問い質す

 

「他の人がどう言おうとも僕じゃないのは確かだ。となるとヴラド公としか思えないんだよね。ランならオークションの資金面でも僕とやりあえるだろうし」

 

「実力行使の可能性は考えていなかったのか?素直に引き下がるとは思えないんだがな」

 

「それはオークションが終わってからでも問題無いはずだ。そうなると、結論としてはやっぱり彼じゃないかって気がするんだ」

 

「彼には策があるらしいぞ。その策を披露せずに盗みになんて働くものか?」

 

「ハッタリだよきっと。いくらヴラド公でも、あの状況で疑われれば危険だった。以蔵の組織はあてにならないだろうしね」

 

「・・・どうかな。ヴラドは血液を魔術の媒介にするらしいぞ。魔術的にも価値があるそれを使った魔術を何百年も練り上げてきたなら、わざわざ格下の連中にハッタリをかます手間なんてかけないと思うけどな」

 

「・・・確かに、それは奇跡のような魔術かも知れない。詳しいんだね、バーテンダーの癖に」

 

まぁ、それなりにはとはぐらかす。自分も最低限の知識くらいは有している事には変わりは無い。ハッタリや欺きなどは、自分が使うべき手段だ。強者がそんなものを使っては本当に弱者の立つ瀬が無いのだから

 

「まぁどちらにせよ、困った事に変わりは無い。・・・あるいはこの街のギャング連中が金に目が眩んだってのもあるかもよ」

 

素早くカドックがアイリーンにサインをし、ギャングへの接触を依頼する。同時進行で手間を省き効率よく情報を集める為にだ。アイリーンが、静かにバーを後にする。

 

「とにかく、あの触媒は貴重なものだ。他の魔術師に伝手があり、もっと高く売ろうとしているのかもね」

 

「・・・あぁ、よく解ったよ。ありがとう、アレク。犯人は必ず見つける」

 

「あぁ、あまり期待しないで待っているよ」

 

そうして、アレクとランが退出し、カドックが息を吐く。重い空気から解放されたといったニュアンスの一息だ

 

「・・・見事に誰もがやってないと言っているな。どうしたものか・・・」

 

犯人の像は未だ見えない。その全容を問おうとしたとき・・・

 

「水、飲むかい?」

 

助け船を出したのは、バーに根差す旧き蜘蛛であった。




ジェームズ「君との会話で面白いことが判明したネ。誰もが自分はやってないと主張し確信している」

カドック「おまけに三人が指名したのはバラバラと来た。金や魔術師としての技量、一部は当てはまるが全部はいない。犯人が誰か、これじゃあ見えてこないな」

「その通り。誰もが等しく怪しく、犯行のチャンスがあり動機も充分。アリバイも、無いも同然だ。だから──」

カドック「・・・?」

ジェームズ「『まさしく素晴らしい御膳立てだ』。そうは思わないかネ?──カドック君」

カドック「・・・何・・・?」

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