人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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カドック(アナスタシア)

アナスタシア(あら、何かしら)

(これから君に作戦を伝える。空を飛べるアレを捕まえなきゃ始まらない。そして決め手にはワイバーンにかかりきりな彼等の手がいる。御膳立てを御願いしたい)

(それはいいけど、どうやって?)

(それを今から説明する。いいか、まず指示を出す。やることは一つだけだ。──)

(・・・正気を疑うわ)

(華やかに、痛快にいつも勝ってるんだろ?たまには泥臭い美酒も味わってみなよ)

(・・・一度きりにしてもらいたいものね)

(全くだ。じゃあ・・・始めるぞ・・・!!)


王道に背を向ける戦い

「ヴィイ、始めましょう。この味気の無い竜の残骸に、氷のベールを捧げて眠らせてあげなくては」

 

 

その言葉と同時に、アナスタシアとその守護精霊、ヴィイより庭の温度を一瞬で総て奪い去る程の冷気が放たれる。大地も、残骸らも分け隔てなく包み込む氷の幕引きが、敵対者たるジークへと一直線に向けられ、永遠に呑み込まんと疾走する

 

【冷気か。だが──】

 

素早く対応したジークは翼を広げ空中へと逃れる。地上が氷に包まれるなら範囲の外へと逃げるまで。飛行し、返す刀で喉笛を食いちぎらんと接近し・・・

 

「悪いけれど、近付かれるのは嫌いなのよ。私」

 

アナスタシアもその行動は対処済みであった。自分を中心に氷の礫や氷柱を撒き散らすブリザードを展開し、全周囲を攻撃しながら同時に防御を固める。ジークの接近を阻み、そして同時に攻撃も兼ねる。無駄の介在しない、美しき防御壁にて狼藉を防ぎきる。

 

【むっ・・・】

 

同時にカドックからの援護もジークを襲う。単純な魔術であるガンドが懸命に放たれ、ジーク自身に少しでもダメージが通る様に展開されている。片翼の骨格をたたみ防ぐ。ダメージは直撃してもありはしないだろうが、呪詛の類いを累積されるのは些か宜しくは無いためだ

 

【防御は万全らしいな・・・】

 

これでは近付けず、どちらかを仕留める事すら出来ない。あのとぼけた皇女もまた実力者だとは驚きだったが、それはそれで対処を入念に行うまでとジークは静かに思案する

 

(狙いは解っている。大方辺りの温度を奪い続け、俺の行動の一切が出来なくなるまで凍えさせる腹積もりだろう)

 

冷静にジークが判断する通り、氷点下で人体の動きは著しく鈍っていく。そしてそれを示すかのように、自分の身体の関節の駆動部からギシギシと音がし始めた。骨の鎧に魔力で練られた吹雪と冷気が干渉する事によって、少しずつでも確実に行動が、関節の範囲駆動が鈍くなっているのだ。

 

(このままでは俺が動けなくなり、敗北が確定する。ならば俺が取るべき行動は・・・)

 

ギロリと窪んだ眼をアナスタシア・・・その背後にて細やかな魔力支援を行っているカドックへと向ける。彼女がカドックを護るように立っている以上、アレを倒されたのなら不味いことになるのだろう。噂に聞く、サーヴァントとマスターのように

 

【悪く思うな、穴を穿つは鉄則だ。戦闘も、権力争いもな】

 

その言葉と同時にジークはおぞましき咆哮を上げる。骨を擦らせ共鳴させ放つ戦慄のシャウト。同時に翼より障気を撒き散らし吹雪と相殺し、少しずつ活動範囲を拡げていく。

 

「アナスタシア!」

 

「ええ、解っているわ」

 

それに押し負けないよう、アナスタシアもまた勢いを増加させ押し返す。総てを凍らせる極寒の冷気、総てを腐食させる障気の咆哮がぶつかり合い、異界さながらの惨状を見せつけ状況を拮抗させていく。

 

【───!!】

 

急速に凍っていくジークにもまた余裕はなく、全力で凍らせようとするアナスタシアもまた全霊だ。氷付けにされるか蹴散らされるか。勝敗を決める拮抗は続き・・・──

 

「っ・・・」

 

だが、その拮抗は直ぐに破られる。僅かにみじろいだアナスタシア、それに伴い吹雪の勢いが弱まった瞬間。それが拮抗を打ち破る決定的な要因となった。

 

一際大きく咆哮を行い、辺りに吹雪いていた冷気を一息で振り払う。翼を展開し、動く限りの全力を使い空中より一直線にてカドックを狙い撃つ。爪を閃かせ、魔力の酷使にて充血した眼差しをこちらに向ける彼に目掛け──

 

「がっ・・・!!」

 

その爪の一撃は、カドックを貫いた。肩に深々と突き刺さった手刀の一撃は、真正面から背後にかけてぐさりと突き刺さっている。心臓を狙ったつもりではあったが、どうやら急所を外す心得くらいはあったらしい

 

【終わりだな、カドック。どうやら君には、なんの資格も証明も出来なかったらしい】

 

「───・・・・・・」

 

カドックは答えない。最早回答する声も出ないのか。竜の残骸と言えど幻想の産物。本能的な畏怖にて言葉すら紡げなくなったのか。それは何とも哀れな・・・

 

【・・・・・・?】

 

その郷愁は、即座に違和感へと変わる。アナスタシアの反応が切っ掛けだった。彼女は自分の相棒が貫かれたと言うのに、なんの反応も示さない。何か一言でも、それこそ怒りや嘆きの一つもあって然るくらいの付き合いだった筈だ。見た限りでは・・・

 

【・・・!これは・・・!?】

 

そして違和感は即座に変化へと繋がる。目の前にいるカドックごと、自分の手足が凍らされ固定されたのだ。自分もろともジークを氷付けにする、といった状況が正しい。アナスタシアも、それを躊躇いなく行った。──それこそが、作戦だったのだ

 

「悪いな・・・捕まえるのが面倒臭かったんだ。僕なんていうヘボ魔術師から仕留めようとするのは誰だって考え付くさ。優秀であればあるほどな・・・!」

 

カドックもまたジークの脚を踏みつけもろともに凍らせる。自らの身体を杭とした釘付けの様相に、猛烈に回る冷気にてみるみる内にジークと共に凍らされていくのだ

 

【──先の吹雪の勢いの減衰・・・!あれは俺に押し負けたからではない・・・『打ち克った』と俺に思わせるための調整か・・・!】

 

そうすればそれを好機と見る。そうすればそれを勝機と見る。そうすれば、それを活路と見る。──牙を剥き出しにした、狼の渾身の一噛みが待っていると知らずに。

 

【まさか、自分のパートナーもろとも凍らせるとは・・・関係性を見誤ったか、君達は仲がいいように見えたのだが・・・】

 

「フン、見誤ったのは正解だ。絆や好意を戦いに持ち出すスタイルは、もう僕以外のマスターのものなんだよ」

 

凍り付いていく刹那、カドックがジークに返す。自分を囮にし、パートナーに攻撃させ、総てを捨てる形振り構わない戦い。自分の平凡さすら手駒にして放った、綱渡りと生死の境を往き来する戦法

 

「僕に配られた手札は、ただ貪欲で卑屈である事。総てを利用する事だ。あのいけすかない皇女様は、本来僕とはなんら関係も無いんだからな」

 

【・・・それはそれ、これはこれと言うヤツか】

 

「そう言う事だ。──僕は華やかに勝ち進むマスターなんかじゃない。こんな風に・・・」

 

凍る瞬間──数多の銃口がジークに向けられていた。飛び出して来たのはアイリーン、そしてジェームズ。『先の吹雪でワイバーンを蹴散らした事により、援軍が間に合った』のである。

 

「───自分だけを犠牲にして、転げ回りながら勝利にすがり付く。無様で滑稽であることが、僕の戦いの証明なんだよ」

 

【──卑屈な、事だ】

 

その言葉を最後に・・・

 

「「『ジャックポット(大当たり)』──!」」

 

ライヘンバッハ、アニムスフィア、フリージアの三挺の銃弾がジークに叩き込まれ、魔力の氷ごと、粉々に砕き散らされる。竜の鎧ではなく、氷ごと砕かれた事により、連鎖的に竜の鎧は砕かれた。倒れ伏すジーク、余波にて吹き飛ばされるカドック──

 

「っ、っ・・・」

 

「勝者にしては小汚ないわね、カドック。だけどまぁ、悪くは無かったわ」

 

「・・・ほっといてくれ」

 

痛む全身に塩を塗るかのごとき皇女の言葉に、懸命に悪態を返す。・・・この時ばかりは、この不思議な関係に感謝するべきだったのかも知れない

 

もし、本当の意味でサーヴァントとマスター、或はパートナーとしてだったのなら・・・何処かで情けが邪魔をした。それを汲み取り、自分にも容赦なく攻撃し、勝利に貢献してくれた皇女に・・・

 

「まぁ、その。ありがとうな」

 

「どういたしまして。卑屈でいけすかないカドックさん?」

 

カドックは、素直な礼を告げた。・・・勢い任せの言葉を、意趣返しに返されながら。




ジーク「・・・この三人の魔術師なら、問題なく対処できる魔術だったのだが・・・まさか、あなた方が加わるとは思わなかったぞ、ジェームズ・モリアーティ・・・」

カドック「・・・!?」

モリアーティ「その菩提樹の葉は、私に引き渡してもらおう。それが最良の結末だ」

ジーク「・・・俺にとって、この聖遺物は何より、宝だった・・・亜種聖杯戦争などに、我等の秘宝を奪わせて、たまるものか・・・」

アイリーン「それはいけませんわ、ジーク。ジークフリートがここにいたならば、きっと言いましょう。『未来に望まれて召喚されるならば、断る理由など無い』とね。・・・悪人に利用されてしまうのがサーヴァントの哀しいところだけれど、でもそれ以上に、ジークフリートはきっと、未来に求められた事を喜ぶ筈よ」

ジーク「・・・まるで、見てきた様な物言いだな・・・」

アイリーン「『見ている』し、『知っている』のよ、ジーク。それに、サーヴァントの気持ちだって解るもの。『私が保証するわ』、ね?」

ジーク「・・・意味が、解らないが・・・何故か、不思議と・・・嘘のように聞こえないのが、不思議だな・・・、・・・・・・」

ディルムッド「・・・死んだ、のか?」

モリアーティ「ま、似たようなものだヨ」

魔術刻印と回路を破壊する一撃を叩き込まれたジークは、今度こそ完全に無力化されたのだった──

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