人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アーネンエルベ

カドック「・・・う、・・・帰ってきたのか・・・。・・・?」

『招待状 覚悟が出来たら開けるように。説明はその時に』

「・・・前々から思ってたけど。モリアーティに師事してるせいか君も大分悪どいぞ、オルガマリー・・・」

(さて、僕は合格かなのかどうか・・・)

アナスタシア「カドック」

「!」

アナスタシア「何か、飲みたいのだけれど」

カドック「・・・最終試験、ってことか」

「少しはマシになったかしら?」

「・・・丁度いい機会だ。その減らず口、最後の最期に唸らせてやるよ。アナスタシア・・・!」




X Y Z

「それでは、話してもらいましょうか。この特異点未満の騒動、カドックの育成と審査の舞台に選ばれし場所がどの様なものであったのか。えぇ、それはもう洗いざらい」

 

無人・・・否。貸し切りとなったバーのカウンターを挟み、少女がニッコリと笑う。最愛の教授に求めしは説明責任。今の今まで『私に任せてくれたまえ!いや絶対上手くいくから本当本当だよオルガマリー君!』という言葉を信じやってきたので、そろそろ秘密を開示してもいい頃合いですねとアイリーンと共ににっこりと追求しているのだ。・・・バーカウンターに二挺の銃とナイフを置きながら。

 

「アイリーン・・・いやオルガマリー君。割と今おこかナ?」

 

「私に隠し事をしていた部分にムカ着火キヨヒメファイヤーです。この場でうっかりご老体のお髭を撃ちたいなーと思うくらいには」

 

「オーケーマイガール!誠心誠意心から説明しよう!だからお願い絶交とか言わないでネ?」

 

「・・・はぁ。いいから早く説明プリーズです、教授」

 

毒気を抜かれたオルガマリーが手元に差し出された『ごめんネ!機嫌直してほしいナ♪』とアラフィフがウィンクしている無駄に精巧なラテアートを写メり始め、リッカらのグループラインに『この顔見たら粛清許可』とメッセージ付きで添付する最中、平行して説明を投げ掛ける

 

「教授、これは推測ですが・・・かつてあなたが体験した様々な要因が積み重なり、亜種聖杯戦争と触媒の奪い合いという一夜の夢に変化したのですか?」

 

「優秀過ぎて舌の潤いが取れないネー。そうとも、ギャングと魔術師がサーヴァントの顔と人格で行動していた通り、これはただの夢。亜種聖杯戦争も違う世界の、異なる出来事だろうネ」

 

『かつてこの街はモリアーティと魔術師の手で滅んだ』。『かつてどこかで亜種聖杯戦争があった』。そういった要因が積み重なり、混ざり合い、厄介な夢の出来事として立ち塞がったのだとモリアーティは言う。

 

「ま、ロマニ君に頼んで特異点じみた状態に固定して確保したのは事実だけどネ。絶好のトライアルフィールドになっただろう?」

 

「・・・それは、間違いなく」

 

卑屈と自嘲に満ちていたカドックはみるみるうちに成長した。実際の処、アーネンエルベに来てからのカドックからは認識阻害魔術を解除していたのだが、カルデアへの罵倒も、卑屈な自虐も何も口にせず懸命に足掻いていた。そして、彼は確かに価値を示したのだから・・・悔しいが、首を縦に振る他無い。

 

「あぁオルガマリー君!ラテアートかきまぜ過ぎじゃないかネ!?」

 

「新宿以来一度も勝利出来てない自分への戒めです」

 

「私の原型無くなっちゃったヨ!?」

 

まぁそれはともかく。これがかつてモリアーティが経験したものだと言うのなら・・・一つ、聞かねばならない事がある。

 

「・・・望んだ結末には至れましたか、教授」

 

ここまでやったからには、彼にもそうしなくてはならない理由があったのだろう。『何故やったか(ホワイダニット)』・・・かつて御茶会にて自慢げに語られたそれは、英雄だろうと変わらないのだから

 

「・・・どうかナ。・・・私はこう依頼を受けた。『この先祖代々継承してきた宝物を守りたい』と。私はその時、幾つかのアイディアを提供してネ」

 

組織間の対立を煽るだけ煽り、死を偽装しろ。自分の死で聖遺物が宙に浮き、三組織に大金が転がり込むチャンスだと思わせろ。あとは組織のチンピラを適当に消しておくとよろしい。──彼が魔術師であると知らぬまま、その助言が果たされた結果・・・街は衰退の一途を辿り、やがて・・・

 

「・・・滅び去ったのですね」

 

「ま、私ほどの悪党になると街一つ消えた程度で良心は痛まないが・・・あぁいや、今の私は違うな。『悪でも世界を救える』と実証された今ではネ。そんなバッドエンドは願い下げだとも!」

 

可愛い可愛い愛弟子もいるしネ!といった言葉もまた聞き流しつつ、会話を促す。解りましたから続きをお願いします、ホントにと

 

『あなたはこう思ったのね。『計算間違い(ケアレスミス)』だ、始末が悪い・・・滅びた街より、あなたは自分の式の過ちこそを気に病んだ』

 

「そうとも、アイリーン。・・・過去を変えたところで、これはもしもの過去でしかない。歴史は変わらないし、結果も変わらない。ただの幻想、自己満足でしかない」

 

或いは、ゴージャスが面白いと思ったならば。ゴージャスが面白いと思った未来『こそ』が正しきものと裁定されるのだとすれば、或いは。・・・だが哀しきかな、過去と未来の裁定者は中核の姫ごと麻婆ショックでおねんねである。だからこそ・・・

 

「そんなの、解っているともサ。・・・だが、私はこの失敗を忘れてはならないのだヨ、オルガマリー君」

 

「・・・それは?」

 

「『より良き未来がある』という式に辿り着けるのに、このような未来を計算間違いで取りこぼすのは、楽園の流儀に反するからネ」

 

目が覚めて、記録を追っても。これは楽園の王が取り組まぬ枝葉の記録。何も結果は変わらない。【もっと上手くやれた】と、想いを馳せるだけなのだと。

 

・・・だが。

 

「いいえ、教授。得るものはあるわ」

 

愛弟子にして最愛の助手が、更に+αを提示する

 

「『次は失敗しない』。今度、同じ事件がリッカに、楽園に降りかかって来たとしても、あなたと、アイリーンと、私がスマートに解決してみせます。だから・・・」

 

この僅かな夢の一時は、決して無駄でも間違いでも無かったと、オルガマリーは告げた。アイリーンも微笑を浮かべ、シュートサインをモリアーティに放つ。私達に任せなさい、と。

 

「・・・その通り、だネ。楽園は完全無欠にして磐石な人理の歓楽者達。そんな彼等、彼女らが星を飛び出す時に──つまらない記録を残す訳にはいかないからネ!」

 

だからこそ、次は、次こそは。計算間違いなど起こさず、キッチリ収めてみせる。生前にすらいなかった、これから先永遠に得ることは無いであろう最悪のマスター、最高の助手にしてパートナーたる少女と共に。

 

「付き合わせてすまなかったネ、オルガマリー君、アイリーン君。帰ったら、一杯奢らせてもらうヨ?」

 

『あら、あなたにそんな余裕は無いかもしれないわよ、ジェームズ?』

 

「えっ」

 

「部員の皆様より提供された事実隠蔽罪の糾弾、お仕置き、麻婆実食、清姫による尋問、報告書の作製が待っています。全て終わった後に自我があればいいですね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・パートナーとしてなんとかできない?」

 

「プロットに護られやりたい放題の悪役など貴方には似合いません。余計なヘイトを稼がないためにも、ここはドロンジョ一味、ロケット団パターンで行きましょう。教授?」

 

「コメディリリーフって事だネ!出来ればリッカ君が言ってた火星からの侵略者みたいに、最後まで美味しい悪役でいたかったナー!」

 

『ふふっ・・・』

 

アイリーンはそんな二人を見て静かに笑う。ジェームズが本気を出せば忽然と姿を消し、ビデオテープやらでメッセージを残しておき罰から逃れるなど容易いだろうし、オルガマリーが本気で怒っているのなら、そもそも格闘か魔術で片がつく。それがこうして、友好的に触れ合っているのはつまり・・・

 

『──ここで口に出すことではない、かしら。ね、ホームズ?』

 

言わぬが華だよ、アイリーン。そう言ってくるであろう楽園の探偵の返答を想い、二人の微笑ましいじゃれあいを間近で見続けるのでありましたとさ──

 

 

 




カドック「ラム酒ベースに、オレンジリキュールのキュラソーとレモンジュースをシェイクして・・・はい、どうぞ」

アナスタシア「あら、白い御酒。御名前はなんて言うのかしら」

「XYZカクテルっていうんだ。君に振る舞うならこれって決めてた」

「・・・ふぅん?いただくわね」

「あぁ、堪能してくれ」

「・・・酸っぱくて甘い、それでいてほんのり苦い・・・まるで貴方ね、カドック」

カドック「それはどうも。・・・この酒の意味、知ってるかな」

「いいえ、知らないわ。何て言うのかしら」

「後がない、もうダメだ、助けてくれ・・・XYZはアルファベットの最後だろ。そういうことさ」

「・・・あんまり縁起が宜しくないのね」

「あぁ。・・・だがそれは、僕が作ったからそうなるってだけで、君に送る意味はまた違うんだ」

「?」

「・・・XYZにはもう上や前が無いだろ。だから『これ以上無い、最高だ』って意味もあるんだよ。・・・まぁ、その、なんだ」

「・・・・・・」

「僕にとって、君は、ほら。最高の、サーヴァントだったって・・・御礼と、言うか、なんというか・・・」

アナスタシア「・・・ふふっ、あはははっ」

カドック「何故笑う・・・!」

「──私のマスターは最悪のマスターなの。だからその称賛も、すんなり受け取れるわ。えぇ、そう──私も、あなたは最高の・・・」

「・・・最高の・・・?」

「最高の遊び相手だったわよ。──また会いましょう、カドック。この御酒、必ずまた振る舞って頂戴ね」

席を立ち、御代を置きアナスタシアは去っていく。

「遊び相手、か」

そんなもんだろうな、と肩を竦めるカドック。・・・だが、その御代の隣にあるものは、決して遊びでは無かった

「・・・イースターエッグって・・・」

細やかな皇女の品に、息を呑んでいると──

リッカ「うはぁあぁ・・・ちかれたぁ~・・・ビッキーら奏者全員と勝ち抜き戦とか風鳴司令は私をなんだと思ってるのぉ・・・ますた~・・・ミルクちょうだい・・・」

カドック「!?・・・お前、あの時の・・・?」

何故か迷い込んできた謎の少女に、再びカドックの証明が求められる──




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